医学検査
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技術論文
クレアチニン試験紙の偽反応を起こす要因についての検討
林 紀子林田 理沙竹平 歩美佐々木 彩松本 淳子
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2017 年 66 巻 3 号 p. 203-211

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Abstract

近年,クレアチニン試験紙が開発され,随時尿での尿中蛋白/クレアチニン比(以下P/C比)が試験紙で容易に測定出来るようになった。しかし他の項目同様,日常検査において定量値と大きく乖離する偽反応(偽陽性,偽陰性,異常呈色)にしばしば遭遇する。これまでクレアチニン試験紙の偽反応として,ヘモグロビンやミオグロビン,シメチジンの服用等の報告がなされている。今回われわれは,クレアチニン試験紙法における偽反応を示した検体を用い,その原因追究を行ったところ,偽高値例では従来の報告通りシメチジンの服用が確認されたが,偽低値例においてはこれまであまり報告のない着色尿や,アルカリ尿で多く起きることが確認できた。そこで,着色尿については測定機器の波長特性,アルカリ尿についてはpHによる試験紙の呈色への影響を検討した。結果は,着色尿では異常な波長特性を示し,pHではアルカリ性に傾くほど半定量値は偽低値を示すことが判明した。とくにpH 9.0以上では全ての尿で2ランク以上低値となった。今回の検討から,クレアチニン試験紙法に偽低値を起こす要因として,着色尿とアルカリ尿が関与するものと考えられた。

尿検査は尿の濃縮や希釈の影響を受けるため,クレアチニン補正が行われている。近年,尿試験紙法においてもクレアチニン試験紙が開発され,さらに従来の蛋白質試験紙部分を高濃度領域とアルブミンに特異的な低濃度領域で測定し,P/C比を演算する尿試験紙が商品化され,その有用性も報告されている1)~4)。しかし,尿試験紙法は偽反応(偽陽性,偽陰性,異常呈色)が多い検査でもあり,クレアチニン試験紙においても定量値と比べて大きく乖離する検体にしばしば遭遇する。そこで乖離検体に注目して検討を行い,クレアチニン試験紙の偽反応を起こす偽低値要因について,新たな知見を得たので報告する。

I  対象および方法

1. 対象

平成21年2月~3月,平成22年5月~6月,平成24年1月~2月の間に当院にてクリニテックアトラスXL(SIEMENS)を使用して尿定性検査と尿蛋白定量検査を行った353例を対象とした。平成22年5月~9月に提出されクリニテックアトラスXLで「Dark Yellow」「Orange」「Red」に判定されたものを着色尿とし,29例を対象に検討を行った。

また,アルカリ尿に関しては平成23年12月~平成24年9月に提出されたpH 8.5以上のアルカリ尿169例,細菌尿6例を対象とした。

2. 方法

クレアチニン半定量は銅-クレアチニン結合物のペルオキシダーゼ様作用を原理としたアトラス試薬カートリッジPRO12(SIEMENS)を用いて,クリニテックアトラスXL(SIEMENS)で測定した。クレアチニン半定量の評価は本試験紙法の分類に従い10,50,100,200,300 mg/dLの5段階で行った。

評価基準としたクレアチニン定量は,オートミズホCRE(N)(ミズホメディー)を用いてARCHITECT C8000(東芝メディカルシステムズ)で測定した。定量値の評価は24.9以下,25~74.9,75~149.9,150~249.9,250 mg/dL以上の5段階とした。

各段階において両者が完全に一致した場合を完全一致率,±1ランク内で一致した場合を±1ランク一致率として算出した。

尿のpH調整用にpHメータAS-211(ASONE)を用いた。

II  結果

1. クレアチニン半定量値と定量値の比較

対象群351例のクレアチニン半定量値と定量値の比較結果をTable 1に示した。完全一致率は62.0%,±1ランク一致率は97.2%であった。2ランク以上の乖離を認めた10例中4例の半定量値は定量値より高値を示し,6例は低値を示した。前者の4例のうち3例で胃薬のシメチジンの服用が確認された。逆に,半定量値が定量値より低値を示した6例のうち3例が赤~橙色の着色尿,2例は強アルカリ尿であった。また,1例の原因は不明であった。

Table 1  クレアチニン半定量と定量値の比較
Cr定量値(mg/dL)
24.9以下 25~74.9 75~149.9 150~249.9 250以上
Cr半定量値(mg/dL) 10 22 56 1 3 1 83
50 5 100 15 120
100 13 68 8 1 90
200 16 25 4 45
300 2 2 7 4 15
27 171 102 43 10 353

完全一致率62.0%,±1ランク一致率97.2%

2. 偽低値を起こす要因についての追加検討

1) 着色尿に関する検討

① クレアチニン半定量値と定量値の比較

着色尿29例のクレアチニン半定量値と定量値の比較結果をTable 2に示した。完全一致率は13.8%で±1ランク一致率は44.8%と低く,完全一致の4検体を除いて,半定量値は定量値より低値傾向を示した。

Table 2  着色尿におけるクレアチニン半定量の比較
Cr定量値(mg/dL)
24.9以下 25~74.9 75~149.9 150~249.9 250以上
Cr半定量値(mg/dL) 10 2 3 4 3 12
50 5 2 1 8
100 1 3 4
200 2 2 4
300 1 1
0 2 9 8 10 29

完全一致率13.8%,±1ランク一致率44.8%

② クレアチニン試験紙の波長特性

試験紙の呈色を自動分析装置で測定する際に,尿の色が干渉している可能性が示唆されたため,クレアチニン試験紙の波長特性をSIEMENS社(以下S社)に依頼した。

クリニテックアトラスXLの測定原理は光電反射法で,クレアチニン試験部分は主波長,副波長の2波長を用いて測定を行っているとのことだが,その波長やアルゴリズムについては非公開である。

10,50,100,200,300 mg/dLでのクレアチニンコントロールの波長特性をFigure 1に示した。クレアチニンの呈色反応は低濃度域が黄色系(650 nm前後),高濃度域が緑色系(550 nm前後)に変化するため,これらの波長に注目した。低濃度域では黄色系/緑色系波長の差は小さく,高濃度域では緑色系に対して黄色系波長が低くなる。つまり差が大きくなる傾向を示した。そこで,当院で測定した凍結保存の着色尿19検体をS社が分析したところ,13検体の測定が可能であった。その中で,検体No. 4は当院で測定した値が再現できなかったが,その他は1ランク以上の測定誤差となった。濃度ごとに着色尿の定量値とコントロールの波長特性をFigure 2に示した。2ランク以上の乖離検体(No. 3, No. 5, No. 12, No. 19)では,黄色系と緑色系波長の差が低値を示し,コントロールとは異なる波長特性を示していた。各検体の緑色系波長を550 nⅿ,黄色系波長を650 nmと仮定し,その差をTable 3に示した。定量値300付近の検体の550 nm–650 nmの差に注目すると,コントロールは284.6,完全一致検体No. 16は226,乖離検体No. 19は43で,乖離する検体ではコントロールよりも小さい差になっていた。

Figure 1 

コントロールのクレアチニン波長特性

Figure 2 

着色尿における波長特性

Table 3  緑色系波長(550 nm)と黄色系波長(650 nm)の差
定量 定性(当院) 550 nm 650 nm 550–650差
Cont 10 10.2 10 657.8 621.4 36.4
Cont 50 52.3 50 651 565.8 85.2
10 71.6 10(10) 1ランク一致 555 542 13
Cont 100 104.5 100 616.4 444.6 171.8
5 98.5 10(10) 乖離 411 348 63
14 131.5 50(10) 1ランク一致 518 402 116
18 99.2 50(50) 1ランク一致 576 437 139
Cont 200 204 200 550.6 289.8 260.8
4 240.8 200(10) 完全一致 373 215 158
12 159.9 50(10) 乖離 520 375 145
Cont 300 308 300 486.8 202.2 284.6
3 415.6 10(10) 乖離 147 272 −125
11 290.9 200(200) 1ランク一致 452 214 238
13 364.3 200(100) 1ランク一致 389 185 204
15 1,115.5 ≥ 300(200) 完全一致 240 95 145
16 527.6 ≥ 300(≥ 300) 完全一致 398 172 226
17 393.0 ≥ 300(100) 完全一致 365 155 210
19 377.7 50(50) 乖離 915 872 43

③ クレアチニン試験紙の目視法による判定

呈色試験紙の写真を用いて,当院一般検査担当技師5名の目視判定(近似値法)結果をFigure 3に示した。若干の個人差はあるものの,分析器の測定値と乖離することはなく,目視法を用いることでNo. 5やNo. 13のように定量値との乖離を改善できた検体もあった。しかし,No. 3は尿の色の影響により判定不能,No. 18では1ランクから2ランク差が生じた。

Figure 3 

クレアチニン試験紙の目視による判定

2) アルカリ尿に関する検討

① 強アルカリ尿におけるクレアチニン半定量値と定量値の比較

pH 8.5以上の強アルカリ尿169例のクレアチニン半定量値と,定量値の比較結果をTable 4に示した。完全一致率は28.4%,±1ランク一致率は84.0%となり,その中で26例では半定量値が定量値より低値を示し,1例で半定量値が高値を示した。

Table 4  強アルカリ尿におけるクレアチニン半定量と定量値の比較
Cr定量値(mg/dL)
24.9以下 25~74.9 75~149.9 150~249.9 250以上
Cr半定量値(mg/dL) 10 22 72 15 6 115
50 25 20 5 50
100 1 2 3
200 1 1
300 0
22 98 36 13 0 169

完全一致率28.4%,±1ランク一致率84.0%

② アンモニア水による検討(N = 12)

尿にアンモニア水を添加して,pH 7.5~10.0に調節した試料のクレアチニン半定量値の変動をFigure 4に示した。pHがアルカリに傾くほど低値を示し,pH 9.0以上になるとほぼ全ての尿で2ランク以上の低値となった。

Figure 4 

pHの影響(アンモニア水)

③ 細菌尿による検討(N = 6)

細菌尿を放置して尿を意図的にアルカリ化させ,クレアチニン半定量値の変動をFigure 5に示した。アンモニア水と同様に,pHがアルカリに傾くほど低値を示し,pH 8.5以上になると全ての尿で2ランク以上低くなった。一方,アルカリ化した尿に30%酢酸を添加し,pHを7.5以下に調節すると定量値に近い値を得ることができた。

Figure 5 

pHの影響(細菌尿)

④ 各pHでの試験紙の呈色

アンモニア水の添加により,アルカリ化した尿の試験紙呈色を確認した。各pHにおける試験紙の呈色をFigure 6に示した。尿をアルカリ化させるほど呈色は薄くなり,定量値の150 mg/dLよりも低値を示し,30%酢酸でpHを酸性に調節すると呈色は改善され,定量値に近い値を得ることができた。

Figure 6 

pHの違いによる試験紙の呈色

III  考察

尿中の1日蛋白排泄量を正確に把握することは,腎疾患の重症度や活動性を判断する上できわめて重要である。近年クレアチニン試験紙の開発により,尿試験紙でP/C比が測定できるようになった。しかし,尿試験紙法は偽反応(偽陽性,偽陰性,異常呈色)が多い検査でもあり,これを見抜くことは臨床検査技師の責務であると考える。今回,われわれはクレアチニン半定量値が定量値と比べて大きく乖離した例を経験したことから,偽反応を起こす要因について検討を行った。

対象351例でのクレアチニン半定量値と定量値の相関は完全一致率が62.0%,±1ランク一致率は97.2%と良好な相関であった。半定量値が定量値より2ランク以上高値を示した4例のうち,3例でシメチジンの服用が確認された。これは試験紙の添付文書にも記載されており,偽陽性に注意しなければならない要因の一つである。一方,同様に半定量値が定量値より1ランク以上低値を示した6例の中で3例は橙~赤色の着色尿,2例がpH 8.5以上の強アルカリ尿であった。尿pHがクレアチニン半定量値に影響を与えている可能性が考えられ山西ら5)もそう指摘している。

そこで,われわれは着色尿とアルカリ尿がクレアチニン半定量値に影響を及ぼしているのではないかと推察し,追加検討を行った。まず,着色尿29例についてクレアチニン半定量値と定量値の比較を行った。その結果,完全一致率は13.8%,±1ランク一致率は44.8%となり,完全一致の4検体を除き半定量値は定量値より低値傾向を示した。そこで,尿の色調が自動分析器にどのような影響を与えているのかをみるため,呈色した試験紙の波長特性を調べた。クレアチニン試験紙は主波長・副波長を反射率で測定している。そして,キャリブレーション時のデータを用いたアルゴリズムによって連続的な値に置き換えられ,その値に範囲を設けて半定量値を得ている。波長特性より,反射される黄色系波長と緑色系波長の割合で呈色試験紙は判定されているとわれわれは仮定し検討を行った。コントロールの波長特性から,低濃度では黄色系/緑色系波長の差が小さく,高濃度ほど黄色系/緑色系波長の差が大きくなることが分かった。測定可能であった着色尿13検体とコントロール5濃度の呈色試験紙の波長特性を比較したところ,2ランク以上の乖離検体では濃度が同程度のコントロールよりも黄色系/緑色系波長の差が小さいことが分かった。すなわち,呈色が黄~緑色を示すクレアチニン試験紙において,緑色系の波長を少なくとらえたため低値に傾いたのではないかと推測できる。この差が小さくなる要因として尿の色調の影響が考えられる。つまり,尿の黄色調が強ければ緑色系波長の反射光が減弱され,一方赤色調が強い場合は黄色系波長の反射光が増高されるため,この差が小さくなったのではないかと推察された。またNo. 19はすべての波長で反射率が高くなっていたが,黄色系/緑色系波長の差が小さいために,低値と判定されていたと推測した。

次に,着色尿の目視法による再検が有効であるかどうか,当院一般検査担当技師5名で呈色試験紙の写真を用いて判定を行ったところ,若干であるが改善がみられる検体もあった。しかし,No. 3に見られるように強い着色では判定不能となる場合もあり,試験紙法の限界を感じた。また,呈色を確認したことでNo. 12,No. 18,No. 19は定量値濃度よりも低値を示す検体であることが分かった。これらは尿の着色以外の誤反応の可能性があると思われるが,原因は不明であった。しかし,着色尿で尿の外観より半定量値が低値を示した際,目視法や定量による確認検査は有効と思われる。

次に,pHがクレアチニン試験紙へ与える影響について検討を行った。pH 8.5以上の強アルカリ尿169例について,クレアチニン半定量値と定量値の比較を行った。完全一致率は28.4%,±1ランク一致率は84.0%と一致率は低く,半定量値は定量値に比べ低値傾向を示したためpHの影響を受けたものと考えられた。

さらに,pHがどの辺りから影響を与えるのかをみるため,アンモニア水を添加してpHを調節した尿と,細菌尿を放置してアルカリ化させた尿を用いて検討した。いずれの場合もpH が上昇するほど影響を受け,pH 9.0を超えるとほぼ全ての尿で2ランク以上低値を示した。また,各pHにおける試験紙の呈色を目視法で確認すると,アルカリ化させるほど呈色が低下し低値を示した。クレアチニン試験紙の反応原理は銅-クレアチニン結合物のペルオキシダーゼ様作用で,至適pHは6.0~7.0である。試薬には緩衝剤が含まれているものの強アルカリ尿では十分に緩衝されず,そのため反応性が低下し,半定量値は定量値より低値を示したのではないかと考えられた。また,アルカリ化した尿に30%の酢酸を添加し至適pH付近に調整すると,定量値に近い値が得られることが分かった。

尿中のクレアチニンは尿の濃縮や希釈の補正のために測定しており,クレアチニン試験紙が偽低値を示すとP/C比は偽高値となり,臨床での腎疾患の重症度や活動性を診断する上で誤った評価を与えかねない。従って,尿の外観(色調・濃縮尿・希釈尿)を十分に観察し,クレアチニン測定値と矛盾が生じた場合は,目視法やpHの調節,定量法等を用いて正確な検査を行わなければならないと考える。

IV  結語

日常検査において赤~橙色の着色尿やpH 8.5以上の強アルカリ尿はクレアチニン試験紙に偽反応を起こすことが判明した。試験紙法は様々な検体の性状や要因の影響を受けるため,その反応原理や偽反応をおこす要因を十分理解して検査を行う必要がある。そして正確な結果を臨床側へ提供することは我々臨床検査技師の責務であると考える。また,今後もメーカーに対しては,測定機器や試薬性能の改善を期待したい。

謝辞

本研究の追行にあたり,ご指導ご助言を頂きました広島大学病院診療支援部中川浩美技師,測定にご協力いただきましたSIEMENS社に深謝致します。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)   中  千里,他:「随時尿を用いた試験紙法による蛋白/クレアチニン比の有用性について」,臨床病理,2005; 53: 810–817.
  • 2)   松田  ふき子,他:「尿試験紙による蛋白/クレアチニン比測定法の評価」,医学検査,2007; 56: 237–241.
  • 3)   高橋  勝幸,他:「全自動尿分析装置クリニテックアトラスXLを用いたアトラス試薬カートリッジPRO12の基礎的検討と蛋白/クレアチニン比の有用性」,医学と薬学,2002; 48: 727–735.
  • 4)   油野  友二:「尿試験紙法蛋白/クレアチニン比(P/C比)の有用性と課題」,臨床病理レビュー,2013; 149: 72–74.
  • 5)   山西  八郎,他:「尿試験紙法によるタンパク/クレアチニン比から得られる臨床情報」,医学と薬学,2010; 64: 427–434.
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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