日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
特集2
悪性褐色細胞腫へのMIBG治療
萱野 大樹稲木 杏吏若林 大志赤谷 憲一山瀬 喬史國田 優志絹谷 清剛
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2014 年 32 巻 1 号 p. 39-43

詳細
抄録

MIBG治療は手術不可能または悪性の褐色細胞腫に対して行われる放射線内照射療法であり,国内では数施設で治療が可能である。保険適応外治療であるため治療に要する費用は患者自己負担となる。放射性薬剤を用いた治療であるため,治療は放射線治療病室で行われ,治療後数日間は放射線治療病室で過ごさなければならない。放射線管理上の問題から,患者はADLがある程度自立していることが必須となる。重度の副作用は少なく比較的安全な治療であり,完治に至ることは稀ではあるが病状の軽減および増悪を抑える効果が充分に期待できる治療といえる。手術不可能または悪性の褐色細胞腫に遭遇した際には,早い段階でMIBG治療も治療選択肢の1つとして考慮していただければ幸いである。

はじめに

MIBG治療はI-131標識metaiodobenzylguanidine(I-131 MIBG)を用いたアイソトープ治療であり,CVD療法と並ぶ悪性褐色細胞腫に対する主要な治療手段である。1980年代から欧米で行われており[],国内でも1990年終わり頃から本格的に普及してきた。とはいえ,MIBG治療は国内では未だ保険診療が認められていないことや放射線治療病室を要することなどの理由から,2014年10月現在,国内でMIBG治療が施行可能な施設はわずか5施設のみである。このうち1施設は小児神経芽腫のみを対象としているため,本テーマである悪性褐色細胞腫を対象とする施設は,北海道大学病院,群馬大学医学部附属病院,金沢大学附属病院,鹿児島大学病院の4施設である。このため,MIBG治療はほとんどの場合が他院からの紹介となり,当院でも日本全国から紹介をいただいている。

2008年に日本核医学会の分科会である腫瘍免疫核医学研究会からMIBG治療のガイドライン(案)が作成され[],現在,改訂版の作成の最終段階にある。本稿では,現在改訂中の新ガイドラインの内容もふまえた上で,悪性褐色細胞腫にたずさわる臨床医に抑えておいていただきたいMIBG治療の基本的な点について概説し,さらに,実際にMIBG治療を検討される際に抑えておいていただきたい留意点について述べる。

MIBG治療の原理

I-131 MIBGはノルエピネフリンの類似物質であるグアニジンをヒントに副腎髄質のイメージング製剤として開発された放射性薬剤である[]。ノルエピネフリンと類似した体内挙動を示し,神経内分泌腫瘍に選択的に集積する性質を持つ。I-131が殺細胞作用を有するβ線を放出することから,開発初期の段階からMIBGが集積する神経内分泌腫瘍に対する内照射療法としても用いられるようになった[]。I-131が放出するβ線の組織内平均飛程は0.6mmであり,集積した神経内分泌腫瘍組織を選択的に放射線照射し,抗腫瘍効果を得ることが可能となる。

MIBG治療の適応

MIBGを取り込む性質を有する表1に示す疾患がMIBG治療の対象となる。以下では褐色細胞腫(副腎外原発の傍神経節腫も含む)に対するMIBG治療について紹介するが,カルチノイド,甲状腺髄様癌に対するMIBG治療も治療の流れはほぼ同様である。神経芽腫に対するMIBG治療は,疾患の性質や対象患者が主に小児であることなどから,褐色細胞腫に対するMIBG治療とは異なる部分も多く,本稿の趣旨からそれるため,割愛させていただく。

表1.

MIBG治療の適応疾患

MIBG治療の禁忌

妊娠中,期待余命1カ月以下,高度の腎機能障害を有する例は絶対的禁忌である。

骨髄抑制(白血球数3,000以下,または,血小板数10万以下)を認める場合は相対的禁忌となるが,骨髄抑制の程度によっては投与量を減量しての治療が可能である。

MIBG治療が施行された際,I-131 MIBGが集積した病変が一時的に腫脹することがある。このため,脳転移や脊髄に近接する病変がある場合,MIBG治療後に一時的な病変の腫脹によって神経症状が惹起される可能性がある。このような病変を認める場合も治療禁忌となるが,このような場合は手術や外照射で対処した後であればMIBG治療は可能である(図1)。

図1.

70歳代,女性,悪性褐色細胞腫

胸椎棘突起周囲の転移病変が胸髄を圧迫している。この状態でMIBG治療を施行すると,一時的な病変腫脹によって脊髄横断症状の出現が危惧される。

MIBG治療が施行された患者は,体内に残留する放射線量が規定値以下になるまでの4,5日間を放射線治療病室で過ごさなければならない。この期間中は,患者から大量の放射線が放出されるため,放射線管理上の問題から一般病棟と同様のケアや医療行為を行うことが困難となる。このため,患者のADLが自立できていない場合は相対的禁忌となる。また,同様に放射線管理上の問題から,コントロール困難なカテコラミン発作や日常生活に支障をきたすような重度の疼痛を有する場合なども相対的禁忌である。

MIBG治療の主要な副作用

治療早期(1週間以内)の代表的な副作用としては放射線宿酔と放射線唾液腺炎が挙げられるが,軽度のものがほとんどである。また,治療後早期に腫瘍崩壊に伴うカテコラミン症状の増悪が出現する可能性があるものの,実際の発現頻度は低い。

中期(数週~数カ月以内)の副作用として骨髄抑制が挙げられ,最も重要な副作用である。一般的には2~3カ月後にほぼ回復するが,骨髄機能は完全には戻らず,MIBG治療を繰り返す場合は徐々に骨髄機能は低下していく。1,2回の治療で輸血などの処置が必要となる例は稀であるが,万が一重度の骨髄抑制が生じた場合はQOLを著しく損ねる恐れがあるため,治療前に患者に十分な説明をしておかなければならない。また,治療効果を良好に認める場合も追加治療によって徐々に骨髄抑制が蓄積し治療継続が困難となる例も存在する。追加治療の次期や投与量の決定を行うのに,治療毎の骨髄抑制の程度や回復具合などを正確に把握することが非常に重要となる。

晩期(数カ月以降)の代表的な副作用としては,甲状腺機能低下症が挙げられる。単回治療のみで出現するのは稀だが,複数回治療例では出現する可能性もあるため,MIBG治療後は定期的なホルモンチェックが必要である。

その他,複数回治療例では中長期的な副作用として不妊や無月経が出現する可能性もあるため[],特に若年者への治療の際には治療前にしっかりと説明をしておく必要がある。

当院におけるMIBG治療の流れ

⑴治療まで

まず,外来受診をしていただき紹介元からの診療情報を元に治療適応の有無を判断し,この時点で治療病室を確保する。治療の2週間程前に3~5日間の検査入院を行い,病変へのMIBG集積の確認や治療禁忌となる項目がないことの最終確認などを行い,治療へとすすむ。

⑵治療の実際

治療前の準備として,I-131 MIBGから遊離したI-131の甲状腺への集積を阻害する目的で,治療の1~3日前から7~14日後まで無機ヨウ素の内服を行う。

I-131 MIBGの投与は,放射線治療病室に入室した上で約1時間かけて緩徐に静脈内投与する。投与量は,3,700~7,400MBqが一般的であるが,患者の状態によって適宜増減する。治療時のストレスや腫瘍細胞の崩壊が原因でカテコラミン症状の増悪を認めることがあるため,治療後数日間は厳重なバイタルチェックを行う。

治療3~7日後に撮像を行い,病変集積の確認を行う。

⑶治療効果判定とその後

各種画像診断および生化学検査にて治療効果の判定を行う。MIBG治療をはじめとする内照射療法では,治療効果の発現に数カ月要することが多いため,治療効果の評価はMIBG治療の3月後以降に行っている。Progressive Disease(PD)の場合は追加治療による効果は乏しいことが予測されるため,CVD治療をはじめとする他の治療を検討する。初回治療でStable Disease(SD)の場合でも追加治療により効果を得られることが多いため,SDおよびPartial Response(PR)の場合に追加治療を検討する。Complete Response(CR)は稀であるが,CRが得られた場合は,厳重な経過観察を行う。

MIBG治療を依頼する際の留意点

実際にMIBG治療を考慮する際に留意していただきたい点について,以下にまとめる。

⑴MIBG治療は保険適応外

現在,MIBG治療は保険診療として認められておらず,自由診療の形で行われている。1回のMIBG治療で,入院費,薬代などを含めて総額100~200万円程が患者の自己負担となる(投与量や為替によって変動あり)。

⑵治療用I-131 MIBG製剤は海外輸入

治療用のI-131 MIBGは国内で製造されていないため,海外(現在はポーランド)から個人輸入の形で取り寄せており,これに要する費用(薬代,輸送費,手数料込みで数十万円)を患者個人が賄わなければならない。

⑶MIBG治療病室は常に満床状態

国内でMIBG治療が可能な施設は限られており,また,MIBG治療に用いる放射線治療病室は保険適応である甲状腺疾患に対するI-131治療にも用いられる。このため,MIBG治療までに長い待機期間を要することが多く,当院でも外来受診からMIBG治療まで半年~一年程の待機期間を要している。

⑷MIBG集積の有無の確認はI-123 MIBGシンチで

MIBG治療では,病変にI-131 MIBGが取り込まなければI-131からの放射線を病変に集中的に照射することができず,治療が成り立たない。このため,MIBG治療の適応を判断する際にはMIBGシンチにて病変集積の有無を確認することが必須となる。MIBGシンチに用いられる放射性医薬品としてI-123 MIBGとI-131MIBGがあるが,それぞれの核種が放出するγ線の性質上,診断能はI-123 MIBGの方が高い[]。したがって,MIBG集積の有無の確認には,I-123 MIBGシンチが望ましく,可能ならば小病変の検出や病変部位の正確な把握が可能なSPECT/CTも加えるのが望ましい[]。

⑸MIBG治療は大きい病変が苦手

I-131 MIBGが放出するβ線の組織内平均飛程は0.6mmと短く,内照射療法の性質上,小さな病変の治療は得意であるが,大きな病変への治療効果は乏しくなる傾向にある。当院での経験上も,1~2cm程の病変が消失することはありうるが,5cm以上の病変がMIBG治療のみで消失することは非常に稀である。また,10cmを超えるような巨大腫瘤に対する腫瘍縮小効果は乏しいことが多い。表1に示したように手術不可能な褐色細胞腫がMIBG治療の適応となるが,病変が巨大な症例については完治切除が不可能でも手術によって可能な限り腫瘍縮小を図った上でMIBG治療に臨む方が治療効果が得られやすい。また,たとえ他に転移病変があったとしても,巨大病変を要する場合は手術によって可能な限り腫瘍縮小を図った上でMIBG治療に臨む方が治療効果が得られやすい。

治療効果

従来のMIBG治療の投与量は3,700MBq~7,400MBq程が一般的であるが,1回あたりの投与量が多いほど良好な治療効果が期待できるため,欧米では大量放射能投与も試みられている。平均444MBq/kgのI-131 MIBGを投与した報告では,65%でCRかPRかSD(このうちCRが8%)が得られ,5年生存率64%であった[]。国内では放射線治療病室での最大使用可能量が限られているため,欧米で試みられているような大量投与は困難である。これに代わる方法として,標準的な投与量(3,700MBq~7,400MBq)を繰り返し投与する方法でも比較的良好な治療効果が得られており[],国内ではこの標準的な投与量の繰り返し投与が行われている。標準的投与量によるMIBG治療では,CRは数%と稀であるが,50~80%程でPRまたはSDが得られたと報告されている[10]。当院でMIBG治療が施行された計26例の検討では,初回MIBG治療からの5年生存率が50%,悪性と診断されてからの5年生存率が70%であった[11]。図2は計3回のMIBG治療でPRを維持している症例を示す。MIBG治療は,CRを得られるのは稀ではあるが,PRまたはSDを維持することは充分に期待ができる治療であるといえる。

図2.

50歳代,女性,悪性褐色細胞腫

上段は治療前後のI-123 MIBGシンチである。治療前のI-123 MIBGシンチでは左鎖骨窩および傍大動脈リンパ節転移,肺転移,右大腿骨転移への異常集積を認める。計3回のMIBG治療後のI-123 MIBGシンチでは,各病変への異常集積は著明に低下している。下段に最大病変である傍大動脈リンパ節転移の治療前後のCTを示すが,治療前後で最大径が44mmから23mmに縮小している。

おわりに

悪性褐色細胞腫に対するMIBG治療は保険適応外治療ではあるが,重度の副作用の少ない安全な治療であり,病変の縮小および増悪を抑える効果が充分に期待できる治療といえる。病変サイズが小さい程,良好な効果が期待できるため,なるべく早い段階での治療が望ましい。褐色細胞腫の診療を行っていく上で,悪性と診断された場合や手術による完全切除が困難と判断された場合は,治療選択肢の一つとしてMIBG治療も早い段階から積極的に考慮していただければ幸いである。

【文 献】
  • 1.   Sisson  J,  Shapiro  B,  Beierwaltes  WH, et al.: Treatment of malignant pheochromocytoma with a new radiopharmaceutical. Trans Assoc Am Physicians 96: 209-217, 1983
  • 2.  日本核医学会分科会 腫瘍・免疫核医学研究会 I-131 MIBG内照射療法ガイドライン作成委員会:神経内分泌腫瘍に対するI-131 MIBG内照射療法の適正使用ガイドライン案.核医 45(Suppl):1-40,2008
  • 3.   Wieland  DM,  Brown  LE,  Tobes  MC, et al.: Imaging the primate adrenal medulla with I-123 and I-131 meta-iodobenzylguanidine:concise communication. J Nucl Med 22: 358-364, 1981
  • 4.   Rutherford  MA,  Rankin  AJ,  Yates  TM, et al.: Management of metastatic phaeochromocytoma and paraganglioma:use of iodine-131-meta-iodobenzylguanidine therapy in a tertiary referral center. QJM 29: 2014. [Epub ahead of print]
  • 5.   Koopmans  KP,  Neels  ON,  Kema  IP, et al.: Molecular imaging in neuroendocrine tumors: molecular uptake mechanisms and clinical results. Crit Rev Oncol Hematol 71: 199-213, 2009
  • 6.   Meyer-Rochow  GY,  Schembri  GP,  Benn  DE, et al.: The utility of metaiodobenzylguanidine single photon emission computed tomography/computed tomography (MIBG SPECT/CT) for the diagnosis of pheochromocytoma. Ann Surg Oncol 17: 392-400, 2010
  • 7.   Gonias  S,  Goldsby  R,  Matthay  KK, et al.: Phase Ⅱ study of high-dose I-131 metaiodobenzylguanidine therapy for patients with metastatic pheochromocytoma and paraganglioma. J Clin Oncol 27: 4162-4168, 2009
  • 8.   Lam  MG,  Lips  CJ,  Jager  PL, et al.: Repeated I-131 metaiodobenzylguanidine therapy in two patients with malignant pheochromocytoma. J Clin Endocrinol Metab 90: 5888-5895, 2005
  • 9.   Shapiro  B: Summary, conclusions, and future directions of I-131 metaiodobenzylguanidine therapy in the treatment of neural crest tumors. J Nucl Biol Med 35: 357-363, 1991
  • 10.   Yoshinaga  K,  Oriuchi  N,  Wakabayashi  H, et al.: Effects and safety of I-131 metaiodobenzylguanidine (MIBG) radiotherapy in malignant neuroendocrine tumors:Results from a multicenter observational registry. Endocr J 11: 2014. [Epub ahead of print]
  • 11.   Wakabayashi  H,  Taki  J,  Inaki  A, et al.: Prognostic values of initial responses to low-dose I-131 MIBG therapy in patients with malignant pheochromocytoma and paraganglioma. Ann Nucl Med 27: 839-846, 2013
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top