2022 年 39 巻 3 号 p. 177
甲状腺分化癌(乳頭癌および濾胞癌)は,総じて予後のよい疾患であることは周知の事実です。しかし中には進行性で,予後不良となる症例もあります。治療する側としては,一部の危険な症例をしっかりと把握し,適切な治療やマネージメントを行わなくてはなりません。まず,第一に初期治療,すなわち手術の際に各々の症例が再発あるいは癌死するリスクがどのくらいかを見極めなくてはなりません。再発のリスクが少ない症例に甲状腺全摘や放射性ヨウ素治療を行うのは,あきらかに行きすぎた治療であり,患者のQuality of lifeを著しく損なうことになります。しかし逆に,進行再発のリスクが高い症例に手控えた手術をしてしまうと,再発後の治療に難渋してしまいます。どの程度のリスクのある症例に,どういう手術が妥当かということを担当医は常に考えておかなくてはなりません。
術後の病理診断も非常に大切です。乳頭癌の中には,高細胞型やホブネイル型などの予後不良な組織型があります。そういったものを見逃すべきではありません。また,濾胞癌は病理診断が非常に大事です。癌細胞が血管に浸潤していれば一般に予後不良である反面,微少な被膜浸潤だけの濾胞癌は,逆に非常に予後が良好です。こういったことをきちんと組織学的に評価し,予後不良と考えられる症例に対しては補完全摘を施行し,放射性ヨウ素治療まで行う必要があります。
また,近年様々な遺伝子変異による,分子生物学的な予後因子が注目されてきています。我が国では,まだ広く受け入れられているとまではいえませんが,有力な予後因子たりうる遺伝子変異が複数発見されています。
さらに術後の経過観察中には,サイログロブリン値や再発腫瘍のサイズの変化にも留意しなくてはなりません。前者がどんどん上昇するようならば転移が起きたと考えて全身検索を行い,転移巣が発見されれば然るべき治療を行うべきです。また転移巣がどんどん大きくなっていく場合は,放射性ヨウ素治療に抵抗性であればどこかの段階でチロシンキナーゼ阻害剤の投与を考慮することになります。
今回の特集は上記の四点について,その道のエキスパートの先生方に執筆をお願いいたしました。今回の内容が臨床諸家の先生にとって,お役に立つことを願って止みません。