2017 年 25 巻 p. 13-21
地球環境情報に関連しうる新たな科学知を実利用化・普及させる目的で,「どのようなデータマーケットプレイスならば,そこに参加する民間事業者のインセンティブとなり,かつマーケットプレイスの運用主体が財政的に自立する方向を目指せるか」についての企業のニーズを調査した結果,データを利用するエコシステムのプレイヤーのうちデータ監査者,データ・コミュニティ,及びベンチャー投資以外はプレイヤーになりうる企業が存在することが判った.この結果を踏まえたマーケットプレイスの設計と考察を報告する.鍵となるのは,マーケットプレイスで取引されるデータセットにプライバシーデータが含まれていない事を認証する「個人情報不包含認定」の認証制度のデファクトスタンダード化が成功するかどうかである.ユーザサポートとして,(1)データ漏洩対策,(2)データ及び関連するアプリケーションの売買やマッチングの契約のための決済機能,(3)成功事例の提示,及び(4)メリットの提示を含む広報・営業活動が必要である.
地球観測データや社会データを活用した情報をさまざまな社会便益分野の意思決定者に包括的に提供することを目指したGEOSS(Global Earth Observation System of Systems,全球地球観測システム)の構築が2003年地球観測サミット(閣僚級会合)で支持された.このGEOSSに対する日本の貢献という位置づけのもと,2006年度より「データ統合・解析システム」(DIAS)の研究開発が国家基幹技術「海洋地球観測探査システム」の一翼を担う文部科学省プロジェクトとして開始された.2011年度からはDIAS第II期計画として「地球環境情報統融合プログラム」(DIAS-P)が開始された.これは,様々な分野の利用者(ステークホルダー)が,超大容量で多様なデータ・情報を協働して統融合し,新たな価値を創出できる情報基盤及びそれを用いた実利用体制のプロトタイプを構築するとともに,地球規模課題解決に向けて,科学的先端性を持続的に発揮し,実利用によって公共的利益を実現できる運用体制を設計・提案することを目的としている(e.g., 北本ほか,2015).DIAS-Pの後継として2016年度から「地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラム」が開始された.
本稿では,DIAS-Pで行われた,運用体制の設計・提案のための調査を通して得られた知見のうち,企業の需要に基づいたデータ・マーケットプレイスの設計について報告する.ここではマーケットプレイスを「提供者と利用者をマッチメイキングするネット空間上のプラットフォーム」と定義して,経済学的・抽象的な概念としてのマーケット(市場)とは区別することとする.ここで,民間事業者はデータの利用者のみならず提供者にもなりえることに留意されたい.
DIASは観測データ等をスーパーコンピュータに入力して,その出力データを超大容量の解析空間で解析する垂直プラットフォームであるとともに,出力データを含む多種多様なデータを検索し,仲介業者がデータ使用許諾を手配する水平プラットフォームでもある (Fig. 1).株式会社アバージェンス(2012, P.38)はDIASの果たすべき役割としてマーケットプレイスを提案しているが,その内容及び設計については提案していない.
Overview of functions of DIAS. DIAS does not possess its own super-computer but utilize other organization's ones under cooperation.
図1. DIASの機能の概要.ただし,スーパーコンピュータ(スパコン)はDIASが保有するものではなく外部機関との連携で利用される.
さらに,DIASは開発体制を含む情報基盤である「実利用化ワークベンチ」上でソリューションをプロトタイピングしてから現業機関や自治体あるいは民間企業に実装することを目指すインキュベータでもあり,コンシェルジュ,技術支援,及びファンドの機能をも有する.DIASを通して創造される新たな科学知は実利用化によって公共的利益の創造にも貢献することが期待されているが,従来はこのファンドに採択された研究者が利用するのみであった.このファンドの公募には,異分野のデータを扱う研究者同士が予め自らマッチングして結成したチームが応募するので,DIASでデータを用いてソリューションを開発するのは公募に採択された研究者などのチームに限られている.
このように,DIASは,水平プラットフォームとしては利用者の母集団が限られており,垂直プラットフォームに重点を置いたインキュベータとなっている.それに対し,本稿の提案はより広く民間事業者にも利用を促進するため,より広い利用者同士のマッチングを目指すものである.DIASにアーカイブされているデータは地球環境に関するものであるため主に地理情報である.これらのデータを社会に還元するため,イノベーションにおける技術の普及過程に見られるような民間の経済的な活力を活用したい.そこでは,民間の経済的インセンティブ,すなわち買い手側のみならず売り手側のインセンティブも喚起するような仕組みが望ましい.しかし,仕組みを作っても需要がなければインセンティブを喚起できない.そこで,需要そのものがあるのかを確認する必要がある.そこで,マーケットプレイスの設計と提案をするための基礎調査を行ったので,その結果を本稿にて報告する.
個々の受益者の負担が必ずしも明確に分割できない社会的便益を指向した場合,採算性は問題にならない.そのような場合のDIASの運用体制の設計について角田・西村(2013)は論じたが,DIASを通して創造される新たな科学知は実利用化するにあたり公的資金のみでは普及しないので,本稿では民間ビジネスのインセンティブを活用した場合について論じる.また,DIASにアーカイブされているデータは公開されているので通信コスト以外は無償で入手できるため,DIASにアーカイブされていない例えば企業などの秘匿データと組み合わせて相関解析や加工(例えば数式で変換もしくはシミュレーションに入力)をすることにより初めて経済的付加価値が生み出されうる.そこで,データそのものというよりは異種のデータを組合せるためのデータのマーケットプレイスの需要が企業にあるのかについて調査した.
東(2013)は,データのマーケットプレイスとして5例報告しているが,いずれも地理情報を主としたものではない.つまり,先行事例として地理情報以外のデータについては既にデータのマーケットプレイスは存在するので,地理情報データについても同様の需要があるか要検証である.さらに,東(2013)によると,Application Program Interface (API)を集めたワンストップAPIマーケットプレイスとしてMashapeというものがあり,API提供者がMashapeの請求システムを使って課金する場合に,売上の6~30%の手数料を徴収する仕組みとなっている.すなわち,このような有償の仕組みであってもマーケットプレイスを利用したいという事例があるということである.本稿では,マーケットプレイスの運用主体が財政的に自立した仕組みを目指すので,「無償なら使う」という場合は需要とは呼ばないと定義する.
経営学の戦略論の文脈におけるエコシステムの概念については釜池(2012)が概観している通り,「企業はもはや1社だけでビジネスを展開している訳ではなく,関連するパートナー企業と共にビジネスを発展させていかなければ立ち行かない,という観察に基づいた認識」が共通している.本稿では,エコシステムを「互いに関連するパートナー企業群とそれらの間を持続的に収益が循環する取引関係」と定義する.
林(2013,2014)によると,オープンデータのエコシステム(Fig. 2)においてデータの流通が,コミュニティ内での共有から,仲介業者による仲介を経て,マーケットプレイスに発展する例が見られる.マーケットプレイスの提供はFig. 2の段階でもデータ・ブローカー(仲介業者)が担う.初めからFig. 2のエコシステムにあるデータ提供者,データ監査者,及びデータ・インテグレータ等が存在したわけではなく段階的に分業が進化・深化して最終的にエコシステム内で多様なプレイヤーによる分業が経済的に成り立つようになるということである.Fig. 2の段階になると分業しないと逆に不経済になるというインセンティブが働く.日本の現状はFig. 2の段階にはまだ遠いがFig. 2の段階に近い将来到達することを見越して,また,Fig. 2の段階に業界を誘導することを期待してマーケットプレイスの仕組みを提案したい.
喜連川(2012)によるとサイエンスデータにおいても,エコシステムのエレガントかつ実効的なデザインがサイエンスの進展上強く求められる.
2.1 方法地球環境データ及び社会データについて,公共データのみならず民間事業者の非公開データも含めて,DIASがデータ提供者とデータ利用者とのマッチメイキングを促すマーケットプレイスの役割を果たすためにどのような機能拡張や制度・体制の整備が必要か,まだDIASを使ったことがない民間事業者8社を対象にヒアリング調査を行った.これらとは別にヒアリングに応じていただけなかった民間事業者が15社あった.ヒアリングに応じていただいた民間事業者8社の内訳はITソリューション3社,消費者向けインターネットサービス(webメディア)2社,販促・人材派遣(複合メディア)1社,市場調査1社,食品小売1社である。
2.2 結果食品小売1社からは需要を聞き出せなかったが,公的研究機関の研究データのみならず,民間事業者の取得したデータを公開ではなく独占的に,ないしはメンバー限定で,利用するためのマーケットプレイスの需要があった(Table 1).また,需要は聞き出せなかったものの関心の高かったITソリューション企業が1社あった.
当該企業の業種 | DIASの使い方の可能性 | 必要となるデータ | ユーザサポート |
---|---|---|---|
ITソリューション |
・ソリューションビジネス ・DIASにクラウドとしてインフラを提供 ・データ提供者にはならない |
POSデータ(Point of Sales データ,すなわち店のレジで販売・支払に関する情報) | ハッカソン的なイベントを開催し,セミナー・展示会のような広報・宣伝活動を盛んに行いDIASの知名度を上げる. |
消費者向けインターネットサービス(Webメディア) |
・オープンデータの動向の一つとして注視 ・DIASにインフラとデータを提供 ・収益性が高いならデータのマーケットプレイスの運用をDIASから当該企業が請負う |
当該企業が持つビッグデータも候補 | DIASのもつインフラを堅牢化する. |
市場調査 |
・市場動向を地球シミュレータも用いて解析・可視化 ・DIASにデータを提供者として提供 |
人の動向データ,気象データ | プライバシー流出の責任を追及されないようデータの匿名性を確保したうえで,マーケットプレイスにデータを流通する. |
Webメディア | ・DIASのデータと自社データを組み合わせるためのマーケットプレイス | 気象・環境データ | ビッグデータへの取組みへの支援 |
ITソリューション | ・位置情報ビッグデータの「見える化」ソリューションサービス | 人の移動データ | 当該企業が現在参画している総務省の地方創生プロジェクトとの交通整理 |
販促・人材派遣(複合メディア) | ・コンシューマ向けインターネットサービスにおけるソリューションを提供するためのデータをDIASから取得(購入) | いろいろなデータ | ある程度のDIASの構想がまとまり,当該企業がユーザとして活用できる状態 |
ただし,データの可視化やデータを用いたソリューションを自前でコストをかけずに用意できる事業者は限られているため,このマーケットプレイスは,データのみならず,関連するアプリケーションも提供側と利用側をマッチングして流通させるようなものが望まれている.これにより,これまでハードルが高かった小規模な民間事業者にとってDIASがより利用しやすくなることが期待される.なお,このヒアリングにあたり判明したDIASの使い方,そのために必要となるデータやユーザサポートについては次のTable 1に纏める.この表にあるとおり,市場調査企業は地理情報の時系列である人の動向データをFig. 2のデータ提供者として提供したいが,プライバシーの流出に伴う責任追及を懸念している.また,ITソリューション企業及びwebメディア企業のうち各1社はDIASにインフラを提供するデータ・インテグレータもしくはデータ・サービス・イネーブラ(Fig. 2)としてクラウド・ビジネスに参画したい.後者はDIASが堅牢ならデータ提供者になりえるし,収益性が高いならデータ・ブローカー(マーケットプレイスの運用)をDIASから請負いたい.Webメディア企業のうち他の1社はFig. 2のデータ利用者として自社のデータと組み合わせて使いたい.ITソリューション企業のうち他の1社はFig. 2のサービス提供者として「見える化」ソリューションサービスに参画したい.複合メディア社はDIASからデータを購入して加工してからコンシューマ向けインターネットサービスにおけるソリューションを提供したい.つまりFig. 2のデータ監査者,データ・コミュニティ,及びベンチャー投資以外にはプレイヤーとなりうる企業が存在する.
マーケットプレイスの運用主体が財政的に自立できるほど充分に,民間事業者からマーケットプレイスの運用主体に支払っていただくには,マーケットプレイスを民間事業者が利用するインセンティブを促すユーザサポートが必要である.前節の調査の結果,対象とした企業にはFig. 2のエコシステムのデータ監査者,データ・コミュニティ,及びベンチャー投資の役割を果たすものが見当たらなかったことを踏まえて,民間によるDIAS等の使い方として,データ・ブローカー及びデータ・インテグレータのみならず見当たらなかったプレイヤーの機能を内包するデータマーケットプレイスを介したものを提案する.データ・コミュニティは各企業・組織が単体で役割を果たし得るものではないが,データ監査者の役割についてはマーケットプレイスの設計の際に含めるものとする.なお,サービス提供者に対するベンチャー投資については,マーケットプレイス事業が立ち上がってから機能を追加するか否か判断するものとするが,マーケットプレイス事業そのものに対するベンチャー投資の出口戦略は事業モデルの節で後述する.
3.1 仕様データマーケットプレイスとは,「データの流通売買を可能にするプラットフォーム」と定義する.具体的には,商材として“データ”を売買するインターネットショッピングサイトである.データの可視化やデータを用いたソリューション等の関連するアプリケーションも提供側と利用側をマッチングして流通させるようなものが望まれているので,ここで提案するものは,データの売り手(データ提供者)と,データの買手(ユーザ)の間を仲介することが基本となるが,データを分析するデータサイエンティスト,及びデータを可視化するツール等を提供するソリューション提供者も同時に斡旋仲介するもので,主な機能としてはデータの流通,データセットの出自の保証,及び会員間のマッチングがある.なお,八田(2015)のオープンデータに関する日本,米国,及び英国の比較研究によると,現時点でのオープンデータ活用事例は(1)可視化と(2)ソリューション提供に大別でき,前者の大半は非営利目的であり,営利目的としては後者の事例が多い.
(1) データの流通:不正流通の防止DIAS等のデータ,民間事業者データの流通販売を行い,オープンデータも取扱う.有料データについては「利用できる期間」がユーザに販売される.データの削除はデータ提供者の任意による.但し,利用契約期間が残っているユーザに対してはデータ提供者が個別に対応する.「データに関する権利を含んで販売する」場合はその旨明記する.データセットは原則としてダウンロードは許可しない.マーケットプレイス上にデータ解析空間とソリューション開発/実行環境を用意し,これらの空間で購入したデータを使用させる.これにより,データセットの再販と不正流通を防止する.
(2) データセットの出自の保証ヒアリングに応じていただいたTable 1の市場調査企業からの回答にある通りデータ提供者となりえる企業には「提供する人の移動(地理情報のオイラー的時系列)や夏バテの発生頻度の地理分布やウェラブル端末から得られた健康状態等のラグランジュ的移動時系列データにプライバシーにかかわる情報が含まれていたら責任を追及される」という懸念があった.同様の懸念はマーケットプレイスを運営する主体にも発生することが予想される.データ流通に際して懸念される「プライバシーの流出」問題を保証・免責するために,マーケットプレイスが独自に「個人情報不包含認定」をデータセットに付与する認証制度を導入する.これはFig. 2のデータ監査者に相当する.これによりデータ提供者は社会に対して説明責任が果たせるため,データ販売がしやすくなる.同時に,ユーザに対して購入対象データにプライバシーが含まれていない事が保証されることで,安心してデータ解析とその結果の利用が行える.「個人情報不包含認定」は,データセット販売画面とメタデータに付与される.
(3) 会員間のマッチング会員種としてはTables 2,3のデータ提供者,ユーザ,データサイエンティスト,ソリューション提供者,及び一般準会員の5種を提案する.
種別 | 内容 | 初年度 | 次年度以降 |
---|---|---|---|
データ提供者 |
・データマーケットプレイスに販売目的のデータをアップロードする組織 マーケットプレイス独自の審査に合格しなければならない(公序良俗に反する組織,反社会的組織でないことを審査する) アップロードするデータはその詳細を予めマーケットプレイスに報告しなければならない |
L1 | L1 |
ユーザ |
・任意の組織/個人 マーケットプレイスの会員登録(無料)が必要 プロファイルの記述が必須 データ購入意思をデータ提供者に告げ,データ提供者が購入の許可を出す.購入の許可はデータ提供者独自の判断による |
L2 | Free |
データサイエンティスト |
・データ提供者/ユーザから提供されるデータの分析・解析を行う組織/個人 データサイエンティスト協会等の認定による有資格者を原則とする マーケットプレイスの会員登録(無料)が必要 プロファイル記述が必須 データ解析は原則としてマーケットプレイス上で行う |
L1 | L1 |
ソリューション提供者 |
・データ提供者/ユーザから提供されるデータを可視化するためのプログラム開発を行う組織/個人 マーケットプレイスの会員登録(無料)が必要 プロファイル記述が必須 プログラム開発/実行は原則としてマーケットプレイス上で行う |
L1 | L1 |
一般準会員 | ・データマーケットプレイスに関心のある,上記4種別になり得る組織/個人 | Free | Free |
機能 | データのアップロード,非公開/公開設定,ダウンロード許可/不可設定,メタデータ作成,価格設定,個人情報不包含認定審査 | ユーザプロファイル登録,データセット検索,データサイエンティスト検索,ソリューション提供者検索,データのダウンロード,購入(請求書発行)・決済処理,ubiDIAS利用 | データ解析空間利用 | ソリューション開発空間利用 | ソリューション実行空間利用 |
---|---|---|---|---|---|
データ提供者 | $\bigcirc $ | $\bigcirc $ | $\times $ | $\times $ | $\times $ |
ユーザ | $\times $ | $\bigcirc $ | $\times $ | $\times $ | $\bigcirc $ |
データサイエンティスト | $\times $ | $\bigcirc $ | $\bigcirc $ | $\times $ | $\times $ |
ソリューション提供者 | $\times $ | $\bigcirc $ | $\times $ | $\bigcirc $ | $\times $ |
このデータのマーケットプレイスには次の施策が必要である.
(1) 個人情報不包含認定認証制度提供されるデータセットにプライバシーデータが含まれていない事を認証するマークである「個人情報不包含認定」の認証制度のデファクトスタンダード化を目指す.このマークが成功するかどうかがデータ流通ビジネスの鍵となる.マーク付与はマーケットプレイスの認証による.提供されるデータは予めマーケットプレイスにデータの詳細が提出されなければならない.
(2) データ漏洩対策不正なアクセスによりデータセットが漏洩した場合でも,データが暗号化されていれば不正利用は防げる.そのため,全ての有料データセットは暗号化されて保管されるべきである.漏洩したデータが万が一,復号化された場合でも,そのデータが不正データかどうか,どのような入手経路で漏洩したのかのフットプリントがデータセットもしくはメタデータにあるべき.これらの施策により,データ漏洩が発生した場合に追跡対応できるようにする.
(3) データ購入等決済機能データ購入と各種契約行為に伴う決済機能は,クレジットカード決済又は銀行振込はマーケットプレイス上で実行できるようにする.これにより利用者各位の利便性を大幅に高める.決済行為は海外ユーザを考慮して原則として日本語/英語の対応を行う.為替レートの換算タイミングについては今後の検討課題とする.
(4) 成功事例データマーケットプレイスの有用性を広く喧伝するためには,成功事例の作成が大切である.初年度に協力していただくデータ提供者,ユーザ,データサイエンティスト,及びソリューション提供者を集め,成功事例を作成する必要がある.この過程でマーケットプレイス機能の整備と充実を図る.
(5) 広報・営業活動データマーケットプレイスの発足,参加のメリット及び,事例を積極的に告知あるいは提示していく必要がある.折々のメディア露出も重要であるが,ハッカソン的な地道な活動を通して広く深く広報活動を行う必要がある.
3.3 事業モデルの選択肢DIASの運用主体が,当該データマーケットプレイス事業を立上げてから売却する出口戦略を前提とする「新規ビジネスモデル」と,会員と共同開発した成果の使用許諾をシェアする「産業育成モデル」の2案がある.前者はDIASの運用主体がデータマーケットプレイス事業を売却することを想定しているが,個人情報不包含認定審査の機能は将来的には独立した第三者機関の機能とするため,事業売却の対象とはしない.2案のうち前者の方がハイリスク・ハイリターンであるが,後者は共同開発参画企業を公募しても応募があるか現状では未知数である.両事業モデルの相違点を次のTable 4及びFig. 3, 4に纏める.
新規ビジネス | 産業育成 | |
---|---|---|
協業民間企業 | 不要 | 要(データ提供者を公募する) |
事業計画作成 | 独自に作成 | 協業相手と調整 |
設備 | 特定企業にとらわれない | 協業相手の設備が望ましい |
技術開発使用許諾 | 独占使用許諾 | 協業相手との共同使用許諾 |
出口戦略 | 事業売却 | 協業相手への事業委譲 |
メリット | 上記売却の金額が大きくなる可能性がある(ハイリターン) | 出口戦略に対する安心感がある(ローリスク) |
デメリット | 事業が失敗する可能性に配慮する必要がある(ハイリスク) | 現状で公募に応募する企業が見込めない.事業責任が曖昧になりやすい. |
Model “New Business.” First, find “data providers” from enterprises with their own data distributable to be combined with DIAS data. Then, find “users” to use both data.
図3. 「新規ビジネス」モデル.まず,DIAS等のデータと組み合わせる独自データで且つ,流通できるデータを持つ民間事業者を「データ提供者」として選び出す.次に,DIAS等のデータと「流通できるデータ」を使う“ユーザ”を選び出す.
Model “Industry Incubation.” First, find “data providers” from enterprises with their own data distributable to be combined with DIAS data. Then, find “users” to use both data.
図4. 「産業育成」モデル.まず,独自データを持ち且つ,マーケットプレイス運営に意欲のある民間事業者を選び出す.選ばれた民間事業者の環境にマーケットプレイスを構築する.DIAS等はこのマーケットプレイスにデータを提供する.DIAS等のデータとマーケットプレイス運営事業者が提供するデータを使う“ユーザ”を選び出す.
「個人情報不包含認定」認証のためのデータ審査要員は,産業育成/新規ビジネスのいずれのモデルでも将来的には独立した第三者機関とするため,スペシャリストとして養成する.会員獲得目標数及び要員数は次のTables 5,6に示すが,データ提供者(社)以外は両モデルに共通である.「産業育成」モデルの場合,事業の開始にあたりデータ提供者を協業民間企業として公募するので,データ提供者はFig. 4のDIASマーケットプレイスと一体化しているため図中に記載されておらず,公募の時点で数が固定されるが,公募で採択された企業は自社のデータを提供することがインセンティブとなるために積極的に販売推進するので,「新規ビジネス」モデルの場合と同程度にユーザ,データサイエンティスト,ソリューション提供者,及び一般準会員を獲得することが期待できる.
会員種 | 初年度 | 2 | 3 | 5年目 |
---|---|---|---|---|
データ提供者(社) | 5 | 50 | 100 | 3000 |
ユーザ(社・人) | 10 | 600 | 1000 | 50000 |
データサイエンティスト(社・人) | 10 | 200 | 500 | 3000 |
ソリューション提供者(社・人) | 50 | 500 | 800 | 15000 |
一般準会員(社・人) | 1000 | 3000 | 4000 | 100000 |
職種 | 初年度 | 2 | 3 | 4 | 5年目 |
---|---|---|---|---|---|
営業/広報/データコンシェルジュ | 1 | 2 | 2 | 5 | 5 |
技術支援 | 2 | 4 | 10 | 20 | 20 |
データ審査 | 2 | 4 | 8 | 10 | 10 |
合計 | 5 | 10 | 20 | 35 | 35 |
初年度にTable 1に掲載の企業6社のうち5社がデータ提供者となるならば,その各データ提供者に対して2ユーザのマッチングが見込まれ,その各ユーザに対し1データサイエンティストが必要と見込まれるので初年度のユーザ及びデータサイエンティストの獲得目標数はTable 5のとおりとなる.マーケットプレイスでユーザとのマッチングを通して受注できる可能性があれば,実績のない一企業が単独でマーケットプレイスを運営している場合とは異なり,安心してTable 5に記載した数の企業や個人がソリューション提供者として初年度から会員登録してくることが見込まれ,成功事例を広報することにより評判が評判を呼び次年度以降も会員獲得数は増加が見込まれる.なお,一般準会員数については審査を経ずに自由に登録できるので根拠を持たない純粋な目標値であるが,それ以外他の会員種については,Table 6の要員数の能力で処理できる会員数を考慮して,Table 5の2年目から3年目にかけての会員獲得目標数の増加率が初年度から2年目にかけての増加率よりも小さく抑えてある.この会員獲得数の抑制は登録申請にあたっての審査基準を厳しくすることにより可能である.なお,Table 6の要員数は会員に対するサービス自体をすべてオンラインで処理すること,その処理におけるユーザの稼働率がそれほど高くないと予期されること,さらに,ランニングコストを考慮すると人員を極端に増やせないことを反映した数字である.
DIASを通して創造される新たな科学知を実利用化・普及させる目的で,「どのようなデータマーケットプレイスならば,そこに参加する民間事業者のインセンティブとなり,かつマーケットプレイスの運用主体が財政的に自立する方向を目指せるか」を企業にヒアリング調査して,その結果,データを利用するエコシステムのプレイヤーのうちデータ監査者,データ・コミュニティ,及びベンチャー投資以外はプレイヤーになりうる企業が存在することが判り,その結果を受けて「新規ビジネス」モデルと「産業育成」モデルを提案した.いずれのモデルの場合でも鍵となるのは,データ監査者として,提供されるデータセットにプライバシーデータが含まれていない事を認証するマークである「個人情報不包含認定」の認証制度のデファクトスタンダード化が成功するかどうかである.さらに,次の施策が必要である.
本調査を実施するにあたり,企業の方々にヒアリングやアンケート調査等に協力していただき感謝いたします.本調査は文部科学省の地球環境情報統融合プログラムの下に実施した調査の一部に基づいています.