日本水文科学会誌
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論文
2流域に残置された間伐木のスギ針葉による遮断量の推定
野口 正二 金子 智紀岩谷 綾子飯田 真一田村 浩喜
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2022 年 52 巻 3 号 p. 93-105

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抄録

日本においてスギは最も代表的な樹種である。スギ人工林を間伐する際には,材としての利用価値が少ない場合は切り捨て間伐と称し,間伐したスギを林地残材として流域内に放置するが,その林地残材による遮断損失に関する研究はほとんどない。秋田県大館市に位置する長坂試験地の2つの流域(流域1 : 6.55 ha,流域3 : 6.50 ha)において,林地残材のうちスギ針葉の遮断損失量を推定した。両流域において間伐対象木(胸高直径(DBH)≥ 3 cm)の毎木調査を実施した。さらに林外雨量および樹冠通過雨量を測定した。流域1および3の全間伐木のDBHの平均値( ±標準偏差)は,それぞれ13.6 ± 6.0 cm(n = 3,767)および9.7 ± 3.2 cm(n = 5,848)であった。毎木調査の結果から,間伐後(本数で50%減)に発生した林地残材のスギ針葉は,4.54および4.28 t ha−1と推定された。無雪期(4~11月)の降雨量,流域1と3の樹冠通過量は,それぞれ1,397.5 mm,1,151.8 mmおよび1,179.2 mmであった。林床面蒸発量は156.9 mmと推定された。残スギ針葉の均一な空間分布(4.28〜4.54 t ha−1)を想定すると,その遮断損失量は24.9~26.3 mmと推定され,樹冠通過雨量の1.4〜2.3%および林床面蒸発量の10.4~26.3%に相当した。残置されたスギ針葉が流域に局所的に集中していると仮定すると(20.0 t ha−1),その遮断損失量は116.0~116.1 mmと推定され,樹冠通過雨量の9.8~10.1%および林床面蒸発量の78.0%に相当した。全体として,間伐によって発生したスギ針葉は,局所的に土壌水分の状態に影響を及ぼすことが明らかとなった。

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