医学検査
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技術論文
腸内細菌科細菌における迅速薬剤感受性検査に関する基礎的検討
原 祐樹浅井 幸江山田 直輝井藤 聡美川島 誠深見 晴恵伊藤 守
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2017 年 66 巻 5 号 p. 530-537

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Abstract

迅速かつ正確に薬剤感受性検査を実施できる分析装置は現在のところない。今回,我々は薬剤感受性分析装置DPS192iXを用いた薬剤感受性検査の迅速化に関する基礎的検討を行ったので報告する。当院微生物検査室で検出された菌株から無作為に抽出した腸内細菌科細菌のグラム陰性桿菌199株および標準菌株5株を対象とした。薬剤感受性検査の培養開始から6,7および8時間時点での各抗菌薬の最小発育阻止濃度(MIC)と規定時間培養後のMIC値を比較し,一致率を比較した。また,同様に判定カテゴリーの一致率の比較も行った。6,7および8時間の時点でMIC値が完全に一致した割合は,66.4%,69.3%および71.0%であった。一方で6,7および8時間の時点と18時間培養後のカテゴリーの一致率は,それぞれ87.4%,88.7%,90.2%であった。次いで6,7および8時間時点でのvery major errorの割合はそれぞれ23.1%,17.7%および15.4%であった。一方,major errorの割合はそれぞれ2.6%,2.3%および2.0%であった。多くの抗菌薬で迅速判定と高い一致率が得られたが,耐性株におけるvery major errorが多く,感性株におけるmajor errorの割合が低いことが分かった。DPS192iXを使用した薬剤感受性検査において8時間以内に迅速判定可能な抗菌薬があることが示唆された。

I  はじめに

質量分析装置の登場により,菌種同定にかかる時間は大幅に短縮された1),2)。薬剤感受性検査に関しても迅速測定機器の検討がなされているが,市中病院の日常業務で使用されるまでには至っていない3)。薬剤感受性分析装置DPS192iX(栄研化学)は,192ウェルを搭載したドライプレートを用いて薬剤感受性を測定する新しい分析機器である。従来のドライプレートと異なり,192のウェルを持つことにより,多種類の抗菌薬を幅広い濃度で搭載することが可能となっている。また,従来のドライプレートを用いた薬剤感受性検査ともほぼ同等の成績が得られることも報告されている4)。DPS192iXは,菌の発育をウェルの輝度の変化としてとらえる方法を採用しており,各ウェルの輝度の変化を1時間ごとに測定している。菌の発育に伴いウェルの輝度が低下し,一定の輝度より低下した場合には,規定の培養時間経過前でも発育ありと判定できるため,薬剤感受性検査の迅速化に寄与する可能性が示唆されている。今回,我々はDPS192iXを用いて腸内細菌科細菌における迅速薬剤感受性検査に関する基礎的検討を行ったので報告する。

II  方法

1. 対象菌株

2016年1月から2016年12月までに当院微生物検査室で各種検査材料から分離された菌株から無作為に抽出した199株および標準菌株5株を対象とした。菌株の内訳をTable 1に示した。使用菌株の由来は,尿由来88株(44.2%),呼吸器系由来71株(35.7%),便由来19株(9.6%),その他臨床材料18株(9.0%)および血液由来3株(1.5%)であった。

Table 1  Organisms tested
Strains n
E. coli 43
E. coli ESBL 32
Klebsiella spp.
K. pneumoniae 38
K. oxytoca 16
K. pneumoniae ESBL 3
K. pneumoniae CRE 3
K. ornithinolytica 3
K. oxytoca ESBL 1
Enterobacter spp.
E. aerogenes 9
E. cloacae 9
E. kobei 2
E. kobei CRE 1
E. sakazakii 1
Morganella spp.
M. morgannii 10
Citrobacter spp.
C. freundii 4
C. koseri 2
C. amalonaticus 1
C. braakii 1
Serratia spp.
S. marcescens 5
S. marcescens CRE 2
Providencia spp.
P. rettgeri 3
P. rettgeri MBL 2
P. stuarrtii 1
Proteus spp.
P. mirabilis 2
P. vulgaris 2
Other Enterobacteriaceae
Salmonella spp. 2
Pantoea sp. 1
E. coli ATCC25922 1
K. oxytoca ATCC49131 1
P. vulgaris ATCC49132 1
K. pneumoniae ATCC BAA-1705 1
K. pneumoniae ATCC70063 1
Total 204

ESBL: extended-spectrum β-lactamase, CRE: carbapenem resistant Enterobacteriaceae, MBL: metallo-β-lactamase

2. 同定検査および薬剤感受性検査

菌株の同定には,MALDI Biotyper(ブルカーダルトニクス)を使用した。MALDI Biotyperで測定を行った菌株を,5%ヒツジ血液寒天培地(日本ベクトンディッキンソン)に塗布し,37℃で一晩純培養した菌株を薬剤感受性検査に用いた。薬剤感受性検査には,DPS192iX(栄研化学)を用いた。5%ヒツジ血液寒天培地に発育した菌を滅菌生理食塩水1 mLに懸濁し,濁度計を使用してMcFarland 1.0の菌濁液を得た。菌濁液25 μLとミュラーヒントンブイヨン(栄研化学)12 mLを混和し,グラム陰性菌の薬剤感受性検査に使用するドライプレートであるEP01プレート(栄研化学)へ菌液を分注した。準備したEP01プレートをDPS192iXへ装填し,35℃で18時間培養を実施した。

3. 抗菌薬の発育阻止濃度測定

EP01プレートに搭載されている33種類の抗菌薬に関して,培養開始6時間,7時間および8時間時点の最小発育阻止濃度(MIC)をそれぞれ記録し,18時間培養後のMIC値との一致率を比較した。また,記録したMIC値を元に各計測時点での薬剤感受性結果カテゴリーの判定を行い,18時間培養後のカテゴリーとの一致率の比較も行った。また,耐性株において6–8時間の時点で感性と判定された場合はvery major error,逆に感性株において耐性と判定された場合をmajor errorとして,これらの割合も各抗菌薬について算出した。なお,ブレークポイントの判定基準については,Clinical Laboratory Standards Institute(CLSI)のM100-S23を採用した。ただし,スキップが発生したウェルについては,判定から除外した。

III  結果

1. 最小発育阻止濃度の一致率

培養開始から6時間,7時間および8時間時点でのMIC値の完全一致率の平均は,66.4%,69.3%および71.0%であった。全抗菌薬のMIC値一致率をFigure 1に示した。また,1管差での一致率は,それぞれ84.7%,88.2%および89.6%であった。1管差でのMIC値一致率をFigure 2に示した。標準菌株におけるMIC値の完全一致率は,それぞれ57.6%,63.6%および66.3%であった。また,1管差での一致率はそれぞれ75.2%,81.8%および88.5%であった。

Figure 1 

Concordance ratio of minimum inhibitory concentrations

AZT: aztreonam, ABPC: ampicillin, PIPC: piperacillin, ACV: amoxicillin/clavulanate, S/A: ampicillin/sulbactam, TAZ/PIPC: piperacillin/tazobactam, FRPM: faropenem, IPM: imipenem, PAPM: panipenem, MEPM: meropenem, DRPM: doripenem, CCL: cefaclor, CEZ: cefazolin, CTM: cefotiam, CFDN: cefdinir, CPDX: cefpodoxime, CMZ: cefmetazole, CTRX: ceftriaxone, CAZ: ceftazidime, CPR: cefpirome, CFPM: cefepime, S/C: sulbactam/cefoperazone, FMOX: flomoxef, AMK: amikacin, GM: gentamicin, MINO: minocycline, CP: chloramphenicol, LVFX: levofloxacin, CPFX: ciprofloxacin, STFX: sitafloxacin, GRNX: garenoxacin, FOM: fosfomycin, ST: sulfamethoxazole-trimethoprim

Figure 2 

Concordance ratio of minimal inhibitory concentration with ± one tube dilution

AZT: aztreonam, ABPC: ampicillin, PIPC: piperacillin, ACV: amoxicillin/clavulanate, S/A: ampicillin/sulbactam, TAZ/PIPC: piperacillin/tazobactam, FRPM: faropenem, IPM: imipenem, PAPM: panipenem, MEPM: meropenem, DRPM: doripenem, CCL: cefaclor, CEZ: cefazolin, CTM: cefotiam, CFDN: cefdinir, CPDX: cefpodoxime, CMZ: cefmetazole, CTRX: ceftriaxone, CAZ: ceftazidime, CPR: cefpirome, CFPM: cefepime, S/C: sulbactam/cefoperazone, FMOX: flomoxef, AMK: amikacin, GM: gentamicin, MINO: minocycline, CP: chloramphenicol, LVFX: levofloxacin, CPFX: ciprofloxacin, STFX: sitafloxacin, GRNX: garenoxacin, FOM: fosfomycin, ST: sulfamethoxazole-trimethoprim

2. 薬剤感受性検査のカテゴリー一致率

培養開始から6時間,7時間および8時間時点でのカテゴリーの一致率の平均は,87.5%,88.8%および90.2%であった。8時間の時点での一致率が最も高かった。全抗菌薬の一致率をFigure 3に示した。また,標準菌株5株のカテゴリー一致率は,各計測時点においてそれぞれ82.2%,85.5%および87.4%であった。抗菌薬の系統別でカテゴリーの一致率を比較すると,アミノグリコシド系抗菌薬が6時間で96.3%,7時間で96.8%および8時間で98.0%と最も一致率が高かった。一方,ペニシリン系抗菌薬であるピペラシリンが最も低い一致率となった。次にvery major errorの割合は,培養開始6時間,7時間および8時間の順に23.1%,17.7%および15.4%であった。また,major errorの割合は,2.6%,2.3%および2.0%であった。測定を行った33薬剤について耐性株において迅速判定で感性と判定された割合であるvery major errorをTable 2に示した。一方,感性株において迅速判定で耐性と判断された割合であるmajor errorをTable 3に示した。標準菌株5株のvery major error の割合は,それぞれ18.1%,15.1%および13.2%であった。一方,major errorの割合はそれぞれ1.0%,0.97%および0.96%であった。MICおよびカテゴリー一致率ともに8時間の時点が最も一致率が高く,very major errorおよびmajor errorの割合も最も少なかった。

Figure 3 

Concordance ratio of the interpretive categories

AZT: aztreonam, ABPC: ampicillin, PIPC: piperacillin, ACV: amoxicillin/clavulanate, S/A: ampicillin/sulbactam, TAZ/PIPC: piperacillin/tazobactam, FRPM: faropenem, IPM: imipenem, PAPM: panipenem, MEPM: meropenem, DRPM: doripenem, CCL: cefaclor, CEZ: cefazolin, CTM: cefotiam, CFDN: cefdinir, CPDX: cefpodoxime, CMZ: cefmetazole, CTRX: ceftriaxone, CAZ: ceftazidime, CPR: cefpirome, CFPM: cefepime, S/C: sulbactam/cefoperazone, FMOX: flomoxef, AMK: amikacin, GM: gentamicin, MINO: minocycline, CP: chloramphenicol, LVFX: levofloxacin, CPFX: ciprofloxacin, STFX: sitafloxacin, GRNX: garenoxacin, FOM: fosfomycin, ST: sulfamethoxazole-trimethoprim

Table 2  Discrepancy ratio in resistant strains
Antibiotics Number of resistant organisms 6 hour 7 hour 8 hour
Aztreonam 67 16.4% 13.0% 7.5%
Ampicillin 165 3.6% 3.0% 1.8%
Piperacillin 102 18.4% 17.6% 12.7%
Amoxicillin/Clavulanate 68 2.9% 0.0% 1.5%
Ampicillin/Sulbactam 77 7.8% 2.6% 1.3%
Sulbactam/Cefoperazone 15 26.7% 6.7% 6.7%
Piperacillin/Tazobactam 36 37.1% 22.9% 19.4%
Faropenem 51 14.9% 11.1% 3.9%
Imipenem 9 28.6% 12.5% 22.2%
Panipenem 7 50.0% 40.0% 28.6%
Meropenem 6 80.0% 60.0% 33.3%
Doripenem 7 42.9% 28.6% 28.6%
Cefaclor 106 14.0% 10.4% 9.4%
Cefazoline 127 8.7% 4.7% 5.5%
Cefotiam 103 15.7% 11.7% 15.5%
Cefdinir 96 6.3% 6.3% 6.3%
Cefpodoxime 88 6.7% 6.6% 4.5%
Cefmetazole 45 10.4% 6.4% 6.7%
Ceftriaxone 69 8.6% 2.9% 2.9%
Ceftazidime 64 12.5% 6.2% 4.7%
Cefpirome 49 27.7% 20.0% 14.3%
Cefepime 33 74.3% 66.7% 63.6%
Flomoxef 40 11.6% 7.1% 7.5%
Amikacin 2 33.3% 50.0% 50.0%
Gentamicin 28 17.9% 17.9% 7.1%
Minocyclin 19 40.0% 38.1% 36.8%
Chloramphenicol 21 20.0% 20.0% 14.3%
Levofloxacin 38 5.3% 2.6% 2.6%
Ciprofloxacin 41 5.0% 2.5% 2.4%
Sitafloxacin 3 25.0% 0.0% 0.0%
Garenoxacin 41 7.3% 4.9% 4.9%
Fosfomycin 16 77.8% 76.5% 75.0%
Sulfamethoxazole-Trimethoprim 62 6.5% 6.5% 6.5%
Table 3  Discrepancy ratio in susceptible strains
Antibiotics Number of susceptible organisms 6 hour 7 hour 8 hour
Aztreonam 119 14.7% 16.0% 12.6%
Ampicillin 26 12.0% 7.7% 7.7%
Piperacillin 81 11.5% 9.0% 7.4%
Amoxicillin/Clavulanate 119 0.8% 0.8% 0.0%
Ampicillin/Sulbactam 87 1.2% 1.2% 2.3%
Sulbactam/Cefoperazone 176 2.3% 2.9% 2.3%
Piperacillin/Tazobactam 155 6.5% 5.1% 4.5%
Faropenem 132 0.8% 0.8% 0.8%
Imipenem 172 1.2% 1.2% 0.6%
Panipenem 175 0.0% 0.0% 0.0%
Meropenem 189 0.0% 0.0% 0.0%
Doripenem 186 0.0% 0.0% 0.0%
Cefaclor 86 0.0% 0.0% 0.0%
Cefazoline 60 0.0% 0.0% 0.0%
Cefotiam 94 0.0% 0.0% 0.0%
Cefdinir 100 2.0% 2.0% 2.0%
Cefpodoxime 108 8.5% 6.7% 4.6%
Cefmetazole 148 0.0% 0.0% 0.0%
Ceftriaxone 119 1.7% 0.9% 0.8%
Ceftazidime 127 4.8% 3.2% 2.4%
Cefpirome 144 2.8% 3.5% 2.8%
Cefepime 157 1.9% 1.3% 1.9%
Flomoxef 147 0.0% 0.0% 0.0%
Amikacin 196 0.0% 0.0% 0.0%
Gentamicin 171 0.0% 0.0% 0.0%
Minocyclin 164 1.3% 0.0% 1.2%
Chloramphenicol 167 0.0% 0.0% 0.0%
Levofloxacin 160 1.9% 1.9% 1.9%
Ciprofloxacin 152 3.4% 3.3% 3.3%
Sitafloxacin 191 2.1% 2.6% 2.1%
Garenoxacin 148 2.7% 4.1% 1.4%
Fosfomycin 174 0.0% 0.0% 0.0%
Sulfamethoxazole-Trimethoprim 136 3.0% 3.0% 3.7%

IV  考察

今回の検討結果より,DPS192iXを用いた薬剤感受性検査によって培養開始から6時間,7時間および8時間時点と規定時間培養後の薬剤感受性検査結果を比較すると,抗菌薬の種類によって一致率に差があるが,多くの抗菌薬で最終判定と高い一致率を示しており,DPS192iXを用いた薬剤感受性検査の迅速判定が可能であることが示唆された。特に培養開始8時間時点での判定が最もカテゴリーの一致率が高く,very major errorおよびmajor errorの割合が少なかったことから,迅速判定には培養開始8時間時点でのMIC値を用いることで,より正確な迅速判定が可能になると考えられた。標準菌株5株の測定結果は,時間の経過とともにMIC値一致率,カテゴリー一致率が高くなり,major errorおよびvery major errorの割合が減少する傾向が確認された。また,一致率およびmajor errorおよびvery major errorの割合が標準菌株でやや低い傾向にあったが,臨床分離株による測定結果と大きな乖離は認められなかった。このことから,臨床分離株による測定結果が妥当であると考えられた。

MIC値の一致率については,迅速判定との完全一致率は平均71.0%と低かったが,1管差での一致率は平均89.6%と高い一致率を示した。測定を行った33薬剤のうち14薬剤は1管差での一致率が平均90%を超えており,特にカルバペネム系抗菌薬とニューキノロン系抗菌薬で一致率が高かった。このことから,DPS192iXを使用したMIC値の迅速判定においては,最終判定と1管差で一致することが多いという特性を考慮して,MIC値の迅速判定を行う必要があると考えられた。また,抗菌薬の種類によってMIC値の迅速判定に適した抗菌薬と適さない抗菌薬があることを念頭におくことも重要である。今回の検討では,スキップが発生したウェルについてはデータから除外したが,ピペラシリンやアズトレオナムにおいてスキップの発生する割合が他の抗菌薬に比べてやや多い傾向が見られた。しかし,菌種やウェルの位置による一定の傾向は確認されなかったことから,この2つの抗菌薬に特有の現象であると推察された。

薬剤感受性検査の結果判定においては,very major errorおよびmajor errorに最も留意すべきである。Very major errorは,耐性と報告されるべき薬剤が誤って感性と判定されること,major errorは感性と報告すべき薬剤が誤って耐性と判定されることである。米国食品医薬品局(FDA)の勧告5)によれば,新規の薬剤感受性装置に求める性能の指標として,reference methodと比較してカテゴリー判定の一致率が90%以上であること,major errorの割合が3%未満であること,very major error推算率で0%–3.68%であること,発育不全株数が被検菌株の10%未満であることの4点が指標として挙げられている。我々の検討では,微量液体希釈法による18時間培養をreference methodとした。今回の検討では発育不全株は認められなかったため,前者3点を準用する形で我々の検討について考察する。前述したvery major errorに関するFDAの基準では48株以上の耐性株についてのデータが示されており,今回の我々の検討において48株以上の耐性株について検討を行っている抗菌薬は15薬剤のみであり,それらのうちvery major errorの基準を満たしていた抗菌薬は,8時間時点のアンピシリン/スルバクタムおよびアンピシリンのみであった。今回の検討から耐性株における感性判定についてはvery major errorを起こす可能性が高い抗菌薬が多くあることから,感性の迅速判定については慎重に判断すべきであり,現時点では規定時間培養後に感性判定を行うことを推奨したいと考える。また,検討株数が48株以下の抗菌薬について評価を行うためにはさらなる追加検討が必要であると考えられた。次にmajor errorについて考察をする。Major errorの基準を満たしていた抗菌薬は26薬剤であり,多くの抗菌薬が基準を満たしていた。一方で,アズトレオナム,アンピシリン,ピペラシリン,ピペラシリン/タゾバクタム,セフポドキシム,シプロフロキサシン,ST合剤は基準を満たしていなかった。Major errorの基準を満たす抗菌薬については,耐性の迅速判定が可能であると考えられた。また,基準を満たさない7薬剤における耐性の迅速判定については慎重に判断すべきであると考えられた。カテゴリー一致率の基準については,6,7および8時間の時点で11薬剤,17薬剤および19薬剤が基準を満たしていた。ニューキノロン系,アミノグリコシド系およびカルバペネム系抗菌薬は8時間の時点で同一系統内の抗菌薬が全て90%以上の一致率であった。今回の我々の検討において先述したFDAの基準を全て満たす抗菌薬はなかった。一方で,アモキシシリンクラブラン酸,スルバクタムセフォペラゾン,イミペネム,パニペネム,メロペネム,ドリペネム,セフジニル,セフメタゾール,アミカシン,ゲンタマイシン,クロラムフェニコール,レボフロキサシン,シタフロキサシンおよびガレノキサシンの合計14薬剤は,カテゴリー一致率およびmajor errorの基準を満たしており,これらの抗菌薬においては耐性の迅速判定が可能であると考えられた。しかし,近年話題となっているカルバペネマーゼ産生菌やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌については,7株のみの検討にとどまっており,カルバペネム系抗菌薬の迅速判定については,これらの耐性菌の影響を十分反映したものとなっていない可能性がある。これらの耐性菌におけるカルバペネム系抗菌薬の迅速判定については,十分な検証が今後実施されることが望まれる。そのため,十分な検証がなされるまでは,カルバペネム系抗菌薬の判定については,慎重に判断すべきであると考える。

最後に本検討におけるlimitationについて述べる。本検討で使用した菌株は204株と少なく,very major errorの項でも述べたが,特に感性の迅速判定に関する検討が十分に実施できていないと考えられる。そのため,検討をさらに進めて検討株数を増やし,さらなるデータ検証が必要であると考えている。

V  結語

今回,我々は薬剤感受性分析装置DPS192iXを用いた薬剤感受性検査の迅速化に関する基礎的検討を行った。培養開始から8時間以内での感性の迅速判定についてはさらなる検証が必要であるが,耐性の迅速判定が可能な抗菌薬があることが示唆された。今後は,検討株数を増やすとともに菌種や薬剤耐性機序別の解析を進めていく予定である。

 

本論文の要旨については第28回日本臨床微生物学会総会学術集会において発表を行っている。(演題番号O-138)

本研究は菌株を用いた研究であり,当院の臨床研究審査委員会より倫理委員会での承認は不要との見解を得て,実施している。

COI開示

本論文の著者は、栄研化学株式会社より講演料として金銭の支払いを受けております。

文献
 
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