気候変動適応策に資するため,秋田県長坂試験地のスギ人工林小流域において2020年~2022年の寒候期(11月~翌年5月)に水文観測を実施し,流出特性を気象条件とともに解析した。過去43年間における試験地近傍のAMeDAS鷹巣によると,2020年の厳冬期(1~2月)は過去最高水準に温暖であり,3月上旬の積雪深は最低であったことから,稀有な温暖少雪年であったことが明らかになった。このような2020年厳冬期における日流出量は流況曲線全体に分布し,流況曲線の傾きは他の年よりも緩やかであった。これに対し2022年では,厳冬期の平均気温は低く,日流出量はほぼ一定で低水流出量に集中して分布する一方,春期(3~4月)の融雪増水が確認された。これらのことから,温暖少雪年時は融雪流出による災害リスクは低く,春先の降水量が少ない場合には渇水リスクが高くなることが示唆された。本研究で得られた2020年の観測データは,厳冬期から春期の水流出に気候変動が及ぼす影響を評価し,適切な適応策を検討するための貴重な実証データとなる。
本研究では,GNIPデータからNAO指数と降水の安定同位体比の間に負の相関があるレイキャビクと正の相関があるエスポーを抽出し,両地点の変動要因の違いを明らかにした。その結果,降水のδ18Oに与える温度効果の影響はレイキャビクでは30%以下なのに対し,エスポーでは85%以上となった。また,同位体大気大循環モデルの長期データから,降水のδ18Oの分布や大気循環場のコンポジット解析を行った。さらに,NAO指数が高い年と低い年に分けて,水蒸気フラックスの違いについて解析した。その結果,レイキャビクではNAO指数が高い(低い)年には,西(南)からの低い(高い)水蒸気フラックスによって降水のδ18Oは低く(高く)なる。一方,エスポーではNAO指数が高い(低い)年には北緯50°~60°付近に偏西風が強く(弱く),大西洋からの同位体比の高い水蒸気フラックスが多い(少ない)ため,降水のδ18Oは高く(低く)なる。