2008 年 10 巻 2 号 p. 96-108
会話において新たな対象を指示するとき,人はしばしば,ある指示表現で相手が対象を認識できるかどうかを予備的に調べる(指示者が開始する認識探索)必要に直面する.このとき,行おうとしている行為を先に進めることと認識を探索することとのどちらをどれだけ重視するか(認識と進行性のやりくり)が,相互行為の上で対処すべき課題として生じてくる.本稿では,第一に,指示者が認識探索を開始するために利用できる手続きとして,認識用指示試行・認識要求・知識照会の三つがあることを示し,その特徴を記述する.第二に,これらの手続きが認識と進行性のやりくりに関して異なった対処を提案していることを明らかにする.