抄録
本研究は地衣類-スラグ相互作用における重金属の挙動を明らかにすることを目的とした.地衣類が着生するスラグ風化部は,菌糸の貫入によって物理的に破砕されていた.また,主要重金属ホストである珪亜鉛鉱およびMDの仮像は地衣酸によって化学的に分解され,鉄水酸化物に変質していた.スラグ風化過程で溶脱した重金属の一部は,着生地衣体内に吸収される.吸収された重金属は地衣体の皮層-髄層境界付近に濃集しており,Cu・Znは菌糸細胞に,Fe・Asは菌糸表面にそれぞれ分布していた.Fe・As濃集部には低結晶性鉄水酸化物が晶出しており,正電荷を帯びるZn等も微量に検出された.したがって,この鉄水酸化物には,微生物由来の鉄水酸化物と同様に,有機物が混在していると考えられる.以上,本研究は1. 地衣類がスラグの風化を促進させ,溶脱した重金属の一部を吸収していること;2. 地衣体内に吸収された重金属が,細胞内および菌糸表面に分布していること;3. 菌糸表面の鉄水酸化物が有機物との混合物である可能性があり,Asの他,Zn等の正電荷を帯びる重金属も微量に含有していることを明らかにした.