日本地方財政学会研究叢書
Online ISSN : 2436-7125
最新号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
研究論文
  • ——アメリカのランドバンクを参考に——
    奥 愛
    2023 年 30 巻 p. 47-65
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/21
    ジャーナル フリー

     自治体が直面している空き家や空き地の増加は,地方税収の減少につながる一方,これらの管理費用の増加により自治体財政に影響を及ぼす.地域社会にも負の影響を与える.本稿では,空き家や空き地にどのように対処すれば良いのかを考えるため,同様の問題に直面していたアメリカのオハイオ州カヤホガ郡クリーブランド市で活動しているランドバンクに着目し,どのような関与を行い効果を上げているのかを分析した.その結果,①ランドバンクの組織形態は非営利民間法人とし,理事会に現役の自治体幹部を含めることで,施策の実効性や都市計画との連動性が担保されること,②ランドバンクの活動を通じた利益や寄付で運営を賄うことは難しいため,政策効果を確認することをセットにしたうえで助成金で支援する仕組みとし,さらに助成金だけに頼らない仕組みを構築する努力が必要であること,③日本の場合は人口が減少していくため,空き家や空き地対策を通じて周辺住宅価格の上昇に結び付けることが難しい地域もあるが,空き家や空き地対策を行うことで,周辺の住宅価格の低下幅を抑えたり,地域の雇用を生み出す可能性があることがわかった.人口減少が続く日本では,活用されていない不動産を活用できるような見直しや規制の変更に向けた議論をさらに進めていくことが必要である.

  • ―1988年ヘールマメモを中心に―
    島村 玲雄
    2023 年 30 巻 p. 67-84
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/21
    ジャーナル フリー

     本稿は,オランダの社会住宅供給を担う非営利民間組織である住宅協会が,1988年のヘールマ改革によりどのように変容したのか,地方分権改革との関係を踏まえて明らかにすることを目的とする.住宅協会は1901年の住宅法を画期とし,住宅サービス供給の公的な制度に組み込まれた.国と非営利組織による福祉サービス供給というオランダ特有の関係性が構築され,戦後社会住宅供給の独占的な役割を担うこととなった.その後,1988年のヘールマ改革では,国の社会住宅政策からの撤退により,「民営化(財政的自立)」を果たした住宅協会は,縮小する社会住宅供給の独占的な役割を引き続き担いつつ,政策目標を共有する社会的企業へと変容し,社会住宅政策は基礎自治体へ移譲され,政府は財政保証機関を通じた間接的な支援という体制へ移行した.背景には,戦後模索してきた住宅協会の自立と,民営化を伴う財政再建策と基礎自治体への権限移譲を図った分権化改革を行ったルベルス政権の政策潮流とが合致したことで結実したと言える.近年は,自由主義右派政党の躍進に伴い,国内外の住宅市場の自由化圧力に晒されながら,なお社会住宅供給の役割を担っている.

  • 井田 知也, 小野 宏, 菅原 宏太, 倉本 宜史
    2023 年 30 巻 p. 85-107
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/21
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,都市のスプロール化およびスポンジ化が1%進展すると,水道事業の供給費用は何%上昇するかという弾力性の計測である.都市が急速に発展する際,住宅地域が無秩序かつ無計画に拡散する都市のスプロール化がしばしば生じる.他方,我が国の様な人口減少社会では,この住宅地域の拡散は鈍化するが,今度は住宅やその敷地の低未利用が散発的に起こる都市のスポンジ化が指摘される.都市のスプロール化はサービスエリアの拡大,都市のスポンジ化は空き家の増加などを導くため,水道サービスの品質維持には追加の職員や関連施設が必要となり,その供給費用が上昇することが考えられる.そこで,本研究では,水道事業の供給費用を理論的に導出して,我が国の2019年度の水道事業者別クロスセクション・データを用いてその推計を実施する.そして,統計的に有意性が高い推計結果に基づき都市のスプロール化の種類別に計測を行うと,水道事業の供給費用の弾力性は,スプロール化では0.081~0.133,スポンジ化では0.111~0.155となった.都市のスプロール化やスポンジ化が進むと,導送配水管など水道施設の更新事業が非効率となり,その規模だけでは測れない供給費用が増加すると考えられる.そのため,双方の都市構造が指摘される市町村においては,この様な点を含めて本稿が計測した供給費用の増加を前提に,効率的な水道事業の運営が今後求められる.

  • ——課税ベースをめぐる議論を中心に——
    松井 克明
    2023 年 30 巻 p. 109-134
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/21
    ジャーナル フリー

     本稿は2006年に行われた米国テキサス州の企業課税改革における課税ベースの議論を分析対象とし,州企業課税改革の背景を明らかにする.2006年企業課税改革では,それまでの事業税の課税ベースを有限責任パートナーシップなどに拡大したテキサスマージン税(TMT:Texas Margin Tax)を導入した.TMTは修正取引高税に位置付けられ,税率をかけて税額を算出するグロスマージンは「総収入の70%」,「総収入から売上原価を差し引いた金額」または「総収入から人件費を差し引いた金額」の選択制という複雑なものとなった.州憲法で所得課税が制限されているテキサス州では企業課税改革の議論は行われてきたが,法案はなかなか成立しなかった.州最高裁から初等中等教育財政システムの違憲判決により改革の期限を切られたことから2006年に改革が実現した.2006年企業課税改革は, 事業税改革による負担増と地方財産税減税がセットで行われたものであり,それまで税を負担してきた多くの企業にとっては減税となった.一方で地方財産税の減税は一時的なものにとどまった.

     同時期の2005年に中西部州のケンタッキー州,オハイオ州,2007年のミシガン州でも導入された修正取引高税は,2010年カリフォルニア州のLLC取引高税,2015年のネバダ州の商業税,2019年オレゴン州の事業活動税と導入州が増加しているためにその議論の分析は重要であると考える.

feedback
Top