抄録
本研究では断層面に発達する組織である“鏡肌”の微細組織観察を行うことによって、それを形成する様な断層運動の素過程を考察する事を目的とした。試料はスイス東部に分布するGlarus衝上断層を構成する断層岩である。衝上断層は層厚1 m ~2 mの石灰岩層(Lochseiten石灰岩:LK層)中に発達し、断層面には鏡肌とそれに平行に伸びる条線が認められる。採取した試料に対し、鏡肌面に垂直、条線方向に平行な薄片を作成し、偏光顕微鏡、SEM、EBSD、TEMを用いた観察を行った結果、以下のようなことが考察された。1)LK層を構成する方解石粒子は断層運動の前段階において転位クリープによって塑性変形していた。その際の剪断応力方向は断層形成の応力方向と一致する。2)断層運動に伴う脆性破砕は初め断層面から約1cmの領域に集中し、段階的にサブナノスケールの領域に集中した。その結果、粒径数十nmの極細粒な方解石粒子からなる鏡肌が形成された。