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阪田 幸範, 溝畑 知穂, 奥村 寿崇, 真谷 亜衣子, 中山 理祐子, 小野 一雄
原稿種別: 原著
2024 年 73 巻 4 号 p.
631-637
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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がん性胸膜炎に対して胸水CEA(以下,PF-CEA)は診断の補助に,胸水細胞診(以下,細胞診)は診断に広く用いられている。今回われわれは過去に細胞診で悪性と報告し,病理組織学的にも悪性が確認され,がん性胸膜炎と診断された悪性胸水202例の細胞診報告時判定について,PF-CEAを考慮した細胞診再判定を行うことによって成績が向上することを確認した。細胞診再判定に際しては,当院における192例についてがん性胸膜炎に対するPF-CEA検査精度(カットオフ値5.1 ng/mL,感度70.8%,特異度94.2%)を確認し,悪性胸水202例の病理組織診断別PF-CEA結果を検討して得られた知見を考慮した。悪性胸水202例のうち,悪性中皮腫5例および悪性リンパ腫6例はすべてPF-CEA陰性であった。多くの腺癌や扁平上皮癌ではPF-CEA陽性であったが,卵巣漿液性癌では陽性率が約27%と低かった。これらを考慮して細胞診再判定した結果,腺癌,悪性中皮腫,悪性リンパ腫の判定数が増加し,鑑別困難がなくなった。以上より,PF-CEAは細胞診判定に有用である。
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倉田 満, 野村 純治, 安藤 和弘
原稿種別: 原著
2024 年 73 巻 4 号 p.
638-643
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)は,従来から不顕性感染者(軽症含)が多数存在していることが示唆されており,感染が持続している背景の一要因としても指摘されている。地域住民や献血検体を用いた血清疫学調査報告がなされているが,健診受診者の不顕性感染と思われる自然感染抗体保有率の変動や,生活習慣との関係性の報告は少ない。本研究では,2020年7月より2023年10月の期間,健康診断を受けた際にSARS-CoV-2-抗N(Nucleocapsid)抗体検査を追加した44,493例の受診者を対象に,年齢,性別,SARS-CoV-2-抗N抗体検査結果を変異株の主流期別に三期に分けて分析した。また,本感染症は飛沫感染が主体であることから,飲酒習慣との関係性においても若干の知見を得た。
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倉島 佳歩, 山下 智江, 佐藤 伊都子, 河野 瑠璃, 福岡 知也, 宮田 吉晴, 矢野 嘉彦, 松岡 広
原稿種別: 原著
2024 年 73 巻 4 号 p.
644-651
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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血液凝固検査は,術前の止血能力や出血・血栓傾向を示す病態の把握,抗凝固薬の治療効果のモニタリングなど適切な診断治療を行うために必須の検査である。当院検査部では,検体受入れ時に凝固塊の有無を確認した後,凝固検査に不適切と判定する基準として以下①~③の内,1つでも当てはまる場合に再採取を依頼している。①同時採取されたCBCで凝固が疑われた。②検査値異常(APTT・PT等の前回値との乖離,APTTの短縮,装置測定エラー)が出現。③測定後の赤血球層に凝固塊を確認。判断基準①~③の各々で,凝固疑い検体が凝固や線溶の亢進を示していたか検証することを目的とした。再採取と判断した採血管内凝固疑い検体と再採取検体の101ペアを対象とし,後日APTT,PT,フィブリノゲン,FDP,D-ダイマー,FM,TAT,PIC,tPAI·Cを測定した。最初に判断した割合は,①CBC凝固疑いが57件(56%),②検査値異常が34件(34%),③測定後の凝固塊確認が10件(10%)であった。採血管内凝固疑い検体と再採取検体において,判断基準①,②では全ての項目で有意差を認め,判断基準③ではAPTT,D-ダイマー,PIC以外の項目で有意差を認めた。採血管内凝固を除外する手順として多段階で基準を設け,不適切と判断する運用が有用であることを確認できた。当院の判断指標により抽出された検体の測定値が,再採取検体の検査値と比較して有意な変動を示したことから,凝固や線溶の亢進が起こっていたことが明らかとなった。
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佐藤 永一朗
原稿種別: 原著
2024 年 73 巻 4 号 p.
652-660
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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電子付録
C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus; HCV)抗体検査未受検者の受検率向上と効率化のために,大学病院を受診する患者における無症候性HCV感染早期発見に有用な基礎的資料を提示することを目的とした。研究デザインは単施設横断研究である。解析除外基準を満たす患者を除き,最終解析対象者は6,945人である。大阪大学医学部附属病院の電子カルテデータを用い,性別,年齢,入院外来区分,血液検査データおよび保有傷病名を収集した。血液検査データは患者が入院時や手術前検査として実施する基本的検査項目とし,無症候性HCV感染患者とHCV抗体陰性患者において収集した項目について統計学的に群間比較した。HCV核酸(HCV ribonucleic acid; HCVRNA)定量検査陽性を目的変数とした2項ロジスティック回帰モデルを用いて,単変量および多変量解析を行った。説明変数には,性別,年齢,入院外来区分,血液検査データおよび保有傷病名を用いた。解析の結果,性別,入院外来区分,クロール,クレアチニン,C-反応性蛋白を除く項目で2群間に有意差がみられ,無症候性HCV感染と関連する項目として高齢,外来患者,血小板数低下,アルブミン低下および総蛋白上昇が挙げられた。これらの結果より,大学病院を受診する患者において,無症候性HCV感染と関連する要因として,高齢,外来患者,血小板数低下,アルブミン低下および総蛋白上昇が可能性として示唆された。
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日高 愛優, 大島 由葵, 中村 星海, 藤原 沙弥, 金重 里沙, 本木 由香里, 野島 順三
原稿種別: 原著
2024 年 73 巻 4 号 p.
661-666
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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ループスアンチコアグラント(LA)は,リン脂質およびリン脂質と血漿蛋白の複合体に対する自己抗体である抗リン脂質抗体が,リン脂質濃度の限られた試験管内においてリン脂質を介する血液凝固反応を阻害することにより凝固時間を延長させる現象であり,抗リン脂質抗体の存在を間接的に証明する定性法である。LA検査の第一選択として希釈ラッセル蛇毒時間(dRVVT)法が推奨されているが,直接経口抗凝固薬(DOAC)療法がdRVVT検査に影響を与える可能性が危惧されている。本研究では,健常人プール血漿に各種DOAC(ダビガトラン・リバーロキサバン・エドキサバン・アピキサバン)を低濃度・高濃度で添加したDOAC療法モデル患者血漿を作成し,各種dRVVT-LA検査に影響を及ぼすDOACの種類・血中濃度について検討した。その結果,LAテスト「グラディポア」とLA試薬DRVVTはDOAC療法患者血漿ではLA偽陽性を呈する可能性が示唆された。一方,コアグピア®LA試薬を用いたdRVVT-LA検査はDOACの影響を受けない可能性が示唆された。これらの結果より,dRVVT-LA検査に対するDOACの影響を回避するにはコアグピア®LA試薬を用いることが有用と考える。
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木戸口 周平, 大西 秀典, 坪内 啓正, 前田 文江, 大竹 由香, 橋本 洋一郎, 甲斐 豊, 山村 修
原稿種別: 原著
2024 年 73 巻 4 号 p.
667-673
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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【目的】大規模災害後には深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)が増加するとされ,その原因として避難所環境,長期的な活動量の低下,車中泊などが考えられている。さらに加齢は一般的なDVTの危険因子であり,避難所でDVTを認める症例の多くは高齢者である。また,非被災地と比較したDVT検出率に関する報告は少ない。そこで,福井県敦賀市の一般住民(熊本地震被災地で実施したDVT検診対象者と同年代)を対象にDVT検診を実施し,DVT検出率とその背景因子について熊本地震での被災者と比較検討した。【方法】対象は敦賀市で実施した健康イベントに参加しDVT検診を希望した81名(男性24名,女性57名,平均年齢69.4 ± 8.0歳)とした。被災地群は熊本地震の被災者207名(男性48名,女性159名,平均年齢68.2 ± 16.1歳)とした。問診,下肢静脈超音波検査を実施し,被災地群と非被災地群に分類してDVT検出率と背景因子を比較した。【結果】被災地におけるDVT検出率は11.1%(23/207)であり,非被災地では2.5%(2/81)であった。両群間で有意差のあった項目はDVT,不眠,起立困難,臥床時間増加,脱水症状(排尿回数を減らすために意図的に水分摂取が低下することにより引き起こされる),車中泊,脂質異常症であった。非被災地のDVT検出率は低かったが,DVTがある一般住民にはひらめ静脈拡張を認めた。【結語】被災地におけるDVT検出率は一般住民の4倍以上であり,避難所環境に関連する因子がDVT発症の主な原因であった。
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近澤 秀己, 口広 智一, 大瀧 博文, 仁木 誠, 竹川 啓史, 久田 恭子, 阿部 教行, 山田 幸司
原稿種別: 技術論文
2024 年 73 巻 4 号 p.
674-683
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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薬剤感受性検査は適切な抗菌薬治療を実施するために重要な検査であるが,栄養要求の厳しい一部の菌種ではその実施は困難な場合がある。今回我々は,Corynebacterium属,Nocardia属,迅速発育抗酸菌群(RGM)および嫌気性菌など複数の菌種についてClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)に準拠したドライプレートDP1R(栄研化学)の性能評価を多施設共同で実施した。評価方法としてATCC株を用いて5回同時測定と5日間測定の計10回測定を7施設にて実施し,各株について合計70回の測定の結果から複数施設における同時再現性と日差再現性について検証した。また,臨床分離株を用いた感受性調査として,Corynebacterium属38株,Nocardia属34株,RGM 67株および嫌気性菌33株について実施した。今回検証したDP1Rは,複数施設における同時再現性,日差再現性においても許容範囲内であると思われ,十分使用可能な性能を備えたプレートであることが示唆された。DP1Rは複数菌種を対象としてCLSI準拠方法で検査が実施できるため,精度保証の観点からも有用である。DP1Rを用いた新たな検査方法で実施された薬剤感受性検査の結果は,適切な抗菌薬治療の選択に大きく貢献できるものと期待される。
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神谷 美聡, 伊藤 英史, 佐藤 彩, 大嶋 剛史
原稿種別: 技術論文
2024 年 73 巻 4 号 p.
684-690
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は,ヘパリンの重大な副作用のひとつである。迅速な抗体検査の意義は大きいが外部委託が主流であり,当院ではELISA法を用いて院内で実施してきたが,操作が煩雑で結果報告に時間を要していた。この度,反応時間15分のイムノクロマト法(IC法)検査試薬が開発され,令和5年5月より保険適用となったため,その有用性について検討した。判定一致率は86%と良好な結果であった。乖離症例や経時的評価が可能であった症例を解析し,本検討より考慮される乖離要因は,①測定原理や使用抗原の違いによる特異性の違い,②感度の違いであった。HITを診断する際,免疫学的測定法によるHIT抗体検査が陽性でも,必ずしもHITを発症するとは限らないことを再認識する必要がある。HIT抗体陽性の結果のみからHITを診断するのは過剰診断につながる恐れがある。しかし,欧米でゴールドスタンダードとされる機能的測定法は研究施設以外での実施が難しい。したがって,HITの診断は血清学的所見と臨床的所見を組み合わせて確定させる必要がある。本研究より,多大な時間を要していたHIT抗体検査が,IC法であれば操作性に優れ,15分で判定・報告されるため,HIT症状の改善に合わせて容易に再検査が可能となることが示された。これは,HITの迅速な診断と適切な処置につながることが期待される。
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小林 麻里子, 巖崎 達矢, 神山 清志, 大澤 進, 篠塚 洋明, 松下 誠
原稿種別: 技術論文
2024 年 73 巻 4 号 p.
691-698
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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血清総蛋白測定はビウレット法が主流であり,その普及率はほぼ100%である。そのため,リポ蛋白-Xやアミノ酸輸液などのピットフォールによる異常データ出現の際,他の検査法で検証することは困難となっている。一方尿蛋白測定法に利用されているピロガロールレッド(PR)法はアミノ酸や糖質などの蛋白質以外の成分に対する非特異反応が少ない方法であるが,高感度であるため血清総蛋白測定法には利用されていない。私たちは,検体前希釈機能を有する日本電子社製のJCA-BM6070を用い適切なパラメータを設定しビウレット法と比べ非特異反応が少ないPR法へ適応させることで,ビウレット法で得られた血清蛋白測定の確認用として活用できるか検討した。ビウレット法の標準血清を使用したPR法でのパラメータ(PR-BM法)を構築し,163例の患者血清を対象にして測定を行った。PR-BM法(y)とビウレット法(x)の相関関係はr = 0.977,y = 1.00x + 0.07であり,両者の測定値は概ね一致した。これらの結果より,PR-BM法は血清総蛋白測定の確認用として利用可能であると結論付けられた。
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若井田 実咲, 澤田 威男, 近藤 英斗, 高田 優真, 簗瀬 直穂美, 日高 裕介, 山田 俊幸
原稿種別: 技術論文
2024 年 73 巻 4 号 p.
699-707
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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深在性真菌症は,免疫機能に問題のある患者を中心に引き起こされる日和見感染症の1つである。臨床現場では,その補助的診断として(1→3)-β-D-グルカンの検出が用いられている。今回,本検査の院内導入を目的に,当院で行っている外注検査と国内で使用されている2社の検査試薬についての検討を行った。同時及び日差再現性,希釈直線性,方法間での相関性など,基本的性能は,両方法ともに他の報告と同様の結果が得られた。また,同一検体における2重測定の差の比較より,ともに低濃度域で測定誤差が生じやすいということが示唆された。今回,被検法間における低濃度域の判定不一致として,被検A法陽性,被検B法陰性の結果が45/69例(65.2%)みられたが,これは測定値とカットオフ値の比例性が異なるためと考えられた。また,外注検査値からのカルテレビューにより,β-D-グルカン値と深在性真菌症を含む感染症を疑わせる症状との関連が確認された。β-D-グルカン検査試薬の選択に際しては,測定の操作性を含め施設の実情に即した試薬を選択すべきと考える。また,本検査の院内導入により,深在性真菌症の早期診断,適切な治療に結びつくことが期待される。
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井ノ口 知代, 五十嵐 久喜, 服部 和哉, 北山 康彦
原稿種別: 技術論文
2024 年 73 巻 4 号 p.
708-718
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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当院ではhuman epidermal growth factor receptor type 2 fluorescence in situ hybridization(HER2 FISH)の蛍光観察を2~4人で行っている。しかし,境界域(equivocal)や判定困難な症例の場合は観察に長時間を要し,励起光の照射による蛍光の褪色が進みシグナルの確認が困難になる場合がある。そこでHER2 FISH施行後のchromogenic in situ hybridization(CISH)法による明視野でのVisualization(可視化)を検討した。検討の結果,(1)カクテル抗体(抗Rhodamine抗体 <×2,000>,抗Fluorescein抗体 <×200>)室温30分,(2)AP標識抗IgGポリクローナル抗体(Histofine Simple Stain AP <R>)室温30分,(3)BCIP/NBT室温1~3分,(4)PO標識モノクローナル抗IgG抗体(Histofine Simple Stain MAX PO <M>)室温30分,(5)AEC室温10分,乾燥後(6)水溶性Aquatex封入,で可視化が可能となった。この方法であれば,褪色や保存スペースの問題点の軽減,標本のデジタル化を含めた臨床医への提供,内部精度管理や教育への利用など,有用性は高いと考える。
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蜂須賀 大輔, 中西 豊文, 岩﨑 卓識, 神野 雄大, 土井 昭夫, 服部 聡, 長嶌 和子, 星 雅人
原稿種別: 技術論文
2024 年 73 巻 4 号 p.
719-725
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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結晶誘発性関節炎は様々な結晶形成から起こり,リウマチ性疾患である痛風(尿酸ナトリウム結晶),偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶)は結晶誘発性関節炎で最も多い疾患であるが,ハイドロキシアパタイト結晶(hydroxyapatite crystal;HA結晶)がこの病態に寄与することはまれである。HA結晶は単純な偏光顕微鏡下で特徴的な複屈折性を持たないため,正確な評価に困難をもたらす。同定には従来,電子顕微鏡法かアリザリン赤S染色が用いられてきたが,多くの医療機関ではこれらの方法を利用できる環境は限られている。本研究では,ハイドロキシアパタイト沈着症の関節液診断に最も有用な染色方法として,コッサ反応,ヘマトキシリン・エオシン染色(hematoxylin-eosin; HE)及びギムザ染色を検討した。その結果,コッサ反応とHE染色は特に高い陽性率を示した。RGBヒストグラムを用いた画像解析から,コッサ反応はHA結晶,白血球,背景の間に明瞭なコントラストを与えることがわかった。この結果は,コッサ反応がHA結晶同定のためのアリザリン赤S染色に代わる有効な方法として有望であることを示唆している。このことは,従来の方法が利用できない場面において,結晶誘発性関節炎の実用的診断ツールとしての潜在的有用性を強調するものである。
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牧 優冶, 菅原 新吾, 佐藤 亜耶, 大久保 礼由, 石塚 静江, 藤巻 慎一, 加藤 浩貴, 亀井 尚
原稿種別: 技術論文
2024 年 73 巻 4 号 p.
726-732
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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シスメックス社XNは,血小板測定モードにより血小板凝集の検出力に差がある。本検討ではこの差を利用し,同一検体をPLT-IとPLT-Fで測定した際の各モードの「PLT-Clumps?」フラグの有無から,フィブリン析出検体(Fib検体)と血小板凝集のみの検体を鑑別できるか検証した。血算測定依頼のあった18,540件のうち,以下の条件に該当した757件を対象とした。①PLTが前回値から30%以上低下したもの,②「PLT-Clumps?」フラグが表示されたもの,③上記の条件に該当しないがフィブリン析出または血小板凝集を認めたもの。フラグ表示のトリガーであるQ-Flag値と鏡検所見から感度,特異度,AUCを比較した。また,各モードのフラグ有無の組み合わせにより検体の判定を陰性,Fib検体,血小板凝集検体とし,鏡検との一致率を評価した。Fib検体のAUCはPLT-Fが有意に大きかった。血小板凝集検体に対する感度,特異度は,PLT-F 0.87,0.91に対し,PLT-I 0.06,0.65と顕著な差を認めた。判定の一致率は,両モードフラグなし(判定;陰性)98.7%,PLT-Iのみ(判定;陰性)99.5%,PLT-Fのみ(判定;血小板凝集検体)67.9%,両モードあり(判定;Fib検体)92.0%であった。Clumpsフラグの組み合わせは血小板偽低値の要因を鑑別できる可能性が示唆された。
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前山 宏太, 小山田 礼子, 白山 楓亜, 三浦 創
原稿種別: 技術論文
2024 年 73 巻 4 号 p.
733-740
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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従来,プロトロンビン時間(prothrombin time; PT)測定試薬の多くは凍結乾燥品であり,専用の溶解液や精製水を加えて調製する必要があったが,近年は調製が簡便な液状PT試薬が数社から発売されている。今回,液状PT試薬である「ヒーモスアイエル レディプラスチン」(アイ・エル・ジャパン株式会社)の基礎性能評価をACL TOP 550 CTS(アイ・エル・ジャパン株式会社)を用いて行ったので報告する。測定試料には2濃度のコントロール血漿および検査後残余患者血漿を用いた。併行精度(repeatability:同時再現性)は10回測定でCV 1.5%以下,オンボード安定性(onboard stability:実測安定性)は1日2回,14日間測定でCV 3.0%以下だった。希釈直線性はPT活性で144.3%まで確認した。検出限界はPT活性で5.7%だった。共存物質による影響はいずれも変化率5%以下だった。ヘパリンの影響は未分画ヘパリン1.25 U/mLまで変化率10%以下だった。従来試薬との相関についてPT-INRでy = 0.987x − 0.0138,r = 0.9978だった。試薬調製時間について従来試薬は約34分かかったのに対して,検討試薬は1分以内であった。ヒーモスアイエル レディプラスチンの基礎性能は非常に良好で従来試薬との相関も高かった。従来試薬は凍結乾燥品のため調製に30分以上の時間がかかり,溶媒の分注誤差のリスクもあったが,検討試薬は2つの液状バイアルを混和するだけですぐに使用できるため,ユーザビリティが非常に高く,技師の負担が大幅に軽減されると考えられた。
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立川 将也, 石田 秀和, 加藤 洋平, 大島 康平, 西村 知, 白上 洋平, 大倉 宏之, 菊地 良介
原稿種別: 技術論文
2024 年 73 巻 4 号 p.
741-748
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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血中C反応性蛋白(C-reactive protein; CRP)測定は免疫学的定量法により行われ,その測定標準化は世界保健機関,日本国内標準物質を経て,血清蛋白標準物質であるCRM470(ERM-DA470)によりほぼ実現した。日本におけるCRP測定試薬の多くはERM-DA470やERM-DA472/IFCCを一次標準物質としていた。しかし,現在頒布されているロットはERM-DA474/IFCC(DA474)であるが,DA474に準拠した測定試薬の報告は乏しい。そこで今回,DA474に基づくCRP測定試薬である「LZテスト‘栄研’CRP-RV」の基礎的性能評価を行った。評価内容として,正確性,精密性,分析範囲,特異性および試薬安定性の確認を行い,どの項目も良好な結果が得られた。対照試薬との比較では,相関係数,回帰式ともに良好な結果を示したが,濃度依存的なシグモイド状の誤差分布が観察された。この誤差は,低濃度域を優先する高感度系の被検試薬において検量線の形状が対照試薬と異なっており,低濃度域の精確性も含めて双方の直線性の傾向によって生じるものと考えられた。被検試薬の高感度な特性は,臨床検査において炎症反応や潜在的な疾患の早期発見が可能となり,迅速な治療介入への貢献が期待される。
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大島 康平, 石田 秀和, 加藤 洋平, 立川 将也, 岡 有希, 石田 真理子, 上野 嘉彦, 菊地 良介
原稿種別: 資料
2024 年 73 巻 4 号 p.
749-756
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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赤血球容積分布幅変動係数(RDW-CV)は従来小球性貧血の指標として用いられ,近年では心血管疾患との関連性が注目されている。今回我々はRDW-CVと腎機能との関連性に着目し,腎機能スクリーニングマーカーとしての可能性について検討を行った。対象はシスタチンCの測定依頼を含む18歳以上の血液検査データ11,921件とした。患者情報および血液検査データより推算糸球体濾過量(eGFR)を算出し,慢性腎臓病(CKD)ガイドラインのGFR区分に準じて群分けを行った。GFR区分によるRDW-CV値の比較において,血清クレアチニンから求めたeGFRcreによるGFR区分では,腎機能低下とRDW-CVの間に明らかな傾向を認めなかった。しかし,CysCから求めたeGFRcysによるGFR区分では腎機能低下に伴い,RDW-CV値が増加する傾向にあった。eGFRcysによるGFR区分G1 + G2群とG4 + G5群の鑑別能を求めたところ,受診者対象曲線下面積は0.681であり,そのオッズ比(95%信頼区間)は1.27(1.23–1.31)であった。オッズ比は性別,年齢,血清クレアチニン,赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値による補正後も有意であり,GFR区分進行に対する独立した因子であることが推察された。本研究結果によりRDW-CVは腎機能スクリーニングマーカーとしての可能性が示唆された。
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吉田 美帆, 塚本 龍子, 今川 奈央子, 須广 佑介, 蜂巣 智也, 猪原 千愛, 猪原 哲嗣, 伊藤 智雄
原稿種別: 資料
2024 年 73 巻 4 号 p.
757-763
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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病理検査では,色調の精度管理は人の目による主観的な確認で行われている。これまでRed-Green-Blue(RGB)やΔCによるHematoxylin-Eosin染色(以下,H&E染色)の数値化の試みがなされてきた。H&E染色性の色合いなどはある程度観察者の「慣れ」もあり,各施設内での内部精度管理が重要である。本検討では,当院で毎朝行っているH&E染色の染色性チェック用コントロール標本を使用して,染色後の標本をデジタル化し,画像解析ソフトウェアHALO®を用いて色調を数値化した。H&E染色の目視評価は比較的均一であり,差異を認めなかった。数値化した結果は,エオジンに周期的変動を認めた。また,管理限界を ±2SDおよび ±3SDに設定したXbar管理図を作成したところ管理限界幅内に収まっていた。本検討のように,HALO®解析を用いて色調を数値化することで,染色性の差異を客観的に評価することが可能となった。染色性の変動を可視化することは内部精度管理の手段として客観性があり有用である。
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片渕 達也, 田尻 沙織, 橋向 圭介, 柿沼 廣邦, 三上 芳喜
原稿種別: 資料
2024 年 73 巻 4 号 p.
764-769
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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現在,乏突起膠腫の診断において1pおよび19qの共欠失の有無は必須の評価項目とされている。この共欠失は通常FISH法によって検索されているが,作業手順が煩雑で,かつ標本を長期保存することが困難であるという問題がある。そこで光学顕微鏡で観察可能なCISH法を半自動化するための基礎検討を行った。対象としてFISH法により1p/19q共欠失解析が既に行われた20例を用いて,semi-automated CISH(saCISH)法を実施した。この方法では前処理を自動免疫染色装置で行い,標識プローブをハイブリダイズさせた後,再び自動免疫染色装置により標識プローブに対する染色を行い,欠失する染色体を赤色,対照となる染色体を茶色で発色させて可視化した。作製した標本において各シグナルをカウントし,比率を算出した。saCISH法とFISH法の判定結果と比較したところ,全例で一致が確認された。各比率から求めた相関係数はR = 0.95,0.92であった。saCISH法はFISH法と比較すると作業時間が約100分から35分へ短縮するとともに標本作製の前処理を自動化することで煩雑さを改善した。しかし,saCISH法ではシグナルが重なると赤色シグナルが茶色にみえること,非特異的な色素沈着によるシグナルカウントへの影響などの問題が示された。従って,標識プローブの発色方法の改善が必要であると考えられた。
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北川 文彦, 菊地 良介, 藤田 孝
原稿種別: 資料
2024 年 73 巻 4 号 p.
770-779
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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2018年に「循環器病対策推進基本計画」が策定された。一般社団法人日本臨床衛生検査技師会は,国策に則った臨床検査の精度管理体制の拡充を目指し,循環器病関連検査項目についても精度管理調査を検討している。循環器病関連検査項目精度管理検討ワーキンググループでは,精度管理調査用試料の作成と,プレサーベイ実施に向けたタイムスケジュールの検討を開始した。その過程で,各医療機関における循環器病関連検査項目の運用状況を把握するために令和5年度日本臨床衛生検査技師会臨床検査精度管理調査時に「循環器病関連検査項目精度管理に関するアンケート調査」を実施した。アンケートには1,811施設からの回答があった。その結果,循環器病関連検査項目の外部精度管理調査への受検希望は検討中の施設も含め1,251施設(88.4%)であった。各項目における基準範囲,病態識別値およびパニック値の設定の有無についても調査したが,施設ごとで設定値は大きく異なっていた。病態識別値については設定している施設は,設定率が高い項目においても36施設(14.8%)であった。また,BNP測定用採血管は,多くの施設が各試薬添付書の推奨採血管で採取していたが,一部施設ではEDTA-2Naアプロチニン加採血管が用いられていた。今回の調査結果から,精度管理調査の仕組み作りだけでなく,単位の統一化,基準範囲やパニック値の設定などの課題が明らかとなった。
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𠮷田 有美香, 河内 誠, 川﨑 達也, 原田 康夫, 井上 美奈, 舟橋 恵二, 樋口 和宏, 左右田 昌彦
原稿種別: 資料
2024 年 73 巻 4 号 p.
780-786
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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医療安全の向上にはできるだけ多くのインシデントレポート(以下,レポート)の提出が必要不可欠とされる。当検査室では2018年度から「one report, platinum report」をスローガンに掲げ,レポート数増加への取り組みを開始した。目標の明確化として「レベル0a・1のレポート数の前年度比50%増加」「医療安全ラウンドの実施」「検体容器へのバーコードラベル貼り付けの徹底」を掲げた。レポート提出方法の改善として,レポート提出を検査室医療安全委員会が一括して行うことで,インシデント事例の発見者が行う作業が大幅に軽減され,インシデント事例報告の心理的ハードルを下げた。看護部とのレポート共有として,インシデント事例の分類を協議した上で,検体容器へのラベル貼り付けの徹底を重点項目とし,レポートを共有した。取り組み前後で総レポート数は326件から1,471件と約4.5倍に増加した。特にレベル0aは41件から465件の約11.3倍に増加した。項目別レポート数は,ラベル貼り付け不良は78件から649件の約8.3倍に増加した。ラベル貼り付け不良でも報告して欲しいと明確に謳うとともに,委員会が一括してレポート提出を行うことで,インシデント事例の発見者が行う作業が大幅に軽減され,インシデント事例を気軽に報告できるようになったためと考えられた。今後は豊富なレポートを根本原因の特定,有効な対策の立案などに活用し,医療安全の向上に役立てていきたい。
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前之園 隆一, 松木 志織, 内野 素乃子, 波野 史典, 丸山 慎介, 山口 宗一, 花谷 亮典, 橋口 照人
原稿種別: 資料
2024 年 73 巻 4 号 p.
787-793
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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鹿児島大学病院てんかんセンターは,2013年3月の設立以降,脳神経外科・小児科・神経精神科・脳神経内科の診療科を中心に,看護部・検査部・ソーシャルワーカーなどが協力して,てんかんの包括的診療に取り組んでいる。てんかんセンター設立以降,脳波の検査件数は,増加傾向が続いており,2015年からは,長時間ビデオ脳波検査の電極装着と管理も臨床検査技師が担当してきた。しかし,脳波計の性能や診療科による検査方法の違い,院内システムの整備不足があり運用上問題と考えられた。そこで,2022年3月の機器更新において,診療科と協力し,効率的な運用と一元管理のためのシステム構築を目指した。脳波計を購入する際には,脳波検査専用3台と長時間ビデオ脳波検査専用2台をすべて同一機種に統一した。また,すべての脳波計を生理機能検査部門システムに統合し,脳波データとレポートすべてを診療用端末にて閲覧できる運用に変更した。さらに,長時間ビデオ脳波検査では,新病棟整備に併せて院内LAN端子を設置した病室を増やすことで,運用効率の向上と業務負担の軽減が可能となった。今回の機器更新を通して,脳波計の一元管理を行い,院内システムの環境整備をすることで業務の効率化に繋げることができた。今後,診療科の協力のもと,院内システムや運用効率のさらなる改善を通して,脳波検査の運用をより活性化するとともに,生理機能検査部門のプレゼンス向上を図っていきたいと考える。
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板橋 匠美, 深澤 恵治, 勝山 政彦, 丸田 秀夫
原稿種別: 資料
2024 年 73 巻 4 号 p.
794-799
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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我が国では医師の過重労働が深刻な問題となっており,これを是正するため,2024年4月から医師の時間外・休日労働の上限規制が適用された。各医療施設はこのための医師労働時間短縮計画の策定が求められ,その方策の一つとして臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアが挙げられた。日本臨床衛生検査技師会(日臨技)は,臨床検査技師を取り巻く現状を把握するため,施設実態調査と会員意識調査を実施しており,令和5年度の調査結果によると,当該計画策定のための院内会議に臨床検査室が参加していない施設が7割にのぼった。この傾向を改善するために各施設が取り組みやすい対応策を見出し示すことを目的に分析したところ,タスク・シフト/シェア講習会の受講状況が良好な施設ほど,臨床検査技師が当該計画策定のための院内会議に参加している割合が高いことが示された。このため,臨床検査室の管理職の立場にある者は施設管理層に対して臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアの重要性の理解を求めるとともに,講習会の受講を促進することが急務である。特に,若年層を中心とした受講促進策や施設負担での講習会開催が有効とされる。これにより臨床検査室が計画策定に積極的に参加することが期待される。
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城戸 隆宏, 野崎 加代子, 大迫 亮子, 岡村 優樹, 久保 祐子, 日野出 勇次, 梅橋 功征, 西方 菜穂子
原稿種別: 症例報告
2024 年 73 巻 4 号 p.
800-806
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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症例は60歳代,男性。黄疸や眼球結膜充血などの臨床症状に加え,前医の血液検査にて肝機能障害,腎障害および血小板低下があり当院受診。腹部超音波検査(AUS)が実施され肝実質の輝度低下,内部脈管の相対的明瞭化,胆嚢内腔の虚脱,胆嚢壁の著明な肥厚といった急性肝炎を疑う超音波所見を呈していた。血液検査では総ビリルビン濃度(T-Bil)および胆道系酵素活性は上昇していたが,肝逸脱酵素であるASTやALTの活性上昇は僅かでAUS所見と解離した。単純CT検査で胆嚢壁は著明な浮腫性肥厚を呈していたが,総胆管結石など黄疸に起因する所見はなかった。全身状態の悪化が著しく,入院加療となった。血液培養検査は陰性で,第4病日に再度施行されたAUSでは胆嚢は正常形態を呈し,胆道系酵素活性は低下したが,T-Bil濃度は5.54 mg/dLと更に上昇し,第11病日には13.96 mg/dLまで上昇した。多彩な臨床症状,胆道系酵素活性の上昇,T-Bil濃度の顕著な上昇,患者の行動歴よりレプトスピラ症が疑われた。第15病日にレプトスピラに対する抗体価上昇が確認され,眼球結膜充血,黄疸,急性腎障害などの臨床症状を踏まえてワイル病(レプトスピラ症の重症型)と診断された。T-Bil濃度の顕著な上昇,胆道系酵素活性の上昇に加え,急性肝炎に類似したAUS所見で肝逸脱酵素活性の上昇を伴わない場合,鑑別疾患の一つとしてレプトスピラ症を挙げ,早期診断・治療に繋げることが重要である。
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鈴木 更織, 長田 正和, 河井 麻友, 鈴木 若菜
原稿種別: 症例報告
2024 年 73 巻 4 号 p.
807-813
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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Burkholderia pseudomallei(類鼻疽菌,以下B. pseudomallei)は,土壌等に分布する環境菌で,汚染水の飛沫吸引等で感染する。今回,胸水よりB. pseudomalleiが検出された症例を経験したため報告する。患者はタイ国籍の30代男性。発熱,悪寒戦慄を主訴に受診。胸水貯留,心拡大,腎機能障害等を認めたため入院。胸水増菌培養よりグラム陰性桿菌を検出し,特徴的な安全ピン様を呈した。培地上にスムーズ型のコロニーを形成し,その後培養を続けるとムコイド状集落から縮んだ皺のある集落となった。同定検査結果は,B. pseudomalleiであった。本菌は感染症法では三種病原体等に分類され,4類感染症に位置付けられているが,日本に常在しておらず,稀であるため,国立感染症研究所に行政検査を依頼した。培養した培地上でB. pseudomalleiの生菌が観察された。オキシダーゼ試験が陽性とclavulanic acid/amoxicillin(CVA/AMPC)が感性で,gentamycin(GM)とcolistin(CL)が耐性であることから,B. pseudomalleiの特徴と一致していた。更にLAMP法とMultiplex PCR法を行い,B. pseudomalleiが同定された。文献的考察を加えて報告する。
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岩切 雄也, 河野 徳明, 佐多 章, 阿波野 祥司, 釘宮 弘子, 山中 篤志, 中村 茂樹, 菊池 郁夫
原稿種別: 症例報告
2024 年 73 巻 4 号 p.
814-821
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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Ignatzschineria indicaはハエの腸管に常在する細菌で,劣悪な環境に居住する患者の創傷部位から検出される。今回我々は,I. indicaによる菌血症2例を経験した。症例1(66歳,男性)と症例2(89歳,女性)は,共通点として,深刻な経済問題のため,それぞれ,車上生活と不衛生な生活環境という社会背景があった。2例とも下肢潰瘍を合併し(症例1;蛆+,症例2;蛆−),血液培養でI. indicaを検出した。症例1は16S rRNA遺伝子の塩基配列解析により同定し,症例2は,質量分析装置により同定した。2症例とも,抗菌薬感受性は良好であり,抗菌薬投与で改善が得られた。本菌による感染症の症例報告は世界的に少なく,特に我が国からの報告はなく,劣悪環境下の創傷部位感染で蛆を伴う場合は,I. indica感染症の可能性を考慮する必要がある。
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森永 睦子, 岡本 操, 古川 聡子, 見手倉 久治, 上杉 里枝, 岡﨑 希美恵, 北中 明, 椎野 泰和
原稿種別: 症例報告
2024 年 73 巻 4 号 p.
822-830
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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血液ガス分析装置はガス分析のみならず,電解質,グルコース,クレアチニンおよびヘモグロビンなど多くの項目を同時測定することが可能である。そのため,救急現場における初期診療や病態急変時等の全身状態の把握に必須の検査値が迅速に得られる。今回,当院高度救命救急センターへ薬物中毒疑いで搬送された患者において,血液ガス分析装置(電極直接法)と生化学自動分析装置(イオン選択電極希釈法)で測定したナトリウム(Na)値が乖離した症例を経験した。本症例の薬物スクリーニング検査において血清中からアトモキセチンが検出され,来院時以降の電解質項目と血中薬物検出の時系列解析および添加試験の結果からも直接法におけるNa高値乖離現象はアトモキセチンによるものであると推察された。当毒劇物検査室で解析した過去の薬物中毒症例から同様のNa値の乖離症例を検索したが,本症例と同種の薬物を含めNa高値乖離例はなかった。血液ガス分析装置の取扱説明書にはNa測定の妨害物質として数種類の薬物が挙げられているが,本症例で得られたアトモキセチンの記載はなかった。初期診療に重要な役割のある血液ガス分析装置は,その多岐にわたる測定項目ごとに様々な干渉作用を受けることを改めて認識し,測定値の乖離などがあった場合は,干渉因子も念頭においたうえで臨床に対し的確な報告を行う必要がある。
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井上 悦子, 澁谷 仁美, 池本 優子, 林 亜実, 井上 英昭
原稿種別: 症例報告
2024 年 73 巻 4 号 p.
831-841
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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アラニンアミノトンランスフェラーゼ(alanine aminotransferase; ALT)測定の反応タイムコースは第2試薬添加後,340 nmでの吸光度が時間経過とともに減少するが今回,第2試薬添加後に吸光度増加を認めた症例を経験した。吸光度増加は主波長,副波長を含む14波長全てで見られた。免疫グロブリン値(IgG, IgA, IgM)は基準範囲内でM蛋白は検出されなかったが,免疫グロブリン吸収試験,還元処理の結果からIgMによる異常反応と考えられた。市販の試薬には性能向上のために主成分以外に添加されているものがある。それらと異常反応を起こした可能性を考え,試薬を自家調製して測定したが反応タイムコースは同様であった。自家調製試薬と現行試薬それぞれの第1試薬に界面活性剤を添加したところ,第2試薬添加後の吸光度増加を認めず,通常の反応タイムコースとなった。以上より疎水性の強いIgMの存在がALT測定に影響を与えたと考えられた。
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鈴木 星也, 内田 浩紀, 子安 貴良, 花見 恭太, 安達 純世, 小林 政司, 藤野 節, 山﨑 一人
原稿種別: 症例報告
2024 年 73 巻 4 号 p.
842-849
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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背景:近年,がん治療のためにチロシンキナーゼ阻害剤の投与を受けた患者において,子癇前症の腎にしばしばみられる糸球体内皮症に類似した毛細血管内皮障害が発生することが散発的に報告されている。我々は,lenvatinib単独療法とbevacizumabとatezolizumabの間欠併用療法を受けた患者の腎生検において高度な糸球体内皮症を認めた症例を報告する。症例:60歳代男性。進行肝細胞癌に対してlenvatinibを投与したところ蛋白尿と低アルブミン血症を認めたため開始後15週で投薬を中止した。休薬後5週でこれらの改善がみられたため,bevacizumabとatezolizumabの間歇的併用療法を開始したが,再び尿蛋白,血清アルブミン値の低下を認め,開始後41週で投薬を中止した。中止後も蛋白尿が持続したため腎生検を実施したところ,電子顕微鏡像においては糸球体毛細血管基底膜のびまん性の肥厚に加え,高度な係蹄毛細血管内皮障害を認め,糖尿病性腎症を背景としてチロシンキナーゼ阻害剤による糸球体内皮症を来したものと診断した。アンジオテンシンII受容体拮抗薬の投与を開始したところ,3ヶ月後の尿蛋白は治療前のレベルに減少した。結語:腎障害を有する患者へのチロシンキナーゼ阻害剤の投与は高度な蛋白尿を招くリスクが高いとされており,投薬の開始と継続については慎重な検討が望まれる。
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内田 浩紀, 花見 恭太, 子安 貴良, 鈴木 星也, 小林 政司, 藤野 節, 山﨑 一人
原稿種別: 症例報告
2024 年 73 巻 4 号 p.
850-856
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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強皮症性腎クリーゼ(scleroderma renal crisis; SRC)は全身性強皮症(systemic sclerosis; SSc)に随伴する予後不良な腎傷害で,臨床的には急速に進行する腎不全を特徴とし,しばしば微小血管障害性溶血性貧血(MAHA)を伴う。本稿では全身性強皮症の診断時にSRCを示したSScの1例を報告する。症例は78才,男性。20XX年Y月1日,心窩部痛と全身倦怠感を主訴に近医を受診し,腎機能障害と胸部食道がんを指摘され,同月14日当院を紹介受診し入院となった。血液検査で高血圧,両側胸水,貧血,血小板減少,腎機能障害を認め,末梢血塗抹標本では破砕赤血球が観察された。診断を確定する目的で腎生検を行い,細動脈の多層同心円状壁肥厚と内腔の狭小化,糸球体係蹄の虚脱と毛細血管内皮細胞傷害を認めた。modified Rodnan total skin thickness score(m-Rodnan TSS)mRSS 27点の皮膚硬化と抗RNAポリメラーゼIII(RNAP 3)抗体陽性を認めたことから,SRCを伴うびまん性皮膚硬化型全身性強皮症(diffuse cutaneous SSc; dcSSc)と診断した。抗RNAP 3抗体陽性dcSScではしばしば診断時にSRCを伴い悪性腫瘍を合併する。速やかな診断と適切な治療介入が不可欠と考える。
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伊藤 彰洋, 仲本 賢太郎, 蒲澤 康晃, 酒巻 尚子, 藤上 卓馬, 寺坂 明香, 永田 篤志, 田中 浩一
原稿種別: 症例報告
2024 年 73 巻 4 号 p.
857-862
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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近年,寄生虫症例の報告件数は減少しており,当院においても経験不足から鑑別・同定に苦慮する症例が多い。今回我々は遺伝子検査により種同定した無鉤条虫症の1例を経験したので報告する。患者は40代ブラジル人女性で,便中に数cm程度の白い運動性のある虫体を認めた。当院では同定に苦慮したため愛知県臨床検査技師会一般検査研究班に問い合わせたところ,形態学的所見よりテニア属条虫を疑うとの見解が得られた。虫体の属種同定と国外からの持ち込みを考慮して遺伝子検査により感染地域の推定を試みた。虫体の形態学的所見を観察したところ,虫体側面に生殖孔とみられる突出部と孔を認めた。また墨汁注入により子宮分枝を認めた。さらに虫体を細断し浮遊液として鏡検すると褐色で放射状の幼虫被殻をもつテニア属条虫卵を複数認めた。この結果より虫体鑑別結果を“テニア属条虫疑い”として依頼医へ報告した。続いて虫体からDNAを抽出・増幅し,塩基配列をシーケンス解析したところ本虫体は無鉤条虫(Taenia saginata)と同定された。更に系統樹解析により各国にて検出された塩基配列と比較したが増幅した配列が短かったため感染地域の推定には至らなかった。形態学的に鑑別に苦慮した虫体を遺伝子検査により無鉤条虫と同定した。日常検査にて寄生虫に遭遇する機会は減少しており形態学的所見のみでの同定を苦慮するケースが多い。その場合,遺伝子検査は種同定に極めて有用なツールとなる。
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曽田 悠介, 高野 智晴, 杤木 菜穂子, 杤木 達也, 山浦 知子, 勝部 早紀, 錦織 昌明, 石井 裕繁
原稿種別: 症例報告
2024 年 73 巻 4 号 p.
863-868
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
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静脈性血管瘤(venous aneurysm; VA)は,静脈の延長や蛇行を伴わない限局性の静脈拡張性疾患と定義される比較的稀な疾患である。深部静脈のVAでは瘤内での血栓形成が肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism; PTE)の原因となるため外科的切除の適応となる。今回われわれは,塞栓源不明の繰り返すPTEに対し,下肢静脈超音波検査により膝窩静脈VAを血栓塞栓源として指摘することで,外科的切除による根治の一助となった1例を経験したので報告する。症例は40歳の男性,PTEを発症し他院を受診した。その際に行われた下肢静脈超音波検査と下肢静脈CT検査で,右膝窩静脈近傍に腫瘤が指摘されたが血栓塞栓源とは判断されなかった。3ヶ月後,PTEを再発し当院を受診した。血栓溶解療法を行い,抗凝固薬を変更し経過観察していたが,1ヶ月後に呼吸困難感が出現しPTEの再燃と診断された。当院で下肢静脈超音波検査を行ったところ,右膝窩部に弾性があり圧迫により消失しない嚢状の腫瘤を認めた。腫瘤内部に血栓様エコーの充満を認め,右膝窩静脈との交通,血液の流入を認めた。各種検査から右膝窩静脈VAと診断され,外科的切除が行われた。術後の下肢静脈超音波検査では,右膝窩静脈VAは消失しており,その後の経過観察でもVAの再発は認めていない。
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高木 愛美, 米谷 正太, 井田 陽子, 荒木 光二, 宮城 博幸, 春日 啓介, 皿谷 健, 大西 宏明
原稿種別: 症例報告
2024 年 73 巻 4 号 p.
869-874
発行日: 2024/10/25
公開日: 2024/10/25
ジャーナル
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症例は50歳代女性。慢性咳嗽を主訴に前医を受診し,胸部単純X線写真にて右上中肺野に浸潤影を指摘され,精査加療目的で当院受診となった。血液検査で末梢血中好酸球数及び血清総IgEの上昇を認め,胸部CT所見で中枢性気管支拡張と右上葉気管支内に高吸収粘液栓を認めたことから,アレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)が疑われ気管支鏡検査目的で当院に入院となった。提出された気管支肺胞洗浄液のGram染色像で,真菌の隔壁部にSchizophyllum communeに特徴的なかすがい連結が観察された。サブローデキストロースCG寒天培地を用い,培養72時間後に白色綿毛状のコロニーの形成が認められた。セロハンテープ法では,かすがい連結及び樹状突起が観察された。さらに培養10日で子実体の形成が認められた。質量分析法及び遺伝子解析の結果,S. communeと同定された。Itraconazoleによる抗真菌薬療法及びPrednisoloneによるステロイド治療が行われ,現在まで再発・再燃は認めていない。本症例では,遺伝子学的解析と質量分析による同定結果が一致し,質量分析による菌種同定が有用であった。ABPMを疑う患者の気道系検体が提出された場合,Aspergillus属菌だけでなくS. communeの可能性も考慮し,Gram染色標本は弱拡大にて菌糸の形態的特徴を十分に観察する必要がある。
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