地下水の利用が本格化した地下ダム流域における地下水質分布の特徴を明らかにするため,1994年に締切が完了し2001年に竣工した沖縄県宮古島砂川地下ダム流域の39箇所の地下水観測孔において,渇水期の2009年および豊水期の2012年に,地下水中の硝酸性窒素濃度等を測定するとともに,渇水期に窒素安定同位体比,豊水期に不活性ガスの六フッ化硫黄(SF6)を測定した。渇水期の硝酸性窒素濃度は豊水期より高く,その理由は希釈を伴う短期的な雨水の地下浸透が少なかったためと考えられた。流域内の硝酸性窒素濃度分布は地表の窒素負荷量の分布と整合的であり,帯水層内の混合は小さいと考えられた。窒素安定同位体比は既往の研究で報告された値より小さく,堆肥化施設の運用で負荷源の中で畜産廃棄物の占める割合が小さくなった可能性が示唆された。SF6による年代測定からは,流域内にかん養後1年程度以内の地下水が存在している領域と,かん養後5年以上経過した地下水が存在している領域が存在することが明らかになった。流域内の地下水は,揚水による速い循環に寄与している領域と,移動速度が小さい領域が存在すると考えられ,流域内の硝酸性窒素モニタリング箇所の選定にはこれらを考慮する必要がある。