JAMSTEC Report of Research and Development
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報告
領域気象/気候モデル結果診断パッケージの開発
北端 秀行原田 昌紀
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2015 年 20 巻 p. 29-39

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Abstract

領域気象/気候モデル計算結果に対するポスト処理診断パッケージの開発を行った. 計算機の性能向上によりモデルの複雑化・高度化が進んだ結果として, 今や領域スケールの研究において高解像度モデルの出力データサイズはかなりの容量を持つに至り, 得られる情報量と引き換えに解析に要する手間と時間の増大はモデルを利用する上での敷居をより一層高くしてしまっているように思われる. そこで利用者の作業負担を軽減してモデルの活用を支援する目的で, 解析を行う上での必要なルーチン処理や気候変数の時系列変化, 及び空間分布図の作成, 観測データ(気象官署データ等)との比較処理をまとめて一度に実行してWebブラウザで閲覧できるシステムの開発を行った. 本診断パッケージは領域気象予測モデルWRF(Weather Research and Forecasting model) によるアルタイ山脈の長期シミュレーション結果のデータ解析を支援するポスト処理システムとして構築された.

1. はじめに

これまでにIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書等でみられる気候変動予測モデルの結果から,人為的温室効果ガス排出量の増加に伴う将来のグローバルな気候変化トレンド(方向性)は概ね明らかになったと言える.しかしながらその影響度において世界各地の地域差は非常に大きく,その変化のプロセスを理解してグローバル気候へのフィードバックメカニズムを明らかにすることは将来気候の不確実性を低減して行く上で重要である. 海洋研究開発機構・ 北半球寒冷圏研究プログラムでは温暖化の進行が著しい北極圏を中心に,北極海での海洋調査をはじめ陸域においても温暖化に伴う雪氷圏の変動を監視するべく種々の観測(降水,積雪,凍土,氷河,森林生態)を継続しており,北極海と日本を結ぶ上で偏西風の風上に位置するモンゴル及びロシア・ 東シベリア地域を拠点にフィールド観測を行っている.これら地域の気候特性や気候変化トレンドを理解するには長期的な観測データの蓄積が何より重要であるが,定点観測により得られる知見を時間的空間的にスケールアップして地域全体の理解へと繋げるために領域気象/気候モデルの活用が有効である.モデル結果は観測データの再現性能を検証した上で用いられ,観測データはモデルが再現する気象場を介してより広域の変動と重ねて捉えることが可能になる.また個々の事象の成因を物理プロセスから辿ることができるのもモデル活用の利点である.

本研究の目的は領域気象/気候モデルを活用する上で, 計算出力の後処理(ポスト処理)に対するユーザ負担を軽減することであり, 簡便な操作で高解像度モデルの出力データを即時的に診断するためのシステムを開発することである.本診断パッケージは, 領域気象予測モデルWRFによるアルタイ山脈の長期シミュレーション結果のデータ解析を支援するポスト処理システムとして構築された.

2. アルタイ山脈の長期シミュレーション

2.1 領域気象予測モデルWRF

一般に領域気象/気候モデルとは, 計算領域に定める限られた地域の気象場(大気の状態)を計算する数値モデルであり, 外から適切なデータが与えられる等の境界条件のもとで, 領域内を物理法則にしたがって高分解能で気象現象, 及び気候要素を再現するのに使用される.本研究においては米国NCAR(National Canter for Atmospheric Research)によって管理・公開されている領域気象予測モデルWRF(Weather Research and Forecasting model)のARW3.4(The Advanced Research WRF version 3.4)バージョンを使用して,アルタイ山脈の長期シミュレーション(Sep/2000-Aug/2010)が実行された.WRFで用いた物理過程オプションをTable 1に示す.

Table 1. Model options of physical process for WRF 表1. WRFの物理過程オプション
Planetary Boundary Layer Mellor-Yamada-Janjic
Land-surface model Noah LSM
Longwave and Shortwave CAM
Cloud microphysics New Thompson
Cumulus parameterization None

2.1.1 対象領域と計算条件

計算対象領域(Fig. 1-a,b)はモンゴル西端の,ロシア,中国, カザフスタンに接する山岳地帯(アルタイ山脈)であり, 標高3000mを超える尾根がちょうど国境付近に連なり, 多数の氷河が点在するユーラシア雪氷圏の南限に位置する地域である. このアルタイ山脈を取り囲む約1000km四方のエリアに対し,水平解像度5km, 鉛直44層で区切られた3次元グリッド(200× 200× 44) でシミュレーションを実行した.計算期間は, 2000年の9月から2011年の8月までの11年間である. シミュレーションの初期値及び境界値は再解析(NCEP/NCAR reanalysis1) データを使用し,WPS(WRF Pre-Processing System) を介して気象場の格子割当を行った. なお初期値は1ヶ月のスピンアップ期間を設けて1年毎に(Fig. 2参照), 境界値は6時間毎に更新してWRFを走らせた.WRFの出力データ間隔は3時間である. このアルタイ山脈の長期シミュレーションにより得られた出力データに対し, 解析作業を支援するためのポスト処理診断パッケージの開発を行った.

Fig.1.

(a) Location of the study area including the Altai Mountains

図1.(a) アルタイ山脈を囲む研究対象領域の位置

Fig.1.

(b) Terrain height and GSOD stations in the study area.

図1. (b) 研究対象領域内の標高地形とGSOD観測ステーション

Fig.2.

How to run the long-term simulation (11 years)

図2. 長期(11年)シミュレーションの計算方法

2.2 比較用観測データ(GSOD, APHRODITE)

モデル結果との比較に用いる観測データを紹介する.本診断パッケージではモデル結果の信頼性を評価するために, Table 2に示す2種類の観測データセットを比較用データとして採用する.一つは, NCDC(US National Climatic Data Center)が収集,公開している気象官署データセットGSOD(Global Summary of the Day)であり,その中から地上気温と降水量データを使用する. もう一つはアジア域に点在する雨量計データを収集して統計手法によりグリッド化されたAPHRODITE(0.25°,daily; http://www.chikyu.ac.jp/precip/)を使用する. GSODは気象ステーション各点における地上気温と降水量の時系列変化(グラフ)の比較に用いるが,APHRODITEは降水量の空間分布図(コンターマップ)の比較に使用する. なおGSODの降水量データは雨量計の実測値そのものであるために, 厳密には風等の影響から過小に評価されていると考えられる. そのため雨量計の捕捉率CR(Catch Ratio)を導入して,気温の最大値, 最小値及び風速データ(GSOD)からCRを計算し,降水量データに対して補正 (Prep=PrepGSOD/CR)を行ってから比較に用いた.CRの計算式(Goodison et al, 1998)は雨量計のタイプにより異なるが, ここではモンゴルで一般的に用いられる雨量計Tretyakovの計算式を使用する (Table 3).

Table 2. Observation Data Sets for comparison with WRF outputs 表2. WRFの出力結果との比較用観測データセット
GSOD/NCDC air temperature (daily-mean,min,max),
wind speed (daily mean),
precipitation (mm/day), 2000-2011, text file
APHRODITE/
APHRO_V1003R1_RU
precipitation, resolution(0.5° and 0.25°),
(mm/day). 2000-2007, netCDF
Table 3. Regression equations for catch ratio CR for Tretyakov gauge U:wind speed (m/s), T: air temperature (℃) 表3. 雨量計Tretyakovの捕捉率計算式(U:風速[m/s], T:気温[℃])
Precipitation Regression Equation
Snow (T<0° ℃) CR =103.11-8.67U+0.30Tmax
Mixed (T>0° ℃) CR =96.99-4.46U+0.88Tmax+0.22Tmin

3. ポスト処理診断パッケージ

3.1 概要

ポスト処理診断パッケージ(Fig. 3)とは,実行シェルプログラム (/code/script.csh)を起動することで, アルタイ山脈の長期シミュレーションを実行して得られたWRFの出力データ(/wrfout: 3時間間隔)から, 最初に中間データファイルとしてWRF計算値の日平均,月平均,季節平均, 年平均値を算出して,それらをもとに比較用観測データ(/aphrodite, /gsod) を適時読み込んで各種データに対するコンターマップ(空間分布)とグラフ(時系列変化)を自動作成するプログラムパッケージ(各種プログラムや設定条件ファイル等をまとめたもの)である. 診断パッケージの実行シェルプログラム終了時には多数の診断図(コンター,グラフ:共にPNG形式)が作成されるが,それらはすべて出力ディレクトリ(/html)内で HTMLファイルに記述され整理されてWebブラウザで閲覧可能となる.従って,ユーザはWebブラウザからHTMLトップページ(/html/index.html)を開くことで診断処理結果をすべて閲覧することができる. 診断処理結果のトップページの構成は大きく分けて,経年変化トレンドのページと各年のページから成り,経年変化トレンドのページからは解析データ全年にわたる長期トレンドを示すグラフのページへとリンクが張られ,また各年のページからは選択したその年の診断結果の情報としてコンター及びグラフページがリンクされ,それぞれのページから診断図が表示される.また,本システムで閲覧できるコンターとグラフの種類をTable 4Table 5にそれぞれ示す.閲覧できるWRFの出力変数としては,現状において観測データが容易に入手可能である降水量(Prep)と地上気温(T2)の2変数(Np$=$2)とする. ただ将来的に診断変数は追加できるよう設計されており,予め診断変数名を設定ファイル(Fig. 4: /code/LIST /list_data_name)に記述して管理を行う. なお診断処理結果の詳細については,3.3節を参照のこと.

Fig.3.

Schematic diagram of the diagnostics package

図3. 診断パッケージのシステム概略図

Table 4.

Data Sets and Variables in HTML files for Contour Map

表4. コンター用HTMLファイルで閲覧できるデータセット及び変数

Table 5.

Data Sets and Variables in HTML files for Graph

表5. グラフ用HTMLファイルで閲覧できるデータセット及び変数

Fig.4.

Program tree of the diagnostics package

図4. 診断パッケージのプログラム構造

3.1.1 コンター用html

3.1概要で述べたように,作成される診断図はコンターとグラフの2種類である. これらコンター及びグラフを表示するページ(htmlファイル)の仕様について, それぞれ3.1.1及び3.1.2で説明する.最初にコンター用htmlについて述べるが, ここでは各年毎に,その年の年(Annual),季節(Seasonal),月(Monthly) データ各々に対して積算降水量(Prep)と地上気温(T2) のコンター(空間分布図)が作図されリンクされる. データ種はWRF(出力値)とAPHRODITEであり, APHRODITEのコンターはWRF(Prep)のコンターに並べて表示される. コンターの描画範囲は予めユーザが設定ファイル(Fig. 4: LIST/list_area_latlon)内に緯度経度により指定する.またコンターおよびグラフ共通の設定として,降水量 (Prep)はmm単位,気温(T2)は摂氏度単位とし,水文年(9月から翌年8月までの12ヶ月)を年の単位とする.例;w2000(2000.9.1-2001.8.31).

3.1.2 グラフ用html

次にグラフ用htmlについて説明する. グラフ用htmlには経年変化トレンド用と各年ページ用がある. 経年変化トレンド用では Annual, Seasonal, Monthly データ毎にPrep 及びT2のグラフが閲覧でき, 各年ページ用ではMonthlyデータを使ったPrepとT2の年内変動を示すグラフが作られリンクされる. 作成されたグラフは共通に,コンターの描画領域と同じ矩形エリア内の平均値 (Area)と,観測ステーション(Point)における時系列変化が示される. これらAreaの範囲情報,及びPoint位置情報はLIST/list_area_latlon, list_stn_latlonの設定ファイルにそれぞれ緯度経度で指定し, 任意に変更することが可能である. なお本ケースではAreaにはFig. 1(b)の描画範囲が,Point情報にはNCDC(GSOD) の10カ所のステーション情報(Table 6)が設定された.すなわち, アルタイ山脈全域平均のトレンド(WRF) と観測ステーション各点における時系列変化の比較(WRF & GSOD)結果を見ることができる.

Table 6. List of station locations (list_stn_latlon) 表6. ステーション位置のリスト (list_stn_latlon)
WMO/DATSAV3 No.Station NameLat.Lon.
360580 CEMAL 51.433 86.000
360610 TUROCAK 52.267 87.167
442120 ULAANGOM 49.800 92.083
442140 ULGI 48.933 89.933
442180 HOVD 48.017 91.567
510530 KABA_HE 48.050 86.350
510760 ALTAY 47.733 88.083
510870 FUYUN 46.983 89.517
511560 HOBOKSAR 46.783 85.717
512880 BAYTIK_SHAN 45.367 90.533

3.2 プログラム構成と動作環境

Fig. 4にポスト処理診断パッケージ・システムのプログラム構成(ディレクトリ構造)を示す.図中の/htmlは出力ディレクトリであり,トップページ “index.html” をはじめとするHTMLファイル群や作成されたコンター,グラフ等が格納される. /codeにはソースプログラムが一式含まれており, /code/script.cshが実行シェルにあたる./code/LIST には診断期間,領域,地点, 種類などに関する設定ファイルが置かれる./gsod, /aphroditeはそれぞれ比較用観測データ, /wrfoutにはWRFの出力データが配置される.また,/climoには, 診断図作成のための中間データファイルとしてWRFを平均化処理したデータ,daily, monthly, seasonal, annual meanが格納される.なお動作環境としては, 本システムはLinux OS上で動作する.Cシェル,gnuplot, NCLスクリプト動作環境, Fortranコンパイラが必要である.

3.3 診断処理結果

Webブラウザから“html/index.html”を選択して開くと, 診断処理結果のトップページが表示される.解析期間, 診断変数のリンクを辿っていくことで各種コンターとグラフを見ることができる.

以下具体的に,アルタイ山脈の長期シミュレーション出力データに対する診断処理結果 (http://cryosalon.jp上で公開中)を紹介する.最初に,トップページの表示画面をFig. 5に示す.Fig. 5では,予め診断条件として設定ファイル上に指定された解析期間(11年間)全体に対する経年変化トレンドページw2000-2010(w: water-yearの意)と,解析期間内の各年のページw2000, w2001, …, w2010が各々作成されリンクされており,w2000-2010を実際にクリックするとFig. 6(経年変化トレンドのページ)へと表示画面が移動し, 他方,各年のページ例としてw2000をクリックすると画面はFig. 8に移る.以下,経年変化トレンド(Fig. 6)と各年のページ(Fig. 8)の各々について解説する.

Fig.5.

HTML top page as a diagnostics execution result (html/index.html)

図5. 診断処理結果のHTMLトップページ(html/index.html)

Fig.6.

HTML page of annual trends during the entire period (w2000-2010)

図6. 全期間の経年変化トレンド用HTMLページ(w2000-2010)

3.3.1 経年変化トレンドのページ

Fig. 6(経年変化トレンドのページ)では,解析期間全年(11年間)にわたる年々変動をグラフで見ることができる. ここでは単に年平均のトレンドに限らずに,より詳細にAnnual, Seasonal, Monthlyのデータ毎に分けて診断変数であるPrepT2に対する経年変化をグラフ表示するよう設計されている.具体例としては,Seasonal variation(w2000-w2010)のPrepを選択した結果をFig. 7に示す.Seasonal variationでは,春,夏,秋,冬の各季節降水量が年々どのように変化しているのかを知ることができ,基本的な画面構成としては,“Annual variation”, “Monthly variation”(Fig. 6)とも共通の仕様を用いるが,一段目にWRFのArea(対象領域平均)の変動を表すグラフが,二段目以降に観測ステーション(Point)毎のグラフが一段ずつ下方へ並んで配置される.Fig. 7では実際に,一段目にArea平均の変動として,季節(SON, DJF, MAM, JJA)別の降水量の経年変化が同一画面上に表示されており,また二段目以降では,観測ステーション(CEMAL, TUROCAK, …)毎に季節降水量データの経年変化グラフがSON, DJF, MAM, JJAと並んでWRF(折線)とGSOD(棒)の変動が各画面上に比較表示される. なおFig. 7の二段目以降のグラフ例として, 観測ステーションはCEMALとTUROCAKの2地点のみを示し,残りは省略した. 実際のページ内にはステーションの数(Ns$=$10) すべてに対してグラフは作られる.(http://cryosalon.jp).

Fig.7.

HTML page of seasonal mean trends during the entire period (w2000-2010)

図7. 季節平均トレンドのHTMLページ(w2000-2010)

3.3.2 各年のページ

各年のページの例としてw2000(Sep.2000-Aug.2001) のページをFig. 8に示す.Fig. 8に見られるように, 各年のページではその年(w2000)の診断結果の情報を, 画面上にてコンター“Contour”とグラフ“Graph”の診断図別に分けて配置しており,“Contour”で閲覧できるのはその年の,Annual data, Seasonal data(SON, DJF, MAM, JJA),Monthly data(Sep, Oct, …, Aug)の各データに対する診断変数PrepとT2のコンターマップである.具体例として,Seasonal dataからw2000-SON のT2の表示画面をFig. 9(a)に,またMonthly dataの中からはw2000-06 のPrepの表示画面をFig. 9(b)に示す.T2Fig. 9-a)はWRFのコンターのみの表示であるが,PrepFig. 9-b)はAPHRODITEのコンター(~2007)が並べて表示される(この地域の雨量計観測網は極めて粗であるために,APHRODITEの降水量分布の精度は高いとは言えない). 他方,各年ページの“Graph”については,Monthlyデータを使ったPrep, T2の年内変動を示すグラフが作成されリンクされる.Fig. 8の“Graph”例として,Monthly variation graph におけるw2000のPrepT2の表示結果をFig. 10(a)(b)にそれぞれ示す.どちらも経年変化トレンド同様に,一段目にはWRFのAreaデータのグラフが配置され,二段目以降に観測ステーションでのWRFデータ(赤)とGSODデータ (緑)のグラフが比較して表示される.ここでも実際の観測ステーションのグラフ画面は10地点(10段)存在するが, Fig. 10ではステーション・サイトは2つ(CEMAL, TUROCAK)にとどめ, 残りは省略した.

Fig.8.

HTML page of the year of w2000

図8. w2000(各年用)のHTMLページ

Fig.9.

(a) Contour map on T2 in SON/w2000,  (b) Contour map on Prep in Jun/w2000

図9. (a) 地上気温コンター図(2000年秋),  (b) 降水量のコンター図(2001年6月)

Fig.10.

Annual variations of monthly Prep (a) and T2 (b) in w2000

図10. w2000年内の降水量(a)と地上気温(b)の月変化

4. まとめ

本診断パッケージ・システムは, 領域気象/気候モデル結果の解析のための診断処理, とりわけ即時的に計算結果を可視化し観測値との比較を行う作業を支援する目的で, そのために必須と考えられる一連の処理をルーチン化して自動化する目的で開発された. ユーザは設定ファイル上に,対象地域,解析期間, データ保管先ディレクトリや解析変数等の条件を予め指定しておけば, 一つのコマンドを実行するだけでモデル出力データ及びアーカイブされている観測データ(GSOD, APHRODITE)から多数の時系列グラフやコンターが瞬時に作図され, HTMLファイル上に整理されて処理が完了する.同様の診断パッケージとして, 例えばMET(Model Evaluation Tools)があるが,こちらは汎用プラットフォームとしての性格が強く,ライブラリとして登録されたツール群からコマンドライン操作で必要に応じて個別にプログラムを呼び出し実行するといったインタラクティブ性に特徴があり, 個々のアプリケーションの扱いに相応の習熟度が求められる.一方, 本システムは逐次自動実行型であり,用途は限定的であるが一連の処理がパッケージ化されているのでユーザを選ばず結果が得られる.従って例えばWRFの本計算に連動させて自動実行するような使い方も有効である.また機能的には処理結果の公開を想定しているため図表がHTMLで梱包される点に特色がある.ただ,今後より使い勝手を良くするためには, 変化トレンドを分析する上で線形解析等の診断機能を充実していくことや,実行条件の設定過程をGUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェイス)を導入して対話的に行えるような機能を追加することにより,アルタイ山脈の計算結果に限らず計算領域や解析期間が異なるデータに対しても適用が容易になり,今後の検討課題と言える.最後に使用上の注意として,本システムの特徴がモデル結果と気象官署(定点観測)データを対比できる点にあることから,解析に用いるモデル出力データは比較的高解像度であること,具体的には空間解像度 (水平格子間隔)が5km/grid以下であることを推奨する. 特に山岳域で使用する場合, 比較するポイントでの標高値が計算格子の解像度に大きく依存することから, モデルの標高値が実データと乖離する場合には気温データ等の扱いに注意が必要である.

謝辞

本システムによる診断処理に用いたWRFの高解像度出力データは海洋研究開発機構の並列計算機SGI ICE Xで計算を行いました. 計算機リソースの使用並びに運用に対し感謝致します.

参考文献
 
© 独立行政法人海洋研究開発機構
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