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技術論文
Mycosis fungoides(菌状息肉症)の鑑別に有用な免疫二重染色法
柳田 絵美衣山田 寛松岡 亮介伊藤 智雄
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2017 年 66 巻 3 号 p. 248-254

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Abstract

Mycosis fungoides(菌状息肉症)は,病変の範囲と性状,末梢リンパ節の有無などから,癌の進行度をT=腫瘍,N=リンパ節,M=転移において分類するTNM分類で1~4期にstage分類される。Stageにより治療方針や生存率が異なるため,早期発見・治療が重要となる。そこで我々は酵素抗体法による免疫二重染色を用いてmycosis fungoidesの鑑別を試みた。注目したのは本疾患の特徴である,T細胞マーカーのCD3とCD4が陽性となり,CD7が消失または減弱する点である。カクテル抗体を用いた二重染色でCD3とCD7を染色した。方法は,CD3,CD7の各抗原に対しての一次抗体も同時に反応させ,その後,各一次抗体に対しての二次抗体も同時に反応させた。2種類の発色剤を用いて,CD3は青色に,CD7は茶色に発色させた。さらに我々は,あえて同時陽性の部位での複数色発色を行い,同時陽性で発色の色を重ねることで強い色調で弱い色調を覆い隠す方法を行った。本疾患で腫瘍細胞はCD3+/CD7−となるためCD3陽性の青色のみ観察され,正常や炎症などではCD3+/CD7+であるため,CD3陽性の青色がCD7陽性の茶色の色調で覆い隠され,茶色の色調のみが観察される。本法は非常に簡単な工程で,染色時間も短く,日常的に用いることが可能な染色法であるといえる。

皮膚リンパ腫においてT細胞性リンパ腫は発症頻度が圧倒的に高く,本邦において皮膚リンパ腫の8割以上を占める。その中でも,mycosis fungoides(菌状息肉症)/Sezary症候群が半数以上を占める1)。mycosis fungoidesは,悪性化したT細胞が表皮を侵していく表皮向性の腫瘍である。進行ははじめ緩徐であり,隆起や浸潤のない紅斑をみる紅斑(斑状)期(patch stage),軽度の隆起や浸潤を伴う局面期(plaque stage),更には1 cm以上の大きさで深い浸潤・高い隆起を示す結節病変を伴う腫瘤期(tumor stage)を経る2)~4)。やがて,リンパ節や内臓病変を伴う内臓浸潤期へと進行する。皮膚病変の範囲と性状,異常末梢リンパ節の有無,内臓病変の有無などから,TNM分類を用いてI期~IV期にstage分類される。早期のstageにあたるIa期の10年生存率は84~100%と良好で,10年の観察で約10%の症例が進行する。しかし,腫瘤を伴う皮膚腫瘍期にあたるIIbでは5年生存率は50%と落ち込み,リンパ節病変と伴うIV期での5年生存率は15~40%と低下し著しく予後不良となる。治療方針は光線療法,放射線治療や化学療法が施行され,stageにより治療方針と予後が大きく異なる。進行したstageで行う化学療法は有用だが根治は期待出来ず,現時点では高い効果が得られる治療法は確立されていない。つまり,早期での発見・治療が重要であり,予後に大きく影響するといえる。しかし,臨床症状に乏しく,確定診断は病理診断によるため,正確な病理診断を行うための病理検査が必須となる。皮膚型ATLLなどの他症例との鑑別や確定診断の補助的手段として酵素抗体を用いた免疫組織化学(以下「免疫染色」)が有用である。Mycosis fungoidesではT細胞マーカーであるCD3+かつCD7−となり,CD3とCD7を同一細胞上で評価することにより,CD7の消失または減弱が特徴的である。しかし,CD3とCD7の各免疫染色標本を見比べてCD7の消失または減弱を判定することとなり,同一細胞上での正確な確認は困難である3),5)~11)

I  目的

CD7の消失または減弱を判定するため,mycosis fungoidesの鑑別に有用と思われる酵素抗体を用いた免疫二重染色法を試みた。

II  原理

免疫二重染色法には蛍光抗体を用いる場合と酵素抗体を用いる場合がある。光の三原色を原理とする蛍光抗体法では数色の色調を電子的にマージすることが可能であり,黄色と赤色の蛍光が重なる部位では蛍光黄緑色となる。しかし,色の三原色を原理とする酵素抗体法では,色を重ねると色は明度が下がり黒に近づいていき,両者の中間色となりにくくなるため,同一部位での発色を避けざるを得ない。そのため,従来から酵素抗体法での多重免疫染色では核内抗原と細胞膜抗原の組み合わせなど,陽性となる部位が異なる組み合わせで行われてきた。しかし,病理診断では組織構築と特定抗原の関係性が確認出来る酵素抗体での染色が必須である。そこで,我々は,同一部位の発現であっても,一定の条件下では診断上有用な情報がもたらされることに気付き,新たな染色評価の方法として“masking double immunostaining法”を考案した。原理は,強力な発色色調を持つDABの茶色の色調で,他方の発色剤の色調を覆い隠してしまい(masking),結果として2色で描出する。中間色の検出を目的としておらず,片方の陽性像を完全にDABの色調で覆い隠すことが特徴である。抗原Aと抗原Bがある場合,後者が陽性の細胞は必ずAが陽性となることが理論的に判明している場合に有用性があり,Aを青色でBをDABで発色した場合に,A+/B−であれば染色像は青色,A+/B+であれば染色像は茶色となる。本検討でCD3とCD7の組み合わせであり,CD7陽性の細胞は必ずT細胞マーカーであるCD3も陽性となる。そのためCD3を青色で発色,CD7を茶色で発色すれば,正常皮膚ではCD3+/CD7+でありCD3陽性の青色をCD7陽性の茶色が覆い隠すため結果として茶色を呈する。Mycosis fungoides の場合はCD3+/CD7−(またはCD7減弱)であるためCD3のみが陽性の青色を呈する細胞が確認出来ることとなる(Figure 1)。

Figure 1 

CD3(青色)/CD7(茶色)の免疫二重染色結果模式図

a.皮膚。炎症症例での染色結果模式図。同一細胞上でCD3+/CD7+となるため,CD7陽性の茶色の色調が,CD3陽性を示す青色の色調を覆い隠し,染色像は茶色のみを呈する。

b.Mycosis fungoides症例での染色結果模式図。CD3+/CD7−となる細胞が存在するため,CD7陰性の細胞はCD3のみが陽性となり,染色像は青色を呈する。

さらに従来からある免疫二重染色は,1種類ずつの抗原に反応させ,染色を行うため,染色に要する時間と行程が通常の免疫染色の2倍以上も要していた12)。そこで,これらの問題も解決すべく,カクテル抗体法を用いての染色を考案した。カクテル法では,異なる動物種の抗体と異なる標識酵素を用いて,2種類の抗原に対して独立した抗原抗体反応を行わせるため2種類の抗体を同時に反応させ,染色することが可能となるシステムである13),14)。二次抗体に用いる,MACH 2 Double Stain 2には,peroxidase(PO)標識抗マウスIgG抗体とalkaline phosphatase(AP)標識抗ウサギIgG抗体が入っており,各動物種の一次抗体に対応し,同時に反応させることが可能となる。この場合,マウスモノクローナル抗体にはPO標識抗マウスIgG抗体が反応し,ウサギポリクローナル抗体に対してはAP標識抗ウサギIgG抗体が同時に反応する仕組みである。この2種類の反応を同時に行うため,1回の反応で動物種がマウス,ウサギの一次抗体を二種類の発色剤で染め分けることが可能となる。この時,CD7マウス抗体はDABにより茶色に発色し,CD3ウサギ抗体はPermaBlue/APにより青色に発色する(Figure 2)。

Figure 2 

CD3/CD7のカクテル抗体を用いての免疫二重染色手順と原理模式図

III  方法

ホルマリン固定パラフィン包埋ブロックにおいて,通常のCD3とCD7の免疫単染色を施行した際に,非特異的染色もなく,染色強度も良好で染色性に問題が無く,過去に炎症,mycosis fungoidesと診断された症例を対象とした。ホルマリン固定パラフィン包埋ブロックを4 μm厚で薄切し,免疫二重染色を行った。抗体はそれぞれ,抗CD3ウサギポリクローナル抗体(#IR503, Dako Denmark A/S, Glostrup, Denmark)の原液と100倍に希釈した抗CD7マウスモノクローナル抗体(clone: LP15, #NCL-L-CD7-580, Leica Microsystems GmbH, Wetzlar, Germany)を等量混合して用いた(Table 1)。染色プロトコールはTable ‍2に示す。抗原賦活化処理としてpH 8.0 EDTA溶液を用いて圧力鍋で3分間加熱と加圧処理を行った。その後,一次抗体として100倍希釈した抗CD7抗体と原倍の抗CD3抗体を等量混合した後,切片にのせ室温で45分間反応させた。一次抗体反応後は,内因性ペルオキシダーゼブロッキングを5分間行い,次に二次抗体としてMACH 2 Double Stain 2(BIOCARE MEDICAL, Pike Lane, USA, BRR523H)を室温で30‍分間反応させる。二次抗体反応後はAP系発色剤‍としてPermaBlue/AP(Diagnostic Bio Systems, Serpentine Lane, USA, K051)を室温で10分間反応させ発色し,その後PO系発色剤であるDABを用いて室温で2分間発色操作を行った。最後に,組織構築の確認を容易にするため,カウンター染色としてケルンエヒトロートで染色を行う。

Table 1 

使用した一次抗体と試薬一覧

一次抗体
Antibody clone Manufacturer Subtype Dilution
CD3 ​Dako #IR503 Rabbit
CD7 LP15 ​Leica #NCL-L-CD7-580 Mouse 100×

*各一次抗体を指定倍率に希釈して混合する

その他 試薬
試薬名 Manufacture
Peroxidase-Blocking Solution, Dako REALTM​Dako​#S2023
MACH 2 Double Stain 2​BIOCARE MEDICAL​#BRR525AG
Perma Blue/AP​Diagnostic Bio Systems​#K051-B
インスタントトリス緩衝液​三菱化学ヤトロン​#RM102-T
0.5 M EDTA(pH 8.0)​和光純薬工業株式会社​#311-90075
Table 2  CD3/CD7の免疫二重染色プロトコール
 1.脱パラフィン
 2.水洗
 3.抗原賦活処理 EDTA based pH 8.0 solution 圧力鍋3分
 4.水洗
 5.1次抗体 (2種類の一次抗体を混合)
抗CD3ウサギポリクーナル抗体
+抗CD7マウスモノクローナル抗体
室温45分
 6.洗浄 トリス緩衝液 2分×3回
 7.Peroxide Block 室温10分
 8.洗浄 トリス緩衝液 2分×3回
 9.2次抗体 MACH 2 Double Stain Kit 2 室温30分
10.洗浄 トリス緩衝液 2分×3回
11.発色 3-3'-Diaminobezidine-4HCl(DAB) 室温2分
12.水洗
13.発色 PermaBlue/AP 室温10分
14.水洗
15.ケルンエヒトロート* 3~5秒
16.水洗浄

既存のCD3,CD7それぞれの単染色標本とCD3とCD7の免疫二重染色標本の染色像を比較した。

IV  結果

炎症症例とmycosis fungoides症例のHE染色像では,両者とも真皮浅層の小型リンパ球浸潤がみられる(Figure 3)。各症例でのCD3,CD7の単染色像では,両症例ともにCD3陽性細胞,CD7陽性細胞がみられるが,mycosis fungoides症例の特徴であるCD7の消失や減弱が確認困難である(Figure 4, 5)。しかし,CD3とCD7の免疫二重染色像では炎症症例でCD3+/CD7+となるため,CD3とCD7の陽性細胞が同一であり,陽性部位が一致する。そのため,CD7陽性の茶色の色調がCD3陽性の青色の色調を覆い,結果として茶色の色調のみが確認できる。一方,mycosis fungoides症例ではCD7陽性細胞が消失・減弱しているため,茶色を呈する細胞が減少する。よって,CD3陽性の青色の細胞が確認できる(Figure 6)。Mycosis fungoides症例の拡大像でも,CD3,CD7の単染色では,正確に判定出来ない両者の差異を,免疫二重染色では,CD7の減弱または消失を示す,CD3陽性の青色を呈する細胞が多数観察された(Figure 7)。

Figure 3 

皮膚。HE染色。対物4倍

a.炎症症例

b.Mycosis fungoides症例

Figure 4 

皮膚。炎症症例。対物4倍

a.CD3免疫単染色

b.CD7免疫単染色

CD3,CD7ともに陽性細胞がみられる。

Figure 5 

皮膚。Mycosis fungoides症例。対物4倍

a.CD3免疫単染色

b.CD7免疫単染色

CD3,CD7ともに陽性細胞がみられる。

Figure 6 

CD3(青色)とCD7(茶色)の免疫二重染色。対物4倍

a.炎症症例。CD3+/CD7+となるため,茶色を呈するCD7陽性細胞と,青色を呈するCD3陽性細胞が同一であり一致する。青色が茶色に覆い隠されるため染色結果は茶色色調のみを呈することとなる。

b.Mycosis fungoides症例。CD3+/CD7-となるため茶色を呈するCD7が減弱または消失しており,CD3陽性の青色のみ陽性となる細胞が多数確認できる。

Figure 7 

皮膚。Mycosis fungoides症例。強拡大。対物20倍

a.CD3免疫単染色

b.CD7免疫単染色

c.CD3(茶色)とCD7(青色)の免疫二重染色。CD3+/CD7−となるため茶色を呈するCD7が減弱または消失しており,CD3陽性の青色のみ陽性となる細胞が多数確認できる。

染色プロトコールは,通常の免疫染色に加え,2色目のPermaBlue/APの発色操作が1つ増えるものの,一次抗体,二次抗体ともにカクテル抗体の利点である2種抗体の同時反応を行うことで,免疫二重染色であるにも関わらず,手技は非常にシンプルで,所要時間も短くなった。

V  考察

我々は今回,あえて一方の染色の色調を,もう一方の強い色調で覆い隠す方法で,炎症症例と,mycosis fungoides症例の染色を行った。Figure 45で示すように,炎症症例とmycosis fungoides症例でのCD3,CD7の単染色像では,両症例ともにCD3陽性細胞,CD7陽性細胞がみられ,mycosis fungoides症例の特徴であるCD7の消失や減弱が確認困難である。通常であればCD3とCD7の染色標本を見比べて,各陽性細胞数の差を確認する必要がある。しかし,mycosis fungoidesにおいてCD7の消失や減弱を一目で判定できることで,従来のCD3の染色標本とCD7の染色標本を何度も見比べて判定する必要がなく,青色を呈する細胞の存在から判定するだけで迅速かつ正確に簡単に判定が可能となる。さらに蛍光抗体法とは異なり酵素抗体による染色のため明視野顕微鏡での観察が可能で組織構築が観察でき,組織や細胞上の抗原局在と組織の構築状況が判断可能なため,より正確な診断に寄与するものと期待される結果となった。

また,我々は自動染色装置BOND MAX Automated Immunohistochemistry Vision Biosystem(Leica Microsystems GmbH, Wetzlar, Germany)にTable 1に従いプログラムし,自動染色装置による染色も試みた結果,用手法での染色と同等の結果が得られており,自動染色装置での染色も可能であることがわかっている。

更に,酵素抗体を用いた免疫二重染色にも関わらず,免疫単染色とほぼ同じ工程,時間で結果が得られるため,用手法でも日常的に染色することは容易である。プロトコールは使用する一次抗体のクローンやメーカーによって,希釈倍率や一次抗体の混合比,反応時間などの条件を調整する必要があり,PermaBlue/APの発色不足やCD3の抗原抗体不足の場合は,CD3陽性細胞の青色色調が弱くなり,偽陰性となると,CD7の消失や減弱の判定が不可能となる。CD3の陽性細胞が正確に染色され,CD7の消失や減弱が判定可能となる。さらに,CD7の染色が過染色の場合はCD7が偽陽性となってしまい,CD7の消失・減弱を確認することが困難となるため,染色の発色強度は重要となる。

しかし,両者の動物種さえマウスとウサギとで異なる抗体が準備出来れば,このプロトコールに応用が可能であり,シンプルかつ迅速に安定した結果を出すことができる。

本検討でのプロトコールの確立により,病理診断の現場においても非常に有用であるうえ,酵素抗体を用いた免疫二重染色の性質的・技術的欠点を解消し,さらにその欠点を逆手に取り利用する発想は特異的である。この技法が他の様々な症例においても応用が可能であることを期待し,我々は検討を続けている。

VI  結語

酵素抗体法免疫二重染色では,蛍光抗体法とは異なり同一部位での発色は避けられてきたが,今回の検討により,CD3とCD7の同一細胞上での酵素抗体免疫二重染色法は菌状息肉症の鑑別に応用が期待出来る。省力化,正確性と迅速性を兼ね備えた本方法は,病理医,臨床医そして患者に大きく貢献出来ると思われる。

 

なお,本論文の要旨は平成27年度(第55回)日臨技近畿支部医学検査学会(2015年10月,大阪)において報告した。

本研究は「臨床研究に関する倫理指針」,「疫学研究に関する倫理指針」,「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」,「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する倫理指針」,「遺伝子治療臨床研究に関する倫理指針」に該当しない研究のため,倫理審査委員会の承認を得ていない。

謝辞

稿を終えるにあたり,ご指導いただきました滋賀県立成人病センター総長/京都大学名誉教授の真鍋俊明先生に深謝いたします。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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