2018 年 35 巻 1 号 p. 57-60
症例は42歳女性。静脈血栓塞栓症(VTE)の既往のないプロテインS欠損症で当院血液内科通院中。家族歴では父と弟にVTEの既往があり,長男次男ともにプロテインS欠損症であった。近医で甲状腺右葉に2.2cmの腫瘤を指摘され当院へ紹介受診。穿刺細胞診で乳頭癌の診断であった。頸部~下肢造影CT検査では肺血栓塞栓・深部静脈血栓はなく,周囲臓器への浸潤のない甲状腺癌のみを認めた。甲状腺全摘術+D2aを施行し最終診断は甲状腺右葉乳頭癌,T2,N1b,M0,Ex0,StageⅠであった。術直後より理学的療法を行い,術後5時間で未分画ヘパリン1万単位24時間持続投与を開始したが出血傾向やVTE発症もなく経過し術後第5病日目に退院となった。VTE発症最高リスク因子のプロテインS欠損症が存在する際には,VTE発症リスクと出血リスクのバランスを考慮した慎重な周術期管理が求められる。