JAMSTEC Report of Research and Development
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報告
観測記録を用いた海底地震計の時刻補正と刻時安定性
一瀬 建日竹尾 明子塩原 肇
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2014 年 19 巻 p. 19-28

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Abstract

自由落下式海底地震計を用いた海底地震観測では観測期間中の時刻を刻時する時計がレコーダに組込まれ,この時計の時刻を基準としてデータが記録される.この時計は精度が良い場合でも1年に数秒のずれが生じる.通常は観測開始・終了時にGPSなどによる正確な時刻とレコーダの時刻を比較し,観測記録の時刻を線形補間して解析に使用している.しかし何らかの原因でレコーダの時計に異常が発生し,通常の時刻補正手法が適用できなくなる場合がある.本報告では,観測記録から刻時のドリフトレートを推定する事で,異常が生じた観測記録に時刻補正を施す事が可能である事を2つの手法を用いて示した.1つは時計が正常な観測点との間のP波の相対走時残差の経時変化から推定する手法で,もう1つは相互相関関数の経時変化から推定する手法である.「ふつうの海洋マントル」プロジェクトの広帯域海底地震観測点NM02,NM20のデータに適用した結果,推定ドリフトレートはそれぞれ-10.49ms/day, -1.9ms/dayであった.また,相互相関関数の経時変化から観測中のレコーダの刻時安定性が良く,観測記録から推定される刻時精度は充分に100ms以内である事を明らかにした.

1. はじめに

海底地震観測は,ケーブル式の定常観測と自由落下・自己浮上型の海底地震計を用いた臨時観測とに大別される.後者では通常の陸上地震観測やケーブル式海底地震観測と異なりGPS時計などを用いた刻時を用いることができないため,記録装置内部の高精度周波数源を基に刻時を行い,地震波形を記録している.100Hz程度のサンプリングレートで約1年の長期観測を実現するには高精度・高安定度な刻時機能が必要となる.我々東京大学地震研究所では広帯域海底地震計の記録装置として,勝島製作所と共同開発した専用レコーダ(HDDR5)を使用しており,これは高安定度なマイクロプロセッサ制御の水晶発振器を搭載する事で公称2×10-8の刻時精度(安定度)を有している(金沢など,2009).これは1年間の観測を行った場合,1秒程度の時刻差が生じる精度である.実際の観測ではこれ程の精度は必ずしも得られず,1年間の観測で数秒程度の時刻差となっている.

レコーダ時計の時刻と正確な時刻との差は搭載された水晶発振器の基準周波数の調整時及び温度変化に対して生じた偏差に起因するものである為,温度変化が小さい海底環境下での時刻差は時間とともに単調に増加もしくは減少する1次直線で近似する事が一般的である.実際の観測では,観測前後に測定したGPSなどによる正確な時刻との差からこの1次直線を求め,これを元に時刻補正を行っている.しかし,長い海底地震観測の歴史の中でも,これまで実際の海底観測中のレコーダの時計の安定性を確認する事はなかった.

2013年になり,広帯域海底地震計の観測記録に地震波干渉法を適用して時刻補正を行った例が報告されはじめ(Hannemann et al., 2013; Takeo et al., 2014),レコーダの時計の安定性も議論されているが,これらはそれぞれドイツ,アメリカで開発された海底地震計であり,日本で開発された広帯域海底地震計に関しての議論はまだなされていない.

今回,「ふつうの海洋マントル」プロジェクト(Utada et al., 2013)のパイロット観測で回収された広帯域海底地震計のうち1台で回収時の時刻差が約70秒あった.また本観測で回収された内の1台では回収時の時刻差が12時間以上あった.得られた時刻差を正しいものとして通常の時刻補正を行った場合,近傍の観測点のデータと整合しなかった.このため観測された記録を利用した何らかの方法で正しい時刻補正を実施する必要性が生じた.本報告では,このような問題の発生した観測点の時刻補正を,観測記録自体から用いて行う方法,及び観測期間中の刻時の安定性について報告する.

2. 観測記録を用いた時刻補正

2.1 データ

「ふつうの海洋マントル」プロジェクトは最先端の海底観測装置を駆使して「ふつうの海洋マントル」の謎の解明を目指すプロジェクトで,北西太平洋シャツキー海台の北西及び南東にそれぞれ10,8観測点で広帯域海底地震計を設置し,1.5~3年の長期観測を行っている(Fig. 1).本観測では2011年11月にKR11-10航海によりシャツキー海台南東に8台,2012年8月にKR12-14航海により北西に10台の広帯域海底地震計を設置した.2013年8~9月に傭船により南東の7台,北西の5台を回収し,10台の広帯域海底地震計を再設置した.回収した広帯域海底地震計のうちNM20観測点において正確な時刻とレコーダ時計の時刻との間に12時間以上の遅れが測定された.

Fig. 1.

Geographical map of station distributions of the Normal Oceanic Mantle Project. Solid triangles show stations used in this study.

図1.「ふつうの海洋マントル」プロジェクトの観測点分布.▲は今回解析に使用した観測点.

この本観測に先立ち2010年6月にKR10-08航海によりシャツキー海台北西に5台の広帯域海底地震計を設置し,約1年間のパイロット観測を行った.このうちNM04は2011年11月にKR11-10航海にて,NM02,NM03,NM05は2012年8月にKR12-14航海にて回収を実施した.回収した広帯域海底地震計のうちNM02観測点で回収時に正確な時刻とレコーダ時計の時刻との間で約70秒の遅れが測定された.

本報告では,まずパイロット観測の記録に対して観測記録を利用した時刻補正方法を適用した事例を詳細に述べ,次に本観測記録に対して適用した事例について述べる.

パイロット観測で設置及び回収時に計測したレコーダ時計の時刻と正確な時刻との時刻差を表1に示す.2012年6月30日にうるう秒(+1 s)が挿入されている為,NM02,NM03,NM05の実際の時刻差は表1より1秒少ない.うるう秒を考慮して設置時と回収時のレコーダ時計の時刻と正確な時刻との差からレコーダ時計の刻時偏差(ドリフトレート)を計算したところNM02,NM03,NM04,NM05の1日あたりのドリフトレートはそれぞれ+88.6,+2.0,+3.4,+4.2ms/dayとなった.この値を元に時刻補正を行った地震波形をFig. 2に示す.Fig. 2で示した2つの地震は観測開始初期と後期に観測されたソロモン諸島近傍で発生した地震である.

Table 1. Time difference on deployment and recovery in each station. 表1.設置回収時の計測時刻及び時刻差と1日あたりのドリフトレート.プラスはレコーダ時計の時刻が正確な時刻より進んでいる事を示す.
Station name measurement date on deployment (UTC) difference(ms)measurement date on recovery (UTC)difference (ms) drift (ms/day)
NM022010/06/18 00:22:40-4292012/08/21 22:17:00+71112+88.6
NM032010/06/12 00:04:00-6782012/08/23 09:17:00+1938+2.0
NM042010/06/15 00:29:30-1852011/11/27 09:53:50+1592+3.4
NM052010/06/19 01:11:40-4962012/08/20 20:09:00+3833+4.2
Fig. 2.

Vertical components of velocity seismograms recorded at NM02, NM03, NM04, and NM05. Earthquakes occurred at (a) 2010/06/26 05:30:19.49 and (b) 2011/04/23 04:16:54.72 in the Solomon Islands. Time corrections based on table 1 and band-pass filter between 0.01 and 0.12 Hz are applied for seismograms of all stations. Solid lines show theoretical P-wave arrival time calculated by iasp91.

図2.表1に基づいた時刻補正後のソロモン諸島近傍で発生した(a)観測初期と(b)後期の上下動地震速度波形記録.0.01-0.12Hzのバンドパスフィルタを適用.実線はiasp91モデルで計算されたP波の理論到着時刻.

Fig. 2(b)のNM02の波形を除きiasp91モデルで計算したP波の理論走時と観測されたP波の到着時刻は良く一致していることがわかる.この事からNM02以外の観測点では従来の時刻補正手法で観測記録が問題なく補正されている事が明らかとなった.一方,NM02では観測開始初期(Fig. 2(a))ではほぼ理論走時と一致しているのに対し,観測後期(Fig. 2(b))では約18秒早く到着している.観測初期では一致している事からレコーダ時計の設定ミスはないことは明らかであり,また他の観測点では観測初期・後期共に理論走時と一致している事から2つの地震の震源位置の差に起因する走時差は無視できることも明らかである.以上からNM02の観測後期のP波が早く到着しているのは見かけのものであり,NM02の時刻補正で使用したドリフトレートが大きすぎる事に起因している事が推測できる.以上の事から,NM02ではレコーダ時計に何らかの異常が発生し,設置・回収時に計測した時刻差を用いる従来の時刻補正手法が適用できない事が明らかになった.そこで我々は地震イベントの理論走時との走時残差の経時変化及び地震波干渉法を用いた連続記録の相互相関関数の経時変化からのドリフトレートの推定とレコーダ時計の刻時安定性について解析を行った.

2.2 地震イベントを用いた時刻ドリフトレートの推定

パイロット観測の観測アレーの口径は半径約100kmと小規模であり,また観測アレーは地形の異常やマントル内の水平方向速度不均質の小さい海洋プレート上にある(Isse et al. 2013)ため,ここでは個々の観測点近傍の速度構造は同一と仮定する.このような条件下では遠地地震の到着走時と理論走時との走時残差はどの観測点でもほぼ一定の値をとると考えられる.つまり,走時残差の経時変化からレコーダ時計の時刻のドリフトレートを見積もる事が出来るはずである.

今回は観測期間中に発生したMw 6.5以上の29の地震波形に0.01-0.12Hzのバンドパスフィルタを適用し,P波波形のピークの時刻を読み取った.NM03,NM04,NM05に関しては表1の時刻補正値を使用し,NM02に関しては設置時の時刻差を記録全体に適用して観測開始時の時刻差をゼロに補正した記録を用いた.理論走時の計算にはiasp91モデルを使用した.Fig. 3に各観測点の理論走時と読み取り値の走時残差の経時変化を示す.

Fig. 3.

Residuals of hand-picked P-wave from synthetic P-wave arrival time as a function of day. Time calibration is applied for data at NM03, NM04, and NM05. In NM02, constant time shift on deployment was corrected.

図3.各観測点におけるP波の理論到達走時と読み取り値の差.NM02は観測開始時の時刻差のみ補正,他の観測点は時刻補正済.

Fig. 3に示した様にNM02の走時残差が他の観測点の走時残差と異なり,観測期間の終盤になるにつれ徐々に小さくなっている事がわかる.読み取ったP波のピークの位置が地震毎に異なる為走時残差のばらつきが大きく,このままでは詳細な経時変化を求める事が困難である.そこで観測点ペア毎に走時残差の差をとったものをFig. 4に示す.

Fig. 4.

Differential residuals of every station pair as a function of day. Black lines show linear regression lines. Drift rate is shown beneath each station pair name. SD means standard deviation.

図4.各観測点ペアの相対走時残差の経時変化.実線は回帰直線.観測点ペア名の下は回帰直線の傾き(ドリフトレート)と標準偏差(SD).

レコーダ時計が正常なNM04-NM03,NM05-NM03,NM05-NM04の観測点ペアの間の走時残差の差の経時変化から推定されたドリフトレートはそれぞれ+0.86,-0.84,-1.7ms/dayであった.これらの観測点ペアは既に時刻補正を行っていることからドリフトレートは0であるべきである事から,得られたドリフトレートは本推定手法における誤差と考えられる.つまり,今回のドリフトレート推定の誤差は約2ms/dayであると考えられる.この誤差の範囲内でどのペアも線形性が良いといえる.

一方レコーダ時計に異常が見られたNM02を含む観測点ペアの結果は明瞭にドリフトしており,ドリフトレートは-9.18,-8.35,-10.04ms/dayである.Fig. 4のどのペアもデータの線形性が良い事から,観測期間中のレコーダ時計の刻時は全て安定していることがわかる.レコーダ時計が正常なNM04-NM03,NM05-NM03,NM05-NM04の観測点ペアの走時残差の差のばらつきが±2秒以内であるが,NM02を含むペアの走時残差の差はこのばらつきを超えて変動している事からNM02のレコーダ時計の時刻のドリフトは有意である.ドリフトレートが負であるという事はNM02のP波の到達時刻が見かけ早くなっている事,つまりレコーダ時計の時刻が遅れていっている事,を示している.

今回はデータの標準偏差の一番小さいNM02-NM04のペアのドリフトレートである-10ms/dayをNM02のドリフトレートと推定した.このドリフトレートを用いて時刻補正を施したNM02の記録を用いてP波の再読み取りを行った.再読み取り後データを用いたNM02を含む観測点ペアの走時残差の差の経時変化をFig. 5に示す.得られたドリフトレートは2ms/day以下であり,誤差の範囲内で正しく時刻補正されたと考えられる.以上からパイロット観測でのNM02のドリフトレートは-10ms/dayであったと推定できる.2ms/dayのドリフトレートの誤差は年間になおすと0.7s/yearである. この誤差は,推定に使用した地震イベント数が少なく地震イベントが時系列に沿って均等でないため観測後半のP波の読み取り誤差による影響を受けやすい事や,観測中のレコーダ時計の時刻ドリフトの一次直線で近似できなかった残差によるものと考えられる.

Fig. 5.

Same as fig. 4 but ones between NM02 and other stations after calibration. In NM02, time drift of -10 ms/day has been corrected.

図5.図4と同様.ただし,-10 ms/dayのドリフトレートを補正したNM02と他観測点の間の走時残差の差の経時変化.

観測期間中のデータからレコーダ時計のドリフトレートの安定性を議論したものは無く,解析に使用したイベントに起因する誤差とレコーダ時計自体に起因する誤差をこの手法では区別する事が出来ない.この問題点を克服出来る手法として,地震波干渉法を用いてドリフトレートを推定する手法を次で紹介し,レコーダ時計の刻時の安定性についても議論する.

2.3 地震波干渉法を用いた時刻ドリフトレートの推定

2.3.1 地震波干渉法

近年,地震波干渉法という手法が注目されている.この手法は2つの観測点の波動場に対して相互相関処理を行うと,一方を仮想的な震源,他方を観測点した場合の波形を合成することができるというものである(Aki, 1957; Shapiro and Campillo, 2004).ここで,波動場は統計的にランダムに励起されている事が仮定されている.海洋波浪起源の脈動は地震が引き起こす振動とは異なり時空間的にランダムであり,地震波干渉法を適用すると2観測点間の伝わる表面波を抽出出来る.この手法の利点のひとつは,連続記録を使用する事で地震波の時間変化を連続的にモニタリングできる事である.海底地震計のレコーダ時計の時刻のドリフトは見かけの走時変化として現れる為,地震波干渉法を用いて得られる表面波の走時変化をみることでレコーダ時計の時刻のドリフトと刻時安定性を連続的に見る事ができる.Sens-Schönfelder(2008)は陸上観測記録に対してこの手法を初めて適用した.また,Hannemann et al.(2013)Takeo et al.(2014)は広帯域海底地震計の記録に対してこの手法を適用している.

2.3.2 相互相関関数

2観測点の連続記録の上下動成分に対して,脈動の帯域である0.1-0.3Hzにおける相互相関関数を計算する.ここで得られる相互相関関数は2点間のグリーン関数をヒルベルト変換したものと相似である(Nakahara,2006).

相互相関係数の計算方法はTakeo et al.(2013)に基づく.

機器特性を補正し,0.1-0.3Hzのバンドパスフィルタを適用した連続データを1638秒間819秒ずらしながら切り出し,切り出した記録をフーリエ変換 $(f_{i}(\omega), f_{j}(\omega))$し,2観測点の間の規格化したクロススペクトルのアンサンブル平均$(S_{ij}(\omega))$

  
\begin{equation} \label{eq1} S_{ij} (\omega )=\left\langle {\frac{f_{i}^{\ast }(w)}{\big| {f_{i} (w)} \big|}\cdot \frac{f_{j} (w)}{\big| {f_{j} (w)} \big|}} \right\rangle \end{equation} (1)
を計算し,これに逆フーリエ変換を行い2観測点間の相互相関関数を求める.

まず観測点ペアの上下成分の相互相関関数の全期間平均を求める.得られた相互相関関数は観測点間の表面波(レイリー波)伝播を表している.Fig. 6に観測点間距離順に並べた波形(相互相関関数)を示すが,±200秒あたりにレイリー波が伝播している様子が見える.相互相関関数は理想的には原点を中心に対称となるが,脈動源の不均質により非対称となっている.ここで,ある観測点のレコーダ時計の時刻が遅れている場合の相互相関関数がどのようになるか考えてみる.レコーダ時計の時刻が1秒遅れている場合,記録される波形は本来の時刻より1秒早い時刻に記録される.つまり本来の波形を $f(t)$とすると記録される波形は$f'(t)=f(t+1)$と表される.他方の観測点の波形を$g(t)$とすると,この2つの間の相互相関関数$(C'_{ij})$

  
\begin{align} C_{ij}^{\prime }(t) & =\int_{-\infty }^\infty {{f}'(\tau )g(\tau +t)d} \tau \\ & =\int_{-\infty }^\infty {f(\tau +1)g(\tau +t)d} \tau \notag\\ & =\int_{-\infty }^\infty {f(\tau +1)g(\tau +1+t-1)d} (\tau +1) \notag\\ & =C_{ij} (t-1) \notag \end{align} (2)
となり,得られる相互相関関数は本来の相互相関関数$(C_{ij}(t))$を+1秒ずらしたものと等しい.そこで全期間平均の相互相関関数と,ある期間の相互相関関数の間の相関をとり,その相関のピークの原点からのずれから時間差を求める事で,その期間のレコーダ時計の時刻の時間差を明らかにする事が出来る(Takeo et al., 2014).例えばレコーダ時計の時刻が1秒遅れている場合,相関のピークは+1秒に現れる.但しここで求められる時間差は基準となる相互相関関数との相対的な時間差であるため正確な時刻との絶対的な時間差を求めることは出来ない.

Fig. 6.

Cross-correlation function against distances between station pairs. From top to down, distances become large.

図6.観測点距離順に並べた相互相関関数.

2.3.3 相互相関関数の経時変化

ここでは全期間平均の相互相関関数と40日平均の相互相関関数の間の波形の相関をとり,相関のピークの時間差を時系列に沿って求める.切り出す期間を短くすると経時変化の詳細を捉えることができるが,一方で波動場が統計的にランダムに励起されているという仮定を満たす事が困難になり,相互相関関数の表面波の波形が崩れてしまい,全期間平均との間の相関が悪くなる為,40日平均の相互相関関数を用いる事とする.

(2)式から時刻ドリフトが存在していると期間平均した相互相関関数の波形が崩れる事が明らかである.この為,NM02に関しては観測開始時の時刻差と2.2.で求めた-10ms/dayのドリフトレートを用いて時刻補正を行った連続記録を用い,他の観測点に関しては観測前後の時刻差測定値を元に時刻補正を行った連続記録を用いた.得られた経時変化をFig. 7に示す.

Fig. 7.

Lag times between 40-day and whole cross-correlation functions as a function of the day for pairs of (a) NM05 and NM03 or NM04, (b) NM04 and NM03 or NM05, (c) NM03 and NM04 or NM05, and (d) NM02 and other stations. Solid lines show linear regression lines.

図7.40日平均と全期間平均の相互相関関数の時間差の時系列分布(a)NM05とNM03又はNM04(b)NM04とNM03又はNM05(c)NM03とNM04又はNM05(d)NM02とその他の観測点.実線は回帰直線.

レコーダ時計の時刻のドリフトレートが完全に取り除かれていないNM02観測点を除く観測点ペアでの相互相関関数の時間差の経時変化はFig. 7(a-c)で見られる様に,観測期間を通じて±100ms以内に収まっており,かつ系統的な変化は見られない.一方,NM02観測点を含んだ観測点ペアでは観測開始から観測終了にかけて単調に増加している.この単調増加量は+0.49±0.09ms/day(0.18±0.03s/year)となった.経時変化が単調増加しているという事はNM02のレコーダ時計の時刻が遅れていっている事を示している.NM02を含む観測点ペアに関して,得られた単調増加直線からの時間差の残差はFig. 7(d)に示される様に2点を除き100ms以内である.残る2点も110ms以内の残差であった.

Fig. 7(a-d)で示した様に,得られた時間差は観測期間中を通じてほぼ100ms以内である事から観測期間中の刻時は100ms程度の精度で安定している事が観測記録上から初めて明らかとなった.

この時間差のばらつきは40日平均の相互相関関数の波形が全期間平均の相互相関関数の波形と完全に一致しないことが一因であるが,相関関数波形が崩れるのは脈動源の季節変動やデータのノイズレベルの変動によって生じるため,本手法を用いてこれ以上の精度で刻時の安定性を確認する事は難しい.

NM02のレコーダ時計のドリフトレートは全体としては-10.49ms/dayであると推定され,最終的な時刻のドリフトレートとしてこの値を採用した.

この手法は,全期間平均の相互相関関数と40日平均の相互相関関数の相対時間差を計測している為,観測期間を通じて正確な時刻と一定の時間のズレがある場合は検出出来ない.つまり,ある時点でのレコーダ時計の時刻と正確な時刻との時刻差の絶対値を推定することが出来無いため,この手法単独で観測記録の時刻補正を実施する事は出来無い.実際に時刻補正を行うにはこの手法で推定したドリフトレートに加え,任意の時点でのレコーダ時計の時刻と正確な時刻との時刻差,例えば設置時の正確な時計との時刻差,が必要となる.今回は設置時の時刻差(-429ms)(Table 1)と推定された-10.49ms/dayのドリフトレートを用いて,NM02の時刻補正を行った.

2.4 相互相関関数解析による刻時ギャップの推定

「ふつうの海洋マントル」プロジェクトで2011年11月から2013年6月にかけて実施した本観測において,1台の広帯域海底地震計(NM20)のレコーダ時計が一時停止するという現象が複数回発生した. 回収時の時刻差は12時間43分9.95秒の遅れであった.Fig. 8に示す様にレコーダ時計が一時停止するとその時刻の記録に不連続が生じる.レコーダ時計の一時停止が発生した事はこのような不連続を調べれば分かるが,停止していた時間はNM20の記録からだけでは不明である.

Fig. 8.

Example of original waveforms when recorder's clock stopped. Arrows show the time of a recorder stopping.

図8.レコーダ時計が一時停止した時の生波形の例.矢印の位置で波形に不連続がある.

NM20を含む直径約100kmの4点の小アレーの内1点では広帯域海底地震計を回収できなかったため,NM18,NM20,NM21の3点の観測記録を用いて解析を行う.これらの観測点では2011年11月23日~2013年6月30日の1年半強の連続観測を行い,記録は2013年9月に回収された.NM20の観測記録を確認したところ,レコーダ時計の一時停止は観測開始まもなく発生した事が確認されたため,12時間43分10秒の遅れを補正した記録を以下の解析では用いた.

はじめに2.2の手法によるドリフトレート推定を行った.使用した地震は35イベントである.2011年12月11日以降のデータにはレコーダ時計の一時停止に起因するような不連続は見られず,ドリフトレートはNM18-21,NM20-NM21,NM20-NM18のペアでそれぞれ0.21,-1.54,-1.75ms/dayとなった(Fig. 9).本観測は観測期間が1年半と長く,解析に使用したP波の走時残差の差のばらつきが0.5秒以内であった為,推定されるドリフトレートの誤差は1ms/day以下となり,パイロット観測のNM02の場合よりも精度よくドリフトレートを推定できた.誤差を考慮し,ここでは推定されるドリフトレートとして-2ms/dayを採用した.

Fig. 9.

Same as fig. 4 but ones between NM18 and NM21, NM20 and NM18 or NM21. Solid line shows linear regression line.

図9.NM18-NM21,NM20-NM21,NM20-NM18の間の相対走時残差の時系列分布.

観測開始から2011年12月11日までの間にレコーダ時計の一時停止が発生していないかを明らかにする為,2.3に従いNM20とNM18の間の全期間平均と1日平均の相互相関関数の相関のピークの経時変化を確認した.その結果,2011年11月26-27日の間で約14秒の時刻差が生じている事が明らかになった(Fig. 10).この期間の観測波形を確認したところ,レコーダ時計の一時停止は2回発生している事が明らかになった.Fig. 8はこの期間に見られた不連続を含む波形記録の例である.このように,相互相関関数解析を行うことでこの期間の2回のレコーダ時計の一時停止による時刻の遅れの合計が約14秒である事が明らかになった.2回の一時停止の間の間隔が約12分と短い為に,それぞれの一時停止での停止時間を推定する事は出来なかった.

Fig. 10.

Time lags between one-day and whole cross-correlation function between NM20 and NM18 at first 20 days of the observation period. Colors show normalized correlation function between one-day and whole cross-correlation function.

図10.観測開始後20日迄のNM20とNM18の相互相関関数の全期間平均と1日平均との相関の時系列分布.横軸が観測日,縦軸が相関をとった時の時刻のずれを示す.カラーは規格化した相関値を示す.

2.3の手法に従いドリフトレートを推定する為,NM04のケースと同様に全期間平均と40日平均の相互相関関数の相関のピークの経時変化を確認する.但し14秒ずれている事が明らかである11月27日以前のデータを除き,それ以降の記録を用いて全期間平均と40日平均の相互相関関数を計算する.イベント解析で推定されたドリフトレートが-2ms/dayと小さく,全期間平均の相互相関関数による表面波波形に対する時刻ドリフトの影響は少ないと考えられる為,全期間の記録に対して12時間43分10秒の遅れを補正した記録を用いて解析を行った.得られた相互相関関数の経時変化をFig. 11に示す.

Fig. 11.

Lag times between 40-day and whole cross-correlation functions as a function of day for pairs of NM20 and NM18 or NM21. Solid line shows linear regression line.

図11.NM20とNM18又はNM21との相互相関関数の全期間平均と40日平均との相関のピークの時系列分布.

得られた経時変化は線形に単調増加しており,また不連続が見られない事から2011年11月28日以降にレコーダ時計の一時停止はなかったと推定できる.また,データのばらつきは100ms未満とNM02のケースと同様であった(Fig. 11).推定されたレコーダ時計のドリフトレートは1.89±0.12 ms/dayであり, 単調増加である事からNM20のレコーダ時計の時刻は遅れていっている事が分かる.これはイベント記録から推定された-2ms/dayのドリフトレートとも調和的な結果である.ドリフトレートは両手法で調和的であるが,地震波干渉法を用いた推定手法の方が,誤差が小さい事から,最終的なNM20のレコーダ時計のドリフトレートとしては-1.9ms/dayを用いる事とした.最終的にNM20の時刻補正には回収時に測定した正確な時刻差(12時間43分9.95秒)と-1.9ms/dayのドリフトレートを用いる事とした.

3. まとめ

レコーダ時計に何らかの異常が発生し,通常行われる時刻補正手法が適用出来ない場合であっても,アレー観測を行っている広帯域海底地震計のレコーダ時計の時刻のドリフトレートを地震イベントの読み取り値の走時残差と相互相関関数のピーク値の経時変化から見積もることが出来る事を示した.「ふつうの海洋マントル」パイロット観測点NM02では-10.49ms/day,本観測の観測点NM20では-1.9ms/dayのドリフトレートを推定し,連続観測記録から広帯域海底地震計の時刻補正を行うことができる事を示した.また,相互相関関数の経時変化の直線性の良さからレコーダの刻時は安定している事が観測記録に基づく結果として明らかになった.また,得られたドリフトレートの見積もりの誤差や相互相関関数の値のばらつきから,観測記録に基づく本手法を用いた場合の刻時精度は100 ms程度であることが明らかになった.

さらに相互相関関数の経時変化をみる事でレコーダ時計が一時停止したときの停止時間を見積もる事が出来る事が明らかになった.

謝辞

本研究の解析で使用した広帯域海底地震計の設置回収には海洋研究開発機構の公募航海(KR10-08,KR11-10,KR12-14)及び株式会社オフショア・オペレーション保有の「かいゆう」を使用しました.海洋研究開発機構の杉岡裕子・伊藤亜妃の両者には機器の設置回収作業で助力頂きました.匿名の査読者2名のコメントは本報告の改善に非常に有益でした.この研究の一部は科学研究費補助金・特別推進研究(課題番号:22000003),特別研究員奨励費(課題番号:23-8157),2009年度地震研究所所長裁量経費課題「最新海底地震・電磁気観測による海洋マントルの描像」によるものであります.記して感謝いたします.

参考文献
 
© 独立行政法人海洋研究開発機構
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