抄録
密度汎関数理論(DFT)に基づき,固体電子系の基底状態エネルギーと電子分布を連続空間で第一原理から定量的に計算する,いわゆる第一原理計算は,原子スケールのミクロな情報を実験と独立に得られる手法として,物質科学の研究に欠く事ができない理論計算手法となっている。とくにカーとパリネロが1985年に開発した,第一原理分子動力学法(カー・パリネロ法)は,複雑な物質の第一原理構造シミュレーションを可能にした。一方,応用範囲が広がるにつれて,現状の方法論の適用限界も問題になり始め,最近ではDFTをこえる電子状態計算のさまざまな手法が提案され,テストされている。
本講演では,過去20年間の第一原理計算の発展を概観しながら,現在どこまでできて何ができないかを整理し,近い将来の発展の可能性と,これからの鉱物科学において第一原理計算が果たすべき役割を展望する。