2017 年 66 巻 5 号 p. 563-569
プロカルシトニン(procalcitonin; PCT)はアミノ酸116個からなる分子量13 kDaのペプチドであり,敗血症診療の国際的ガイドラインであるSurviving Sepsis Campaign Guidelinesの敗血症診断バイオマーカーの1つとして挙げられている。今回我々は,化学発光酵素免疫測定法を原理とするルミパルスプレスト ブラームスPCTの性能評価を行った。同時再現性の変動係数(CV)は1.1~2.0 %(平均値:0.25,0.95,18.93 ng/mL),日差再現性のCVは3.3~3.5 %(平均値:0.25,0.90,18.50 ng/mL),希釈直線性は90.0 ng/mLまで原点を通る直線性を認め,定量限界は0.003 ng/mLであり高感度かつ精度も良好であった。高濃度のリウマトイド因子で測定値の低下傾向が認められた。PCT濃度が15.00 ng/mL以下における電気化学発光免疫測定法との相関は,相関係数0.991,線形関係式はy = 0.93x − 0.02と良好であった。検体の安定性は,室温で24時間後には14%低下したが,冷蔵保存では5%程度であった。ルミパルスプレスト ブラームスPCTの性能は良好な結果が得られ,高感度測定が可能となっており,敗血症診断および治療効果判定など臨床に役立つ試薬と考えられる。
プロカルシトニン(procalcitonin,以下PCT)はアミノ酸116個からなる分子量13 kDaのペプチドで,カルシウム代謝ホルモンであるカルシトニンの前駆体物質として甲状腺C細胞で生成され,細胞内でカルシトニン,カタカルシン,N末端領域に分解されるため,健常人の血中ではPCTはほとんど存在しない1)。しかし,重症細菌感染症では,PCTが甲状腺以外の全身の臓器細胞から産生され,分解されずにそのまま血中に放出される2)。従って,PCTは細菌感染を反映するマーカーであり,敗血症診療の国際的ガイドラインであるSurviving Sepsis Campaign Guidelinesの敗血症診断バイオマーカーの1つとして挙げられている3)。更に,敗血症の重症度判定,治療効果判定にも有用と考えられている4),5)。
PCTの測定は,イムノクロマト法(immunochromatography method, 以下IC),蛍光免疫測定法(enzyme linked fluorescent assay, 以下ELFA)6),化学発光免疫測定法(chemiluminescence immunoassay, 以下CLIA)7),電気化学発光免疫測定法(electro-chemiluminescent immunoassay, 以下ECLIA)8)が用いられている。既報において,CLIAやECLIAに比べて,ICとELFAはリウマトイド因子(rheumatoid factor,以下RF)等の非特異反応による偽陽性および偽高値が指摘されている6)。今回我々は,新たに開発された化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescence enzyme immunoassay, 以下CLEIA)を原理とするルミパルスプレスト ブラームスPCTの性能評価を行ったので報告する。
当院中央検査部にPCT測定の依頼があった外来および入院患者の血清検体(129例)を用いた。なお,本研究は川崎医科大学・同附属病院倫理委員会の承認(受付番号:2610)を得て行った。
2. 測定試薬および機器ルミパルスプレスト ブラームスPCTの測定にはルミパルスPresto II(富士レビオ(株))を用いた。コントロール,キャリブレータおよび検体希釈液は,それぞれLPコントロール・ブラームスPCT(以下,LPコントロール),ルミパルスプレスト ブラームスPCT PCTキャリブレータセット(以下,キャリブレータ),ルミパルスプレスト検体希釈液(いずれも富士レビオ(株):以下,検体希釈液)を用いた。比較対照法はECLIAを原理とするエクルーシス試薬ブラームスPCTをモジュラーアナリティクスE170(ロシュ・ダイアグノスティックス(株))で測定した外注検査の結果を用いた。
3. 測定原理ルミパルスプレスト ブラームスPCTの測定原理は,2ステップサンドイッチ法に基づいたCLEIAである。検体中のPCTは試薬中の抗体結合粒子と結合した抗PCT抗体および抗カルシトニン抗体による免疫複合体を形成する。抗体結合粒子の洗浄後にアルカリフォスファターゼ標識抗カタカルシン抗体を加え,新たな免疫複合体が形成される。再び抗体結合粒子の洗浄後に基質液(AMPPD)を加え,発光量を測定し,2濃度のキャリブレータを用いて作成した検量線より検体中のPCT濃度を求める。
4. 統計自動希釈機能の評価と検体の安定性の比較判定にはt検定を用い,危険率p < 0.05を統計学的に有意差ありと判定した。
同時再現性は2濃度のLPコントロールと1濃度のプール血清を20回連続測定した。その結果,変動係数(CV)は1.1~2.0 %(平均値:0.25,0.95,18.93 ng/mL)であった(Table 1A)。日差再現性は初日にキャリブレーションを実施後,試薬は分析装置に架設して30日間で10回測定を実施した。その結果,CVは3.3~3.5 %(平均値:0.25,0.90,18.50 ng/mL)であった(Table 1B)。
A) Within-run | B) Between-day | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
pool | Low | High | pool | Low | High | |
Mean (ng/mL) | 0.25 | 0.95 | 18.93 | 0.25 | 0.90 | 18.50 |
SD (ng/mL) | 0.01 | 0.01 | 0.31 | 0.01 | 0.03 | 0.65 |
CV (%) | 2.0 | 1.1 | 1.7 | 3.3 | 3.3 | 3.5 |
Max (ng/mL) | 0.25 | 0.97 | 19.50 | 0.26 | 0.95 | 19.39 |
Min (ng/mL) | 0.24 | 0.94 | 18.51 | 0.24 | 0.87 | 17.54 |
100.00 ng/mLキャリブレータ(通常,PCT用溶解用液500 μLで溶解)をPCT用溶解用液400 μLで溶解した試料をさらに検体希釈液で10段階希釈し,各試料を2重測定した。その結果,希釈直線性は90.00 ng/mLまで原点を通る直線性を認め,より高濃度の試料では測定範囲上限である100.00 ng/mL以上と表示され,今回の検討内ではプロゾーン現象はみられなかった(Figure 1)。
Dilution linearity
18例のPCT高濃度検体を対象に,検体希釈液を用いた手希釈(×10)と装置を用いた自動希釈(×10)におけるPCT測定値の比較を行った結果,有意な差は認められなかった(p = 0.44)(Figure 2)。
Comparison of manual dilution with automatic dilution
4日間で10例のPCT低濃度の検体を2重測定し,測定平均値およびCVを算出し,その測定平均値(ng/mL)を横軸に,CV(%)を縦軸にプロットしてprecision profileを作成した。その結果,CV 10%のPCT濃度を定量限界とした場合,0.003 ng/mLであった(Figure 3)。
Limit of determination
PCT濃度を0.45 ng/mLに調製したプール血清に干渉チェックAプラスおよびRFプラスを添加し,共存物質の影響を検討した(Figure 4)。その結果,ビリルビンFは19.5 mg/dL,ビリルビンCは20.5 mg/dL,溶血ヘモグロビンは491 mg/dL,乳びは1,660ホルマジン濁度およびRFは550 IU/mLまで共存物質未添加試料のPCT濃度に比べ5%以内の変化率であった。
Effects of interfering substances for the measurement of PCT
また,PCTおよびRFが共に測定感度以下のプール血清1 mLとPCTが測定感度以下かつRFが517 IU/mL,1,069 IU/mL,1,816 IU/mLの各々患者血清1 mLに対して,LPコントロールのレベル2(約19 ng/mL)を50 uLずつそれぞれに添加し,そのプール血清及び各患者血清を用いて段階希釈を行い実患者血清におけるRFの影響を検討した。その結果,RFが129 IU/mL以上でPCT濃度が低下傾向を示し,RF未添加試料に比べ各検体のRF最高濃度において4~25%の低下が認められた(Figure 5)。更に,PCT濃度が低下を示す原因がRFか否かを明らかにするために,吸収処理剤としてN-アッセイTIA IgM-SHニットボー(ニットボー(株))を用いて,添加回収試験を行い,吸収前後の回収率を比較した。PCTおよびRFが共に測定感度以下のプール血清500 μLとPCTが測定感度以下かつRFが700 IU/mLの患者血清500 μLに対して,RFが測定感度以下かつPCTが75 ng/mLの患者血清を100 μLずつそれぞれに添加し,混和したプール血清および患者血清のPCT濃度を測定した。その後,そのプール血清および患者血清と吸収処理剤を6:4で混和し,4℃で一晩反応させ,遠心分離(3,500 rpm,6分)後の上清のPCT濃度を測定した。RFが測定感度以下のプール血清のPCT濃度を100%とした場合,吸収前のRFが700 IU/mLの患者血清のPCT濃度は88%に対して,吸収後は102%であった(Table 2)。
Effects of patient sample RF for the measurement of PCT
Absorption of anti-human IgM | ||
---|---|---|
Before | After | |
Recovery rate (%) | 88 | 102 |
Measured value (ng/mL) (RF undetectable sample/RF 700 IU/mL sample) |
10.90/12.39 | 12.10/11.90 (reduced value) |
92例の血清検体を対象に,CLEIA法(y)とECLIA法(x)との相関性を検討した。92例中89例が15.00 ng/mL以下の症例であり,ECLIA法で >100.00 ng/mLであった2症例および15.00 ng/mL以上の1症例の結果をTable 3に示し,3症例は相関の対象から除外した。PCT濃度が15.00 ng/mL以下の低濃度における相関は,rが0.991,線形関係式はy = 0.93x − 0.02であった(Figure 6A)。また,Bland-Altman解析を行った結果,平均差(mean difference)は−0.07 ng/mL,誤差の許容範囲(limit of agreement)は−0.57~0.43 ng/mLであった(Figure 6B)。敗血症診断のカットオフ値である0.5 ng/mLに対する判定一致率は97.8%であった(Table 4)。
Case | CLEIA (ng/mL) | ECLIA (ng/mL) |
---|---|---|
1 | > 100.00 | > 100.00 |
2 | 52.29 | > 100.00 |
3 | 60.27 | 88.10 |
Relationship of PCT concentration
(A) Liner regression analysis of CLEIA (y) and ECLIA (x) methods in < 15.00 ng/mL samples. (B) Bland-Altman plot showing to be a difference between the PCT concentrations of CLEIA and ECLIA methods in < 15.00 ng/mL samples.
ECLIA (ng/mL) | Total | |||
---|---|---|---|---|
< 0.50 | ≥ 0.50 | |||
CLEIA (ng/mL) |
< 0.50 | 61 | 2 | 63 |
≥ 0.50 | 0 | 26 | 26 | |
Total | 61 | 28 | 89 |
Concordance rate: 97.8% (87/89)
13例の患者血清を試料として遠心分離直後を0分値として,室温の状態で1,2,4,6,24時間および4℃の状態で1,2,3,4,5日保存した後のPCT濃度を測定し,0分値を100%として0分値との測定値変動を確認した。その結果,室温保存6時間後までは平均5%以内の低下であったが,24時間後では平均14%低下し0分値に比べ有意に低値であった(p < 0.05)(Figure 7A)。冷蔵保存では経時的に低下し,1,2,3,4,5日後は平均5%,9%,13%,12%,14%の低下が認められ,t検定による判定において0分値に比べ5日目で有意な低下を認めた(p < 0.05)(Figure 7B)。
Stability of PCT concentrations
(A) Room temperature. (B) 4°C.
CLEIAを測定原理とするPCT測定試薬“ルミパルスプレスト ブラームスPCT”の性能評価を行った。同時再現性のCVは2%以下であり,他のPCT測定試薬と同等に良好な結果であった7),8)。30日間で10回測定した日差再現性のCVは4%以下かつ添付文書に記載されている測定範囲であったものの,経時的にPCT濃度は低下し,再キャリブレーション後は初日の値の3%以内に戻ったことや添付文書記載の安定期間は30日と記載されていることからも,30日に一度はキャリブレーションを実施することが必要と考える。希釈直線性は90 ng/mLまで原点を通る直線性が得られたことから,当中央検査部2015年10月から2016年10月の約1年間のPCT測定依頼数約2,600件のうち約99%を測定出来る結果であった。また,自動希釈機能も良好な結果であり,ルミパルスプレスト ブラームスPCTの測定上限値である100.00 ng/mLを超える検体においても装置の自動希釈機能を用いることによって正確かつ迅速な結果報告が可能である。定量限界は既報の0.003 ng/mLと今回同一の結果であり9),これは現在の敗血症の診断のカットオフ値である0.5 ng/mLを含め,参考基準範囲が0.05 ng/mL以下という低濃度域においても精度良く測定可能な試薬であることが示された。
今回の検討において,RFを含めて干渉チェックを用いた共存物質の影響は認められなかったが,当院の複数のRF高値患者血清を用いた場合,個体差は認められたものの,検討した全ての症例でPCTは低値傾向を示した。更に,IgM抗血清による吸収効果が得られたことから,RFまたはIgM抗血清で吸収された何らかの因子が関与していると考えられる。また,各社のPCT測定試薬は測定原理が異なるものの,サーモフィッシャー・ダイアグノスティックス株式会社の抗体を用いている状況の中で,IC法とELFA法はRFの非特異反応による偽陽性や偽高値が指摘されているが6),CLIA法とECLIA法は現在報告されていない7),8)。この影響度については,測定原理としてIC法とELFA法は抗カタカルシンモノクローナル抗体および抗カルシトニンモノクローナル抗体でPCTをサンドイッチさせているのに対し,CLIA法とECLIA法は2つの抗PCTモノクローナル抗体を使用,CLEIA法は前述のとおり抗PCTモノクローナル抗体,抗カルシトニンモノクローナル,抗カタカルシン抗体を使用していること,使用抗体の処理方法の違いなどによる反応性の差と推測する。今回,当院で低値の影響が確認されたRF 129 IU/mLを超える検体は日常検査においてよく遭遇するものであり,該当患者が多いリウマチ科等からのPCTの依頼測定には特に注意が必要である。
本検討においてPCT濃度が15.00 ng/mL以下の検体におけるECLIA法との相関性は良好な相関関係を示し,敗血症診断のカットオフ値に対する判定一致率も97.8%(87/89例)と良好な結果であった。不一致症例について2症例中1症例目はCLEIA法0.47 ng/mL,ECLIA法が0.52 ng/mLとカットオフ付近の症例であった。2症例目はCLEIA法0.29 ng/mL,ECLIA法が0.80 ng/mLと測定値の乖離が若干認められた。本試薬の既報において,自製溶血ヘモグロビンでは負誤差が認められたと報告9)しているが,本症例では溶血は認められなかった。本症例はリウマチ科でなかったため,残念ながらRFの測定は行われていなかった。本症例は既に心内膜炎と診断され抗菌薬の治療中であったため,CLEIA法とECLIA法どちらが真の値か不明である。そのためPCT濃度が臨床症状と一致しない場合は,他の関連マーカーを測定することに加え,RFなどの自己抗体の影響を考慮し患者検体の希釈直線性を確認する必要がある。また,本検討においてPCT高値症例でECLIA法に比べCLEIA法で低値となった検体があった。Case 2,3共に溶血は認められず,Case 2のRFは15 IU/mL以下(Case 3は未測定)であり,残念ながら原因は明らかに出来なかった。PCTは敗血症の治療効果判定にも有用と考えられていることからも,継続的に測定を実施しているケースを考慮し,日常検査でECLIA法からCLEIA法に測定法を変更する際の測定値の解釈について,臨床側への注意喚起が必要と考えられる。
検体の安定性において,室温および冷蔵保存で共にPCT濃度は経時的に低下したのはペプチドであるPCTが検体中の蛋白分解酵素によって分解されたことが原因と推測される。また,症例によって検体の安定性に差が生じたのは,検体中の蛋白分解酵素の量が関与している可能性が考えられる。1日保存では冷蔵保存の方が低下率は小さかったことから,即座に測定できない場合は冷蔵保存するのが望ましいと考えられる。当院の運用では,臨床から提出された血清検体は,追加検査対応用として1週間冷蔵にて保管しているため,PCTを後日測定する場合には,臨床側に低値傾向となる可能性について伝える必要がある。
ルミパルスプレスト ブラームスPCTの性能はRF高値患者血清では影響が認められたもののほぼ良好な結果が得られた。高感度測定が可能となっており,敗血症診断および治療効果判定など臨床診断に役立つ試薬と考えられる。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。