社会言語科学
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ドイツにおける外国人児童生徒に対する「母語」教育の実際 : NRW州におけるトルコ語の「母語授業」を例に
梁井 久江
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2004 年 6 巻 2 号 p. 54-65

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抄録

本稿では,ドイツの外国人児童生徒に対する言語教育政策のうち,特に「母語」教育政策に注目し,実際の現場における具体的な取り組みについて検討し,実状と問題点,今後の課題を明確にすることを試みた.一例としてノルトライン・ヴェストファーレン州(Nordrhein-Westfalen)ボン市(Bonn)とその周辺地域における「母語授業」を取り上げ,統計資料,母語教育専門官へのインタビュー,見学したトルコ語の「母語授業」の考察をもとに検討した結果,次の点が明らかになった.(1)州の政策上の変化により,旧募集国以外の国を出自とする参加児童に対しても「母語授業」が開かれるようになった.(2)ボン市では,児童数が多い国の言語であっても公教育の場で教授されていないものがあり,依然として旧募集国の公式言語に偏った言語選択がなされているという,提供言語の不平等が生じている.(3)見学したトルコ語の「母語授業」は,参加児童の母語習得を促進するというよりむしろ,トルコ本国に関する理解を深め,トルコ人としてのアイデンティティを形成することに貢献している.別の見方をすれば,州の方針と現場での実践に乖離がみられるともいえる.(4)参加児童のトルコ語の読み書き能力に関してはなお疑問で,「母語授業」の場で積極的に育成する必要がある.

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© 2004 社会言語科学会
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