医学検査
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技術論文
抗ヒトT細胞白血病ウイルス抗体測定試薬「イノリアHTLV」の基礎的検討―抗ヒトT細胞白血病ウイルス抗体測定法―
中村 一人小川 由紀新保 茉理子服部 初美町田 邦光坪井 五三美
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2019 年 68 巻 4 号 p. 650-655

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Abstract

現在,当社で抗ヒトT細胞白血病ウイルスI型(human T-cell leukemia virus type I; HTLV-I)抗体検査法は,ウエスタンブロティング法(Western blotting assay; WB)を測定原理とした「プロブロットHTLV-I」を用いて確定診断しているが,判定保留率が高い問題点があった。そこで,我々は,ラインブロット法(line blotting assay; LIA)を測定原理とした抗HTLV-I抗体測定試薬「イノリアHTLV」を用いて,血清中のヒトT細胞白血病ウイルス抗体判定の基礎的検討を行った。同時再現性および日差再現性は ±1管差以内で良好な結果であった。「プロブロットHTLV-I」と「イノリアHTLV」の陽性一致率は100.0%と良好な結果であった。また,陰性一致率は66.7%であった。「プロブロットHTLV-I」の判定保留率の高い問題点に関して,本検討では「プロブロットHTLV-I」が78検体中20検体の判定保留だったのに対し,「イノリアHTLV」の判定保留は78検体中12検体であり判定保留率が減少した。本試薬「イノリアHTLV」は,日常の臨床検査に十分適応可能な試薬性能を有していた。

Translated Abstract

Currently, on the basis of the western blotting assay, we use ‘Problot HTLV-I’ for the anti-human T-cell leukemia virus type I (HTLV-I) antibody to confirm the diagnosis of HTLV-I. However, this method has a major disadvantage in terms of its high judgement pending rate. We performed basic evaluation studies of the reagent ‘INNO-LIA HTLV’ for anti-HTLV-I antibody measurement on the basis of the line blotting immunoassay. The within-run and between-day precisions of antibody titer determination by the visual evaluation of this reagent were within the range of ±1 titer step. The concordance of the positive rate for the reagent ‘INNO-LIA HTLV’ was 100.0%. However, the concordance of the negative rate was 66.7% for the pending judgment. As for the pending judgment, the amount of the reagent ‘INNO-LIA HTLV’ decreased with 12 out of 78 specimens compared with 20 out of 78 specimens using the reagent ‘Problot HTLV’. This study revealed that the reagent ‘INNO-LIA HTLV’ is suitable for routine tests.

I  緒言

ヒトT細胞白血病ウイルスI型(human T-cell leukemia virus type 1; HTLV-I)は,成人T細胞白血病・リンパ腫,HTLV-I関連脊髄症およびHTLV-Iぶどう膜炎などの疾患を引き起こす1),2)。これらのHTLV-I関連疾患はHTLV-I感染者(以下,キャリアと略す。)から発症するが,キャリアの大部分は無症状である。HTLV-IはC型レトロウイルスで,主にTリンパ球へ感染し,細胞のゲノムにウイルス遺伝子が組み込まれ,プロウイルスとして感染細胞中に長期にわたり存在し,保持される。感染リンパ球はキャリアの末梢血中に存在するが,ウイルスを検出することがほとんどできないため,キャリアの診断はウイルスの検出ではなく,HTLV-Iに対する抗体の検出により行う。特に,母子感染予防対策としてHTLV-I抗体検査が推奨されており,当社ではスクリーニング検査として粒子凝集法(particle agglu­tination; PA),化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay; CLIA)を実施している。現在,スクリーニング検査陽性例に対し,ウエスタンブロティング法(Western blotting assay; WB)を用いて確定診断しているが,判定保留率が10~20%と高い問題点があった。2018年,判定保留率を軽減したラインブロット法(line blotting assay; LIA)を測定原理とする「イノリアHTLV」が開発され,新たに保険収載された3)~5)。日本産婦人科医会診断指針ではWBまたはLIAのいずれかで,陽性が確認できればHTLV-I感染(症)と診断される6)

そこで,「イノリアHTLV」の基礎検討を行ったので結果を報告する。

II  測定試薬および測定原理

1. 測定試薬

1)イノリアHTLV(富士レビオ社)

(以下,本試薬と略す。)

2)プロブロットHTLV-I(富士レビオ社)

(以下,対照試薬と略す。)

2. 測定原理

1) 本試薬

本試薬は,HTLV-I,IIの遺伝子組み換え抗原または合成ペプチドを用いたラインブロット法である。検体中にHTLVの特異的抗体がある場合,点着したメンブラン上のHTLV抗原と反応する。次にアルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgGポリクローナル抗体を作用させるとHTLV抗原抗体複合体を形成する。この複合体に,5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸-p-トルイジンを反応させることでラインが出現する。このラインの有無と強度を目視にて判定を行う6)Table 1, 2, Figure 1)。

Table 1  判定基準(LIA)
ラインを認めない 陰性
ラインを1本認める gag P19かgag P24か
env gp 46のいずれかを認める
env gp 21を認める 保留
ラインを2本認める env gp 21を認めない
env gp 21を認める 陽性
ラインを3本以上認める

(±)以上が陽性判定

Table 2  鑑別基準
(gag P19-Iとenv gp46-Iのライン発色強度の合計)>(env gp46-IIのライン発色強度) 抗HTLV-I抗体
(gag P19-Iとenv gp46-Iのライン発色強度の合計)≤(env gp46-IIのライン発色強度) 抗HTLV-II抗体
上記以外の場合 抗HTLV抗体(鑑別不可)
Figure 1 判定基準(LIA)

保留,陽性,陰性検体の判定

2) 対照試薬

対照試薬のHTLV-I抗原タンパクは,不活化ウイルス成分をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分子量分画し,ニトロセルロース膜上に電気的に転写したもので,p19,p24,p53,gp46の各タンパクを含む。検体中にHTLV-I抗体があれば,各タンパクごとに抗原-抗体複合体がニトロセルロース膜上に形成される。この複合体をビオチン標識した抗ヒトIgG抗体と反応させ,さらにペルオキシダーゼ(POD)標識アビジンを付加後,4-クロロ-1-ナフトール/H2O2により発色させる。ニトロセルロース膜上のバンドとしてHTLV-I抗原特異タンパクに対する抗体が検出できる。

III  検討項目

1. 同時再現性

自社管理検体(A, B, C)をそれぞれ7回測定して判定差をみた。

2. 日差再現性

自社管理検体(A, B, C)をそれぞれ5日間測定して判定差をみた。

3. 健常者における本試薬と対照試薬の一致度

社内ボランテイア男女各15名合計30名の判定を確認した。社内ボランテイアはPAとCLIAで陰性を確認し,さらに,自社内で調製したHLTV-I抗原を発現するMT-1細胞を塗抹した基質スライドを用いて,蛍光抗体染色(indirect immunofluorescence; IF)を行い,陰性を確認した。

4. 相関性試験

相関性試験はProMedDx社(CA, USA)より購入した78検体(陽性39検体,陰性39検体)を使用して,本試薬と対照試薬の一致度をみた。

5. 検体の安定性

自社管理3検体を室温(20℃)で14日間保存して,0,3,5,7,14日目に判定を行い安定性を確認した。

IV  結果

1. 同時再現性

各試料を7回測定したところ,全て判定は一致していた(Table 3)。

Table 3  同時再現性
回数 検体A 検体B 検体C
gag p19 gag p24 env gp46 env gp21 gag p19 gag p24 env gp46 env gp21 gag p19 gag p24 env gp46 env gp21
1 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
2 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
3 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
4 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
5 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
6 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
7 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
判定 一致 一致 一致 一致 一致 一致 一致 一致 一致 一致 一致 一致

2. 日差再現性

各試料を5日間測定したところ,検体2のgag gp24とenv gp46の判定に1管差があったが,これら以外は一致していた(Table 4)。

Table 4  日差再現性
日数 検体A 検体B 検体C
gag p19 gag p24 env gp46 env gp21 gag p19 gag p24 env gp46 env gp21 gag p19 gag p24 env gp46 env gp21
1 (−) (−) (−) (−) (3+) (2+) (2+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
2 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
3 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
4 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
5 (−) (−) (−) (−) (3+) (3+) (3+) (3+) (3+) (1+) (2+) (2+)
判定 一致 一致 一致 一致 一致 1管差 1管差 一致 一致 一致 一致 一致

3. 健常者における本試薬と対照試薬の一致度

本試薬は29/30検体が陰性で,判定保留が1検体であった。対照試薬は27/30検体が陰性で,判定保留が3検体であった(Table 5)。

Table 5  正常検体の確認
No. 本試薬 対照試薬
gag p19 gag p24 env gp46 env gp21 判定 gp46 p53 p24 p19 判定
1 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
2 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
3 (−) (−) (−) (±) 保留 (−) (−) (−) (−) 陰性
4 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
5 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
6 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
7 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
8 (−) (−) (1+) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
9 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
10 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
11 (−) (−) (1+) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
12 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
13 (2+) (−) (−) (−) 陰性 (−) (±) (±) (+) 保留
14 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
15 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
16 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
17 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
18 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
19 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
20 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (±) (−) 保留
21 (2+) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (±) (±) 保留
22 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
23 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
24 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
25 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
26 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
27 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
28 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
29 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性
30 (−) (−) (−) (−) 陰性 (−) (−) (−) (−) 陰性

また,本試薬の判定保留はenv gp21の単独陽性であった。対照試薬で判定保留の3検体は,本試薬ではすべて陰性であった(Table 5)。

4. 相関性試験

本試薬と対照試薬の陽性一致率は100.0%(28/28),陰性一致率は66.7%(20/30),判定一致率は65.4%(51/78)であった(Table 6)。本試薬の陽性的‍中率は88.1%(37/42)で陰性的中率は100.0%(24/24)であった。対照試薬の陽性的中率は100.0%(28/28)で陰性的中率は90.0%(27/30)であった(Table 6)。本試薬が陽性で対照試薬が陰性の検体は,陽性であった。本試薬が判定保留で,対照試薬が陰性の9検体に関して,陽性が2検体含まれていた。両試薬で判定保留の3検体はすべて陰性であった。本試薬が陰性,対照試薬が判定保留の4検体に関しては,すべて陰性であった。

Table 6  相関性
N = 78 対照試薬 合計
陽性 保留 陰性
本試薬 陽性 28(28) 13(8) 1(1) 42(37)
保留 0(0) 3(0) 9(2) 12(2)
陰性 0(0) 4(0) 20(0) 24(0)
合計 28(28) 20(8) 30(3) 78(39)

陽性一致率 100%

陰性一致率 66.7%

判定一致率 65.4%

5. 検体の保存安定性

本試薬を貯蔵方法(2~8℃)の条件下で保管し,有効期限内のキットで検体の安定性を評価した。自社管理検体3検体は室温で14日間まで安定であった(Figure 2)。

Figure 2 検体の保存安定性

室温における3検体の保存安定性

V  考察

本試薬による健常人の判定は29検体陰性であったが,env gp21単独陽性による判定保留が1検体あった。本試薬の判定保留の検体はCLIA,PAとIFはすべて陰性であり,陰性の可能性が高いと思われる。また,対照試薬の健常者の判定は27検体陰性で判定保留が3検体あった。健常者の検証に関して,本試薬は,対照試薬に比べ判定保留率は減少した。

本試薬の基礎的検討を行ったところ,同時再現性と日差再現性において1管差以内の判定であり良好な精度であった。本試薬と対照試薬の比較検討で陽性一致率は100.0%と高いが,陰性一致率は66.7%であった。判定保留が対照試薬で20検体,本試薬12検体であったため,判定一致率は65.4%となった。本試薬の陽性的中率は88.1%で陰性的中率は100.0%であった。対照試薬の陽性的中率は100.0%で陰性的中率は90.0%であった。本試薬は対照試薬に比べ陽性的中率は低く,陰性的中率は高い結果であった。本試薬は健常者の判定からも明らかなように陰性の見落としはなく,陰性的中率を高めるための判定基準が選定されているものと思われた。しかし,本試薬の判定保留は減少したものの,偽陽性が増加したことは今後の検討課題である。

WB,LIAが判定保留の場合にHTLV-I核酸検出(polymerase chain reaction; PCR法)の実施が推奨されており,2016年4月1日に妊婦におけるWBの判定保留例に対してPCR法が保険適用とされた。しかし,LIAは妊婦であってもPCR法が保険適用外となるため,保険診療上注意が必要である。

一方で,本試薬の抗体価は発色強度によって−,±,+1~+4まで判定でき,gag P19-Iとenv gp46-Iのライン発色強度の合計とenv gp46-IIのライン発色強度を比較することで抗HTLV-I抗体と抗HTLV-II抗体も鑑別可能である。本試薬は,ストリップに遺伝子組み換え抗原及び合成ペプチド抗原を点着しているので特異性が高く7),ストリップごとの抗原の位置が同じで,目視による判定がしやすい利点もあった。

VI  結語

本試薬は現状の対照試薬に比べ判定保留が減少したが,若干,偽陽性が多い問題はあった。しかし,本試薬の基礎性能は良好であり,HTLV-I抗体検査試薬として十分適応可能と思われた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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