JAMSTEC Report of Research and Development
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報告
交流インピーダンス法を用いた比抵抗測定の精度および地質試料における有効性の検討実験
畠田 健太朗林 為人後藤 忠徳廣瀬 丈洋谷川 亘濱田 洋平多田井 修
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2015 年 20 巻 p. 41-50

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Abstract

交流インピーダンス法による室内比抵抗測定は,電気探査や電気検層の比抵抗データの解釈,あるいは岩石や堆積物の基本的な電気的性質を明らかにするための有効な手段である.本研究では,交流インピーダンス法(二極法および四極法)による比抵抗測定の精度およびその有効性を検討するため,抵抗が既知の抵抗器(実験1),比抵抗が既知の電解質溶液(実験2),および海洋掘削コアを含む地質試料(実験3)を用いた実験を行った.実験1では,本測定システムの精度が装置の基本精度と同等であることを確認した.実験2は二極法で試料測定を行い,周波数が低いほど,また試料の比抵抗が低いほど,分極の影響で電流-電極の位相差が大きく,比抵抗が高くなる傾向が見られた.また,位相差が小さいほど正確な比抵抗値が得られることを示した.実験3では,試料表面の乾燥・湿潤状態が比抵抗に与える影響を検討し,試料の乾燥による比抵抗の上昇,および表面の付着水による比抵抗の低下を防ぐために,試料にパラフィルム巻いた測定方法が有効であることを示した.また,間隙率の異なる試料を二極法と四極法で測定し,四極法の方が低周波域における分極の影響が小さく幅広い周波数での測定に適用できること,二極法でも間隙率の小さい試料や高い周波数での測定であれば信頼できる比抵抗値が得られることを明らかにした.さらに,二極法も四極法も,幅広い間隙率の試料に対して有効であることを示した.

1. はじめに

岩石や堆積物の比抵抗は,その間隙の状態(間隙率,飽和率など)ならびに間隙中の流体の電気的性質を鋭敏に反映することが分かっている.この性質を利用した電気探査・電気検層は,地下または海底下の比抵抗分布からその地質構造を明らかにする有効な手段として,構造地質,土木工学,石油探査,応用地質など幅広い分野で多用されている.電気探査・検層結果の解釈および岩石・堆積物の基本的な電気的性質を明らかにするためには,掘削コア試料を用いた比抵抗室内実験が有効であり,間隙率と比抵抗の関係,試料の飽和率と比抵抗の関係,間隙流体の比抵抗が試料の比抵抗に与える影響などについて,これまで多くの研究が行われてきた(Archie,1942Patnode and Wyllie,1950Boyce,1968Bussian,1983千葉・熊田,1994松井ほか,1996関根ほか,1996Roberts and Lin,1997藤井ほか,2000Kahraman and Alber,2006など).

交流インピーダンスによる岩石・堆積物の室内比抵抗測定では,一般に二極法あるいは四極法が用いられる.二極法は,試料の両端に取付けた電極間に交流電流を流し,得られるインピーダンスから比抵抗を求める方法である.測定が簡便であり,岩石や固結堆積物の測定に用いられることが多い(Roberts and Lin,1997Henry et al.,2003Kahraman and Alber,2006Expedition 322 Scientists,2010など).しかし,二極法は特に1kHz以下の低い周波数域において,試料と電極の間に生じる分極が試料の比抵抗に影響することが指摘されている(Collet and Katsube,1973Klein and Santamarina,1997など).四極法は,低周波域における分極の影響を防ぐために開発されたもので,電流電極と電位電極を分けて試料に取付ける方法である.4つの電極の取付け方には2種類あり,1つは試料の両端に密着させた電極間に電流を流し,試料中央付近に取付けた電極間の電位差を測定する方法(Collet, 1959茂木,1992関根ほか,1996など),もう1つは試料の両端に電位電極を密着させ,濾紙等を挟んでその外側に電流電極を取付ける方法である(千葉・熊田,1994Börner and Schön,1995松井ほか,1996藤井ほか,2000林ほか,2003など).

このように,比抵抗測定に関する手法や測定結果の解釈に関する研究は数多く行われているが,その測定精度や地質試料測定における誤差の要因などについて議論された研究例はあまりない.本研究では,交流インピーダンスを用いた比抵抗測定の精度およびその有効性を検討することを目的として,市販の抵抗器による装置の測定精度(実験1),比抵抗が既知の電解質溶液を用いた交流インピーダンスの周波数依存性および比抵抗の誤差(実験2)について調査する実験を行った.さらに,海洋掘削で採取されたコア試料を含む地質試料を用いて,試料表面の乾燥・湿潤状態が比抵抗に与える影響を評価するとともに,比抵抗と間隙率の関係,二極法と四極法による測定結果の比較を行った(実験3).

2. 実験方法

2.1 比抵抗測定システムの概要

本研究では,Agilent社製LCRメーター(4263B)を使用して各実験を行った.本装置にはそれぞれ(+)電圧,(-)電圧,(+)電流,(-)電流に対応する4つの端子があり,そこにBNCケーブルを接続し,先端のワニ口クリップを電極に挟んで測定する仕組みとなっている(Fig. 1).本測定システムでは,周波数100Hz~100kHzの範囲において1m$\Omega$~100M$\Omega$の交流インピーダンスを測定することができる.

Fig.1.

Resistivity measurement system (Agilent 4263B)

図1. 比抵抗測定システム(Agilent 4263B)

インピーダンス(Z)とは交流回路における電気抵抗であり,複素平面上のベクトル量としてFig. 2のように表すことができる.また,インピーダンスを構成する各成分は,式(1)(5)を使用して求める ことができる.

Fig.2.

Principle of impedance

図2. インピーダンスの原理

  
\begin{equation} {\rm Z}={\rm R+jX = \vert Z\vert \angle \theta} \end{equation} (1)
  
\begin{equation} {\rm R}=|{\rm Z}|\cos\theta \end{equation} (2)
  
\begin{equation} {\rm X}=|{\rm Z}|\sin\theta \end{equation} (3)
  
\begin{equation} \vert {\rm Z}\vert =\sqrt{{\rm R^{2}+X^{2}}} \end{equation} (4)
  
\begin{equation} \theta =\tan^{-1}({\rm X} / {\rm R}) \end{equation} (5)

ここに,R:レジスタンス(実数成分,直流抵抗に該当),X:リアクタンス(虚数成分),j:虚数単位,$|{\rm Z}|$ :インピーダンスの大きさ,$\theta$:電流-電圧の位相差である.

地質試料の測定においては,レジスタンス(R)を試料の抵抗とみなし,LCRメーターから測定されるインピーダンス($|{\rm Z}|$)と位相差($\theta $)から式(6)を用いて比抵抗($\rho$)を算出する.

  
\begin{equation} \rho =| {\rm Z}|\cos\theta \times S / L \end{equation} (6)

ここに,$S$:試料の断面積,$L$:試料の長さである.

2.2 抵抗器を用いた測定システムの精度検証(実験1)

測定システムの精度を検証するため,抵抗値が既知である市販の抵抗器(10$\Omega $,51.1$\Omega$,100$\Omega $,200$\Omega $,1k$\Omega $,9k$\Omega $,50k$\Omega$,1M$\Omega$)を用い,交流電圧・電流の周波数を変えて(100Hz,120Hz,1kHz,10kHz,100kHz)測定を行った.

2.3 電解質溶液を用いた測定精度の検証(実験2)

2.3.1 実験の概要

交流インピーダンス法による測定精度をさらに検証するため,比抵抗が既知の試料として塩化カリウム(KCl)溶液および塩化ナトリウム(NaCl)溶液を測定した.これは,地質試料において比抵抗変化の主な要因となる間隙水が主に海水もしくは海水起源の水で構成されるからである.本実験では,これらの溶液についてインピーダンスおよび位相差の周波数依存性(100Hz~100kHz)を確認するとともに,測定値から算出した比抵抗と理論値との誤差について検討した.

2.3.2 試料

本実験で使用したKCl溶液,NaCl溶液の濃度と比抵抗をTable 1に示す.各溶液の比抵抗は,KCl溶液については日本工業規格(JIS K0130:2008)を,NaCl溶液についてはCarmichael (1982)を参照した.

Table 1. Theoretical resistivity of each solution 表1. 実験に使用した溶液の比抵抗
NaCl
concentration
Resistivity at 20℃
($\Omega \cdot$ m)
35 g/L 0.209
17.5 g/L 0.390
3.5 g/L 1.730
KCl
concentration
Resistivity at 25℃
($\Omega \cdot$ m)
1 mol/L 0.090
0.1 mol/L 0.778
0.01 mol/L 7.097

2.3.3 試料ホルダの作製

溶液はそのままでは測定できないため,円筒形のアクリルの両端にアルミ板を接着し,溶液の注入口と空気穴を開けた試料ホルダを作製した(Fig. 3).測定の際は,溶液が漏れないよう注入口および空気穴をビニールテープで塞いだ.そして,アルミ板に電流電極,電位電極を取付け,二極法で測定を実施した.

Fig.3.

Sample holder for solution

図3. 溶液測定用の試料ホルダ

2.3.4 比抵抗の温度補正

試料の比抵抗は温度によって変化するため,測定値から求めた比抵抗をそのまま理論値と比較することはできない.そこで,JIS K0102(2013)の温度換算式(式7)を用いて比抵抗の補正を行った.

  
\begin{equation} \rho_{{\rm T}} =\rho_{{\rm t}}\times (1-\alpha /100\times ( {\rm T- t})) \end{equation} (7)

ここに,$\rho_{{\rm T}}$:T℃における比抵抗,$\rho _{{\rm t}}$:t℃における比抵抗,$\alpha $:温度補正係数(%/℃)である.温度補正係数については,一般に電気伝導度計の温度補正に使用される値(2%/℃)を用いた.

2.4 地質試料を用いた検討実験(実験3)

2.4.1 実験の概要

電解質溶液で飽和させた地質試料の比抵抗測定においては,試料表面の乾燥・湿潤状態が誤差の要因となる(千葉・熊田,1994).そこで,本研究では試料表面の乾燥・湿潤状態が比抵抗に与える影響を評価するため,(1)試料にラップを巻く,(2)パラフィルムを巻く,(3)水を張った容器に入れる,(4)乾燥防止を行わず大気中に放置,の各条件において,10分間の重量変化を比較した.また,(1)~(4)の条件下で測定した比抵抗の比較も行った.

次に,測定法の違いについて検討するため,二極法と四極法で試料を測定し結果の比較を行った.また,間隙率と比抵抗の関係から交流インピーダンス法の有効性について検討した.

2.4.2 試料

本実験で使用した試料のサイズ,粒子密度,間隙率をTable 2に示す.試料は円柱状に加工し,35 g/L NaCl溶液で飽和させた.飽和方法については,岩石試料(Aji granite,Belfast gabbro,Rajasthan sandstone,Berea sandstone)は真空中で48時間以上,海洋掘削(IODP Exp. 343)にて採取された固結堆積物試料(Wedge sediments,Gray mudstone)は,過飽和により試料が崩れる可能性を考慮し,大気圧で24時間以上含浸させた.

Table 2. Samples used in this study. Deep-sea cores recovered from Hole C0019E, IODP Exp. 343 (Wedge sediments: 1R-1, 18-34 cm, 177 mbsf, and Gray mudstone: 5R-1, 102-117 cm, 697 mbsf) were included (Lin et al., 2014) 表2. 実験に使用した試料.IODP Exp. 343 Hole C0019Eで採取されたWedge sediments(1R-1, 18-34 cm, 177 mbsf)およびGray mudstone(5R-1, 102-117 cm, 697 mbsf)を含む(Lin et al.,2014
Sample Diameter
(mm)
Length
(mm)
Grain density
(g/cm3)
Porosity
(%)
Belfast gabbro 26.11 29.42 2.95 0.3
Aji granite 24.92 30.23 2.66 0.9
Rajasthan sandstone 26.02 29.78 2.65 11.9
Berea sandstone 24.63 29.31 2.68 20.3
Gray mudstone 39.41 38.98 2.63 45.2
Wedge sediments 39.59 38.46 2.60 67.3

2.4.3 測定方法

本実験では,電極として120メッシュの真鍮網を用いた.二極法の測定では,電流および電圧端子を1枚の電極に接続して試料の両端に取付け,電極と試料の間には35g/L NaCl溶液で飽和した濾紙を1枚挟んだ(Fig. 4A).四極法の測定では,千葉・熊田(1994)による電極の取付け方法を選択した(Fig. 4B).試料と電極,および電位電極と電流電極の間には35 g/L NaCl溶液で飽和した濾紙を4枚挟んだ.全ての測定で,試料と電極の接触を良くするため3kgの重りを載せた.

Fig.4.

Sample assemblies for (A) two-electrode and (B) four-electrode methods

図4. (A)二極法および(B)四極法の試料と電極の設置方法

3. 結果

3.1 抵抗器を用いた測定システムの精度検証(実験1)

各抵抗器について測定した結果(測定回数は1回),周波数120Hzにおいて,規格値との誤差は10 $\Omega $~50 k$\Omega $で0.1%以内,1M$\Omega $で0.2%であった(Table 3).本システムの基本確度が0.1%であることから,今回測定した抵抗の範囲(10$\Omega $~1 M$\Omega$)において,十分な確度が得られていることを確認できた.

Table 3. Result of the resistor measurement (n=1) 表3. 抵抗器のインピーダンス測定結果(n=1)
Frequency 10 $\Omega $ 51.1 $\Omega $ 100 $\Omega $ 200 $\Omega $
Impedance
($\Omega$)
Phase
(°)
Impedance
($\Omega$)
Phase
(°)
Impedance
($\Omega$)
Phase
(°)
Impedance
($\Omega$)
Phase
(°)
100 kHz 10.005 0.14 51.02 -0.70 99.81 -1.51 199.1 -3.15
10 kHz 9.996 0.01 51.06 -0.09 99.98 -0.17 199.9 -0.35
1 kHz 9.996 0.00 51.07 -0.01 99.99 -0.02 199.9 -0.04
120 Hz 9.997 0.00 51.07 0.01 100.0 0.00 200.0 0.00
100 Hz 9.997 0.00 51.07 0.00 100.0 -0.01 200.1 -0.02
Frequency 1 k$\Omega $ 9 k$\Omega $ 50 k$\Omega $ 1000 k$\Omega $
Impedance
(k$\Omega$)
Phase
(°)
Impedance
(k$\Omega$)
Phase
(°)
Impedance
(k$\Omega$)
Phase
(°)
Impedance
(k$\Omega$)
Phase
(°)
100kHz 0.949 -15.44 3.232 -66.21 3.503 -83.24 3.524 -87.03
10 kHz 0.995 -1.74 8.454 -15.04 25.98 -53.01 32.24 -82.15
1 kHz 0.997 -0.19 8.867 -1.66 45.70 -8.63 237.3 -51.19
120 Hz 0.999 0.00 9.007 0.00 50.20 0.00 998.0 -0.04
100 Hz 1.000 -0.07 9.109 -0.69 53.39 -4.01 750.4 -102.77

3.2 電解質溶液を用いた測定精度の検証(実験2)

3.2.1 インピーダンスおよび位相差の周波数依存性

KCl溶液およびNaCl溶液の各試料について,周波数を変化させてインピーダンスおよび位相差を測定した(測定回数は1回).その結果,全ての溶液において周波数が低いほどインピーダンス,位相差ともに大きくなる,また溶液の種類に関係なく,比抵抗の小さい溶液ほど位相差が大きくなる傾向が見られた(Table 4).

Table 4. Frequency dependence of impedance and phase angle for KCl and NaCl solutions (n=1) 表4. KClおよびNaCl溶液のインピーダンスおよび位相差の周波数依存性(n=1)
KCl 1 mol/L 0.1 mol/L 0.01 mol/L
Frequency Impedance
($\Omega$)
Phase
(°)
Impedance
($\Omega$)
Phase
(°)
Impedance
($\Omega$)
Phase
(°)
100 kHz 6.509 -12.0 51.81 -2.03 453.4 0.22
10 kHz 12.12 -46.1 56.25 -11.6 459.2 -1.83
1 kHz 61.31 -68.3 101.8 -43.2 493.5 -9.79
100 Hz 364.1 -70.4 452.5 -64.2 795.2 -36.9
NaCl 35 g/L 17.5 g/L 3.5 g/L
Frequency Impedance
($\Omega$)
Phase
(°)
Impedance
($\Omega$)
Phase
(°)
Impedance
($\Omega$)
Phase
(°)
100 kHz 12.79 -9.22 24.09 -4.69 105.0 -1.40
10 kHz 20.38 -38.7 29.99 -23.9 111.3 -8.37
1 kHz 86.78 -63.9 88.22 -56.3 165.2 -32.8
100 Hz 491.3 -68.5 469.3 -67.0 575.2 -58.5

電解質溶液に見られる周波数依存性は,電極と試料との接触面で発生する分極現象に起因するもので,電離したイオンが電極に到達し,電極表面に蓄積して薄膜を形成することで見かけの抵抗が大きくなる(Emmert et al., 2011).この分極は,物質の抵抗が小さいほど,また周波数が低いほど顕著になることが示されており(Schwan,1966Collet and Katsube,1973Kalvøy et al.,2011Emmert et al.,2011など),今回の結果と調和的である.

3.2.2 測定値から求めた比抵抗と理論値との比較

前節の結果からも分かるように,位相差が小さいほど分極の影響が小さいと考えられる.そのため,二極法による試料測定は一般に位相差が最小となる周波数で行われる(Henry et al.,2003Kahraman and Alber,2006など).本実験では,位相の大きさと比抵抗の関係についてさらに検討するため,KCl溶液,NaCl溶液の各試料について,測定値から求めた比抵抗と理論値(Table 1)とを比較した.測定は各試料について位相差が最小となる周波数(全て100kHz)で行い,測定回数は1 mol/L KClが2回,それ以外は3~6回である.その結果,測定値から求めた比抵抗と理論値との誤差は,比抵抗が高い(=位相差が小さい)順に1 mol/L KClが約6%,35 g/L NaCl が2.2~4.5%,17.5 g/L NaClが1.5~2.5%,0.1 mol/L KClが0.4~1.8%,3.5 g/L NaClが0.5~1.5%,0.01 mol/L KClが0.2~1.2%となり,位相差が小さい試料ほど理論値からの誤差も小さくなることが分かる(Fig. 5, 6).つまり,正確な比抵抗データを得るためには,できる限り位相差が小さい周波数で測定を行うことが重要である.本測定システムでは,位相差が1%以内のときに確度が±1%という結果となった.

Fig.5.

Difference between the measured (100 kHz) and theoretical resistivity compared with phase angle

図5. 測定値(100kHz)から求めた比抵抗の理論値からの誤差(%)と位相差の比較

Fig.6.

Relation between the measured (100 kHz) and theoretical resistivity

図6. 測定値から求めた比抵抗(100 kHz)と理論値との関係

3.3 地質試料を用いた交流インピーダンスの有効性検討(実験3)

3.3.1 試料表面の乾燥・湿潤状態の影響評価

砂岩(Berea sandstone,Rajasthan sandstone)および花崗岩(Aji granite)について,10分間の重量変化および乾燥重量のデータから水の蒸発量(%)を求めた.測定は3回実施し,その平均値をTable 5Aに示す.同様に,各条件で測定した比抵抗の比較結果をTable 5Bに示す.測定は,各試料について位相差が最小となる周波数(砂岩:100kHz,花崗岩:1kHz)で行った.比抵抗値は,砂岩が1回の測定結果,花崗岩は測定毎に値がややばらつくため,3回測定の平均値を用いた.また,乾燥防止を行わない条件での比抵抗測定は,値が安定しないため測定開始直後と10分経過後の結果を示す.

Table 5. Comparison of (A) water loss and (B) resistivity in the different sample surface conditions 表5. 各条件における(A)10分間の水の蒸発率および(B)比抵抗の比較
  (A) Water loss (%) (B) Resistivity ($\Omega \ \cdot $ m)
Wrap Parafilm Closed
container
None Wrap Parafilm Closed
container
None
(0 min)
None
(10 min)
Berea Sandstone 0.38 0.45 0.51 2.93 2.934 3.013 3.036 2.994 3.363
Rajasthan sandstone 0.46 0.59 0.79 3.00 7.040 7.620 7.788 7.769 8.556
Aji granite 0.66 3.14 6.55 17.65 109.1 218.7 228.7 190.2 689.1

その結果,砂岩については乾燥防止を行わなかった場合を除き,いずれの条件でも水の蒸発量は1%以内であった.一方,花崗岩についてはラップを巻いたときが最も蒸発量が少なく,乾燥防止策としてはラップが最も有効であった.しかし,比抵抗の比較結果を見ると,砂岩試料では条件による水の蒸発量に違いがなかったにもかかわらず,ラップを巻いたときの比抵抗が顕著に小さくなる.さらに花崗岩では,ラップを巻いたときの比抵抗はパラフィルム,密閉容器使用時の半分程度まで減少する.千葉・熊田(1994)は,試料表面に溶液の被膜が存在すると被膜を通して表面電流が流れ続け,測定した比抵抗が実際よりも低くなる可能性を指摘している.ラップを使用した場合,ラップと試料の間に存在する溶液中を選択的に電流が流れた結果,比抵抗が小さく見積もられたものと考えられる.一方,パラフィルムもラップと同様に試料に巻いて測定するが,比抵抗が小さくなる傾向は見られなかった.これは,パラフィルムが試料と十分に密着し,試料表面に付着した溶液の影響を受けにくい状態であることが予想される.

本実験の結果から,試料の乾燥および表面電流の影響を防ぐための方法として,パラフィルムを試料に巻いて測定するのが有効であると言える.以降の実験では,全て試料にパラフィルムを巻いて測定した結果を記述する.

3.3.2 二極法と四極法の比較

二極法と四極法で測定した比抵抗および位相差の周波数依存性について検討した結果をFig. 7に示す(測定回数は1回).間隙率の高い(>10%)砂岩試料(Berea sandstone,Rajasthan sandstone)および固結堆積物試料(Gray mudstone,Wedge sediments)では,二極法の場合,周波数が低いほど比抵抗,位相差ともに大きくなる傾向が見られた.これは,実験2でKCl溶液,NaCl溶液を測定したときと同様に,電極と試料の間に生じる分極の影響が,周波数が低いほど顕著になることを示している.一方,四極法の場合は,比抵抗,位相差ともに周波数を変えたときの値の変化は小さく,どの周波数においても接触抵抗の影響は小さいことが分かる.ただし,周波数100kHzにおいては二極法と四極法でほぼ同じ結果となった.これに対し,間隙率の非常に小さい(<1%)花崗岩や斑レイ岩では,二極法と四極法で周波数依存性に差は見られず,周波数100Hz~10kHzにおいて比抵抗,位相の変化は小さく,100kHzで位相差が大きく比抵抗が小さくなる傾向を示す.100kHzにおいて位相差が大きくなる原因は現時点で明らかではないが,それ以外の周波数で二極法,四極法ともに位相差が小さいのは,分極による抵抗成分に対して試料の比抵抗が十分に大きく,分極の影響をほとんど受けないためだと考えられる.

Fig.7.

Comparison of frequency dependence of resistivity and phase angle between two electrode and four electrode methods

図7. 二極法と四極法における比抵抗と位相差の周波数依存性の比較

地質試料の比抵抗測定において,二極法を使用したときの分極の影響については過去の研究でも指摘されており,Collet and Katsube(1973)Kahman and Alber(2006)は,1kHz以下の周波数で特に分極の影響が大きくなることを示している.これに対し,四極法を使用した場合には,10-3~103Hzの周波数域においてほとんど分極の影響がないという研究例もある(Börner and Schön,1995).今回の実験でも,間隙率の大きい試料については同様に,四極法の方が分極の影響が小さく,幅広い周波数での測定が可能だという結果が得られた.一方,間隙率が非常に小さい試料であれば二極法でも分極の影響が無視でき,信頼性の高いデータが得られることを示した.

3.3.3 地質試料の間隙率と比抵抗の関係

本実験に使用した試料の間隙率と,二極法および四極法で測定した比抵抗の関係をFig. 8に示す.比抵抗は,位相差が最も小さくなる周波数を選択し,花崗岩および斑レイ岩が 1 kHz,それ以外の試料は100 kHzで測定を行った.その結果,間隙率($\varphi$)と比抵抗($\rho $)は式(8)の累乗関数で表され,高い相関(r2= 0.97)が得られた.

Fig.8.

Relation between resistivity and fractional porosity

図8. 比抵抗と間隙率の関係

  
\begin{equation} \rho = 0.613 \times\varphi^{-1.12} \end{equation} (8)

試料の間隙率と比抵抗の関係については,過去に数多くの研究で議論されており(Archie,1942Boyce,1968Bussian,1983Worthington,1993Kahman and Alber,2006など),試料が電解質溶液で飽和されているとき,比抵抗あるいは試料の比抵抗と間隙水の比抵抗の比で表される地層比抵抗係数(Formation Factor)が間隙率と高い相関をもつことが明らかになっている.今回の実験結果から,交流インピーダンス法による比抵抗測定が,幅広い間隙率の試料に適用できると考えられる.

4. まとめ

本研究では,交流インピーダンス法による比抵抗測定の精度および地質試料測定における本測定法の有効性を検討するための実験を行った.

まず,市販の抵抗器を用いて装置の測定精度を確認したところ,10$\Omega $~1M$\Omega $の範囲でほぼ0.1%の誤差であり,装置の基本精度と同等の確度が得られた.次に,比抵抗が既知の電解質溶液(KCl溶液,NaCl溶液)を測定し,その周波数依存性について検討したところ,周波数が低いほどインピーダンス,位相差が大きく,また溶液の種類に関係なく比抵抗の小さい溶液ほど,位相差が大きくなる傾向が見られた.これは,試料と電極の間に生じる分極に起因するもので,周波数が低いほど,試料の比抵抗が小さいほど影響が大きくなるという過去の結果と調和的である.また,測定値から求めた比抵抗と理論値を比較し,位相差が小さいほど理論値に近い値を示すことが分かった.つまり,交流を用いた比抵抗測定においては,位相差ができる限り小さい周波数で測定することが重要だと言える.

地質試料を用いた実験では,まず,試料表面の乾燥・湿潤状態が測定結果に与える影響を検討した.その結果,試料表面の乾燥および試料表面に付着した溶液の影響を防ぐための方法として,試料にパラフィルムを巻いて測定することが有効であることを示した.二極法と四極法の比較では,間隙率の高い試料において四極法の方が接触抵抗の影響が小さく,広い周波数範囲での測定ができることが分かった.二極法の場合,間隙率の低い試料,あるいは間隙率の高い試料でも高い周波数(100kHz)であれば四極法と同じ結果になる.また,今回測定した試料において,比抵抗と間隙率の高い相関が得られたことから,交流インピーダンス法による比抵抗測定は,幅広い間隙率(0.3~67.3%)の試料に適用できると考えられる.

謝辞

本研究の実施にあたり,海洋研究開発機構高知コア研究所 阿波根直一氏,および倉本敏克氏(現 株式会社マリン・ワーク・ジャパン)には,実験環境の整備に尽力いただいた.また,査読者の斎藤実篤博士(海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター)および笠谷貴史博士(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)からは本稿の内容について有益なコメントをいただいた.ここに記して感謝の意を表する.

参考文献
 
© 独立行政法人海洋研究開発機構
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