景観生態学
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特集:景観生態学的手法による自然再生―丹沢大山総合調査の事例から―
生物多様性保全に向けた丹沢大山地域におけるホットスポットの空間的パターン
鈴木 透山根 正伸笹川 裕史原 慶太郎
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2009 年 13 巻 1_2 号 p. 29-37

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抄録
生物多様性の保全対策を検討するためには,ホットスポットの抽出・分析は有用な手法である。そこで,豊かな自然を有する一方でブナ林の衰退やニホンジカの過密化など生物多様性の危機に瀕している丹沢大山地域において,生物多様性のホットスポットの抽出とその空間パターンの分析を行い,生物多様性の保全対策の検討を行った.本研究では,集約的な調査によりデータベースが作成されている植物を対象として,生物種の分布と生息環境の変化の2つの観点から4種類のホットスポットの抽出を行い,MoranのI統計量による空間的自己相関とホットスポット間の重複率を算出することによりホットスポットの空間パターンを分析した.さらに現行の保全対策地域と抽出されたホットスポットを重ね合わせるGap分析を行った.その結果,生物種に関する3つのホットスポット(種数・希少種・固有種)と生息環境に関するホットスポットについて,空間的自己相関は見られなく,明確な空間パターンは認められなく,生物多様性の価値が高い地域は全体的に分散している一方で,生物多様性の悪化が懸念される地域も全体的に分散していることが示唆された.また,ホットスポット間の重複率を算出した結果,生物種に関する3種類のホットスポットに関しては,すべてのホットスポットが重複している割合が12.3%と低く,ホットスポットの抽出には多様な指標を用いて評価し,保全対策を検討する必要があると考えられた.さらにGap分析の結果,特別保護地区は生物種に関するホットスポットが多く分布している一方,生物種のホットスポットは特別保護地区ではない地域にも多く分布しており,特別保護地区は生物多様性の保全に有用な対策であると考えられるが,現在の設定地域だけでは十分でなく,現在設定されている地域についても生息環境の悪化が進んでいる地域が周辺にあるため注意が必要であることが示唆された.このように丹沢大山地域の生物多様性について様々な視点で評価した結果,ホットスポットは地域全体に分散しており,評価する指標により場所も異なることから,1つの観点からの対策ではなく,多様な対策を行う必要があると考えられた.
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© 2009 日本景観生態学会
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