社会言語科学
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相互行為の資源としての投射と文法 : 指示詞「あれ」の行為投射的用法をめぐって(<特集>相互行為における言語使用:会話データを用いた研究)
林 誠
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2008 年 10 巻 2 号 p. 16-28

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抄録
時間の流れの中で行為が産出されるとき,進行中の行為は常に「次に何が起こるか」を予示・予告する性質を持っており,そのような性質を「投射」と呼ぶ.投射は複数の人間が互いの行為を調整し,相互行為を協同で構築するための資源を提供する.本稿では相互行為の資源としての投射のメカニズムを文法構造との関連で考察する.本稿の出発点となるのは,発話の統語的軌跡の投射に関して,日本語文法の後置的特性のゆえに,英語と比べて日本語では投射が比較的「遅れた」形で達成されるという先行研究の主張である.この指摘を背景として,本稿では日本語会話でよく見られる,指示詞「あれ」を含んだ発話フォーマットに着目し,そのフォーマットが日本語の「遅れた投射可能性」への対処の手だてとして用いられることを明らかにする.すなわち,文法構造に基づく一般的な「投射の遅れ」の傾向に対処する一つの方策として,日本語話者にも「早期の投射」を実現するターン構築上の戦略的手段が存在することを示す.
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© 2008 社会言語科学会
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