岐阜,四日市,名古屋の3 サイトにおいて,オープンループ方式地中熱利用システムの還元井の流量と水位のモニタリングデータから,目詰まりの要因を推定した。最大流量Qmax(m3/s)における自然水位からの水位上昇量の変化量Δhmax(m),累積還元量V(m3),スクリーン表面積S(m2)のとき,(Δhmax/Qmax)/(V/S)は帯水層の透水係数が小さい,あるいは還元井内における井水の酸化が進むほど大きくなる。また,流量Q と水位上昇量h の関係より,夏季に井戸係数C,冬季に地層係数B が増加することから,還元温度が高い夏には鉄酸化細菌の活動が活発となり井戸近傍で,低い冬には不活発となり井戸から離れた帯水層内で目詰まりが生じると推定される。
地中熱利用ヒートポンプシステムは再生可能エネルギー熱の一種であり,二酸化炭素排出量削減には有効なシステムである。本システムは,空調で用いられることが多いが,建築物の二酸化炭素排出量削減には,空調だけでなく給湯にも利用されることが望ましい。そこで,株式会社ワイビーエムと昭和鉄工株式会社は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」事業に採択され,「給湯負荷のある施設への導入を想定した地中熱利用ヒートポンプシステムの研究開発」を2019年度から2023年度まで実施し,掘削機の開発,地中熱CO2ヒートポンプ給湯機の開発,地中熱交換器の開発,TRTの開発,最適な地中熱システムの開発を行った。佐賀,東京,札幌の2000m2の老人福祉施設の空調負荷,給湯負荷を推定し,佐賀,東京では空調負荷単独より,空調負荷,給湯負荷を合わせた負荷の方が,地下からの吸熱,地下への放熱のバランスが良く,地中熱交換器の削減の可能性があると考えられた。
利尻島は北海道に位置する火山島であり,日本の最大級の海底湧水が分布することで知られる。 著者らは利尻島の海底湧水と陸域湧水の滞留時間を見積もるために,3種類の年代トレーサー(3H, CFCs, SF6)を適用した。全ての湧水は天然レベル以上の3H を含んでおり,利尻島の表層系地下水が主に大気内核実験開始以降の降水によって涵養されていることを示した。CFCs とSF6の濃度は陸域湧水と北東部の海底湧水で相対的に高く,南西部の海底湧水で低い値を示した。3H・CFCs・SF6のTracerplot の結果,利尻島の表層系地下水の流動様式は指数関数モデル(EMM)とピストン流モデル(PFM)の2種類の流動モデルで近似可能であった。陸域湧水と北東部の海底湧水は涵養年代の異なる地下水の混合によって形成されており,EMM に基づく平均通過時間は約10~45年となった。 南西部の大規模な海底湧水は,埋積谷の底部をピストン流的に流れる地下水によって形成されてい る可能性があり,通過時間は約40年と見積もられた。湧水の滞留時間は涵養標高と正の相関があり, 地下水流動系の規模は,陸域湧水よりも海底湧水の方が大きくなることが示唆された。