2016 年 23 巻 p. 105-130
介護保険制度では,市町村間の保険料格差を是正する仕組みとして後期高齢者割合と高齢者の所得状況に応じて配分される調整交付金制度が設けられている.しかし実際には調整交付金の算定項目外の要因や,高齢者の所得状況という算定項目に含まれる要因によって保険料格差が生じている.この調整交付金の機能が十分であるかを分析した.無論,調整交付金による財政調整機能が十分なものであるかどうかということを一義的に評価することは難しい.そこで本稿では,調整交付金の制度導入過程にまで遡り,その政策意図を明らかにし,同制度の機能を政策意図と比較することで評価を試みた.
分析の結果,第1に標準的なサービスを標準的な保険料負担によって提供することを可能にするため,後期高齢者割合と高齢者の所得状況という要因による格差を是正することは意図していたが,当時の財政制約のもとで十分な財源が確保できず,現状において高齢者の所得水準の差によって生じる格差は十分に是正されていないこと,第2に施設介護から在宅介護への転換を促す目的から,施設サービスコスト差による保険料格差についてはそもそも是正する意図を有していないことが明らかになった.加えて,要介護出現率にともなう格差についてはより詳細な分析が必要となるが,市町村による適切な要介護認定や予防介護を促す目的から是正が行われなかったことが示唆された.