抄録
本研究で主に扱ったのは,表現モダリティの継続性(手の形状と位置の保持)である.表現が引き伸ばされたこの部分は,言語的要素なのか,非言語的要素なのかという判断が難しく,また相互行為上の連鎖構造に組み込まれるか否かも明確ではなかった.分析1では,表現継続中に順番交替が起こっていると判断するのかどうかについて議論した.分析2では,表現の保持は相互行為上の連鎖構造に組み込まれない場合があることを指摘した.分析3では,表現継続中にさらなる微細な手指動作が加えられ,意味や機能が変化される現象を指摘した.これらの分析から.手の形状と位置の保持は,無秩序に継続されたり解消されたりするわけではなく,視線方向の変化から相互行為上有効か否かを会話参与者によって判断されている可能性があることが明確になった.本研究で用いたマルチモーダル分析により,シングルモーダル分析では分からなかった現象の特徴が,行為の輪郭として浮かび上がり,相互行為上の有効性の議論が可能になった.以上のことから,手話を研究対象としたマルチモーダル分析を進めることの意義を確認した.