抄録
菱刈鉱山の鉱脈から広く産する脈石スメクタイトと鉱脈母岩中のものを比較し,生成環境を考察した.母岩スメクタイトはモンモリロナイト(Mt),脈石スメクタイトはモンモリロナイトとサポナイト(Sp)である.粒径解析の結果,平均層厚7~13nmの母岩Mtの中で粘土化の著しい変質岩中のものが大きい値を示し,脈石Spは11~14nmと大きいのに対し脈石Mtは7~9nmと小さいことが特徴的である.脈石Mtおよび母岩MtはδD=-73~-78‰,δ18O=+11.0~+13.1‰,SpはδD=-82~-90‰,δ18O=+4.1~+7.6‰の値を示す.母岩Mtは現在の湧出熱水と同様の温度・同位体組成を持つ天水起源の水から形成され,脈石Mtは鉱脈形成晩期から形成後の低温熱水活動期における溶解・再沈殿の産物であると示唆される.また,Spは脈石Mtとは異なった時期のより高温の熱水による生成物であると考えられる.