医学検査
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原著
クライオバルーンアブレーション時におけるCMAPの電極位置に関する検討
小河 純木下 朋幸花村 圭一熊谷 正純山内 康照沖重 薫
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2017 年 66 巻 3 号 p. 184-190

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Abstract

クライオバルーンアブレーション(cryoballoon ablation; CBA)では,横隔神経麻痺を予防するために複合筋活動電位(compound motor action potential; CMAP)を用いて横隔膜筋電位をモニタリングしながらCBAを行っている施設が多い。今回我々は,従来のCMAPの電極位置と,ルイ角を用いたCMAPを同時に計測し,電極位置によるCMAPを検討した。結果は,ルイ角を用いても,従来の方法と強い相関を示した。このことより,ルイ角を用いたCMAPでもCBA中のモニタリングとして用いることが出来ると考えられる。

I  はじめに・目的

2014年7月から心房細動の治療法としてクライオバルーンアブレーション(cryoballoon ablation; CBA)が日本でも開始された。CBAで最も懸念される合併症の1つに横隔神経麻痺が挙げられ,その頻度は3~11%という報告がある1)。Franceschiら2)は,その予防策として複合筋活動電位(compound motor action potential; CMAP)を用いており,CBA中にCMAPが30%低下したら,横隔神経障害が生じてしまう危険があるので緊急停止する必要があると提唱している。

また,当院ではCMAPの振幅を数字でリアルタイムに表示させることができるEnSite NavX(EnSite Velocity Cardio Mapping System:St. Jude Medical社製)を用いている(Figure 1)。しかし,CMAPの電極シールとEnSite NavXパッチを貼る位置とが重なってしまうことがある。

Figure 1 

CMAP計測中のEnSite NavX画面

右横隔神経刺激を行っているときのEnSite Navxの画像。CMAP電位の波高が数字で表示されている。

今回我々は,CMAPの電極シールをルイ角(Louis angle)にも貼り,2種類のCMAPを同時に記録することで,電極位置によるCMAPの差を検討したので報告する。

II  対象・方法

1. 対象

2015年8~9月にCBAを施行した発作性心房細動患者20名(平均年齢65.2歳,男14名)。

2. CMAPの記録方法

剣状突起から5 cm頭側に電極シールを貼り,そこから16 cm離した肋骨上にも電極シールを貼る従来法1)とルイ角と肋骨上に貼る変法を同時に記録した。肋骨上に貼る電極シール(陰極)は同一のものを使用した。CMAP専用の電極シール(ディスポ電極Vitrode V-04104:日本光電社製)を用いて,左右のCMAP電位を測定した(Figure 2)。心臓カテーテルモニタリングシステムは,CardioLab(GE Healthcare社製)を使用した。記録のバンドパスフィルターは,0.5から100 Hzで設定した3)

Figure 2 

CMAP電極の位置

CMAPの電極位置であるが,緑が右側,青が左側の電極シールを貼る位置。赤はルイ角の位置である。

3. CMAPの刺激・計測方法

横隔神経刺激は,右側は上大静脈,左側は左鎖骨下静脈に電極カテーテルを留置し,その先端から連続刺激(40/min, 10V@1 msec)を行った。CMAPの振幅の計測は,Kowalskiらの報告4)と同様にペーシングアーチファクト直後の振幅の頂点→頂点をCMAPとした(Figure 3A, B)。従来法と変法をスピアマンの順位相関係数を用いて関係性を検討した。また,CMAPの振幅差だけではなく,身長やBMIといった体格に関する項目についても検討を行った。

Figure 3 

CMAP波形

ペーシングスパイク直後の振幅(黄矢印)がCMAP。A:右側の従来法(1.32 mV)と変法(1.29 mV)の振幅。B:左側の従来法(1.25 mV)と変法(1.23 mV)の振幅。C:従来法(0.77 mV)の方が変法(0.60 mV)より高振幅の症例。D:変法(0.77 mV)の方が従来法(0.15 mV:青矢印)より非常に高振幅の症例。

R-CMAP=従来法の右側CMAP;R-C=変法の右側CMAP;L-CMAP=従来法の左側CMAP;L-C=変法の左側CMAP;II=体表心電図II誘導;PNS1-2=ペーシングカテーテル1-2電極。

III  結果

1. 右横隔神経刺激

従来法は平均0.83 mV,変法は平均0.87 mVであった。従来法に比べ変法は,平均107%(78~176%,中央値101%)高振幅であった。相関係数rs ‍= ‍0.78(p < 0.01),y = 0.870x + 0.145であった(Figure 4)。

Figure 4 

右横隔神経刺激

CBA中の右横隔神経刺激での従来法と変法の相関を表した図。n ‍= ‍20。

2. 左横隔神経刺激

左鎖骨下静脈の閉塞や,電極カテーテルが留置できない症例があったため,対象n = 17であった。

従来法は平均0.72 mV,変法は平均0.77 mVであった。従来法に比べ変法は,平均137%(67~513%,中央値101%)高振幅であった。相関係数rs ‍= ‍0.86(p < 0.01),y = 0.692x + 0.277であった(Figure 5)。

Figure 5 

左横隔神経刺激

CBA中の左横隔神経刺激での従来法と変法の相関を表した図。n ‍= ‍17。

3. 体格によるCMAPの比較検討

変法のCMAPの振幅を従来法のCMAPの振幅で除した数値を割合として算出し,その割合と身長・BMIのそれぞれで相関を検討した。結果は,身長(右rs = −0.44,左rs = 0.05)・BMI(右rs = −0.39,左rs = −0.19)ともに相関がなかった(Figure 6)。また,患者の身長によってCMAPの振幅に差があるかも検討してみた。左側の従来法は相関係数rs = 0.09,変法はrs = −0.01,右側の従来法は相関係数rs = 0.05,変法はrs = −0.37となった。従来法(右側・左側)と変法(右側・左側)ともに身長との関連は認められなかった(Figure 7, 8)。

Figure 6 

割合と身長・BMIとの検討

y軸は変法を従来法で除した割合を示す。

Figure 7 

左側CMAPと身長との関係

左側CMAPと身長との関係を示した図。

Figure 8 

右側CMAPと身長との関係

右側CMAPと身長との関係を示した図。

症例によっては,従来法の方が変法より高振幅であったり(Figure 3C),変法が従来法に比べ非常に高振幅になることもあった(Figure 3D)。

上記結果より,従来法と変法の電位は強い相関を示し,また,患者の体格による影響は受けないという結果になった。

IV  考察

今回我々が用いたルイ角とは,胸骨柄と胸骨体とが鈍角に結合する隆起のことである5)。この下を第2肋間として数えて,標準12誘導心電図を検査することが多い。患者のBMIが高値でも触れやすく,仰臥位でも電極シールを貼ることができるわかりやすい目印であるといえる。また,BMIが高い患者に対して,電極位置を従来法より頭側に貼ることで振幅の高いCMAPが得られるかもしれないと示唆する文献もある4)。これらが今回ルイ角に着目した理由である。

CBAでのCMAPは心電図の標準双極誘導と同じで,2電極間の電位差を振幅として表示している。そのため,電極の位置をルイ角に変えても,電極間距離が大きく変わらないため,従来法と変法は振幅に差がなかったと考えられる。全体的には良い相関を示したが,症例によって振幅に大きな差が生じることもあった。対象者の身長やBMIが高いとCMAPの電極間距離が大きくなるため振幅差が生じると考えたが,身長・BMIともに関連は認められなかった。Sharmaら6)は計測時の呼吸状態でCMAPの振幅に変動があり,呼気時が吸気時に比べ10.8%振幅が高いと報告している。本検討では,従来法と変法を同時に記録しているため,呼吸による影響は少ないと考えられる。今回の検討では振幅差が生じる原因は解明できなかったが,対象者の体格に関係なく変法を用いることができると考えられる。CMAPの電極間距離は16 cm離して測定することが推奨されている7)。体格が小さいと,この距離が得られないことがある。しかし,変法は身長やBMIに影響されることなく測定できるので,体格が小さい患者には有用であると考えられる。

CMAPを心臓カテーテルモニタリングシステム上の波形で,振幅の低下を判断することは,波形が動揺することもあり,瞬時に電位の低下を判断することは困難な場合もある。CMAP電極を,体表心電図の肢誘導(右手と左手)の電極シールをCMAPの導出として用いている文献が散見されるが1),4),7),体表心電図の電極シールを心電図の導出設定のままCMAPとして用いると,患者の足元で行われる医師の手技中の動作によって波形が動揺してしまうことがある。そのため,当院ではCBAを開始してすぐに,CMAP専用の電極シールを用いた。このことにより,医師の手技や患者の体動による波形の動揺を軽減させることができると考えられる。さらに,CMAPの波高をペーシング毎にリアルタイムで数値として表示されるEnSite NavXを導入し,CMAPの低下にすばやく反応できるようにしている。当院では全例でこのシステムを用いているが,他施設やこれからCBAを始める施設でEnSite NavXを用いる際は,NavXパッチと重なることのないルイ角を用いた変法が有用であると考えられる。

施設によっては,右側のCMAPのみを計測し,左側は計測しないこともある。解剖学的に,右横隔神経は上大静脈から右肺静脈を沿うように走行しており,CBAだけではなく高周波焼灼術でも注意が必要である8),9)。一方,左横隔神経は右側に比べやや肺静脈から離れた位置を走行している(Figure 9)。そのため,左側CMAPを計測しない施設があると思われる。しかし,当院では左肺静脈のCBA中に,一過性の左横隔神経麻痺を経験しており,その症例以降はできるかぎり左側のCMAPもモニタリングし,左横隔神経障害の予防に努めている。

Figure 9 

横隔神経の解剖学的位置

解剖学的な心臓と右横隔神経(図左)と左横隔神経(図右)の位置関係。1=右上肺静脈;2=右下肺静脈;3=左心耳。Dr. Yen Ho(Royal Brompton Hospital)の画像を文献6)から引用。

V  まとめ

CMAPの変法は,従来法と良い相関を示した。また,患者の体格に関係なくCMAPをモニタリングできる変法は有用であると考えられる。

 

本論文の要旨は第80回日本循環器学会学術集会(2016年3月,仙台)にて発表した。

本研究は,非侵襲で通常業務と同時に検討したため,倫理委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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