2017 年 34 巻 2 号 p. 81-87
細胞診にて甲状腺の濾胞腺腫と濾胞癌を区別することは定義上不可能であるが,臨床所見や採取部位を加味することにより,診断ができる場合がある。たとえば,衛星結節や突出部を有する結節と主結節の両方から穿刺し,いずれも濾胞性腫瘍の細胞像であれば,被膜浸潤を有する濾胞癌と考えることができる。低分化癌成分が混在する場合,転移巣・再発巣を穿刺した場合も悪性と診断できる。濾胞癌を疑う細胞所見としては,1)高い濾胞密度,2)立体的小濾胞状集塊,3)索状集塊,4)核腫大,5)過染性核クロマチンなどがあげられ,これらの所見が2つ以上みられる場合は,切除が推奨される。
現在の診断基準では,甲状腺の濾胞腺腫と濾胞癌の区別は,被膜浸潤,脈管浸潤,転移の有無により行われ,細胞所見は両者の鑑別に関与していない[1,2]。したがって,細胞診にて濾胞腺腫と濾胞癌を区別することは定義上不可能であり,両者を含めたカテゴリーである濾胞性腫瘍として報告するのが一般的である[1,2]。「術前の細胞診で濾胞癌を診断できるか?」と聞かれれば,正解は「できない」であるが,現在まで細胞診で濾胞癌を推定しようとする試みが実際に行われてきたことも事実である[3~10]。本稿では,濾胞性腫瘍における細胞診の現状と推定可能な濾胞癌に焦点をあてて述べることにする。
上記に述べたように,細胞診で濾胞腺腫と濾胞癌を区別することはできないことから,甲状腺癌取扱い規約第7版では,両者を一括して濾胞性腫瘍(follicular neoplasm)として報告される[1]。甲状腺ベセスダシステム[11,12]やAmerican Thyroid Association(ATA)ガイドライン[13]では,Follicular neoplasm or suspicious for a follicular neoplasmに分類され,悪性の危険度は15~30%とされている。いずれの場合も,悪性の疑い,あるいは悪性のカテゴリーに濾胞癌が疑われる症例は含まれていない。一方,甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013[14]では,濾胞性腫瘍が疑われる場合(鑑別困難A群),A1群:良性の可能性が高い(favor benign),A2群:良性・悪性の境界病変(borderline),A3群:悪性の可能性が高い(favor malignant)の3つに細分類し,それぞれにおいて想定される悪性の確率を5~15%,15~30%,40~60%と定めている。この細分類は,本邦にて甲状腺疾患を専門とする2施設の実績[15,16]を基にしたものである。藤澤らの報告[15]では,favor benignの16.6%,borderlineの50.0%,favor malignantの60.0%が悪性であった。われわれの検討結果では,favor benignの40.4%,borderlineの58.0%,favor malignantの89.5%が外科的に切除され,それぞれの悪性の頻度は10.9%,12.5%,76.5%であった(表1)[16]。各細分類の頻度や悪性の可能性は,施設の特色,細胞判定の基準,切除方針により異なるため,数値のみを直接比較するわけにはいかないが,ある程度悪性の可能性を形態学的に推測することができるように思われる。ただ,この細分類が一般的に汎用されるまでには至っていないのが現状である。

Results of 10,011 thyroid aspiration cytology cases performed at Kuma Hospital in 2007
細胞診所見のみから濾胞癌を診断することは困難であるが,臨床所見や採取部位を加味することにより,診断ができる場合がある。
1)超音波にて衛星結節や突出部を有する結節[17]:主結節の周囲に小さな結節が接してみられる場合(図1a),それぞれの結節を穿刺する。いずれも細胞所見が濾胞性腫瘍で,かつ,腫瘍細胞の形態が類似していれば(図1b,c),小さな結節は被膜浸潤の結果形成された衛星結節(図1d,e)と考えられ,濾胞癌と判断できる。また,被膜が途切れ,外方に突出する像を示す結節が,細胞診で濾胞性腫瘍であるなら,総合的にみて濾胞癌と判断すべきである。

濾胞癌症例。超音波にて主結節に接するように衛星結節
がみられる(a)。細胞診では,主結節(b)と衛星結節(c)のいずれも濾胞性腫瘍の像である。肉眼(d)および組織(e)にて,被膜浸潤
や衛星結節
がみられる。
2)低分化癌成分が混在する濾胞癌:濾胞癌と低分化癌が混在する場合があり,腫瘍の50%以上を前者が占める場合は濾胞癌,後者が占める場合は低分化癌と診断される。図2は,腫瘍の一部に低分化癌成分を有する濾胞癌の症例である。穿刺吸引にて,小濾胞状配列を示す集塊と索状配列を示す集塊(図2a)がみられ,低分化癌成分を有する濾胞癌が考えられると報告された。

低分化癌成分が混在する濾胞癌症例。細胞診では,索状配列がみられ,低分化癌が疑われる(a)。組織像の左側に低分化癌成分,右側に濾胞癌成分がみられる(b)。
3)転移巣,再発巣:甲状腺以外の部位を穿刺し,濾胞性腫瘍に一致する細胞所見がみられた場合(図3a-c),悪性と判断することができる。この際,注意すべきは異所性甲状腺の可能性である。濾胞性腫瘍が局所再発した場合,穿刺経路再発した場合も,臨床的に悪性と判断することができる。

濾胞癌のリンパ節転移症例。腫大した頸部リンパ節(a)の穿刺吸引にて,濾胞状細胞集塊がみられ(b),濾胞癌の転移が考えられる。切除したリンパ節に濾胞癌の転移がみられる(c)。
検体は出血性のことが多く,背景にコロイド,リンパ球,泡沫細胞などはみられない。採取細胞量は通常多い。腫瘍細胞は,大きさや形態が均一で,小濾胞状,索状に出現する。小濾胞状配列とは,15個以下の細胞が円周状に配列するもので,内部に濃縮したコロイドがみられることもある。細胞質の染色性は,乳頭癌に比べて淡染性で,細胞境界は不明瞭である。濾胞が組織塊として出現する場合は,濾胞間は狭く,毛細血管がみられやすい。
濾胞癌と断定できる細胞所見はないが,濾胞癌を疑う細胞所見はいくつか報告されている[3,4,8~10]。それらによると,立体的小濾胞,太い索状集塊,豊富な細胞量,核クロマチンの増量,大型核,篩状配列,孤立散在性などが濾胞癌にみられやすいと述べられている。われわれの検討では,濾胞腺腫よりも濾胞癌にみられやすい細胞所見として,1)高い濾胞密度(図4a),2)立体的小濾胞状集塊が集塊の50%以上(図4b),3)索状集塊(図4c),4)核の大きさが好中球の2倍以上(図4d),5)過染性核クロマチン(図4e)の5つが挙げられた。これらの各所見を1点としてその合計を算出した場合の濾胞癌の頻度は,0点15.1%,1点32.0%,2点60.9%,3点42.9%,4点62.5%,5点100%であった。

濾胞癌を示唆する細胞所見。a;高い濾胞密度,b;立体的小濾胞状集塊,c;索状集塊,d;核腫大,e;過染性核クロマチン。
ATAガイドライン[13]および甲状腺ベセスダシステム[11,12]によれば,細胞診で濾胞性腫瘍と診断された場合は,その良悪性を確認するために葉切除が推奨されている。しかし,切除された多くの結節は良性であり,不必要な切除であったと解釈される。一方,本邦では,細胞診以外の所見を加味し,悪性の可能性が高い症例を選択して切除術が行われている。図5は樋口らによって提案された濾胞性病変の診断アルゴリズムである[18]。濾胞腺腫よりも濾胞癌にみられやすい細胞所見である,1)高い濾胞密度,2)立体的小濾胞状集塊,3)索状集塊,4)腫大核,5)過染性核クロマチンのうち2つ以上の所見がある場合は,悪性の可能性が高いことを念頭に切除を推奨する。それらの所見がないか,一つのみの場合は他の所見を参考に切除か経過観察かを決定する。現時点では,細胞診で濾胞腺腫と濾胞癌を区別するのではなく,臨床的な対応を考慮する方向性を提示することが望ましい立場だと考える。

Preoperative diagnostic algorithm for follicular lesions(cited from[18])
細胞診のみで濾胞腺腫と濾胞癌を区別することには限界があり,より的確な術前診断を求めるなら,他の手段,たとえば遺伝子診断を導入すべきであろう。現在まで,RAS遺伝子変異,PAX8/PPARγ遺伝子再配列,TFF3 mRNA低発現などに関して,細胞診材料での研究,報告がなされており[6,19~21],今後が期待される。ただ,組織学的に診断されてきた濾胞腺腫のなかには,まだ被膜浸潤を来していない状態の非浸潤性被包型濾胞癌が含まれている可能性があるので,現在の組織学的な診断基準を基にそれらの結果を評価できないジレンマがある。実際,Veracyte社が開発した,Afirma Gene Expression Classifierは,濾胞性腫瘍の疑いと報告した症例の細胞診検体を遺伝子検索することで,良性か悪性の疑いに区別し,外科的切除の減少に貢献している[22,23]が,コストが非常に高く,本邦での普及は現実的には難しいと思われる。