2023 年 15 巻 2 号 p. 27-42
国有企業の戦略的意思決定は政府からの影響を受ける。国有企業は財務的目標を追求する一方、社会経済や政治などに関する非財務的な目標を政府から指示される。その2種類の目標に不一致が存在する場合、国有企業がどのような意思決定や戦略的行動をとり、バンラスよく目標を達成するかについてはまだ注目されていない。
本研究は国内環境における社会的な非財務的目標と財務的目標をどのように両立するかを、政府の指導下で行われた中国国有企業のM&Aを事例に分析する。政府から財政難に陥っている異業種の国有企業を買収するよう要請された場合、これらの企業は技術関連性が低いため、イノベーションに負の影響が与えられる。しかしこの問題を、知識の識別、移転、統合プロセスにおけるマネジメント行動を通じて克服することで、新しいイノベーションを創出し、2種類の目標を達成することができる。
国有企業のM&Aにおいて、国有企業は利益を追求するより、政府の影響を受けて他の社会・経済・政治に関する目標を優先させられる可能性がある。これらの非財務的な目標の実現は、財務的利益獲得にとって不利な制約条件を課す可能性があるにもかかわらず、事前にターゲット企業の調査と分析を行わずにM&Aを進めてしまう。そのため、通常はM&Aを行う前にPMI戦略を構築するが、国有企業はM&Aの後にPMI戦略を策定・実施する。このような特徴を持つため、国有企業のM&Aは、通常のM&Aと比較して、外部環境により強い適応力を持ち、創発的戦略が生み出される場合もあると考えられる。事例分析を通じて、国有企業が政府の影響下での戦略的行動に関する見解を深めることが出来た。
今後は、本研究の結論を踏まえ、国有企業が海外環境での行動に注目する。国有企業が海外に進出する際には、母国政府の目標だけでなく、現地のステークホルダーのニーズも考慮する必要がある。このような課題により、経営に関する意思決定とマネジメント行動は一層複雑化する。将来的には、進出国のステークホルダーと母国政府からの要望と目標をバランスよく実現する行動を分析し、本研究の結果と比較する。