JAMSTEC Report of Research and Development
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原著論文
超高解像度映像技術の応用による複数映像データの統合・管理
梅津 弥子Dhugal J. Lindsay山本 啓之
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2015 年 20 巻 p. 1-28

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Abstract

海洋研究開発機構が運用している探査機には,実に多様なカメラが搭載されている.それらの利用目的は,調査観察用・記録用・動作確認用と多様である.今現在,これらの映像の中で我々が生物研究目的として主に用いるのは,特に高解像度であるハイビジョンカメラ由来の映像信号である.しかしながら,この“高解像度の定義”は,映像技術の進歩と共に変わる.2012年には,スーパーハイビジョンというデジタルビデオフォーマットが発表された.これにより,映像技術開発分野では,“超高解像時代”の到来という新たな局面を迎えている.超高解像度映像を調査研究に用いることにより,広角で撮影された映像でも,より微小な生物の観察が可能になる.さらに,超高解像度カメラとしては安価な4K GoProカメラの出現により,これらの超高解像度カメラを深海調査に取り入れることが容易になった.我々は,既にこれらの超高解像度カメラをuROV「PICASSO」に搭載しており,現在はこれらの超高解像度映像データをどのように活用し管理していくかを検討している最中である.その過程で,これらの超高解像度映像に対応した製品が普及することによって,今日までの探査機調査で得られた複数のカメラで撮影された映像を統合することが可能になることを応用し,一つの解析用超高解像度映像として出力し,管理することを考案し,その統合手法を開発した.探査機の調査の現場では複数画面表示が通常であるが,実際に解析・管理用の映像データとして複数画面を統合したケースはなく,本研究は新たな探査機映像の活用の方法を示した.この中でも特に有効なのは,探査機から船上に転送させた映像と独立のカメラシステムから得られた映像データを同期させたことである.具体的には,2013年11月13日に行われた「PICASSO」の潜航で得られた,HDTVカメラ・GoProカメラ・NTSCカメラとログ再生画面キャプチャー動画映像を.movファイル形式に変換し,QuickTime Player 7 Proで編集し一つの4K映像ファイルとして出力した.本論では,その手法開発の全容を論じ,マニュアル化した手法を付録として添付した.

1. はじめに

1.1 超高解像度時代の到来と深海探査の背景

巷では次世代テレビは4Kと取りざたされ,本年開催されたサッカーのワールドカップ(2014年9月現在)では8Kのパブッリクビューイングがお目見えした.これらの超高解像度映像の時代の幕開けは,海洋研究の現場においても無縁な話ではない.海洋研究開発機構(以下JAMSTEC)が運用している探査機には,調査観察用・記録用・動作確認用などと様々な目的で実に多様なカメラが搭載されている(Nakajima et al., 2014).中でも,ハイビジョンカメラで撮影された高解像度映像による現場環境下での調査・作業を目的として開発された「ハイパードルフィン」や「かいこう」などのROVには,JAMSTECで運用される探査機の中でも,3から5台と多くのカメラを搭載できる(調査時期・内容によって装備が異なる).これらのハイビジョン映像を活用した研究成果やアウトリーチ活動により,JAMSTECが世間に示してきた業績は膨大である(たとえばLindsay et al., 2013; 山口ら,2014など).さらに,現在では,GoProカメラなどの安価でかつハイビジョン映像の解像度を上回った(2.7K又は4K1)カメラの普及も手伝って,これらの超高解像度映像が研究調査の現場に導入されている.これらの超高解像度映像は,広角で撮影された映像においてもより微小な生物の観察が可能になるなど,海洋調査への大きな可能性を示す一方で,単に観賞するための映像ではなく研究データとしてこれらを活用していく場合,実用的な運用・解析・管理という点では大きな技術課題がある.具体的には,カメラや記録媒体,ファイルの保存形式などの多様化が大きなネックとなっている.探査機に搭載された複数のカメラ(GoProを含む)から得られた映像は,同期されていない孤立した動画ファイルで保存・管理されることが一般的で,時には異なったファイル形式になっていることさえある.そこで,我々は今後の超高解像度映像に対応した製品の普及を踏まえ,安価で汎用性が高いソフトウェアを選定し,探査機PICASSO(uROV)の調査潜航映像をモデルケースとして,今日までの調査潜航で得られた探査機映像に本調査から新たに導入したGoPro(2.7K)の映像を加え,この技術課題を検討,その解析・管理方法を開発した.

1.2 モデルケース「PICASSO」(uROV)

PICASSOは2つの特長をもつ探査機である.一つ目は優れた可搬性である.バッテリー内蔵型のPICASSOは直径1mmの光ファイバーで船上との双方向通信により運用されるため,長尺の太いケーブルを必要としない.深度1000mまで潜航調査が可能な探査機と,その運用システムを小型にすることで運搬を容易にしたことで,小型船でしか接近できないサンゴ礁海域での調査や長尺ケーブルに振り回されない安定した浮遊生物の観察を可能にした.

二つ目の特長は,高画質映像の取得に特化した探査機であることである.クラゲ類などの脆弱な動物群は,従来のネットサンプリングで採集された標本では破損が激しく,これらの動物群に関する知見は著しく欠落している.これを補うには,現場で撮影された映像が不可欠である.PICASSOは,この要請に応えるべく放送局で使用される高解像度カメラを搭載し,映像と同時に現場の環境データを記録することができる.

技術検討は,2013年11月7日から14日の間に行われたPICASSOの海域試験及び調査潜航によって撮影された映像を材料として用いた.この調査では新たに2つのGoProカメラ(2.7K)を搭載した.従来PICASSOには,HD(ハイデフィニション)カメラと4台のNTSCカメラが搭載されている.これらのカメラとGoProカメラの大きな違いは,GoProカメラが独立した撮影・録画システムであることである.他の調査潜航映像とカメラの録画開始時刻が異なることもあるために,調査研究では同潜航中の他の映像と同期させる手段が必要である.またNTSCカメラの録画映像にはタイムコード情報をエンコードしていないので,これら3台分の映像もその他のカメラとは独立した映像データである.これらの映像データは,潜航を重ねる毎に少なくとも3種類,実質計5台のカメラから生産される映像データとして出力される.これらの調査映像を解析・管理する必要があり,我々はそれらの映像データを同期し,解析する手段を模索してきた.映像を用いた研究は,映像に関する知識・手法の選定,場合によっては資金を要するために,研究者が着手し難い研究手法であるのも事実である.そこで,生物系の研究で広く普及しているMac PCを用いて,これらの映像を最も容易かつ安価で統合し管理する方法を検討し,構築した手法をマニュアル化した.そのマニュアルは付録として添付し,本論中ではその過程で観えて来た重要項目と課題とについて論じ,今後到来する超高解像度映像時代への展望を述べる.

2. 映像素材の形式とシステムの仕様

2.1 探査機「PICASSO」のカメラシステム

通常,無人探査機PICASSOにはメインカメラ,NTSCステレオカメラ,NTSC下向きカメラ,NTSC尾付きカメラが搭載されている.また,本調査から,新たに2台のGoProのカメラを導入したため,全てのカメラ種を合計すると3種類計7台である(図1).メインカメラは最高ズーム倍率19倍のハイビジョンカメラシステムである.このカメラの映像は,PICASSO本体から光ファイバーを経由し母船に搭載されたコントロールシステムに送られる.本調査で新たに導入したGoProカメラ(Hero 3+Black edition)は,3000m耐圧容器に収納され,PICASSO前方上部に2台搭載されている(図1).GoProカメラは高解像度ではあるが,独立したカメラシステムであり,映像は固定の視野で撮影されたものになる.本研究ではこの特性を利用して,ワイドで視野設定の変わらない現場観察映像を取得する目的で用いた.搭載したNTSCカメラ4台のうち2台はステレオ視によって物体のサイズ測定を行えるようメインカメラの上方両側に設置した.残りの2台はPICASSOの垂直尾翼と前部下方に設置されており,航行に際しての安全確認用として切り替えながら使用する.

Fig.1.

Camera, recording media, image resolutions and movie files format for the uROV PICASSO (Nov 2013)

図1.PICASSOのカメラシステムと映像の形式

2.2 HDTVカメラ映像

HDTVカメラ映像は,PICASSOのメインカメラで撮影されるハイビジョン映像である.Sony HDC-X300K カメラ(Lindsay et al., 2012)にCanon VGL-790BXSレンズ(Nakajima et al., 2014)を装備しており,最高倍率は19倍,前方正面の中心部に搭載されている.ハイビジョン(1080/30i)の映像信号は,一度光信号に変換され0.9mmの光ファイバーケーブルを通じてPICASSO本体から母船にリアルタイムで送られる.この映像信号は,変換機などの各装置を経由し,最終的に元の解像度を保ったものとNTSCの解像度に近い654×300 pixelの映像(.asf)の両方で保存される(図2).後者はハイビジョンのHD-SDI信号をNTSC信号に変換ダウンコンバートしリアルタイムで行うロギングの都合上,解像度を低くして再生・保存しており,ログPCの外付けHDD内に.asfファイルとして保存されている.前者の元解像度を保ったままのHD-SDI信号は,当日の観察調査のデータとなるため,各システムにトラブルが生じた時のバックアップとして複数経路で録画する必要がある.本調査では,他の信号経路にトラブルがあった時も潜航が再現出来る様にするため,ハードディスクに保存されたものと,テープ媒体に保存したものの以下の3つの保存様式でハイビジョン映像信号を扱った.① KiPro2(AJA® Video Systems 製)の HD-SDIの HDDストレージ(500GB)にQuickTime の.mov 形式(Apple ProRes 4:2:2 HQ, 1920×1080 pixel)で保存された映像データ.② ①のバックアップとしてPanasonic P2 recorder(AG-HPG20)に.mxf(10-bit, 1920×1080 pixels, AVC-Intra 100 codec)形式の映像ファイルとして保存された映像データ.③ HDDに異常が生じた際にも潜航映像が確保される様HD-CAMテープデッキ(Sony HDW-250)によってテープに保存したものである.①から③の映像データの中で,我々が最も容易に利用出来るのは①に示したデジタル映像データであるが,探査機のオペレーションの都合上映像信号が途切れる場合も多く,実際には,連続録画が可能である③のデータを使用する機会も稀に生じる.

Fig.2.

Video data flowchart for PICASSO's HDTV camera

図2.PICASSOのHDTVカメラ映像信号の経路と保存方法

2.3 GoProカメラ映像

GoProのカメラ映像は,GoPro Hero 3+(GoPro CHDHX-301)によって撮影された映像である.各カメラは,USB接続式のバッテリー(iBUFFALO BSMPA04BK, 3.7V/5200mAh)と共に3000m耐圧のハウジングに格納され,PICASSO前方上部の右舷側・左舷側に2台搭載されている.解像度は2.7K(2704×1524 pixel, GoPro CineForm3,フレームレート29.97),64GBのMicro SDカードを記録メモリーとした場合,最長で約3時間の撮影が可能であった.元素材はMP4形式で保存される.GoProカメラの場合,録画されたビデオのファイルサイズが3.78GBに達すると自動的に新しい動画ファイルが作成されるため,長時間録画の場合は3.78GBの映像ファイルが複数保存される.それらを1潜航分の映像データとしたい場合は一連の映像にしなくてはならない(図3).さらに,その際には元素材を変換し魚眼補正を行う必要がある(湾曲した映像からでは,生物の形態の観察や計測を行うことが出来ないため).理想的なのは,GoPro社が無償で提供しているGoPro映像に特化した編集ソフトウェア“GoPro Studio”を使うことであるが,2.7K映像の場合1.5時間以上の映像データともなると,ひとつなぎにしたときの出力ファイルサイズは膨大で変換時のCPUの使用率も極めて高いため,現存する一般向けPCのスペックではPCにかかる負荷や処理能力の問題からあまり現実的とは言えない.魚眼効果の除去やファイルの変換は“GoPro Studio”で行い,それ以外の編集作業は他の画像編集ソフトを用いることをおすすめする.

Fig.3.

Video data flowchart for PICASSO's GoPro cameras

図3.PICASSOのGoProカメラ映像の変換と保存

2.4 ステレオNTSC・切り替え式NTSCカメラ映像

NTSCカメラの仕様は,WAT-240 Vivid(G-2.5)で,PICASSO正面から観てメインカメラを挟む様に,右舷側・左舷側に一つずつ搭載されているステレオカメラと,周囲の状況把握の目的でPICASSOの背側と腹側に一台ずつ取り付けられている映像の切り替え式のカメラの計4台が搭載されている.NTSCの映像信号もHDTVの際と同様,一度光信号に変換され,光ファイバーケーブルを通じてPICASSO本体から母船にリアルタイムで送られる.これらのデータは映像分配機や変換機を通しログ用PCに接続されたHDDに保存されるものと,バックアップとしてSDカードに保存されるものがある.元データの解像度は,SDカードに保存されるものが640×480 pixel(フレームレート29.97)のMP4形式(.mp4)で,ログ用PCに保存されるものが解像度792×480 pixel(フレームレート29.98)のASF形式(.asf)である.HDDに保存されるものは,Windows PCが基盤であるログシステムとの関係上.asfというMicrosoftが開発したストリーミング用のファイル形式データになっている.これらは,サイズ測定や状況把握を目的としているものであるため,解像度はGoProやHDTVに劣る.

Fig.4.

Video data flowchart for PICASSO's NTSC cameras

図4.PICASSOのNTSCカメラ映像の信号扱いと変換方法

3. 複数カメラ映像の統合表示と記録管理

3.1 探査機映像の同期

2章で示して来た通りPICASSOの映像を例としても,探査機の映像は様々な目的に応じて多様な撮影システムと多様な記録・記憶媒体によって扱われている.PICASSOは JAMSTECの運用する他の探査機と比較した場合,試験的に特に多くのカメラシステムを搭載している.しかし,“探査機によって現場で撮影された映像データの特性を活かし,どのようにして能率的に解析・管理するか?”という課題については,どの探査機映像を扱うにあたってもさほど変わらない.そこで,我々は,先に紹介したPICASSOの映像データと,ログシステムの中に組み込まれた探査機の行動及び環境データ表示画面の映像もそれらと同期し,解析・管理が可能な,一つの潜航映像として統合する手法を開発した.

3.2 Quick Time Player7Proでの映像統合

映像データを扱いたいと考えるとき,考慮しなくてはならないのは,①どのメーカーの,どの仕様のPCを使用するか,②どの保存形式の映像ファイルを使うか,③どのソフトウェアを使うか,の3点である.映像産業におけるニーズの多様化・技術の進歩・メーカー間の競争激化に伴い,①から③の選択肢とその組み合わせに対する答えは無限に近い.しかし,ユーザーは,この無数のパターンの中から,3つの観点において自身が重視する点を考慮し,PCとソフトウェアを選択しなければならない.さらに,いざ製品購入する段階になれば,その価格帯の広さに困惑させられるに違いない.そこで,我々は探査機から得られた複合的な高解像度映像データを最も単純な方法で,最も安く取り扱い,統合することが出来る方法を思案した.その結果,映像研究の現場で多く用いられているMac PC を使い,その中に内蔵されている動画再生ソフトのQuickTime Playerを有償版(数千円)にアップグレードするだけで可能となる映像の統合方法を考案した.手順の詳細は,付録として添付したQuickTime Player 7 Pro映像統合マニュアルを参照頂きたい.以下3.3から3.6項では、その中でも特に重要であった点についてまとめる.

3.3 映像フォーマットをMOV形式に統一

各映像データをQuickTime Player 7 Pro(7.6.6)で編集するためには,QuickTime Player 7 Pro(Mac PC に特化)と互換性があるファイル形式であることが必要条件である.しかし,システム開発には,WindowsのPCを用いることが多く,PICASSOのNTSCカメラ映像にも,Mac PCと互換性のないASF形式(Windows PC に特化)のファイルフォーマットが採用されている.

そこで,各映像素材をQuickTime Playerにて統合するために,全ての映像ファイルを.mov形式に統一する.HDTVのハイビジョン映像は,ProRes 4:2:2 HQの.movファイル形式で保存されているKi Proのキャプチャー映像をそのまま用いた.GoPro 2.7KサイズのMP4形式ファイルは,GoPro社が無償で提供している編集ソフト“GoPro Studio”で魚眼補正とMOVファイル変換を行い,出力は最高解像度を保ったCineFormのコーデックでの出力を行った.さらにQuickTime Player 7 Proで,高圧縮率でありながら画質を落とさずに済むH.264のコーデックに変換してから素材として用いた.3つのNTSCカメラ画像は,先に紹介した通り.asfファイルフォーマットになっているのでWondershare “スーパーメディア変換!” ソフトを用いて,H.264コーデックの.movファイルに変換した.さらに,カメラによって撮影された映像データとは異なるが,解析画面に探査機状態表示画面映像及び環境データ表示画面映像を追加するため,PICASSO用に開発されたロギングプログラムNOU View(Flash)で再生した外部モニターの画面をKiProでキャプチャーした.movの映像を,さらに,QuickTime 7ProでH.264コーデックの.mov ファイルに変換し素材として用いた.

3.4 タイムコードを基準に映像を同期させる

3.3で全ての映像データのファイルフォーマットを統一することの必要性を述べた.しかし,それだけでは映像を統合するための素材としてはまだ不足点が残る.それは,アングルもズーミングも違う映像をどのように同期させるか?という点である.そこで,我々が映像データの扱いの際に重視するのがタイムコードである.タイムコードとは,映像の経過時間に伴ってエンコードされる信号であるが,これは単なる時間情報ではなく映像フレーム毎に割り当てられた時間軸である. そこで,我々はPICASSOの調査映像の保存経路の中にタイムコード生成機(HD-488E/GPS/NTP)を組み込み,メインカメラから出力されるハイビジョン映像に,GPS時間と同期されたタイムコードを焼き付けた.このHDTV由来の映像データを基準に,生物や人物のモーションから,他の動画ファイルと全く同じ瞬間の映像フレームを目視で見つけ出し,QtChangeというソフトを(videotoolshed.com)用いて全動画に共通のタイムコードを分配し直した.調査開始時には,この過程を考慮し,キャリブレーションボードや手拍子等の解りやすい景象やモーションを撮影しておくと良い.この作業を終えた段階で初めて,マニュアルに記載した手法による画像の統合を行うことが出来る.

3.5 ファイル名に映像のメタデータを入力する

3.4で設定したタイムコードは,映像を同期させる上で重要なシグナルであることはさることながら,動画ファイルあるいはそこから切り出した静止画を確実に識別するための刻印の役割も担う.例えば,今回用いたPICASSOの映像は1潜航でカメラ6台分の映像データを扱うことになるから,研究用映像データとしてそれらの混同を防ぐため,それらが全て別の動画ファイルとして識別できてかつ同日行われた同潜航のものと判断出来る程度の共通性を含んだファイル名でなくてはならない,この問題は,一日に複数回の潜航を行った調査等ではよりシビアになる.そこで,我々が定めているファイル名のルール(図5)は,“vehichleyyyymmdd-localtime-cameratype-position-resolution-starttimecodetoendtimecode.mov” である.具体例を示すと,調査開始日時が2013年11月13日,9時15分00秒のPICASSO潜航で,撮影・記録された映像の解像度が2.7Kで,左舷側(Starboard)に取り付けられたGoProカメラで撮影された,録画開始タイムコードが09:15:00:00,録画終了タイムコードが11:30:00:00の動画のファイル名は,PIC20131113-09150000-GoPro-SB-2.7K-09150000to11300000.movである.一見長くて煩労なこのファイル名は,我々が想像していた以上に多くのメリットをもたらす.タイムコード以前のファイル名までで,その映像ファイルが,いつ行われたどの潜航でどのカメラから得られたものであるかは判断出来る.しかし,このタイムコードがファイル名に入ることで,一日に複数回の潜航があったとしても過去から現在に流れる時系列が刻印されていれば絶対に混同されることはない.例えば,これらの動画ファイルをデータベースソフトなどで管理する場合,メタデータが書き換えられることによって,ソフトのリンク機能が失われることがあるが,素材名に可能な限り多くの情報を含むことで,残されたデータが動画ファイルだけになったとしても,元データの出所をたどることが可能になる.さらに,映像を生物研究用の素材として考えた時,観察した生物の個体識別までをも可能にする.例えば,ある出現生物を同潜航の10:05:30:12から10:06:31:11の1分間特定の一種一個体の生物を追跡撮影していた時間があるとすれば,そのファイル名は出現生物名とその同定者名を加えた,PIC20131113-GoPro-SB-2.7K-10053012to10063111-Hormiphora_palmata-Mitsuko_Umetsu.movとなる.さらに,この画像から切り出した生物のスチルを地球情報基盤センター(CEIST)が運用する海洋生物サンプルデータベース(http://www.godac.jamstec.go.jp/bio-sample/)等に登録する場合は,PIC20131113-GoPro-SB-2.7K-10054508-Hormiphora_palmata-Mitsuko_Umetsu.jpgの様に,キャプチャーした瞬間のフレームタイムコード・同定した生物名と同定者の名前をファイル名に含めば,その画像はタグ付けされた証拠画像としての機能を持ち,仮に,その個体の元動画を研究論文における根拠として指定する場合には,そのサムネイルとしての役割も果たす.さらに,これらの映像データには,タイムコードをもとにして束ねられた環境情報もあるから,論文執筆の際やマスコミによる画像提供の依頼を受けた際も,スムーズに付加価値情報を添加し応用・提供することが可能となる.

Fig.5.

File name format for digital video files

図5.ファイル名の構成とルール

3.6 4Kプロジェクトの書き出し

3.3から3.5のステップをクリアすれば,後はマニュアルにそって作業を行うのみである.手法の詳細はマニュアル本書を参照して頂くこととするが,その内容を簡単に説明すると,QuickTime Player 7 Proを用い3.3 から3.5で準備した全映像素材の解像度を保持した状態で全て1つのプロジェクトとして統合し,4Kの画面解像度で出力するという方法である(図6に完成図).本来ならば,元映像全てをネイティブの画面解像度で出力する方が映像の質は失われないが,その画面解像度は5Kを超えてしまうため,現在の民生用モニターでフル画面表示出来ない.そこで,それらをあえて4Kサイズで出力しておくことで,今後普及すると考えられる4K製品に対応する映像統合と解析方法を提案した(オリジナル素材の管理としては5Kを推奨).実際に,現存のMac PCの中でも新型で高性能であるMac Proを使用し,マニュアルの手順にそって映像の統合を行った結果,約4分の映像ファイルの書き出しに凡そ1時間を要し,ファイルサイズは10GB以上であった.これを考えれば,今現在において本手法は,安価で容易というコンセプトの限界を示すものであったが,実際に,より高額な映像編集ソフト(Adobe Premiere Pro CC(2014))を用いて本手法と同等の作業を実施した場合には,10分前後の書き出し時間に短縮された.この結果を受け,我々は現在も他のシステム導入や手法開発を検討しながら,これらの映像統合・解析手法の実用化を進めている.さらに,視点を変えれば,画像解析手法としての汎用性は高い.例えば,SD規格やHD規格で記録されている過去の低解像度潜航映像を同様の手法で統合すれば,各潜航に存在する複数のテープ媒体から,一潜航ごとの映像ファイルにすることが可能である.今日までの探査機調査の現場で,複合画面が表示されるのはごく普通のことであるが,解析用の画面で調査が再現出来る機能を備えた映像データは少ない.これを,研究・解析用映像としてLTO4テープなどの優れた記憶媒体で保存することが出来れば,過去データのアーカイビングと活用の観点で,高解像度時代の到来に相応しい手法であると言える.また,次世代的な発想で議論すれば,2台のステレオカメラシステムを直角に配置し,撮影したそれらの映像を全てリンクした状態で統合すれば,3次元情報に基づいたサイズ測定データによる深海生物研究や,図鑑作成・映像コンテンツなどのアウトリーチ活動への活用に対するポテンシャルも大きく秘めている.勿論,今回提案している手法が最有力候補ではないかも知れない.しかしながら,この様に,一つの映像統合・解析の手法を“一つの概念”として掲げることで,別の観点から新たな展望と可能性を示すことが出来る.最後に,4章をまとめの章として,その展望と課題について述べる.

Fig.6.

Screenshot of synchronized and amalgamated videos at 4K resolution

図6.QuickTime Player7Pro で作成した4K解析画面の完成図

4. 探査機映像活用の課題と展望

4.1 探査機の高解像度画像を体系的に活用する

着々と迫る超高解像度映像時代は,大きな技術の進歩と同時に膨大なデータをもたらす.現在は,それらのデータが持つ可能性の検討と,最大効力でそれらを活用するための基盤構築及び技術開発期間である.JAMSTECで運用されている探査機は,各々が異なったコンセプトのもとに設計された“特注品”であるから,世界に高言できる研究結果を残して来たに違いない.しかし,映像研究に関して云えば,この“特注品”であることがかえって障壁となる場合がある.各探査機に搭載されるカメラシステム,あるいは映像データ取得に関する探査機内のシステム設計上,各々の探査機映像のデータは共通性に乏しい結果となっている.現時点では,データの管理の観点からこの問題を解決する為,各探査機のオリジナルデータを共通の圧縮ファイルとして保存する措置が取られている(Saito et al., 2014).しかし,それは探査機に搭載されたシステムそのものの特性を研究や解析の現場でフル活用するセンスとは異なってしまう.そのため,探査機から得られるネイティブの映像データは,研究者が独自に持ち込んだ別の録画システムに保存しているのが現状である.この様な,ミスマッチングを抱えたまま,技術の進歩やメーカー間の競争激化も加わって,映像問題はさらに複雑さを増すことが予想される.この問題の複雑化に備えるため,技術開発者・探査機データを用いる研究者・解析者・管理者・外部提供依頼者の観点から探査機の映像データの運用に関する共通概念を見いだし,今一度,探査機の映像データをより体系的に扱う方法の提案と検討が必要である.例として,その解決策の一案を述べると,どのビークルにも応用可能なデータ統合型のロギングシステムが挙げられる.可搬式ボックスに複数信号タイプのコネクターやケーブル(例:BNC, HDMI, DVI)が付属されていて,研究者がそれを持参し乗船するだけで探査機と接続可能になれば便利である.例えば,このボックス内には,同潜航の環境プロファイルと映像データ全てがワンパックになり,一つの解析用画面となるロギングシスムが組み込まれていて,それらのデータが全て束ねられ,大容量データテープに保存されるといったものである.これをオリジナルとしてCEIST に保管し,研究者や画像提供部署はJAMSTEC規格の中で定められた,希望の映像フォーマットで貸し出しを依頼することが出来れば理想的である.このようなシステムがあれば,どの探査機の映像データも,それほどのスキルや知識を必要とせずに,より多くの分野で利用することが可能となる.このような技術開発は,資金と労力を要するが,そのブレイクスルーは,“JAMSTEC Original”として様々な分野に貢献するに違いない.

4.2 “JAMSTEC Original”の映像データ活用を目指す

本論文において紹介した手法では,“安価で容易”というキーワードに執着したが,コスト・高度なテクニック・知識を要するという点を度外視すれば,Adobe Premiere Pro CC(2014)を用いて一潜航分の映像データを元解像度のまま統合する手法も既に検証済みである.本手法の様な映像技術を応用した研究では,カメラの仕様,信号の種類,映像の保存形式(コンテナ・コーデック),PCの仕様,ソフトウェア,記録(記憶)媒体,これらの全ての要素が複雑に作用する.用途(調査・解析方法)に合わせ,それらのシステム構成を組み替えて,データを取得・保存する.我々は,これに,探査機のシステム構成に適し,汎用性の高い映像技術の開発を追求することで,海洋研究開発の現場においてより効率的な研究データの蓄積とデータ管理につながっていくのではないかと考えている.今後も,これらの観点から,探査機の映像データを用いた研究結果をまとめ,積極的に技術開発に取り組んで行きたいと考えている.

 用語解説

1.4K:4K解像度とは,画面の横:縦比が4,000:2,000ピクセル前後の解像度に対応した映像のことを示す.4Kにも,映画用の規格DCI 4K(4096×2160)等のピクセルサイズが少しずつ違った規格が有るが,各々の規格がHD規格の約4倍に相応する.

2.KiPro:AJA® Video Systems製のオリジナルHDDビデオレコーダー.アップ / ダウン / クロスコンバージョンによって,SD および 720p,1080iを容易に統一し,単一の形式を作成することが可能.SDIやHDMI,アナログなどのビデオおよびオーディオ接続が多数あるため,KiProと他の装置を簡単に統合することができる.特殊なファイルインポーターやトランスコーダーを必要としない.

3.CineForm:CineForm社が開発した独自のビデオコーデックである.CineForm社は,映画やテレビのコンテンツを作るプロセスを強化する革新的なデジタルワークフロー機能を持つ製品を提供している.CineFormコーデックは,3D映像や高解像度映像のあらゆる最新映像技術に汎用性を持っている.

4.LTO:LTOはLinear Tape-Openの略で,IBM社,Hewlett-Packard社,Seagate Technology社の3社が共同で策定した磁気テープ記憶装置の規格.大容量,高速読み書きを目指したテープ規格である.大容量HDDの限界が指摘される中で,優れたデータ保存用記録媒体として期待されている.日本国内では,2012年富士フィルム株式会社が新世代磁性体バリウムフェライト(BaFe)を使った大容量テープ「LTO Ultrium 6カートリッジ」の製品化に成功している.

謝辞

本論文執筆に際し,ご多忙な中査読者をお引き受け頂き,ご助言を賜りましたお二人に心より御礼申し上げます.また,およそ2年間に渡り,リニア映像技術に関するご指導を頂いた棚田旬氏,本研究における映像素材の取得に際してご協力頂いたPICASSOチームの皆様,東京大学三崎研究所の皆様,土屋裕一氏,渡邊敦子氏等多くの関係者の皆様に深く感謝致します.本論文は,JSPS科研費(24248032, 23405031)及びJST Crest(戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「海洋生物多様性および生態系の保全・再生に資する基盤技術の創出」)による成果の一部である.

参考文献
 
© 独立行政法人海洋研究開発機構
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