社会言語科学
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研究論文
子ども同士の相互行為における非対称性の構築と交渉―「てあげる/てやる」の使用に着目して―
乾 友紀
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2024 年 26 巻 2 号 p. 35-50

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抄録

本稿は,子ども同士の相互行為における「てあげる/てやる」を使用した発話に着目し,その発話によって参与者間の関係がどのように位置づけられるのか,相互行為的視点から分析し,言語社会化論の観点から考察を行うものである.子ども同士の相互行為において,年齢差や知識・経験の有無から生じる能力の差により上下関係が構築されるが,その関係は静的なものではなく,相互行為によって動的に変化するものであることが示された.子どもは,会話参与者と自身の間にある立場や能力の差を察知し,その状況において「てあげる/てやる」による発話が可能であることに敏感に志向し,言語行動及び非言語行動によって巧みに自身を上位に位置付けている.そして,子どもは「てあげる/てやる」を使用するたびに,その恩恵がどこからどこに向かっているのかを学んでいく.子どもは,「てあげる/てやる」を使用した行為の申し出や指示により,兄/姉としての規範的ふるまいを実践し,また,参与者が困っている状況において,自身に手助けする能力があるということを示す.それによって非対称性が生じるが,一方で,下位に位置付けられた側の子どもは,ただそれを受け入れるのではなく,抵抗を見せることなどによって非対称性を崩し,対等な関係へとシフトしていくことが見出された.このような友達やきょうだいとの相互行為によって,子どもは人間関係における規範を構築し,交渉するのである.

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