日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
症例報告
結節性紅斑を伴った肉芽腫性乳腺炎の1例
三木 仁司開野 友佳理沖津 奈都森本 忠興内田 尚之木村 早那岡本 浩泉 啓介
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 33 巻 4 号 p. 264-268

詳細
抄録

28歳,女性。平成27年4月右乳房の硬結と痛みを自覚し当科を受診。初診時,右乳房AC領域に5cm大の硬い腫瘤を触知し発赤も認めた。肉芽腫性乳腺炎を疑いテトラサイクリン系抗生剤投与を開始した。乳房硬結部の針生検を施行し病理学的に炎症所見を認め,同材料の培養検査でCorynebacterium kroppenstedtiiを検出した。初診から約4週間後,両下腿に散在性の紅斑が出現し皮膚生検にて結節性紅斑と診断した。そこでプレドニゾロンを投与開始し2週間後に結節性紅斑は軽快した。しかし肉芽腫性乳腺炎はドレナージが必要で治癒するのに約4カ月を要した。肉芽腫性乳腺炎は,最近Corynebacterium kroppenstedtiiの感染が原因ではないかといわれており,本症例も針生検材料からCorynebacterium kroppenstedtiiを検出しえた。よって,肉芽腫性乳腺炎の早期診断に針生検は有用な診断手段と考えられた。また,稀に結節性紅斑を合併することがあり,乳房に感染したCorynebacterium kroppenstedtiiに対する免疫反応の結果,結節性紅斑が惹起されたのではないかと考えられた。

はじめに

比較的稀といわれている肉芽腫性乳腺炎は若年女性に発生する腫瘤形成性の慢性炎症性疾患であり,今まで明確な原因は特定されていなかった。しかし,近年になりCorynebacterium kroppenstedtii感染により肉芽腫性乳腺炎が惹起されるのではないかという報告例がみられるようになり[],われわれも28歳女性に発症した肉芽腫性乳腺炎の針生検材料からCorynebacterium kroppenstedtiiを検出しえた1例を経験した。また,肉芽腫性乳腺炎は本症例のように稀に結節性紅斑を合併することがあり[18],Corynebacterium kroppenstedtii感染と結節性紅斑の関連性も考察した。

症 例

症 例:28歳,女性。

主 訴:右乳房の硬結と痛み。

出産歴:27歳時に出産。

現病歴:平成27年4月右乳房の硬結と痛みを自覚し,4日後に当科を受診した。なお,初診時には既に授乳は終了していた。

初診時現症および検査所見:右乳房AC領域に5cm大の硬い腫瘤を触知し同部の発赤も認めた。血液検査ではWBC 16,920/μl,好中球 84.6%,CRP 8.30 mg/dlと炎症所見を認めたが,発熱はみられなかった。両側マンモグラフィで明らかな異常所見は認められなかった。乳房超音波検査では右AC領域に5cm大の後方エコーの減弱を伴う境界不明瞭なhypoechoic regionを認めたが,明らかな膿瘍形成は認められなかった。乳房単純MRI検査では右乳房AC領域に不均一なT2高信号を認め(図1),拡散強調画像でも同部に不均一な高信号が拡がっていた。

図 1 .

乳腺単純MRI検査(T2強調画像):右乳腺AC領域に不均一なT2高信号を認めた。

経 過:初診時より肉芽腫性乳腺炎を疑いミノサイクリン投与を開始したが投与2日後にめまいが出現し,テトラサイクリンに変更した。初診8日後に乳癌を否定するために乳房硬結部の針生検を施行し,病理学的検査でリンパ球優位の細胞浸潤と線維化を示し好酸球浸潤も伴っていたことから慢性乳腺炎と診断された(図2)。また肉芽腫性乳腺炎を強く疑っていたため針生検で採取した組織片から細菌を培養し,16S rRNA遺伝子解析および質量分析装置を用いてCorynebacterium kroppenstedtiiを同定した。初診時には認められていなかった膿瘍が,初診から約4週間後に硬結部内に膿瘍を形成してきた。さらに同時期に両下腿伸側に鶏卵大から豌豆大までの散在性の紅斑(図3)も出現し,全身の関節痛もあったため歩行困難となった。そこで当院皮膚科に紹介し皮膚生検が施行された。皮膚生検では真皮下層から皮下脂肪織にかけての炎症反応が目立ち結節性紅斑と診断されたため,プレドニゾロン10mg/日の投与を開始した。また,テトラサイクリン投与にて軽快傾向がみられなかったためクラリスロマイシンに変更した。関節痛はステロイド投与2日後に軽快し,両側下腿の紅斑も2週間後には軽快した。しかし乳腺炎は軽快せず排膿が継続したため,初診から約6週間後にドレーンの留置を開始した。プレドニゾロンは投与開始後から約1カ月後に中止しえたが,クラリスロマイシンは約2カ月間投与を継続した。その後,ドレーンを約6週間留置することになったが徐々に排膿も減少し,治療開始から約4カ月でほぼ治癒した。

図 2 .

乳腺硬結部の針生検病理所見:リンパ球優位の細胞浸潤と線維化を示し好酸球浸潤も伴っていたことから慢性乳腺炎と診断された。

図 3 .

下腿の局所所見:両下腿伸側に鶏卵大から豌豆大までの散在性の紅斑(矢印)を認めた。

考 察

肉芽腫性乳腺炎は1972年にKesslerとWollochにより最初に報告された腫瘤形成性の慢性炎症性疾患で[19],一般に出産年齢の若年女性に多いといわれている[12]。Carmaltらも,最終出産よりおよそ5年以内の妊娠可能な年代の女性に多いと報告しており[20],本邦の検討でも平均年齢は39.8歳と報告されている[16]。本症例も出産から1年後の28歳に肉芽腫性乳腺炎を発症していた。症状は通常,片側乳房に硬い孤立性の硬結や腫瘤を認めることが多く,触診上,乳癌と類似する所見を呈する。しかし,皮膚の発赤や疼痛などの炎症所見を伴い,炎症が進行すれば膿瘍形成や瘻孔形成がみられることが多いといわれている[17]。画像上もマンモグラフィ,超音波検査,MRIで境界不明瞭な腫瘤として描出され,乳癌との鑑別が困難なときもある。以前,われわれは肉芽腫性乳腺炎症例の経験があったので,本症例の場合,年齢,炎症症状などから初診時より肉芽腫性乳腺炎を疑い抗生剤の投与を開始した。しかし,乳癌との鑑別目的で病理組織学的検討は必要であり,本症例も針生検を行った結果,慢性炎症所見を認め乳癌を否定しえた。

肉芽腫性乳腺炎の原因について今まで十分解明されていなかったが,2002年にPaviourらが肉芽腫性乳腺炎でCorynebacteriumを同定したと報告した[]。その後,本邦でもCorynebacterium kroppenstedtiiを検出しえた肉芽腫性乳腺炎症例が徐々に報告されてきている[]。Corynebacterium kroppenstedtiiは病原性が弱いが脂質好性であり,現在では脂肪の多い乳房組織に感染して肉芽腫性乳腺炎を発症するのではないかと考えられている[]。われわれも膿瘍を形成する以前の硬結部の針生検材料からCorynebacterium kroppenstedtiiを検出しえた。よって,肉芽腫性乳腺炎の早期診断には病理学的ならびに細菌学的両面から針生検は有用な診断手段と考えられた。

Corynebacterium kroppenstedtiiは約30年前に新しく記載されたグラム陽性桿菌で皮膚,粘膜,腸内の常在弱毒菌である。しかし,その検出は通常より長期の注意深い細菌培養検査が行われないかぎり困難であるといわれている[]。さらに菌種の同定には遺伝子検索も必要とされており,本症例も長期の培養を行った後,遺伝子解析および質量分析でCorynebacterium kroppenstedtiiの同定を行った。このように詳細な検査が必要であるため今まで肉芽腫性乳腺炎症例でCorynebacterium kroppenstedtiiが検出されにくかったのではないかと考えられる。われわれは,最近乳腺炎の培養検査を行う時,常にCorynebacterium kroppenstedtiiを念頭において検索を進めており,その結果Corynebacterium kroppenstedtiiが検出される乳腺炎症例が予想以上に多いことを経験している。よって,われわれは現在,肉芽腫性乳腺炎はそれほど稀な病態ではないのではないかと考えており,肉芽腫性乳腺炎を疑う症例には臨床検査部との十分な連携を取りCorynebacterium kroppenstedtiiを念頭に置いた検査が肝要であると考える。

肉芽腫性乳腺炎に対する治療として,以前は乳房の切除やステロイド投与などが行われており一定の効果が報告されてきた[17]。しかしCorynebacterium kroppenstedtiiが本来弱毒菌であり自然治癒もあり得ることから,はたしてこれらの治療法が有効であったのか疑問の残るところである。一方,Corynebacterium kroppenstedtiiを標的とした抗生剤投与も行われるようになってきている。Corynebacterium kroppenstedtiiはほとんどの抗生剤に感受性を有しているが,脂肪組織に感染する傾向があるため脂肪組織に移行しやすいマクロライド系やテトラサイクリン系抗生剤が有効ではないかと示唆されており[],報告例の多くはクラリスロマイシンやテトラサイクリンが約1~3週間投与されていた[]。われわれも上記抗生剤を初診時から約3カ月間投与したが,治癒まで長期間を要した。原因菌であるCorynebacterium kroppenstedtiiに対する抗生剤投与もそれほど著効しないのかもしれない。現時点では脂溶性の抗生剤投与を行い,さらに適切な膿瘍ドレナージを行っても治癒まである程度の長期間を要する可能性があると思われる。

結節性紅斑は下腿伸側に有痛性の紅斑を認める炎症性皮膚疾患で,原因は何らかの抗原に対する免疫反応ではないかと考えられている[]。結節性紅斑は肉芽腫性乳腺炎と同様に若い女性にみられることが多く,肉芽腫性乳腺炎と結節性紅斑の併発例が1983年Martinの報告以来,本邦でも本症例を含めると現在までに16例が報告されている(表1)[18]。16例の平均年齢は34歳で,出産歴があるものが11例存在した。肉芽腫性乳腺炎部位からCorynebacterium kroppenstedtiiが証明されたものは本症例を含めて2例,Corynebacterium属が検出されたものが1例存在していた。16例におけるCorynebacterium属の検出率が低いのは,前記のようにCorynebacterium属を念頭に置いた検査を行わない限り検出されにくいことが要因と思われた。結節性紅斑の部位はほとんどの例で両下腿に紅斑を認めていたが,上肢に認めた例も数例存在した。それぞれの発症時期は全例肉芽腫性乳腺炎が先行し,その後1~4週間後に結節性紅斑が発症していた。結節性紅斑の治療として本症例も含めてほとんどの例でプレドニゾロンが投与され著効していた。なお,結節性紅斑の治療としてステロイドが投与されることによりCorynebacterium感染が増悪するのではないかと危惧されるところではあるが,Corynebacterium kroppenstedtiiは本来弱毒菌であるので肉芽腫性乳腺炎に対してそれほど影響はないと思われた。

表 1 .

肉芽腫性乳腺炎で結節性紅斑を併発した本邦報告例

両疾患の発症機序については,①両疾患とも病変の主座が脂肪織であり,Corynebacterium kroppenstedtiiが脂質好性であることから,共にCorynebacterium kroppenstedtiiの感染症として発症,②Corynebacterium kroppenstedtiiによる同一免疫機序に起因する全身性脂肪織炎,③Corynebacterium kroppenstedtii感染による肉芽腫性乳腺炎が引き金となり,その後の免疫反応で結節性紅斑が発症の3通りが考えられる。三原らは,両疾患の発現順から肉芽腫性乳腺炎に対する二次的免疫反応として結節性紅斑が出現したのであろうと報告している[]。われわれも16例全例において肉芽腫性乳腺炎が結節性紅斑より先行していること,またプレドニゾロン投与にて結節性紅斑のみがすみやかに著効していることなどから三原らと同様に③の機序が妥当であろうと考えている。

おわりに

肉芽腫性乳腺炎発症4週間後に結節性紅斑を併発した1症例を経験した。肉芽腫性乳腺炎の早期診断および原因検索には針生検が有用で,本症例で針生検材料からCorynebacterium kroppenstedtiiを検出しえた。また,稀に結節性紅斑を合併することがあり,乳房に感染したCorynebacterium kroppenstedtiiに対する二次的免疫反応として結節性紅斑が惹起されたものと思われた。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top