景観は人間活動としての社会的過程と生物的―非生物的環境要素からなる生態的過程との相互作用系としての社会―生態系として存在している.しかし,景観パターンやその変化を,社会的・自然的要因の双方から明らかにしようとした研究は少ない.本研究では,隠岐諸島での土地利用の空間配置を,人文・社会科学的な研究で蓄積されてきた成果を参照しながら,地質・地形的要因と地理的・社会的要因を加味した空間モデルを用いることで表現することを試みた.すなわち,植生図に基づく土地利用型を目的変数として,地質的要素を考慮しながら,地形によって規定される傾斜,水のたまりやすさ,風当り,日射量や,当該土地利用までのアクセス性に関連する地理的要因としての海岸線からの距離や集落からの距離といった環境要因と,土地利用型の空間配置とを関連づけるMaxentモデルを構築した.その結果,1) 島内で水田稲作を行える水条件の良い沖積平野が優先的に選択され,水田として使われるようになった,2) 沖積平野やその周辺で生活に必要な水を確保しやすい場所に居住地がつくられてきた,3) 水田や居住地周辺のやや乾燥した土地や海沿いの土地に畑地がつくられた,4) 耕作地や居住地は夏の台風の暴風や冬季卓越風を避けるような場所に作られた,5) 集落や水田から遠方,もしくは急斜面地で活用がままならなかったところに自然林が残された,6) 牧畑跡地や燃料等の供給源であった里山林は,水田や畑地として利用可能な土地条件の場と,利用不可能な土地条件の場との狭間に位置している,7) 土地利用型の配置は,近接的には地形要因に,究極的には地質要因に支配されることを自然科学的側面から定量的に表現し,仮説検証を行うことができた.加えて,こうした定量評価によって,仮説では分離できていなかった牧畑跡地と里山林との土地選択要因の差異も浮き彫りにすることができた.
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