2026 年 18 巻 1 号 p. 41-51
本研究は、新興国におけるプリンシパル・プリンシパルコンフリクト(Principal-Principal Conflict: PP コンフリクト)に焦点を当て、2008年以降の関連文献を体系的にレビューしたものである。従来のエージェンシー理論が主として経営者と株主間の対立(プリンシパル・エージェント・コンフリクト)を中心に論じてきたのに対し、新興国では所有構造の集中が一般的であるため、支配株主と少数株主間のPPコンフリクトが企業ガバナンス上の主要な課題となっている。
本研究は、PRISMAガイドラインに基づくシステマティックレビューを通じて、2008年以降に公表された新興国企業を対象とする46本の主要研究を分析対象とした。まず、PPコンフリクトの測定方法を「潜在的先行要因」「具体的な収奪行動」「組織成果」という三つの分析レベルに整理し、測定尺度の差異が研究結果の不一致を生み出す重要な要因であることを明らかにする。次に、制度環境、所有構造、株主構成がPPコンフリクトに及ぼす影響は、法執行の強度、支配株主のアイデンティティ、少数株主や複数大株主の存在といった要因によって調整されることを示す。
これらの知見を踏まえ、本研究は、PPコンフリクトが企業業績に一貫して負の影響を及ぼすとする単純化された因果理解を拡張し、制度環境および所有構造から組織行動、さらに組織成果へと至る二つの因果プロセスに複数の調整メカニズムを組み込んだ状況適応型の分析フレームワークを提案する。本研究の貢献は、PPコンフリクトを単なるガバナンス上の欠陥としてではなく、制度的・組織的条件の下で抑制、吸収、あるいは転換され得る動的なガバナンス現象として再定義した点にある。本研究は、新興国における企業ガバナンス研究の理論的統合と今後の研究方向の明確化に寄与する。