抄録
本稿の目的は、移民船研究が、送出国(地域)と受入国(地域)という移民(史)研究の二大局面の間を越境/トランスする第三の局面として、きわめて重要かつ多くの課題を包含するとともに、その領域を押し拡げる可能性をはらんでいる点を明らかにすることである。まず、移民船研究における、航海日記・船内新聞・古写真という史資料について概説する。次に、日本の移民船研究の対象期間の長さや広域性にふれ、移民船の持つ、教育・文明化やネットワーク再編の場としての役割、「国民」意識形成と人種観の再編の時空間としての性格、動植物や文化交換の意味、移民二世の日本観形成というホスト社会における影響等について、いくつかの事例を通して検証する。こうした作業を通じて、移民船研究の重要性と主な課題、その可能性について展望する。