日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
特集1
甲状腺濾胞癌の予後について
杉野 公則亀山 香織長浜 充二北川 亘渋谷 洋大桑 恵子矢野 由希子宇留野 隆伊藤 公一
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2013 年 30 巻 1 号 p. 7-12

詳細
抄録

甲状腺乳頭癌に比して甲状腺濾胞癌は術前診断が困難であるため切除後の病理組織検査で判明することが多く,遠隔転移を起こす頻度が高く,予後も悪いとされている。標準的な治療戦略として病理診断判明後,補完全摘術,アブレ-ションを行い,血中サイログロブリン値を指標とし,その上昇時にはI131内用療法を行う。しかし全ての濾胞癌症例にこの戦略が必要なのか疑問が残る。本腫瘍の予後因子および遠隔転移の危険因子を求めることで,上記戦略が必要な症例を明らかにした。甲状腺濾胞癌初回手術症例134例(1989年から1998年まで)に対し無遠隔転移生存率(DMFS)に関与する因子を検討した結果,年齢,原発腫瘍径,浸潤形式(広範浸潤型)であった。さらに,予後良好とされている微少浸潤型濾胞癌初回手術症例251例(1989年から2006年)に対して同様にDMFSに関与する因子を検討した結果,年齢が有意な因子であった。これらの危険因子を加味し,治療戦略を勘案すべきと考えられた。

はじめに

甲状腺濾胞癌は甲状腺癌の約5~10%を占める,比較的頻度が少ない悪性腫瘍である。乳頭癌とあわせて分化癌と称される。ともに濾胞細胞から発生し,予後が比較的良好であることから臨床的検討が一緒になされることが多かった。しかし臨床的には2つの悪性腫瘍は明確な違いを示す。濾胞癌は手術前に診断をつけることが困難であること,リンパ節転移は少ないものの,しばしば遠隔転移を起こすことが乳頭癌と大きく異なる。分化癌として両者を一括して,予後や予後因子を検討した報告[]は多いものの濾胞癌単独の予後の検討は少ない。標準的な治療戦略として病理診断判明後,補完全摘術,アブレ-ションを行い,血中サイログロブリン値を指標とし,その上昇時にはI131内用療法を行う[,]。しかし全ての濾胞癌症例にこの戦略が必要なのか疑問が残る。予後因子を勘案した上で治療戦略を立てる必要があるものの,エビデンスが少ない。そのような背景から当院で経験した濾胞癌の予後を検討した[]。本稿では濾胞癌全般の予後と遠隔転移の危険因子を検討した。さらに微少浸潤型濾胞癌は広範浸潤型に対し,遠隔転移が少なく,予後は良好とされている。濾胞癌の多くを占める微少浸潤型濾胞癌の予後を報告する[]。

濾胞癌全般の予後について

対象と方法:1989年から1998年までの間に当院で初回手術を受けた通常型の甲状腺濾胞癌症例,134例を対象とした。女性104例,男性30例,年齢は中央値44.7歳(10から83歳),原発巣の大きさは中央値49mm(7から105mm)である(表1)。甲状腺切除範囲は基本的に腺葉切除が施行され,術前に遠隔転移が判明している場合,バセドウ病や腺腫様甲状腺種が合併している場合には全摘術がなされていた。初回手術では110例に腺葉切除術が,10例に亜全摘術が,14例に全摘術がなされていた。補完的甲状腺全摘術は遠隔転移が明らかになった時に行い,放射性ヨード内用療法に備えた。

表1.

患者背景と初診時遠隔転移の有無

無遠隔転移生存率(DMFS)と疾患特異的生存率(CSS)を各因子(手術時年齢,性差,原発腫瘍径,浸潤形式,被膜および血管浸潤の有無,初診時遠隔転移)ごとにKaplan-Meier法で求め,Log rank法で検定した。また,DMFS,CSSについてCoxのproportional hazard modelを用いて多変量解析を行った。

結果:中央値150カ月の追跡期間で36例(26.9%)に遠隔転移を認めた。13例(9.7%)が初回手術時(初回手術後1年以内に判明した症例も含む,M1)に,23例(19.1%)が経過観察中(M2)に遠隔転移を認めた。転移部位は骨13例,肺12例,骨および肺7例,脳2例,その他多発2例であった。原病死は18例に認め,M1 9例,M2 9例であった。

M1症例は45歳以上,腫瘍径4cm以上,広範浸潤型,被膜浸潤,リンパ節転移例により多く認められた(表1)。全例の10年,15年,20年CSSではそれぞれ89.9%,84.6%,79.2%であった。45歳以上,腫瘍径4cm以上,広範浸潤型,M1例においてCSSは有意に不良であった(図1)。M1症例をのぞいた121例での10年,15年,20年DMFSはそれぞれ85.2%,75.9%,73.5%であった。45歳以上,腫瘍径4cm以上においてDMFSは有意に不良であった(図2)。多変量解析ではCSSについては年齢,腫瘍径,初診時遠隔転移が予後不良因子であり,DMFSについてはM0症例のみでの検討では年齢,腫瘍径が有意な因子であった。M1症例も含んで検討すると浸潤形式も有意な因子であった。

図 1 .

濾胞癌の疾患特異的生存率の比較

年齢,浸潤形式,原発腫瘍の大きさ,初診時遠隔転移において有意差を認めた。

図 2 .

濾胞癌の無遠隔転移生存率の比較

年齢,原発腫瘍の大きさにおいて有意差を認めた。浸潤形式では広範浸潤型においてはM1症例が多かったため,これらをのぞくと症例数が少なくなったため有意差が認めなかった。血管浸潤の有無は有意差を認めなかった。

結論:甲状腺濾胞癌における遠隔転移危険因子は年齢,腫瘍径,浸潤形式であった。このような因子を有する症例に対し積極的な補完全摘術やアブレーションを含む放射性ヨード内用療法を行うことで予後の改善が期待できるかどうかは今後の検討を要する。

微少浸潤型濾胞癌の予後について

対象と方法:1989年から2006年までに当院で初回手術を行った251例の微少浸潤型濾胞癌を対象とした。女性194例,男性57例,年齢は中央値46歳(10から83歳),原発巣の大きさは中央値44mm(7から150mm)である(表2)。初回手術では191例に腺葉切除術が,24例に亜全摘術が,36例に全摘術がなされていた。補完的甲状腺全摘術は46例になされ,33例では予防的に,13例では遠隔転移判明時に行われていた。

表2.

微少浸潤型濾胞癌患者背景と初診時遠隔転移の有無

無遠隔転移生存率(DMFS)と疾患特異的生存率(CSS)を各因子(手術時年齢,性差,原発腫瘍径,被膜および血管浸潤の有無,初診時遠隔転移)ごとにKaplan-Meier法で求め,Log rank法で検定した。また,DMFS,CSSについてCoxのproportional hazard modelを用いて多変量解析を行った。

結果:中央値90カ月の観察期間にて54例(21.5%)の症例に遠隔転移を認めた。22例が初回手術時(初回手術後1年以内に判明した症例も含む,M1)に,32例が経過観察中(M2)に遠隔転移を認めた。転移部位は骨21例,肺20例,骨および肺12例,その他多発1例であった。原病死は13例(5.2%)に認めた。

M1症例は45歳以上,被膜浸潤により多く認められた (表2)。全例の10年,15年,20年CSSではそれぞれ95%,89.2%,86.8%であった。45歳以上,腫瘍径4cm以上,M1例においてCSSは有意に不良であった(図3)。M1症例をのぞいた229例での10年,15年,20年DMFSはそれぞれ85.6%,72.6%,70.0%であった。45歳以上,腫瘍径4cm以上においてDMFSは有意に不良であった(図4)。血管浸潤は遠隔転移に関与していなかった。多変量解析ではCSS,DMFSについては年齢が有意な因子であった。

図 3 .

微少浸潤型濾胞癌の疾患特異的生存率の比較

年齢,原発腫瘍の大きさ,初診時遠隔転移において有意差を認めた。

図 4 .

微小浸潤型濾胞癌の無遠隔転移生存率の比較

年齢,原発腫瘍の大きさにおいて有意差を認めた。

結論:微少浸潤型濾胞癌といえども遠隔転移は稀ではなかった。その危険因子は年齢であった。

考 察

先に述べたように濾胞癌と乳頭癌では生物学的振る舞いが異なるため,同一の疾患群として検討することで混乱が生じる可能性があると考える。濾胞癌単独での予後因子に関する報告は乳頭癌のそれに比して多くはない。濾胞癌の特徴として術前診断が困難であることの他,遠隔転移が多いことが知られている。遠隔転移が予後を規定するという報告が多い。

今回の検討でも遠隔転移例の予後は不良であり,遠隔転移を起こしやすい因子をみいだすことが濾胞癌の予後改善の端緒につながるものと考えた。一方,微少浸潤型濾胞癌ではかつて被膜浸潤のみの濾胞癌は遠隔転移をきたすことは稀である[]という報告があり,血管浸潤の有無が遠隔転移発生の危険因子であると考えられてきた。しかし,被膜浸潤のみ症例でも遠隔転移を起こす報告もなされている[11]。今回の検討でも血管浸潤は遠隔転移の有意な因子ではなかった。当院のように放射性ヨード治療施設を有する専門病院ではM1症例が紹介されやすいというバイアスがあると推察されるものの,微少浸潤型といえども遠隔転移は決して稀ではないことを示した。今回,当院で経験した微少浸潤型濾胞癌の予後は最近の報告と比しても同様な結果[1214]であった(表3)。術前に診断することが困難な微少浸潤型濾胞癌であるが,濾胞性腺腫も含めた濾胞性腫瘍を疑った場合には今回示した遠隔転移を加味した上で,手術を考慮すべきであろう。

表3.

微少浸潤型濾胞癌の予後-最近の報告との比較-

おわりに

甲状腺濾胞癌単独で検討した予後に関する報告は少ない。今回,当院で経験した濾胞癌症例を検討・報告した。今後は我が国のデータがさらに報告され,新たなるエビデンスの蓄積になることを期待したい。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top