Journal of Human and Environmental Symbiosis
Online ISSN : 2434-902X
Print ISSN : 1346-3489
Introducing Local Energy Management Initiatives to Achieve Decarbonized Town Development
Yujiro HIRANOTomoki EHARATsuyoshi YOSHIOKA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 40 Issue 2 Pages 162-171

Details
Translated Abstract

Abstract: In recent years, various circumstances regarding energy are changing to realize a decarbonized society. Reducing CO2 emissions nationwide has long been an important issue in mitigating global warming. In response to this, energy management that takes into account a more detailed supply-demand balance has become important in recent years. In addition, the role that local communities must play in climate change countermeasures has increased, and the issues have become more diverse. This paper summarizes the issues surrounding these recent changes in the situation, and introduces the efforts of the towns of Nose and Toyono as advanced cases of energy management on a local scale.

1.はじめに

 地球規模の気候変動の影響が顕在化し,脱炭素社会の実現が急務である.とくに日本の温室効果ガス排出は化石燃料起源のCO2排出が大半を占めているため,その削減に向けたエネルギー利用の効率化がますます重要課題となっている.こうした中で,近年はエネルギーに関する種々の状況が変わりつつある.従前から地球温暖化対策のために国全体のマクロなCO2排出を削減することが重要課題であったことは言うまでもないが,近年はより詳細なエネルギーの需給バランスを踏まえたエネルギーマネジメント(以下,エネマネ)

が重要となってきた.また,気候変動対策に対して地域が果たすべき役割が増えており,問題が多様化してきた.本稿はこうした近年の状況変化について俯瞰的に問題を整理した上で,地域スケールでエネマネを実践している先進事例として能勢町・豊能町の事例を紹介する.

2.地域スケールの課題と近年の状況変化

2-1 人口減少社会における地域づくり

 近年の状況変化の背景の一つとして,日本の人口が減少に転じたことが挙げられる.人口が増加していた時期は都市を中心に居住域が拡大したが,減少に転じた場合は居住域が分散したまま全体的な密度が低下する.このために地域の人口密度が極端に低下すると,生活の利便性が損なわれるだけでなく,一人あたりCO2排出量が増加することが問題視されている.

このため,コンパクトシティ政策などが提案され,集住化の拠点を創出することが有益な解決策であると言われている.こうした高密度化した空間配置の計画により生活の利便性だけでなく,交通の効率化や集合住宅化による空調エネルギーの削減,エネルギー供給の効率化などのCO2排出削減の効果も期待できる.

 しかしながら,既に広がっている実際の居住域を空間的に再配置することは容易ではない.こうした中で,第五次環境基本計画において「地域循環共生圏」という概念が提唱された(図1)1).これは,地域が自立・分散型の社会の形成を目指し,各種の地域資源を地域内あるいは連携する地域間で循環させる地域づくりを行うものである.こうした構想の中で,地域資源として地域の再生可能エネルギー(以下,再エネ)を用いたエネルギー地産地消の実現は重要なターゲットの一つとなっている.

2-2 東日本大震災以降の状況変化

 日本では東日本大震災もエネルギーを取り巻く状況に大きく影響し,とくに再エネ利活用を促進する要因となった.

 その理由の一つ目は,災害時の非常用電源として,再エネや分散型電源の重要性が認識されたことである.地震の発生直後には電力やガスの供給網が分断され,被害がそれほど大きくない地域でも広域に渡ってエネルギー供給が停止したケースが多々あった.迅速な避難や人命救助などの緊急対応が必要となる発災直後にエネルギーが利用できないことは大きな問題となった.こうしたことから,これまでの大規模な系統電力や都市ガスのエネルギー供給網の脆弱性が示され,地域の再エネを利用するシステムの有効性が再認識された.

 二つ目の理由として,福島第一原子力発電所の事故が国民の意識改革につながったことが挙げられる.原子力発電所の事故に伴い,電力ピーク負荷対策として輪番停電や電力使用制限が実施されたことや,多くの国民が復興支援に関する社会的動向の一環として節電に協力したことは,多くの国民がエネルギー供給の問題に関心を持つ要因となった.また,放射性物質汚染により大きな社会・経済的影響が生じたことから,多くの国民が原子力発電に反対した状況も,再エネ導入拡大を促進する要因となったと考えている.

 三つ目の理由として,大規模な津波被害や原子力発電所事故による長期の避難指示により,地域の居住・生活環境をゼロから構築する復興まちづくりが必要になったことを指摘したい.また,東日本大震災は関東大震災や阪神・淡路大震災とは異なり,人口減少社会における巨大災害であるという点も重要な観点である.人口が増加している状況では,スプロール化した市街地において区画整理を行うなど,さらなる市街化を進める方向で復興まちづくりが行われていた.一方,東日本大震災では過疎化や高齢化が進行していた地域であったことに加え,震災による若年層を中心とした人口の流出が生じ,さらなる人口減少と高齢化が進んだ.このため被災前の状況に戻すだけの復興まちづくりでは,過疎化が進み生活環境がさらに悪化することは自明である.もちろん,広域の被災地の全域において市街化を進めることも現実的ではない.こうした中で,多くの被災自治体がその復興プロセスにおいて,居住や商業活動の拠点を創出し,コンパクト化した復興まちづくりを進めることになった.こうした経緯から,地域の復興まちづくりの一環として被災地においてエネルギー地産地消により地域内のエネルギー需給効率化や防災レジリエンスの向上を実現した事例が数多くあった(例えば東松島市2),新地町3),葛尾村4)など).

 このように,東日本大震災は被災地のみならず社会全体のエネルギーに関する様々な状況変化のきっかけとなった.また,国全体の人口が減少している現状では,今後発生する災害復興においても共通することが多いと考えられる.

2-3 国際的な取り組みの動向

 温室効果ガス排出削減に向けた国際的な枠組みとして2015年にパリ協定5)が採択され,世界全体がカーボンニュートラルを目指す方向に大きく舵を切った.2021年のグラスゴー気候協定6)では,197か国が2015年のパリ協定の1.5度目標を達成することに合意した.パリ協定以前には1997年に採択された京都議定書があったが,この当時の日本の温室効果ガス削減目標は2008~2012年度において1990年比で6%削減であった.これに対して,パリ協定では日本は当初から2050年までに80%削減という目標を掲げており,現在はカーボンニュートラル実現を目標としている.このように,長期的な大幅削減の目標が設定される中で,対策も従来の延長線上にはない.例えば京都議定書の対応では国民に向けた省エネルギー行動の励行が重要な位置を占めていたが,より大幅なカーボンニュートラル実現という目標に対して省エネルギー行動による削減は限界がある.このため,もちろん省エネルギーのための努力は今後も最大限に必要であるが,より抜本的な対策として再エネの重要性がますます高まることになった.さらに,再エネは導入量が増えると必要な検討課題も変化する.主要な再エネである太陽光発電と風力発電はいずれも天候等の影響を受ける不安定電源であるから,導入量が少なく火力発電によるバックアップを前提にできる状況であれば導入量に応じたCO2削減効果を期待できるが,導入量が増えれば需給バランスを踏まえた検討が必要である.こうした中で,再エネ導入拡大に伴い,需給バランス調整を実現するエネマネが重要課題となってきた.

2-4 エネルギーに関する制度面の変革

 国内の制度にも様々な変化があった.再エネの固定価格買取制度(Feed-in Tariff; FIT)では,2009年に太陽光発電の余剰電力の買取を開始し,2012年には全量買取制が開始された.この結果,メガソーラーや大型の風力発電などの大規模な再エネ導入が進んだ.さらに,当初導入された設備が徐々に買取期間満了(卒FIT)となっており,導入済みの発電設備による電力については,今後は地域外への売電だけでなく,自家消費や地域内のエネルギー事業者などによる有効利用が増えることが予想される.これと併せて2022年度にはFIT制度からFIP制度(Feed-in Premium)への段階的な移行が始まり,発電事業者にも需給バランスを踏まえたエネマネが求められる状況となった.

 また,2003年に日本卸電力取引所(JEPX)が開設,2016年には低圧電力の小売自由化が開始され,小売電気事業者が電力市場に参入した.その中で,自治体や地域企業が地域内に電力を供給する地域新電力会社を設立した事例も増えている.住民が地域新電力会社から電力を購入すれば,地域外からの電力購入は抑制され,地域内での経済活性化に繋がる.さらに地域資源として再エネを導入すれば,非常用電源として活用できるため地域の災害レジリエンスの向上に貢献する.こうした中で,地域のエネルギー地産地消を実現する地域エネマネがますます重要となってきた.

2-5 再エネ導入を促進する地域エネマネ

 これまでに見てきた通り,近年のエネルギーに関する様々な状況変化により再エネ導入の重要性がますます高まってきた.また,前述した通り,エネルギーを地産地消することは,地球規模の気候変動対策としての意義ばかりでなく,地域経済活性化や災害レジリエンス向上といった地域住民にとっての明確なメリット

に結び付くため,導入促進の原動力になる.そこで,地域新電力会社などの地域密着型の事業主体が中心となり,エネルギー地産地消の実現を目指した供給事業を担うことが,現実的な導入促進の重要な鍵となる.

 ただし,前述した通り,主要な再エネである太陽光発電や風力発電は気象条件などで発電量が変動するため,つねに安定して供給できるわけではない.また,エネルギー需要も生活者の生活行動によって変動するため,つねに需供バランスを調整する必要がある.このため,例えば電力のひっ迫時に優先的に省エネルギーやピークシフトを行うデマンドレスポンスの技術や,電気自動車なども含めた蓄電池の利用,電力余剰時の水素製造によるエネルギー貯蔵などの方策を結び付けて,効率的なエネマネを行う技術が必要となる(図2).

このように,エネマネにより再エネ利活用のポテンシャルを広げることが最も基本的なエネマネによる脱炭素化のメカニズムである.現状の設備のままではエネマネだけで脱炭素化するポテンシャルは大きくないが,エネマネにより再エネ利活用を最適化することや,それにより再エネ導入ポテンシャルを拡大することにより大幅な脱炭素化が期待できる.

3.能勢町・豊能町における事例紹介

3-1 能勢・豊能まちづくりの取り組み

 エネマネの導入事例のひとつとして,ここでは大阪府における能勢町・豊能町における事例を紹介する.能勢町・豊能町は大阪府の北部に位置する人口1万人(能勢町)から2万人(豊能町)程度の町である(図3).

 環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山」に多く選出されており,民間企業が実施した生物多様性に優れた自治体ランキングの生態系の豊かさと便益を評価する指標群では全国1位(能勢町),21位(豊能町)に選ばれるなど,田園風景が広がる自然豊かな地域である.

 一方,両町ともに人口減少・少子高齢化の進行が深刻な地域である.国立社会保障・人口問題研究所の予測に基づくと,2020年から2045年までの25年間で,総人口はそれぞれ57%(能勢町),55%(豊能町)減少すると推計されており,人口減少・高齢化に起因する様々な地域の持続可能性課題に直面している.

 両町では,こうした地域の課題に対応する施策のひとつとして,地域の民間企業と共同で2020年から地域新電力会社,「株式会社能勢・豊能まちづくり」(以下,「同社」と称す)を設立・運営し,地域の脱炭素化,地域内経済循環,ひいては事業利益を活用したまちづくりに精力的に取り組んできた.

3-2 地域新電力にとってのエネマネ

 同社が両町の公共施設に電力供給事業を開始したのは2020年10月であるが,電力供給を開始してわずか3か月で日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場価格(以降,「JEPX市場価格」と称す)が高騰し,電力の調達額が販売額を大幅に超過する事態に陥った.

 その後,一旦は落ち着いたものの,2021年1月の高騰以降も,2021年の秋ごろからJEPX市場価格が慢性的に高騰しており,同社の経営が圧迫されてきた(図4).

 新電力会社にとって電力の調達価格を抑えることは,いうまでもなく経営の本質である.後述するように,一般論として,最近のJEPX市場価格は太陽光発電の発電電力量が大きい昼間の時間帯の価格が安くなる傾

向にあり,その出力が低下する夕方の時間帯の価格は概して高い.安価な時間帯に電力を調達でき,高価な時間帯に電力の利用抑制や発電・放電ができれば,新電力会社にとって経営へのメリットは極めて大きい.

 また,市場価格が安価な時間帯は太陽光発電による発電割合が高い傾向にあり,この時間帯の発電を最大限活用することは,地域再エネの最大活用・脱炭素の観点からも重要である.

このため同社では,創業以来,エネマネの実証・実装に力を入れてきた.以下では主に能勢町で,すでに導入されているエネマネについて具体例をいくつか紹介する.

3-3 定置型蓄電池を活用したエネマネ

 地域の脱炭素化の推進と,災害時における防災拠点のエネルギー供給を目的に,同社は2022年1月,能勢町庁舎に26.39kWの太陽光発電設備と16.4kWhの蓄電池を導入している(図5).

 導入にあたっては,設備導入の初期費用を同社が負担し,発電電力量相当分を電気代として回収することで投資回収を行う,いわゆるPPAモデル(第三者所有モデル)のスキームを活用し,能勢町の初期費用負担の軽減に配慮した.

 一方で,導入に際して課題となったのは主に災害時のエネルギー供給の役割を担う目的で導入された蓄電池の初期費用である.高額な蓄電池の価値を少しでも回収するためには,平時において少しでも蓄電池を有効活用し,稼働率をあげることが重要であった.

 そこで,JEPX市場価格の価格変動を考慮しながら,施設内の電力消費量や太陽光発電量を予測し,蓄電池の最適な運用を行うエネマネの実装に取り組んだ.蓄電池充放電のオンライン制御の実装にあたっては,オムロンソーシアルソリューションズ株式会社による技術協力を得ることで実現した8)

 他方で,実際に運用する際に,エネマネによる経済効果・費用回収を重視した運用を行いすぎると,いざ災害が発生した際に蓄電池に十分にエネルギーが貯蔵されていないリスクを抱えることになる.

 そこで,需要家である能勢町と協議した上で,運用ルールとして蓄電量の下限値を設定した.その上で,施設内の電力消費量や太陽光発電量を予測し,設定した蓄電量閾値を下回らないようにしつつ,蓄電池を使ったエネマネの経済効果やインバランス低減の方法などを開発し,現在も日常的に運用が行われている.

 庁舎の電力需要の特性上,平日と休日の電力需要に大きな差があるため,休日に発生する太陽光発電の余剰電力をすべて蓄電池に蓄電することができないこと,蓄電池の定格出力が小さいため,JEPX電力市場の価格高騰時の放電による効果が限定的であるなど,蓄電池設備の容量不足に起因するいくつかの課題があるものの,エネマネ運用しない場合に比べると蓄電池の導入費用の一部が回収できるなどの一定の経済メリットが得られている.

3-4 EV充電器を活用したエネマネ

 定置型蓄電池と同様に,エネマネのリソースとして注目されているのが,「動く蓄電池」とも称される電気自動車(EV)の活用である.

 同社では,交通部門の脱炭素化の取り組みの一環として,両町が保有する公用車の台数適正化,リユースEVの活用9)など様々な取り組みを進めてきた.

 能勢町では急速充電器1台(主に一般向けに開放)と普通充電器1台(公用車の充電用途に利用)が導入されており,これらの充電器EV充電器のリソースについてはそれぞれ下記のようなエネマネを実装している.

(1) 急速充電による電力ピークの発生抑制

 EV充電器を運用するにあたっては,電力ピークの発生抑制を考える必要がある.とりわけ急速充電器の場合,出力が数十kWと大きいことから,無作為に導入すると結果的に庁舎契約電力を押し上げてしまい,自治体の電気代支払額が大幅に増加する恐れがある.

 図6は能勢町庁舎に設置された急速充電器の電力消費量と庁舎全体の電力需要を比べたものである.図に示される通り,庁舎の電力需要に対して急速充電器の出力が大きく,電力需要のスパイクを生み出している様子がうかがえる.

 詳細な分析の結果,能勢町庁舎の電力需要は冬季12月の9時前後に主に暖房需要によって発生しており,少なくとも調査を行った2021年4月~12月のデータにおいては急速充電器によって電力ピークが発生していない(契約電力を押し上げていない)10) 11)

 一方で,今後,冬季のこのピーク時間帯に急速充電器が利用された場合は非常に大きな電力需要となる恐れがある.

 こうした情報を能勢町と共有し,相互に協議した結果,現在能勢町では電力ピーク時間の充電を避ける目的で急速充電器の一般利用の充電可能時間を設定しなおした.加えて,充電器の出力についても最大出力ではなく,一定程度抑制した運用に変更している.

(2) 普通充電による公用車充電のエネマネ

 急速充電器と比較して,能勢町に導入されている普通充電器は定格出力が 6 kWと比較的小さいため,先に述べたような契約電力に与える影響は大きくない.

 一方で,今後さらにEVの台数が増加し,充電器の数が増加すると,充電する市場価格の時間帯によって,同社の調達価格は大きく影響を受けうる. 

 図7は,実際の公用車の運行データをもとに,公用車が帰庁後すぐに普通充電器に接続して充電を行う運用を行った場合のコマ別平均電力消費量(図7上段)と2020年度の関西エリアプライス平均単価(評価期間2020年5月~2021年1月)を比較したもの(図7下段)である.図に示す通り,公用車の利用直後に充電を行った場合,12時前後と18時前後に電力需要が増加することが示唆された.これをJEPX 卸電力市場の時間帯別平均調達価格と重ね合わせると,12時前後は市場価格が相対的で安価である時間帯に重なる一方で,18 時前後は最も価格が高い時間帯に該当してしまうことがわかった10) 11).能勢町の公用車は稼働率が低く,利用時の移動距離も短いため,夕方の時間充電を停止することによって,実務上公用車の利用を妨げないこと

も確認している.

 そこで,同社では,普通充電器をオンラインによって外部制御し,夕方の時間帯の充電を回避するようなシステムを導入し,日々の運用を行っている(図8, 9).制御のアルゴリズムは,日々のJEPX価格を見ながら充電停止時間をダイナミックに変動させるような運用ではなく,公用車が充電器に接続されていても設定した時間帯は充電がなされないような比較的シンプルなスケジュール運転制御とした.これは,シンプルなスケジュール運転でも十分に経済的メリットが享受できること,より高度なシステムを開発・導入することによる追加的メリットが期待されるほどに大きくないことなどが理由である.

3-5 時間帯別電力料金の導入

 上記のように蓄電機能を持った需要側機器を制御するものに加えて,需要家の行動変容を起こすことも,有効なエネマネの手段のひとつである.

 同社では,需要家の行動変容による電力需要の時間シフトを進めるため,2022年12月より冬季限定メニューとして,相対的に市場価格が高い6:00~10:00および16:00~21:00の電力料金を3円/kWh引き上げる一方で,市場価格の安価な10:00~16:00の電力料金を3円/kWh引き下げる時間帯別料金メニューを導入した(図10).

 料金を引き上げた時間帯における両町の公共施設の前年度の電力消費量と,料金を引き下げた時間帯における前年度の電力量の合計値はほぼ同等であり,これまでと同じ使い方をすれば両町の経済的負担は変わらない一方で,仮に需要家行動変容による時間帯シフトが進めば,両町は電気代支払額低減のメリットを受けられ,同社は電力の調達額が低減する料金設計とした.

 ちょうど,燃料費調整額が高騰することによって需要家の電気代価格が上昇し,社会問題として注目されたタイミングでもあったため,能勢町役場職員の行動変容による一定の効果があるのではないかと期待されたが,時間帯別料金メニューを導入する前の2021年12月~2月と導入後の2022年12月~2月にかけての3か月間の効果を比較したところ,公共施設全体の電力消費量の削減効果も時間帯シフトの効果も有意な効果は確認できなかった.

 時間帯別料金メニューの効果が限定的であった理由としては,町民に対して公共サービスを提供する施設の特性として,公共施設は時間帯シフトが難しいこと,電力を実際に利用する職員は直接的に電気代を支払う主体ではないため,価格によるインセンティブが働きにくいことなどが考えられる.この辺りについては,今後も検討を進め,より効果のある行動変容の対策導

入に向けて取り組む予定にしている.

3-6 ヒートポンプを活用したエネマネの可能性

 このほか,能勢・豊能地域ではまだ実装できていないが,ヒートポンプ給湯器を活用したエネマネも大いに効果が期待できる12).筆者ら13) は,ヒートポンプ給湯機を地域新電力側で外部制御し,前日の計画値と当日の予測値の誤差に起因する発電インバランスを抑制するシステムを設計・開発し,9世帯を対象にした実証的研究によってその有効性を示した.また,岩船ら14)は,5世帯におけるヒートポンプ給湯機の運転実績 の実測データをもとに,ヒートポンプ給湯機の運用モデルを構築し,モデル計算と実運用結果の比較分析を実施した上で,ヒートポンプ給湯機の運転時間シフトによる上げデマンドレスポンスの効果を定量的に予測している.

 蓄電池やEVと異なり,すでに地域内に一定の台数が導入されているヒートポンプ給湯器をエネマネリソースとして活用することができれば,地域のエネマネのポテンシャルは大幅に高まるはずである.

 

4.まとめ

 本稿では,地域スケールでのエネマネに関する近年の状況について整理した上で,地域新電力である能勢・豊能まちづくりにおけるエネマネの取組事例を紹介した.エネマネと言えば,高度な通信技術と機器の制御技術を組み合わせて,最適化する取組を思い浮かべる読者も多いかもしれない.ところが,本稿で紹介したように,JEPXの価格動向を分析しながら機器をスケジュール運転したり,需要家の行動変容を促したりする取り組みも十分に効果的である.

 市場価格高騰の影響に関する自治体・地域新電力を対象にした民間のアンケート調査15)では,図11に示すとおり,回答を得られた72の事業者のうち,「甚大な影響であり,今後の経営継続に影響を与えうる」と回答したのが25%,「影響があるが,経営は継続の方向」とした回答が61.1%であった.一方で,「影響はそれほど大きくない」との回答は11%にとどまっており,多くの自治体・地域新電力が経営的に難しい局面を迎えていることが窺える.

 地域における再エネ主力化の大きな役割を担う地域新電力が,市場価格高騰のリスクを回避し,安定的な事業環境を保つためには,全体の発電側のリソース確保に加えて,地域内において,エネルギー管理を実施するための需要側リソースを確保し,時間帯別の価格変動の値差をうまく活用しながら,それらを統合的に管理(エネマネ)することが不可欠である.

 こうした取り組みは需要家との距離が近いことが必要条件であり,こうした強みを持つ地域新電力の今後の戦略として極めて重要かつ有効であると筆者らは考える.

 国立環境研究所ではこれまでに種々の地域エネマネの計画・評価を行った知見を他地域へ展開するための「地域エネルギー計画・評価システム」を開発している(図12).この評価システムにより,能勢町・豊能町における実績データをベースにさらなる再エネ導入拡大やエネマネ導入等の各種シナリオに基づいた評価もすでに行っている16).今後はこうした知見を活用してより大幅な脱炭素に貢献するとともに,この知見を他地域へ水平展開していく予定である.

引用文献

謝辞

著者連絡先

平野 勇二郎

〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2

国立環境研究所 社会環境システム領域

E-mail: yhirano@nies.go.jp

2024年8月20日受付

Acknowledgments

 本稿は内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 第3期「スマートエネルギーマネジメントシステムの構築(JPJ012207)」(研究推進法人:JST),文部科学省 大学の力を結集した,地域の脱炭素化加速のための基盤研究開発JPJ010039,および日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)23H01546の助成を受けて作成されました.ここに記して謝意を表します.

References
 
© Japan Association for Human and Environmental Symbiosis
feedback
Top