抄録
近年,生物多様性の保全における企業の果たす役割に期待が高まっている.しかし,多くの企業は生物多様性の保全に着手したばかりであり,企業の生物多様性保全活動の現状を把握した研究は少ない.そこで,企業による生物多様性の保全を効果的に促進する手がかりを得ることを目的に,世界の主要企業を9業種から計180社を選定し,CSR報告書を用いて企業の生物多様性保全活動を分析した.その結果,例えば,業務内容が仕入れならば認証調達,融資ならば融資の意思決定が取り組み易く,メーカーは工場という比較的大きな土地を保有しているために土地利用の改善が取り組み易いなど,業種によって企業を取り巻く条件(業務内容や保有する土地)等が異なるため,企業が取り組み易い活動は業種ごとに異なる傾向があることが明らかとなった.そして,取り組みを促進する条件として「基準や評価指標の明快さ」や「本業との関わりにおける取り組み易さ」,「強制力」の3つが重要であることがわかった.