抄録
6例のMarin-Lenhart症候群を経験した。これら6例はGraves病と,過機能性甲状腺結節の合併と見なし得た。この症候群の結節と結節以外の部分は131Iシンチグラムをみても,或いは文献によれば,組織学的にみても,大きな差はなかった。従って,この両部分の病因の少なくとも一部は共通しているはずである。ところが現在の通説によれば,結節部分はTSHと無関係に甲状腺ホルモンを過剰産生する自律性腫瘍であり,結節以外の部分は抗TSH受容体抗体で刺激されている自己免疫疾患である,という説明になる。かつ二種類の甲状腺機能亢進症が,1個の甲状腺の中に隣り合って共存しているという,理解し難い説明になってしまう。これらふたつの学説は,片方或いは両方ともに,誤りである可能性が高い。しかし,これらの両甲状腺部分が,ともにTSH刺激に対して過敏すぎる,或いはTSH受容体が多すぎる,と仮定すれば,すべての現象が矛盾なく説明できる。過機能性甲状腺結節が,TSH刺激に対して過剰反応することは,既に証明されている。Graves病甲状腺腫の中のTSH受容体が,異常に多いことも既に知られている。その多すぎるTSH受容体を中和して,この疾患を自然治癒させる為に,抗TSH受容体が作られると推察される。抗体は抗原に結合すると離れないから,不運にもTSHに似てしまった,この抗体は抗原であるTSH受容体に結合したまま,いつまでも甲状腺を刺激し続けて,甲状腺機能亢進症を悪化させていると推察される。治療はTSH受容体を減らすことである。