医学検査
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技術論文
血中可溶性インターロイキン2受容体測定試薬『ステイシアCLEIA IL-2R』の基礎的検討
近藤 崇米澤 仁盛合 亮介遠藤 明美山田 浩司淺沼 康一柳原 希美髙橋 聡
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2017 年 66 巻 3 号 p. 266-272

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Abstract

悪性リンパ腫は,リンパ球由来の悪性腫瘍であり,その罹患数は年々増加している。可溶性インターロイキン2受容体(sIL-2R)は,悪性リンパ腫の診断や経過観察に用いられている。今回,血中sIL-2R測定試薬「ステイシアCLEIA IL-2R」が開発されたので,その基本性能について検討した。再現性,希釈直線性および検出限界は良好な結果が得られた。また,プロゾーンや共存物質の影響は,認められなかった。血清とへパリンリチウム加血漿の相関係数は0.999と高く,回帰式はy = 0.98x − 10.51と近似した値であった。対照試薬との相関性も良好であったが,乖離検体を2例認めた。Dithiothreitol‍を用いて乖離原因の解析を行ったところ,患者血清中の異常IgMが対照試薬の偽高値を生じさせることが明らかとなった。以上の結果より,本試薬の基本性能は良好で,日常検査に有用と考えられた。

I  はじめに

悪性リンパ腫は,リンパ節やリンパ組織から発生するリンパ球由来の悪性腫瘍である。悪性リンパ腫の罹患数は年々増加しており,我が国における2012年全国推定年齢調整罹患率(対人口10万人)は,8.8人(男性10.9人,女性7.1人)である1)。悪性リンパ腫の確定診断は病理組織にて行われるが,スクリーニング検査として末梢血を用いた腫瘍マーカーの測定が行われている。

可溶性インターロイキン2受容体(soluble interleukin-2 receptor; sIL-2R)は,IL-2Rα鎖の一部が細胞膜から血中に遊離したもので,悪性リンパ腫や成人T細胞性白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma; ATLL)で血中濃度が高値となるため,診断や経過観察に用いられている2)~4)。これまで血中sIL-2R濃度は,酵素結合免疫吸着法(enzyme-linked immunosorbent assay; ELISA)や化学発光酵素免疫法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)で測定されていたが,測定レンジが十分ではない,測定に時間を要する,血漿での測定ができない等の問題点があった5),6)。これらの問題を解消するため,測定レンジを拡大し,血漿を用いて短時間で測定可能な血中sIL-2R測定試薬「ステイシアCLEIA IL-2R」が開発されたので,その基本性能を評価した。

II  対象および方法

1. 対象

当院において,sIL-2R検査が行われた患者の末梢血(血清とへパリンリチウム加血漿)を用いた。本研究は,札幌医科大学附属病院臨床研究審査委員会の承認を得て施行した(整理番号:282-78)。

2. 方法

1) 測定試薬および機器

「ステイシアCLEIA IL-2R」を用い,「全自動臨床検査システムSTACIA」(いずれも株式会社LSIメディエンス)で測定した。対照試薬として,「デタミナーCL IL-2R」を使用し,「全自動化学発光免疫測定装置CL-JACK NX(いずれも協和メデックス株式会社)で解析した。

2) 再現性

3濃度のプール血清を20回連続測定し,同時再現性を検討した。また,同じ試料を−80℃で凍結保存し,初回のみキャリブレーション後,20日間2重測定(午前と午後に1回ずつ)して日差再現性を調べ‍た。

3) 試薬安定性

試薬搭載後初回のみキャリブレーションし,7日毎に42日目まで,再現性の検討と同様の試料を2重測定した。

4) 希釈直線性

約10,000 U/mLのプール血清と約100,000 U/mLの高濃度試料を,専用希釈液で10段階希釈後3重測定した。

5) プロゾーン

約850,000 U/mLの高濃度試料を,専用希釈液で10段階希釈後3重測定した。

6) 検出限界

25 U/mLのプール血清を5段階希釈後,10重測定し2SD法で解析した。

7) 共存物質の影響

プール血清に5段階希釈した遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビン,乳び,リウマトイド因子と溶血ヘモグロビン(いずれもシスメックス株式会社)を添加後3重測定した。

8) 希釈試験

乖離検体2例を専用希釈液で2倍,4倍,8倍に希釈し両試薬で測定後,それぞれ希釈倍率を掛けてsIL-2R濃度を算出した。

9) ジチオスレイトール(dithiothreitol; DTT)処理によるIgMの不活化

血清と0.01 MのDTTを,1:1(乖離検体1)あるいは9:1(乖離検体2)の比率で混和し,37℃で1時間反応させた。対照には生理食塩水を用いた。

III  結果

1. 再現性

同時再現性と日差再現性の変動係数(CV)は,それぞれ1.4~3.0%,2.2~2.4%と良好であった(Table 1, 2)。

Table 1  Within-run precision
low medium high
mean (U/mL) 519.6 2,148.4 19,321.2
SD 15.8 56.7 279.2
CV (%) 3.0 2.6 1.4

(n = 20)

Table 2  Between-day precision
low medium high
mean (U/mL) 545.9 2,070.2 18,036.8
SD 12.7 50.7 402.6
CV (%) 2.3 2.4 2.2

(n = 20)

2. 試薬安定性

日差再現性の平均値±2SD(図中破線)を超えた場合を問題ありとすると,35日目まで安定していた(Figure 1)。

Figure 1 

On board stability test

Dotted line: mean value ± 2SD.

Open plots: Points of under the mean value − 2SD.

3. 希釈直線性

101,141 U/mLまで良好な直線性が確認された(Figure 2)。

Figure 2 

Dilution linearity test

4. プロゾーン

検討範囲内でプロゾーンはみられなかった(Figure 3)。

Figure 3 

Prozone phenomenon analysis

*RLU: relative light unit.

5. 検出限界

検出限界は5 U/mLであった(Figure 4)。

Figure 4 

Detection limit analysis

*RLU: relative light unit.

6. 共存物質の影響

未添加時における測定値の±2SD(図中破線)を超えた場合を影響ありとすると,検討範囲内で測定値に変動はなかった(Figure 5)。

Figure 5 

Effects of interfering substances on measurement of sIL-2R

Dotted line: untreated value ± 2SD.

7. 相関性

102例の患者血清を用いて本試薬と対照試薬の相関性を検討した結果,相関係数(r)は0.700,回帰式はy = 0.50x + 572.42であった(Figure 6A)。102例中,対照試薬と明らかな測定値の差異を認めた乖離検体が2例(乖離検体1は,本試薬1,825 U/mL,対照試薬25,215 U/mL。乖離検体2は,本試薬1,105 U/mL,対照試薬4,885 U/mL。図中○。)みられた。乖離検体を除外し,相関係数と回帰式を算出すると,r = 0.995,y = 1.02x − 173.97と良好であった(Figure 6B)。また,本試薬における血清とへパリンリチウム加血漿の相関性を調べたところ,rは0.999,回帰式はy = 0.98x − 10.51と近似した値であった(Figure 7)。

Figure 6 

Correlation of measured values between STACIA CLEIA IL-2R and Detamina CL IL-2R using serum samples

A: overall plots.

B: plots except for samples of discrepancy.

Open circles: samples of discrepancy.

Figure 7 

Correlation of measured values between serum and plasma samples

8. 乖離検体の解析

1) 希釈試験

本試薬と対照試薬における乖離原因を明らかにするため,希釈試験を行った。本試薬のsIL-2R濃度はいずれもほぼ同じ値であったのに対し,対照試薬では希釈倍率に比例して低下し,乖離検体1は8倍希釈,乖離検体2は2倍希釈で本試薬と同程度になった(Figure 8)。

Figure 8 

Dilution analysis in sample of discrepancy

2) 乖離検体のDTT処理によるIgMの不活化

乖離検体1と2のIgM濃度を測定したところ,それぞれ1,501 mg/dL,550 mg/dLと高値であった。そこで,乖離検体をDTT処理してIgMの抗体活性を失活後,対照試薬でsIL-2R濃度を測定した。対照として,本試薬におけるsIL-2R濃度が乖離検体と同程度で,IgM値が正常の患者血清を用いた。その結果,乖離検体1において,DTT未処理では27,514 U/mLと高値であったが,処理後は733 U/mLと低下した。また,乖離検体2においても,DTT未処理の3,740 U/mLに比べ,処理後は1,533 U/mLとsIL-2R濃度は低下した(Table 3)。

Table 3  DTT treatment in samples of discrepancy
Samples DTT Sample 1 Sample 2
Discrepancy
(U/mL)
27,514 3,740
+ 733 1,533
Control
(U/mL)
1,259 1,360
+ 1,030 1,382

IV  考察

今回我々は,血中sIL-2R測定試薬 ステイシアCLEIA IL-2Rの基本性能を検討した。再現性のCVは,最大でも3%と良好であった。オンボードでの安定性は,35日目まで安定であった。これは,添付文書に記載されている最大30日間よりも長かった。希釈直線性では,測定範囲上限(100,000 U/mL)より高値の101,141 U/mLまで直線性が認められ,検出限界は測定範囲下限の50 U/mLより低値の5 U/mLであった。また,約850,000 U/mLまでプロゾーンもみられず,高濃度を含む広い濃度域の測定が可能であることが確認された。また,血清とへパリンリチウム加血漿の相関性は良好であったことから,血漿を用いて迅速な測定が可能と考えられた。対照試薬との相関性も良好であったが,乖離例を2例認めたため解析を行った。

最初に希釈試験を行ったところ,対照試薬では直線性を示さず,偽高値を呈していると考えられた。本試薬および対照試薬はCLEIAを原理としており,異常な免疫グロブリンの存在下で非特異反応を起こすことが知られている7)。乖離検体のIgMが高値であったためDTT処理を行ったところ,対照試薬でみられた偽高値は消失した。このことから,検体中のIgMが対照試薬の偽高値の原因であると考えられた。4例のIgM高値患者血清を本試薬と対照試薬で測定すると,いずれも測定値の乖離はみられなかったことから(Table 4),対照試薬のIgMによる偽高値は,すべてのIgM高値患者で起こる現象ではないことが確認された。乖離検体1は肝硬変と寒冷凝集素症,乖離検体2は特発性血小板減少性紫斑病と寒冷凝集素症と診断されているが症例数が少ないため,疾患と乖離原因との関連性は不明であった。また,今回の検討では,どのような性質のIgMが偽高値を生じさせるのかは解明できなかった。異常IgMによる偽高値が,対照試薬のみに認められた原因として,両者の測定原理の違いが考えられた。すなわち,対照試薬は第一反応で検体10 μL,ビオチン化抗体30 μLと酵素標識抗体30 μLを反応させている。一方,本試薬は,検体5 μLに検体希釈液50 μLを加えた後(11倍希釈),磁性ラテックス試薬25 μLと反応させる。対照試薬は検体原液と抗体を反応させているのに対し,本試薬は抗体との反応前に検体が11倍希釈されるため,検体中の阻害物質の影響が少ないと推察された。

Table 4  sIL-2R values of high IgM samples
Samples IgM (mg/dL) sIL-2R (U/mL) Clinical diagnosis
Detamina CL IL-2R STACIA CLEIA IL-2R
High IgM 1 1,960 561 504 MGUS*
2 1,959 380 363 WM**
3 1,441 261 213 Multiple myeloma
4 1,246 1,369 1,417 WM**
Discrepancy 1 1,501 25,215 1,825 Liver cirrhosis, Cold agglutinin disease
2 550 4,885 1,105 ITP***, Cold agglutinin disease

*Monoclonal gammopathy of undetermined significance.

**Waldenstrom’s macroglobulinemia.

***Idiopathic thrombocytopenic purpura.

現在用いられている血中sIL-2R測定試薬は,それぞれ特徴が異なるため,各施設に求められるニーズによって選択する必要があると考えられた(Table 5)。すなわち,迅速性を重視すると,短時間で測定可能なデタミナーCL IL-2RやステイシアCLEIA IL-2Rが選ばれる。診療前検査で血漿を用いている施設は,ステイシアCLEIA IL-2Rやシーメンス・イムライズ IL-2RⅡが選択される。また,ATLL等のsIL-2Rが特に高値になる疾患が多い施設では,測定範囲上限が最も高いステイシアCLEIA IL-2Rが有用と考えられた。さらに,小児等の採血が困難な患者が多い施設では,検体最小必要量も選択肢の一つになると考えられた。

Table 5  Comparison of commercially available sIL-2R reagents
Reagent STACIA
CLEIA IL-2R
Detamina
CL IL-2R
Siemens IMMU
LYZE IL-2R II
CELLFREE-N
IL-2R
IL-2Rtest
BML
Principle of measurement CLEIA CLEIA CLEIA ELISA ELISA
Measuring time 19 min 16 min 30 min 120 min 120 min
Task performance (per one hour) Max 270 test Max 160 test Max 200 test
Available samples Serum, plasma (heparin, EDTA) Serum Serum, plasma (heparin) Serum Serum
Measuring range (U/mL) 50–100,000 50–50,000 50–7,500 200–10,800 100–6,400
Minimum requirement of sample 105 μL 310 μL 265 μL 30 μL 25 μL

It was create according to the instruction manual of each reagent.

V  結語

「ステイシアCLEIA IL-2R」の基本性能は良好で,測定時間も短く,血漿での測定が可能であることから,日常検査に有用と考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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