社会言語科学
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選ばれていない参加者が発話するとき : もう一人の参加者について言及すること(<特集>相互行為における言語使用:会話データを用いた研究)
初鹿野 阿れ岩田 夏穂
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2008 年 10 巻 2 号 p. 121-134

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抄録

本稿では,3人の会話で,現話者がある参加者を次話者に選択したとき,次話者として選ばれていない参加者が発話する行為を順番交替システムの規則への違反として捉え,それがやり取りのなかでどのように起こり,何をしているかを分析,記述することを試みた.分析の結果,次話者として選ばれていない参加者が発話するとき,その発話の開始部分で重なりや音の引き伸ばしが起きていることがわかった.このことは,順番交替における違反が起きていることを観察可能にしている.また,この現象は,現話者の発話が選ばれていない参加者に対する「からかい」や「ほめ」であり,その対象として言及された参加者が,他の参加者によるさらなる「からかい」や「ほめ」の生起の可能性を阻止しようとする振る舞いであることが示唆された.上記の分析から,「違反」が観察可能であることによって,会話の参加者が,順番交替システムの規則の枠組みのなかでやり取りを進めていることが示された.そして,3人の会話において,話者がそこにいる参加者への「ほめ」や「からかい」となる発話をもう一人の参加者に宛てて語ることは,次の順番において,一人がやり取りの外におかれることを回避する一つの手段としても使われうることを示唆した.

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© 2008 社会言語科学会
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