2015 年 32 巻 4 号 p. 243-245
褐色細胞腫・パラガングリオーマは適切な診断と治療により治癒が期待できる一方,診断の遅れは,高血圧クリーゼ,不整脈,たこつぼ型心筋症などを合併する。更に約10%が悪性で,初期の診断が困難かつ有効な治療法がない。著者らは日本内分泌学会臨床重要課題委員会と厚労省難治性疾患克服研究事業研究班との協力で褐色細胞腫診療指針2012年を取りまとめたが,本稿では2014年に米国内分泌学会から発表された褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドラインの要点を解説する。根拠となる論文には4段階のエビデンスレベル,診療行為には2段階の推奨グレードが付記されている。基本的な点は我が国における診療指針と同様であるが,機能検査,画像検査,遺伝子検査などの各点で差異を認める。我が国の保険医療制度を考慮して日常診療に活用する必要がある。
副腎髄質,傍神経節細胞に発生するカテコールアミン産生腫瘍で,前者を褐色細胞腫,後者をパラガングリオーマと呼ぶ。適切な診断と治療により治癒が期待できる一方,診断の遅れは,高血圧や糖尿病などの種々の代謝異常,高血圧クリーゼ,不整脈,たこつぼ型心筋症などを合併する。更に約10%が悪性で,初期の診断が困難かつ有効な治療法がない[1]。著者らは日本内分泌学会臨床重要課題委員会と厚労省難治性疾患克服研究事業研究班との協力で,2012年に診療アルゴリズム[2,3]を取りまとめたが,昨年,著者も作成委員となり米国内分泌学会から診療ガイドライン[4]を発表したので要点を解説する。なお,根拠となる論文には表1に示した4段階のエビデンスレベル,診療行為には2段階の推奨グレードが付記されている。
エビデンスレベルと推奨グレードの表示法
カテコールアミン過剰分泌のバイオマーカーとし,我が国では随時尿中メタネフリン分画,尿中カテコールアミン排泄量が使用されているが,本ガイドラインでは血中遊離メタネフリンと尿中メタネフリンの測定が推奨(1/⊕⊕⊕⊕)されており,その測定法(1/⊕⊕〇〇)と採血条件(1/⊕⊕〇〇)についても一定の条件が規定されている。陽性であれば,状況に応じて精査あるいは経過観察を行うとなっている(1/⊕⊕〇〇)。我が国では遊離メタネフリン測定は保険適応となっていない。また厳密な採血条件が要求されることから,日常診療ではその実施に制約があると考えられる。
原則としてカテコールアミン上昇を確認できた症例のみで画像検査を実施(1/⊕⊕⊕〇)する。しかし,SDHx遺伝子変異を有する例ではカテコールアミン非産生性の場合も画像検査を実施する(2/⊕⊕〇〇)。画像検査としてCTが第一選択であるが,転移例や被曝を制限する必要のある小児,妊婦ではMRIを実施する(1/⊕⊕⊕〇)。転移例や転移が強く疑われる例では機能的な画像診断である123I-MIBGシンチグラフィを実施する(1/⊕〇〇〇)。また18F-FDG PETは転移を有する例で実施する(2/⊕⊕⊕〇)。我が国では米国と異なり,高血圧クリーゼを惹起する可能性があるとのことからCTでの造影剤使用が原則禁忌である。臨床的に実施の必要性がリスクを上回ると判断される場合は,患者への説明と同意後,レギチンなど十分な準備をして実施する必要がある。123I-MIBGシンチグラフィは投与量により偽陽性があり得る点に注意を要する。我が国では18F-FDG PETは転移巣の検索,化学療法などの治療効果の判定に用いられている。
褐色細胞腫とパラガングリオーマでは遺伝子検査の実施を考慮することが推奨される(1/⊕⊕⊕⊕)。検査する遺伝子の種類は,症候,家族歴,診断時の年齢,腫瘍の位置などにより優先順位を決定する(1/⊕⊕⊕〇)が,特に,転移を有する症例ではSDHB遺伝子(1/⊕⊕⊕〇),傍神経節細胞腫ではSDH遺伝子(1/⊕⊕⊕〇)を検査する。遺伝子検査は保険医療の枠組みで施行されることが望ましく,カウンセリングを受けられること,検査は認定施設で実施することが望ましい(1/⊕⊕⊕⊕)。現在までに報告されている遺伝子変異は13種類になる。それらの浸透率は100%ではないことから,遺伝子解析に際しては,将来における病変の早期発見の可能性などのベネフィットに加えて,解析結果が未成年者やその両親に及ぼす社会心理学的影響にも配慮する必要がある。また,変異陽性例における具体的な臨床的対応も予め計画を立てておく必要がある。
カテコラミン産生例では周術期の心血管系合併症予防のために術前に薬物治療行う(1/⊕⊕⊕⊕)。薬物治療はα遮断薬が第一選択(2/⊕⊕〇〇)で,血圧・脈拍を正常化させるために,術前7~14日前より薬物治療を開始する。また術後の低血圧の予防のため,血管内脱水の改善を目的として塩分・水分を摂取させる(1/⊕⊕〇〇)。手術直後はモニターによる血圧管理や血糖管理(1/⊕⊕〇〇)を行う。術後は再発・転移の有無を確認するため,血中・尿中メタネフリン測定による長期にわたる経過観察を行う(2/⊕⊕〇〇)。
米国では非選択的α遮断薬であるフェノキシベンザミンが使用されるが,我が国ではα1選択的遮断薬であるドキサゾシンが使用される。更に最近になり,カテコールアミン合成阻害薬メチロシンの治験が開始されており,今後,カテコールアミン過剰状態の改善での適応が期待される。また,褐色細胞腫は全例において,術後の長期経過観察が推奨されているが,具体的な評価方法は未確立である。
ほとんどの副腎性褐色細胞腫では腹腔鏡下などの低侵襲な手術が推奨される(1/⊕⊕〇〇)。腫瘍が大きいまたは浸潤性の場合には,腫瘍を完全摘出し破裂や局所再発を避けるために開腹手術が推奨される(1/⊕〇〇〇)。傍神経節細胞腫では開腹術が推奨されるが,腫瘍が小さく非浸潤性であれば腹腔鏡下手術でも可能である(2/⊕〇〇〇)。遺伝性の褐色細胞腫例または過去に一側副腎全摘術を受けた例で,腫瘍が小さい場合は,恒久的な副腎不全を避けるために副腎部分切除が推奨される(2/⊕〇〇〇)。しかしながら,我が国における褐色細胞腫の部分切除の実態,合併症,長期予後の詳細は不明である。
米国内分泌学会から発表された褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドラインの要点を解説した。基本的な点は我が国における診療アルゴリズムと同様であるが,機能検査,画像検査,遺伝子検査などの点で差異を認め,現在進められている我が国のガイドライン改訂に際して,考慮する必要がある。