2017 年 34 巻 4 号 p. 258-262
症例は69歳,女性。1週間前より右腋窩に腫瘤を自覚し当科外来を受診した。右腋窩に母指頭大の腫瘤を触知し,超音波検査では10.4×12.3×7.6mmの辺縁不整な低エコー腫瘤を認めた。穿刺吸引細胞診で悪性が疑われたため診断目的に摘出生検を施行し,副乳原発の浸潤性小葉癌の診断となった.切除断端の近傍まで癌の浸潤を認めたため癌の遺残を考え後日,局所広範囲切除術+腋窩リンパ節郭清術を施行した。初期治療としてレトロゾールを選択した。術後放射線治療は施行していない。追加切除後8カ月の時点で再発は認めない。
腋窩に発生した副乳小葉癌を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。
副乳癌は乳癌全体の0.2~0.6%と比較的まれな疾患である。今回われわれは腋窩に発生した副乳小葉癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。
症 例:69歳,女性。
主 訴:右腋窩腫瘤。
既往歴:特記事項なし。
家族歴:乳癌・卵巣癌の家族歴なし。
内服歴:ホルモン補充療法歴なし。
現病歴:1週間前より右腋窩に腫瘤を自覚し当科外来を受診した。
身体所見:右腋窩に母指頭大の可動性良好な孤立性の皮下腫瘤を認めた。両側乳房に腫瘤は触知しなかった。
血液検査所見:CEAは1.1ng/ml,CA15-3は6.5U/mlと正常範囲内であった。その他に特記すべき異常値は認めなかった。
マンモグラフィ所見:右側乳房U領域にスピキュラを有する高濃度腫瘤を認めた(カテゴリー5)。左側乳房に異常所見は認めなかった(カテゴリー1)(図1)。

マンモグラフィ:右側乳房U領域にスピキュラを有する高濃度腫瘤を認めた(カテゴリー5)。
超音波検査所見:右腋窩に10.4×12.3×7.6mmの辺縁不整で境界不明瞭,内部は低エコー不均質な境界部高エコー像を伴う腫瘤を認めた(図2)。両側乳房に異常所見は認めなかった。

超音波検査所見:右腋窩皮下に12.3mm大の辺縁不整,一部境界不明瞭,内部不均一な低エコー腫瘤を認めた。
穿刺吸引細胞診所見:高度の異型細胞を少量認め悪性が疑われた。
皮膚付属器癌や潜在性乳癌を含む他臓器癌の腋窩リンパ節への転移を疑い,診断目的に局所麻酔下に摘出生検を施行した。
摘出生検病理組織所見:長径13mmの結節性病変を皮下脂肪織内に認めた。結節性病変では大型核を有する腫瘍細胞が小胞巣状・索状に増殖しており,周囲に孤立散在性ないし一列,線状に浸潤していた(図3a, c)。免疫染色ではエスロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PgR)は陽性でHER2/neuは陰性であった。Gross cystic disease fluid protein(GCDFP)-15,E-cadherinも陰性を示した(図4a~e)。以上より浸潤性小葉癌と診断された。脈管侵襲はなく核Grade1(核異型:2点,核分裂像:1点)で,Ki67は10%であった。周囲には散在性に正常乳腺組織を認めた(図3a, b)。切除断端の近傍(断端から0.1mm)に腫瘍細胞を認めた。

摘出生検病理組織所見(H.E.染色):a)皮下脂肪織内に腫瘍細胞の増殖を認めた(×2),b)病巣の周囲に正常乳腺組織を認めた(矢印×20),c)浸潤性小葉癌。腫瘍細胞が線維性結合織間を孤立散在性ないし一列,線状に浸潤・増殖している(矢頭×40)。

免疫染色像(×20):(a)ER陽性,(b)PgR陽性,(c)HER2/neu陰性,(d)GCDFP-15陰性,(e)E-cadherin陰性
摘出生検と同時に全身検索(上下部消化管検査・頸胸腹部CT検査・乳房MRI検査)を行ったが他に異常所見は認めなかった。
病巣が通常乳房より十分距離の離れた位置に存在していたこと,他臓器に病変を認めなかったことにより腋窩に発生した副乳小葉癌と診断した。癌の遺残を考慮して追加手術の方針とした。
追加手術所見:生検瘢痕を中心に楕円形に10×8.5cmの皮膚と脂肪組織を合併切除し,右腋窩リンパ節郭清(levelⅠ)を施行した。右腋窩リンパ節のlevelⅡの領域に腫大リンパ節を認めたため一部リンパ節をサンプリングした。
追加切除病理組織所見:追加切除組織内には癌の遺残は認められなかった。郭清した腋窩リンパ節にも転移は認めなかった。
術後経過:初期治療としてレトロゾールを選択した。術後放射線治療は施行していない。追加切除後8カ月の時点で再発は認めない。
乳癌取扱い規約第17版では副乳は乳房以外の胸壁,腋窩などに皮下腫瘤を作り,組織学的には乳腺組織と類似するものと定義されている[1]。乳腺の発生過程において,胎生4~5週で乳腺提(milk line)に沿って表皮から乳腺原基が発生し,その後,胸部を除いて乳腺提は完全に退縮するが,退縮が不十分であれば腋窩から鼠径部に伸びる乳腺提上に副乳として残存する。副乳に発生する副乳癌は全乳癌の0.2~0.6%を占めるとされ比較的まれな病態である。最近では牧ら[2]が1996年から2013年までの本邦報告例150例を集計し報告している。2014年以降2015年12月までで医学中央雑誌にて副乳癌をキーワードに検索(会議録は除く)した結果11例の追加報告を認めた[2~10]。自験例を追加し計162例の本邦報告例を集積し,日本乳癌学会2014年次登録症例[11]と比較した(表1)。平均年齢は副乳癌,通常乳癌ともに50歳台後半であり,発生部位は腋窩が137例(86.1%)と大部分を占めていた。通常乳癌と同様に腫瘍径は2cm以下のものが74例(52.1%)と多かった。皮膚所見は多くの通常乳癌では認めなかったが,副乳癌では半数以上の83例(55.6%)に皮膚所見を認めた。副乳癌の診断について光吉ら[12]は,①潜在性乳癌を含む他臓器からの転移性腫瘍を否定すること,②病巣の周囲に正常乳腺組織を認め,さらに通常乳腺組織との連続性がないこと,③組織学的にも類似した病変(脂腺・汗腺癌など)を除外できることが必要としている。自験例は消化管精査や全身CT検査,乳房MRI検査などの全身検索で他臓器癌を認めないこと,摘出した病巣周辺には正常乳腺組織を認め(図3a, b),通常乳房より十分距離の離れた位置に存在していたこと(図1),ホルモン感受性が陽性であり(図4a, b),形態的に浸潤性小葉癌を疑う(図3c)ことなどから腋窩に発生した副乳小葉癌と診断した。副乳癌に対する術式は局所広範囲切除術+腋窩リンパ節郭清術が選択されることが多かった(96例,64.0%)[13]。副乳癌が疑われる腋窩の腫瘤性病変を手術する際は確定診断のために通常乳腺組織の一部を合併切除することが望ましい[12,14,15]。また,副乳癌では多くの症例で腋窩郭清が行われていたが,半数以上の67例(51.9%)に腋窩リンパ節転移は認められなかった。本邦における報告例では副乳癌におけるセンチネルリンパ節生検(SNB)はわずか5例(3.3%)のみであった。後藤ら[10]はradioisotope(RI)とindocyanine green(ICG)を併用してSNBを施行した症例を報告している。副乳癌においても通常乳癌と同様にSNBが可能となれば多くの症例で腋窩リンパ節郭清を省略できる可能性があり,SNBの適応については今後の課題である。病理組織型は通常乳癌と同様に硬癌が最も多く(27.7%),小葉癌はまれであった(4.8%)。初期治療は通常乳癌と同様に,症例に応じて行われていた。術後放射線療法は施行されていない症例が多かった。自験例の初期治療は通常乳癌の標準治療に準じてレトロゾールによる内分泌療法を選択した。術後放射線療法は施行しなかった。予後に関して一定の見解は得られていないが,腋窩に発生した副乳癌はその存在部位より腋窩リンパ節に転移をきたしやすいため通常乳癌と比較して予後不良であることが予想される。実際,副乳癌の腋窩リンパ節への転移率(48.1%)は通常乳癌の転移率(25.2%)[11]よりもはるかに高かった。

本邦副乳癌の報告例(1996年~2015年まで)と通常乳癌
自験例は副乳癌が当初から鑑別にあがらず遅延ない低侵襲な診断・治療ができなかった反省すべき症例であった。
腋窩に発生した副乳小葉癌の1例を経験した。腋窩の腫瘤を診療する場合には副乳癌の存在も念頭に置くことが重要である。