日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
片側性アルドステロン産生腺腫の診断に必要な副腎静脈サンプリングを補完する新しい方法の開発
西本 紘嗣郎関 次男馬越 洋宜成瀬 光栄JRAS Study Group
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2020 年 37 巻 4 号 p. 248-256

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抄録

原発性アルドステロン症(PA)は主にアルドステロン産生腺腫(APA)と特発性アルドステロン症に分類される。われわれは,アルドステロン合成酵素(CYP11B2)とコルチゾールの合成酵素(CYP11B1,CYP11B2とアミノ酸配列が93%同一)を区別して特異的に検出できる免疫組織化学染色法に初めて成功した。その結果,APAと非機能腺腫との病理学的鑑別が可能となった。さらにアルドステロン産生細胞クラスター(APCCと新規命名)などの新たなPA病変が判明してきた。最近われわれは,最大PA病変が5mm未満の患者は,それが5mm以上の患者と比較して,術後の治癒率が有意に低いことを報告した。さらに,ロジスティック回帰分析により最大PA病変が5mm未満の患者を予測する計算式も作製した。コンピュータ断層撮影(CT)が副腎腺腫を検出するが最大PA病変が5mm未満の可能性が高い症例は,CTが非機能腺腫を検出している可能性が高いことを利用し,副腎静脈サンプリングを補完する新しい方法を開発した。ここではこれらの研究成果について概説する。

はじめに

原発性アルドステロン症は主にアルドステロン産生腺腫と特発性アルドステロン症に分類される。前者は腹腔鏡下副腎摘除術により根治する一方,後者の患者には生涯にわたりミネラルコルチコイド受容体(MR)阻害薬が投与される。われわれは,アルドステロン合成酵素(CYP11B2)とコルチゾールの合成酵素(CYP11B1,CYP11B2とアミノ酸配列が93%同一)を区別して特異的に検出できる免疫組織化学染色法に初めて成功した[]。その結果,アルドステロン産生腺腫(APA)と非機能腺腫とをCYP11B2陽性細胞の有無により病理学的に鑑別することが可能となった。さらに,本染色法は,正常成人副腎やAPAの付随正常副腎に高頻度にアルドステロン産生細胞クラスター(APCCと新規命名)が検出されることを明らかにした[]。近年APAにpotassium inwardly rectifying channel subfamily J member 5(KCNJ5,カリウムチャネル),ATPase Na+/K+ transporting subunit alpha 1(ATP1A1,N+/K+ポンプ),ATPase plasma membrane Ca2+ transporting 3(ATP2B3,Ca2+ポンプ),calcium voltage-gated channel subunit alpha1D(CACNA1D,Ca2+チャネルのalphaサブユニット)などのイオンチャネル・ポンプ遺伝子の体細胞変異が報告された[]。これらの変異はAPAの細胞における脱分極や細胞内カルシウム濃度上昇を介したアルドステロン自律産生に関与すると推定されている。APCCや,APCCからAPAへの移行を示唆する病変(possible APCC to APA transitional lesions [pAATL]と仮称)にはこれらの遺伝子変異が検出されることから,APCCはPA病変やAPAの発生母地となり得ると考えられる[]。質量分析イメージング(MALDI imaging)による解析では,APCCには高濃度のアルドステロンが検出されることはこの仮説を支持する[13]。最近,日本医療研究開発機構研究費難治性疾患実用化研究事業「難治性副腎疾患の診療に直結するエビデンス創出」の分担研究として,片側性PAの診断で副腎摘除を施行した219例のCYP11B2染色による病理組織の統計学的解析を行った[14]。本稿では,この研究により明らかになった成果を紹介する。

PA病変のカタログ作成

219例の副腎組織にCYP11B2染色およびヘマトキシリン・エオジン染色を行ったところ,多様なPA病変が描出された(図1,219例のデジタル化された染色像は“https://humandbs.biosciencedbc.jp/en/hum0185-v1-st1”からダウンロード可能である)。当初,これらの病変をAPAやAPCCなどに分類することを試みたが,これらは互いに中間的なものが見受けられ,分類が困難な病変も多かった。全体の観察で,最大病変が大きい症例(いわゆるAPA)は単発性である傾向を認めたが(図1A-D),最大病変が小さい症例(すなわちAPCCs[図1E-Hの黄矢頭],pAATLs[図1G-Hの**]あるいは小APA[図1G-Hの*])は病変が多発性であった。すなわち,多発性の病変は,残存副腎にも同様に多発性病変が存在する可能性が高いことから,術後予後は不良(術後にPAが改善しない)となる可能性が考えられた。

図1.

Representative images of aldosterone-producing lesions.

A-B, C-D, E-F, and G-H are representative images of Cases 148 (sup #4), 149 (#5), 214 (#58), and 1 (#39), respectively. A, C, E, and G: Immunohistochemistry for CYP11B2. B, D, F, and H: Hematoxylin & eosin staining of serial sections of A, C, E, and G, respectively. *(asterisk), yellow arrowheads, and **(double-asterisk) indicate aldosterone-producing adenoma (APA), aldosterone-producing cell clusters (APCC), and possible APCC-to-APA transitional lesions, respectively. T: A non-functional tumor (incidentaloma). This figure is reproduced from Nishimoto et al [14] with permission (Japanese translation: Nishimoto et al [14]より許可を得て転載).

病変の大きさと術後予後

この仮説を検証するために,最大病変の大きさと術後予後との関連性を統計学的に検討した。最大病変の大きさを2mm,3mm,4mm,5mm,6mmを閾値として大病変を持つ症例群(large PA-lesion group:L-PAL群)と小病変しか持たない症例群(small PA-lesion group:S-PAL群)に分類し,それぞれの閾値における術後予後を比較した(表1,Nishimoto et al. より引用[14])。興味深いことに,5mmを閾値とした場合のみでL-PAL群は有意に治癒(complete success)となる率が高かった。一方,すべての閾値において,S-PAL群は有意に「治癒せず」(absent success)となる率が高かった。以上より,5mm以上の病変を持つ症例をL-PAL群,5mm未満の病変しか持たない症例をS-PAL群とすることは,良好なあるいは不良な予後の両者に関連するため,病理診断として重要であると考えられた。

表1.

Biochemical outcomes between small and large PA lesion groups with different cut-offs for the maximum lesion size in pathology

S-PAL群の予測

予後データを持つS-PAL群とL-PAL群の術前因子の比較では(test cohort,n=114),L-PAL群はS-PAL群と比較して,降圧剤の強度(Intensity of antihypertensives)が有意に強く,血清カリウム値が低く(serum K level),血漿アルドステロン濃度(plasma aldosterone concentration:PAC)が高かった(表2)。これらはL-PAL群が重度のPAであったことを示唆する。これらの3因子を用いたロジスティック回帰分析では,serum K levelとPACがS-PAL群の独立した予測因子であった(表3)。予後データを持たないコホート(validation cohort)による同様の解析では,serum K levelが独立した予測因子であった。

表2.

Comparison of clinical data between small and large PA lesion groups (test cohort)

表3.

Logistic regression analyses to predict cases in the small PA lesion group

さらにS-PALの予測を,上述のtest cohortとvalidation cohortを併せたtotal cohort(n=219)で行った(表4,ここからは国際特許出願[PCT/JP2020/018537]の内容)。この解析では,(1)CTによる腫瘍径がL-PAL群で有意に長く,(2)S-PALで有意に男性が多く,(3)降圧剤の強度は有意にL-PAL群で高く,lateralized ratioは有意にL-PAL群で高く,(4)serum K levelはL-PAL群で有意に低く,(5-6)PACとアルドステロン・レニン比(ARR)は有意にL-PAL群で高かった。副腎静脈サンプリング前の因子からS-PALの予測式を算出するために,lateralized ratioを除く上述の6因子(副腎静脈サンプリング前の因子)を用いてロジスティック回帰分析を行った(表5)。その結果,上述のtest cohortでの解析と同様,PACとserum K levelが独立した予測因子であった。この結果より,S-PAL群となる確率を予測する計算式を作製した(図2A-B)。

表4.

Comparison of clinical data between small and large PA-lesion groups

表5.

Logistic regression analyses to predict cases in the small PA-lesion group

図2.

Prediction model for pathological small lesions.

A: Logistic curves predicting small pathological lesions. Probability of a small PA-lesion group (y axis) is predicted by serum potassium levels by plotting the corresponding curve of PAC. Probabilities of 4.3, 15.5, and 31.8% are indicated by a blue line, which are the 25th, 50th, and 75th percentile probabilities, respectively, of the present study cohort. Logistic curves under the 4.3% probability line are enlarged in panel B.

L-PALを検出するCTの感度と特異度

5mm以上のL-PALはCTで検出される可能性が高いと考えられる。CTによる腫瘍径の閾値を2mmから10mmまでの1mm間隔で区切り,それぞれの閾値におけるL-PALの検出感度と特異度を検討した(図3)。その際,CTによる腫瘍径が閾値より低い値の場合,その値は閾値の半分の値として統計解析を行った。例えば,4mmと読影された腫瘍径の場合,2mmの閾値の場合には4mm,5mmの閾値の場合には2.5mm,10mmの閾値の場合には5mmとした。受診者操作特性(receiver operating characteristic:ROC)曲線下の面積(area under the curve:AUC)は閾値が3~5mm(AUC-0.691)で最も大きかった。CTによる腫瘍径の閾値は5mmでL-PALの予測に最もよい閾値のひとつであることが判明した。

図3.

Receiver operating characteristic curve of different CT cut-offs for predicting large lesions.

Receiver operating characteristic curves, which were plotted based on the sensitivity of predicting large aldosterone-producing lesion(s) on CT with different cut-offs (3mm-10mm). Numbers within parentheses indicate the size of the area under the ROC curve.

非機能腺腫除外により片側性APAと判定する方法

CTによる腫瘍径が大きいにも関わらず,S-PALの可能性が高い(病理学的病変の大きさが5mmより小さい)場合には,CTで検出している腫瘍はAPAではなく非機能腺腫である可能性が高くなる。この検証を目的として,S-PALの確率とCTによる腫瘍径との関連性を図4に示すtable groupingにより検討した。CTによる腫瘍径の25パーセンタイル値,中央値,および75パーセンタイル値はそれぞれ9mm,13.5mm,および17mmであった。これらを,L-PAL検出に最適な閾値5mm(上述)とともにCTによる腫瘍径のグループ分けに使用した(図4の横軸)。S-PALの確率の25パーセンタイル値,中央値,および75パーセンタイル値はそれぞれ4.2%,15.4%および31.8%であり,これらの値もグループ分けに使用した(図4の縦軸)。CT上両側副腎に腫瘍が検出される場合,あるいは両側に腫瘍が検出されない場合は副腎静脈サンプリングが必要である。CT上の腫瘍径が5mm未満の場合(図4のgroup A,F,K,P:赤色にグループに再分類)もその腫瘍は病理学的なL-PALを検出しないので副腎静脈サンプリングが必要である。残りのグループにおいて,病理学的にS-PAL群と確認された率は,グループB-E(1/51=1.9%)とグループG-J(2/50=4%)との間で有意差は認められなかった(p=.61,the Fisherʼs exact test)。同様に病理学的にS-PAL群と確認された率は,グループG-JとグループL-O(5/42=11.9%)との間でも有意差を認めなかった(p=.24)。しかしながら,グループQ-Tで病理学的にS-PAL群と確認された率は(15/36=41.7%)有意にグループL-Oでのそれらと比較し高かった(p=.004)。グループB-E,G-JおよびL-OにおいてS-PAL群に分類された8症例は全例が治癒あるいは部分治癒(partial success)と判定された一方,グループQ-Tの患者は高率に「治癒せず」となった(7/9=77.8%)。なお,症例5,127および141はグループHであったが,「治癒せず」と判定された。これらの症例は,副腎静脈サンプリングによるlateralized ratioがそれぞれ4.84,5.19および9.70であり,病理学的にも明らかなAPAを認め(図5),術後の血清K値やPACも改善していたことから,非典型と言わざるを得ない。以上より,グループB-E,グループG-JおよびグループL-Oに分類される症例では,CT上検出された腫瘍はL-PALと診断して問題ないと考えられる。しかし,赤グループとの境界のグループ(すなわちグループB,G,L,M,N,O,紫に再グループ)はデータの誤差(たとえばPACやCT読影による誤差)などを考慮し,その診断には慎重になるべきであると考える。以上より,グループC,D,E,H,I,Jを青グループ,グループB,G,L,M,N,Oを紫グループ,グループA,F,K,P,Q,R,S,Tを赤グループとし,それぞれのグループは「CT上の腫瘍が片側性である場合その腫瘍はAPAとしてよい」,「同じくAPAとしてよいが測定誤差を考慮して慎重に判断するべき」,「CT上の腫瘍が片側性であったとしても非機能腺腫である可能性が高いため必ず副腎静脈サンプリングが必要である」と評価できると考えられる。

図4.

Grouping of PA cases based on probability of small PA-lesion group and tumor size on CT.

A: Cases are grouped by the percentile values of probability of small PA-lesion group (y axis, see blue lines in 図3) and CT size (9.0mm [25th percentile], 13.5mm [50th percentile], and 17.0mm [75th percentile] ; x axis). For example, cases with a tumor size on CT of larger than 9.0mm (25th percentile) and less than 13.5mm (50th percentile) as well as those with a probability of small lesions larger than 4.3% and less than 15.5% were classified into Group F. The Red Group require AVS. Whereas, cases in the Blue Group may proceed to adrenalectomy even they failed or are unfit for AVS.

図5.

CYP11B2-immunohistochemistry for Cases 5, 127 and 141.

この方法は副腎静脈サンプリングを補完するのに有用と考えられるため,上記グループを自動で判定するソフトウェア(Uni-APA Predictorと命名)を開発した。現在,この方法の精度を確認するための前向き研究を行っている(UMIN000036170)。

おわりに

CYP11B2を検出する免疫組織化学染色法の確立により,PA病変が視覚化され,病変検出とCT画像の対応が可能となって本研究成果が得られた。今後,Uni-APA Predictorが副腎静脈サンプリングを補完する方法として広く使用され,PAの質が向上することが望まれる。

利益相反

西本紘嗣郎は上述の国際特許出願(PCT/JP2020/018537)の発明者である。

【文 献】
 

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