日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
腎移植レシピエントに対する副甲状腺機能亢進症の手術適応と課題
富田 祐介中村 道郎
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2020 年 37 巻 4 号 p. 242-246

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抄録

腎移植は慢性腎臓病(CKD)に対する唯一の根治的治療法であり,生命予後を改善することは広く知られている。しかし,移植腎が機能しているにも関わらず心血管性疾患に代表される非免疫学的な合併症での死亡の増加が課題である。腎移植レシピエントは,腎機能のほぼ全てに改善がみられる一方で,糸球体濾過量はCKD stage2~4に分類され,腎移植後もなおCKDが持続する。腎移植後のCKDに伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の病態は,術前のCKD-MBDからのキャリーオーバー,遷延性副甲状腺機能亢進症,免疫抑制剤の内服の要因から特殊である。さらに腎移植を施行しても改善しない異常や新たに生じる異常が存在し,移植前から移植後への一貫したCKD-MBD管理が求められる。特に維持透析が長期に及ぶ生体腎移植の候補患者や献腎移植の待機患者に対しては,術前に積極的な治療介入と適切なタイミングでの副甲状腺摘出術を行い,腎移植を施行する前にCKD-MBDの治療を完結しておくことが重要である。

はじめに

免疫抑制剤の進歩により術後早期の急性拒絶反応は治療が可能となり,短期的な移植腎機能の予後は飛躍的に向上している。一方で,中長期的な予後を考えるうえで残された課題の一つは,移植した臓器が機能しているにも関わらず,他の原因での死亡(death with functioning graft:DWFG)が増加していることである。これには心血管性疾患に代表される非免疫学的な合併症が大きく関与している。慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(Chronic Kidney Disease-Mineral and Bone Disorders:CKD-MBD)は,検査値異常,骨病変,血管石灰化の3つを主軸として,骨折,心血管性疾患の予防,さらには生命予後の改善を目指す概念であるが,腎移植後のCKD-MBDは保存期腎不全,慢性腎不全とは異なる像を呈する。その理由は,腎移植前のCKD-MBDからのキャリーオーバー,遷延性副甲状腺機能亢進症,腎移植後の免疫抑制剤の内服,移植腎機能などの要因が複雑に影響し合う病態であると考えられているからである。また,腎移植レシピエントにおけるCKD-MBDを考慮する上で,腎移植によって改善する異常と改善しない異常,新たに生じる異常の3種が存在する[]。腎移植がCKD患者の生命予後を改善することは古くから報告されているが,レシピエントの高齢化が進んでいる近年の状況を考え合わせると,移植前から移植後にわたる継続したCKD-MBDの管理が理想的である。今回は,腎移植後の移植腎機能および生命予後のさらなる改善を目指すために必要な副甲状腺摘出術(parathyroidectomy:PTx)の適応やタイミング,課題について詳述する。

腎移植前のCKD-MBD管理

腎移植前の保存期腎不全,慢性腎不全におけるCKD-MBDの管理に関する臨床研究が最近の10年間で散見される。移植前の血清リン(P)値や血清アルカリフォスファターゼ(ALP)値が移植後の死亡率や移植腎の廃絶との関連性を示した報告や[,],術前の高PTH血症は移植後も持続し[],PTH高値群の移植後の死亡率や移植腎の廃絶率はPTH低値群と比較して有意に高い[,]とする報告が挙げられる。これらが示唆することは,移植の前段階でのCKD-MBDの管理の重要性であり,その結果がすでに移植後のDWFGや移植腎の長期成績に直結し得るということである。

腎移植を施行しても改善しないと考えられている代表的なCKD-MBDの病態として,進展した腎原性続発性副甲状腺機能亢進症(Secondary Hyperparathyroidism:SHPT)と血管石灰化が挙げられる[]。腎移植前に潜在的に合併しているSHPTが腎移植後にも遷延する場合は,遷延性副甲状腺機能亢進症(Persistent Hyperparathyroidism:perHPT)と呼ばれる病態となる。SHPTは,高カルシウム(Ca)血症および低P血症を特徴とし,移植腎の石灰化,移植腎機能障害,骨減少症,骨折,血管石灰化,心血管性疾患へと進展することが報告されている[10]。また,腎移植時の血管石灰化は術後にも徐々にではあるものの増悪し,特に腹部大動脈や骨盤内動脈の石灰化が高度であることは移植腎機能の予後や生命予後に悪影響を及ぼす可能性が示唆されている[1112]。維持透析が長期に及ぶ生体腎移植の候補患者や献腎移植の待機患者に対しては,血液検査だけでなく,副甲状腺の超音波検査や骨密度測定のスクリーニング検査を定期的に行う有用性があると考えられる。副甲状腺の腫大に伴い,組織学的にもびまん性病変から結節性過形成へと変化がみられ,一つの指標となり得るためである。びまん性から結節性所見のごく早期であれば回復が見込めるものの,結節性病変が進むにつれて不可逆性となると考えられている[13](図1)。したがって,移植腎機能の予後,腎移植後のQOLや生命予後の長期的な改善を目指すためには,腎移植前に積極的な治療介入を行い,不可逆性に変化した副甲状腺に対しては,腎移植前に根治的な外科的治療を行うことが推奨される[14]。適切なタイミングで進展したSHPTの根治的治療を行うことは,腎移植を予定している患者の血管石灰化への進展を抑制することができるため,腎移植の手術時,特に血管吻合の際には外科医にとって有利に働くこととなるであろう。

図1.

副甲状腺過形成の組織学的変化。正常組織→び漫性→結節性初期→結節性→単一結節性過形成へと進行する。結節性病変まで進展すると不可逆性と考えられている。(文献13を一部改変)

腎移植前における副甲状腺摘出術(parathyroidectomy:PTx)の適応

われわれが考える腎移植前のPTxの適応について,表1に示した。本邦では,シナカルセト塩酸塩(シナカルセト;レグパラ®),エテルカルセチド塩酸塩(エテルカルセチド;パーサビブ®),エボカルセト(オルケディア®)の計3製剤のCalcimimeticsが臨床的に使用できるものの,これらは腎移植後のレシピエントには保険適応はないのが現状である。したがって,高用量のCalcimimeticsの投与でもSHPTの管理が困難な症例は絶対的なPTxの適応と考えられる。また,血管や心臓弁に高度の石灰化を認める症例,画像診断で結節性過形成を示唆する長径が10mm以上あるいは内部や周囲の血流が豊富な腫大腺が複数個ある症例は,移植前にPTxを施行する相対的な適応であると考えている。さらに,血液検査所見が比較的良好であってもCalcimimeticsを中等量以上服用している腎移植の待機患者は,画像診断や血管石灰化,骨密度の低下を指標に加え,腎移植を将来に見据えPTxを検討することが望ましい。特に献腎移植の待機透析年数は依然として15年以上と長いため,この待機中にSHPTを合併している頻度は高いことが予想される。また,日本透析医学会のデータ解析の結果[15],PTxの既往歴のある維持透析患者の生命予後は良好なことが示されていることも腎移植前にPTxを推奨する一つの根拠と言えるのではないだろうか。

表1.

腎移植前PTxの適応

腎移植後のCKD-MBD管理

腎移植前のCKD-MBDの管理の重要性については前述したとおりであるが,腎移植後のCKD-MBDの管理を継続して適切に行うことは,移植腎機能の安定化および生命予後の改善に繋がると考えられる。日本透析医学会からのCKD-MBDガイドラインでは,腎移植後2カ月までの急性期には血清Ca値やP値,PTH値をモニタリングをすること,腎移植後1年以内の骨塩量減少に対しては定期的な骨密度の測定をすることが推奨されている。さらに,腎移植後1年以上の慢性期においては保存期腎不全と同様に管理を行い,遷延する高Ca血症(補正の血清Ca値>10.5mg/dL),高PTH血症に対しては治療介入を検討することが望ましいとされている。

腎移植後に生じ得る代表的なCKD-MBDの病態としては免疫抑制剤の投与に伴う薬剤性骨粗鬆症とperHPTである。現状の免疫抑制プロトコールでは,ステロイドやカルシニューリンインヒビター(シクロスポリン®,サンディミュン®,タクロリムス®,グラセプター®)に代表される免疫抑制剤を長期にわたり内服することが少なくないため,腎移植レシピエントは骨折の危険性が高くなる。特に原疾患が腎炎の場合には,すでにステロイドを内服している患者も多く,腎移植を施行する以前から骨塩量の低下を認めていることがある。したがって,腎移植直後からの定期的なモニタリングが必須であり,糸球体濾過量(GFR)が30mL/min/1.73m2以上の低骨密度を認めるレシピエントに対してはビタミンD製剤やビスホスホネート製剤の投与が望ましい[16]。透析導入前に施行する先行的腎移植の患者や透析歴の短い腎移植の待機患者では,副甲状腺が腫大しSHPTが高度に進展していることは少ないと考えられ,腎移植後の移植腎機能の改善とともに軽快することが知られている[17]。一方で,特に中等度から高度のSHPTを有するレシピエントで高Ca血症,高PTH血症が遷延し,いわゆるperHPTとなるものが存在する。このperHPTは,腎移植後の副甲状腺が縮小しても組織学的に結節性過形成へと進展した副甲状腺が残存することが原因で呈すると考えられ[18](表1),移植時の高PTH血症や高Ca血症,高P血症,長期間透析が危険因子として挙げられている[17]。これらの危険因子を有する腎移植の待機患者に対して,SHPTの段階で腎移植前に根治的なPTxを検討することは,議論の余地はないと思われる。進行したperHPTを併発した腎移植後のレシピエントに対する治療方法は,Calcimimeticsの投与とPTxであり腎移植前と変わらない。腎移植後の高Ca血症を合併する高PTH血症のレシピエントに対して,シナカルセト塩酸塩の有効性や安全性はいくつか報告されているものの[1923],日本では腎移植後のCalcimimeticsの保険適応は認められておらず,適応や投与期間については定められていないのが現状である。

腎移植後におけるPTxの適応

腎移植後におけるPTxは,最適な手術のタイミングが不明な点や定型の術式がない点,術後の低Ca血症をきたす点において解決すべき懸念点が多いことが述べられている[24]。そこで,われわれが考える腎移植後のPTxの適応について,表2に示した。前述のとおり,術前に適切な評価を行い,必要な症例に対して治療介入を行えば,腎移植後の急性期にPTxの必要性に迫られる症例は稀であると考えられる。また,腎移植後の慢性期では,径が小さくても結節性過形成まで進行した副甲状腺があり,大きさが基準とはならないことは慢性腎不全期とは異なる点である[18]。これらを考え合わせると,尿路結石や腎臓の石灰化,移植腎機能の悪化や症状を伴う高Ca血症性(補正の血清Ca値>11.0mg/dL)のperHPTを呈した場合には,急性期であっても時期に関係なくPTxの適応と考えている。しかし,PTx後に移植腎機能が低下したという報告[25]や腎移植後1年以内にPTxを施行した症例の5年後のeGFRは腎移植前にPTxを施行した症例に比べ有意に低かったとする報告[26]があり,外科的根治術のタイミングについては慎重に検討しなければならない。一方で,近年,移植後1年以降にPTxを施行することで,移植前にPTxを施行した症例と比較しても5~7年後のeGFRに影響を与えないとする結果が示されており,興味深い[2728]。加えて,腫大した副甲状腺を認め,移植後1年以上にわたり遷延する高PTH血症および高Ca血症(補正の血清Ca値>11.0mg/dL)を呈するレシピエントも待機的なPTxの適応と考えている。

表2.

腎移植後PTxの適応

腎移植後にPTxを施行する場合には,持続性の低Ca血症を合併することがあり注意が必要である。腎移植後のPTxの術式に関する臨床研究では,亜全摘術と比較して全摘および自家移植術は,血清PTH値やCa値を低下させる効果は同等であるものの,副甲状腺機能低下症が高率で認められたとする報告もあるが[29],日本では特有の透析および腎移植の事情を鑑み,SHPTの術式に準じ,全摘および自家移植術を行う施設が多い。全摘術のみで自家移植を行わない術式は,腎移植後のPTxには適当ではない。腎移植後のPTxの29症例を報告した山本らの研究をみても,PTx術1年後の移植腎機能は術前と変化なく良好に保たれ,全摘および自家移植術による治療の妥当性が示されている[30]。

おわりに

腎移植レシピエントに対する副甲状腺機能亢進症の手術適応と課題について詳述した。移植腎機能の長期予後および移植後の生命予後のさらなる改善のためには,移植前から移植後への一貫したCKD-MBDの厳重な管理が求められる。Calcimimeticsを投与中で,かつ維持透析が長期に及ぶ生体腎移植の候補患者や献腎移植の待機患者に対して,モニタリングを欠かすことなく,腎移植前に積極的な治療介入を行うことが必要である。さらに,進展したSHPTに対しては,適切なタイミングで確実なPTxを行うことが重要であり,術前にCKD-MBDの治療を完結しておくことが望ましい。一方で,腎移植後PTxの重要アウトカムについての研究は今後の課題として残るが,急性の高Ca血症をきたしていないレシピエントに対しては,腎機能が安定した移植後1年以降のPTxを考慮すべきであろう。

【文 献】
 

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