移民研究年報
Online ISSN : 2758-9552
Print ISSN : 2189-7700
最新号
選択された号の論文の3件中1~3を表示しています
  • 文化交渉の一形態
    秋山 かおり
    2021 年 27 巻 p. 3-17
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、終戦直後のハワイにおいて捕虜収容所を訪ねた日系人の動向から、「勝った組」をめぐる動きや「日本文化のリバイバル運動」を再検討し、日系人と戦争捕虜との間に起きた文化交渉を論じることである。ハワイにおける移民と捕虜との交流は同じエスニック・グループの紐帯を基盤とした移民から捕虜への援助・救済行為と捉えられてきたが、日系人は日本人捕虜・沖縄人捕虜を含む日本兵捕虜全般に関心を示し、収容所では日系・沖縄系の垣根を越えた多様なグループが音楽、ダンス、歌、演劇、映画などを通じて慰問を行っていた。慰問の主催者には「勝った組」や「日本文化のリバイバル運動」と連携した集団などがみられた。ついに日系人が沖縄人捕虜による沖縄芝居を収容所で鑑賞するまでに発展した時には、路上や捕虜の作業場で起きていた移民から捕虜への物資の授受などの一方向からの交流とは違う段階の、双方の交流を形成していた。こうした動向は捕虜の存在に触発された日系人の「戦争終結祝い」であったが、米軍管理下の収容所が文 化交渉の場所となっていたのである。
  • グアムから日本に進学した大学生を事例に
    芝野 淳一
    2021 年 27 巻 p. 19-33
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、日本に帰還した新二世の若者の適応過程を「ホーム」という観点から明らかにするものである。具体的には、グアムから日本に進学した大学生3名に対する6年間の追跡調査に基づき、日本で生活経験がない彼らが単身で帰還した後どのように居場所(=ホーム)を構築するのかを描き出した。主な知見は次の3点である。①対象者らは、ルーツの確認やライフスタイルの追求を目的に日本に進学したが、帰還当初は理想と現実のギャップに直面し、日本への適応に困難を抱えていた。②しかし、その後、バイリンガル・バイカルチュラルな能力を活かして日本やグアムにホームを構築できる場合と、どこにもホームを見つけることができず行き場のない状態に陥る場合に分岐した。③分岐の要因を考察した結果、日本とグアムにおけるネットワーク、進学した大学と居住する地域、それら帰還先の選択を規定する帰還前の日本とのつながりが、帰還移住後のホーム構築に重要な影響を与えていた。
  • ネパールの国際教育斡旋業者と日本の日本語学校の協働関係に着目して
    鈴木 伸隆
    2021 年 27 巻 p. 35-48
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、ネパールの海外留学で大きな役割を果たす国際教育斡旋業者と日本の日本語学校の協働関係に着目し、ネパール人の日本留学がどのような移住インフラストラクチャーによって生み出されているかを解明する。ネパールには千以上の斡旋業者があるが、日本留学を手掛けるエージェントは日本語学校を併設し、フェイスブックで集客している。日本留学希望者のリクルートのために、日本語授業を年4回ある入学時期に連動させる独自の留学システムを考案している。一方日本の日本語学校関係者による業務提携、学校説明会、入学面接のためのネパール訪問などは、自校のプロモーションや貴重な情報共有の場になっている。斡旋業者が留学希望者と教育機関を媒介するのは、日本の日本語学校のマーケティング能力が脆弱で、集客力に長けたエージェントに依存せざるを得ないと指摘されてきた。しかし、積極的な留学生獲得に乗り出すなど、日本語学校の果たす役割は想像以上に大きく、ネパール人留学生のリクルートは独自のインフラストラクチャーによって形作られていることを理解する必要がある。
feedback
Top