医学検査
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技術論文
5種類のブドウ球菌選択培地および7種類のMRSAスクリーニング培地の検出性能比較
藤 洋美德重 智絵美惠良 文義樋口 尚子結城 万紀子梶原 希望大場 ちなみ嶋田 裕史
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2021 年 70 巻 4 号 p. 685-690

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Abstract

選択培地のみでMethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)の判定を行う目的で,ブドウ球菌選択培地5種類についてStaphylococcus aureusの検出性能を検討し,MRSAスクリーニング培地7種類については,各培地のMRSA検出性能を薬剤感受性試験と比較した。検証にはMRSA 28株,Methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)17株,S. aureus以外のブドウ球菌(non-S. aureus)15株の計60株を使用した。その結果,ブドウ球菌選択培地のS. aureusの検出感度は91%~100%,特異度は87%~100%であり,MRSAスクリーニング培地のMRSA陽性的中率は90%~100%,陰性的中率は94%~100%であった。培地によるS. aureusおよびMRSAの判定を行う場合は,その培地の特性を理解して検査を進めることが重要であると考えられた。

Translated Abstract

To efficiently isolate methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) using culture media, we evaluated the performance of five media for the detection of Staphylococcus aureus, and we compared the performance of seven media for the detection of MRSA with that of the drug susceptibility test. Sixty Staphylococcus strains (28 MRSA strains, 17 methicillin-susceptible Staphylococcus aureus (MSSA) strains, and 15 non-S. aureus strains) were used for evaluation of culture media. As a result, the sensitivity and specificity of culture media for the detection of S. aureus were 91%–100% and 87%–100%, respectively. Moreover, in comparison with the drug susceptibility test, the positive and negative predictive values for MRSA were 90%–100% and 94%–100%, respectively. We recommend that the properties of media used to efficiently isolate MRSA should be clarified in future studies.

I  はじめに

Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)は医療関連感染を起こす代表的な菌であり,院内で分離される耐性菌として最も分離頻度が高い1)。MRSAは,染色体上にmecA遺伝子を獲得することにより,β-ラクタム系抗菌薬に耐性を示す。近年,mecC遺伝子などmecA以外の遺伝子保有株も報告されている2)

MRSAの感染拡大防止には,入院時などに保菌の有無を確認し,その後の感染予防に役立てるアクティブサーベイランスが有効とされている1)。本院でもMRSAアクティブサーベイランスを定期的に行っており,その検出に,MRSAスクリーニング培地およびブドウ球菌選択培地を使用している。厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)の薬剤耐性菌判定基準によるMRSAの定義は,「Oxacillin(MPIPC)またはCefoxitin(CFX)が“R”のStaphylococcus aureusまたは選択培地でMRSAと確認された菌」とされている。

すなわち,MRSAスクリーニング培地に発育した菌が,S. aureusであることを確認できればMRSAと判定できることになる。一般にS. aureusの判定にはブドウ球菌選択培地を用い,培地に発育したコロニーの卵黄反応や発色の違いより,S. aureus以外のブドウ球菌(non-S. aureus)との鑑別を行う。ところが,当院の臨床分離株で卵黄反応陰性のS. aureusが存在していた。そのため,より高性能の培地を探すため,各種ブドウ球菌選択培地のS. aureus検出性能について比較を行うことにした。

また,MRSAをサーベイランス目的以外の検体から検出する場合は,血液寒天培地など非選択培地からS. aureusを分離し,薬剤感受性試験を行う必要がある。しかし,すべてのS. aureusに薬剤感受性試験を行うには手間やコストがかかる。そこで,保菌など臨床的意義が低いと考えられるS. aureusについては,MRSAスクリーニング培地にコロニーを直接塗布する方法によるMRSA判定を検証するため,種々の培地を用い,薬剤感受性試験による判定と比較を行った。

II  対象および方法

1. 使用菌株

標準菌株1株:S. aureus ATCC 29213,臨床分離株58株:2017年7~9月に薬剤感受性試験でMRSAと判定された27株,Methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)と判定された16株,non-S. aureus 15株,上記期間外の保存株1株:mecC遺伝子保有MRSA株,の計60株を使用した。

なお,発育支持能試験においては,ブドウ球菌選択培地で標準菌株1株,MRSAスクリーニング培地でMRSA3株(臨床分離株2株とmecC遺伝子保有株1株)を使用した。

2. 使用培地

Table 1に示すように,MRSA I-A/M卵黄加マンニット食塩-A寒天培地;日研生物医学研究所(以下A),BCP不含MS-CFX/変法卵黄加マンニット食塩EX;日水製薬(以下B),MRSA Selective//Mannitol Salt Agar w/Egg Yolk, Modified;日本ベクトン・ディッキンソン(BD)(以下C),マンニット加食塩卵黄寒天培地;極東製薬工業(以下D),クロモアガーMRSA/スタッフアウレウス分画培地;関東化学(以下E),CHROMID MRSA agar;ビオメリュー・ジャパン(以下F),X-MRSA寒天培地;日水製薬(以下G),CHROMagar MRSA II寒天培地;BD(以下H)を使用した。すなわち,ブドウ球菌選択培地5種類(A–E),MRSAスクリーニング培地7種類(A–C,E–H)である。培地A–C,Eの4つはブドウ球菌選択培地とMRSAスクリーニング培地の両方が1枚に搭載された分画培地であり,E–Hは発色基質培地である。

Table 1  S. aureusまたはMRSA検出を比較するために使用した培地
培地の名称 検出目的菌 S. aureusのコロニー性状
A:MRSA I-A/M卵黄加マンニット食塩-A(日研生物) MRSA/S. aureus 卵黄反応陽性
B:BCP不含MS-CFX/変法卵黄加マンニット食塩EX(日水) MRSA/S. aureus 卵黄反応陽性
C:MRSA Selective//Mannitol Salt w/Egg Yolk, Modified(BD) MRSA/S. aureus 卵黄反応陽性
D:マンニット加食塩卵黄(極東) S. aureus 卵黄反応陽性
E:クロモアガーMRSA/スタッフアウレウス(関東化学) MRSA/S. aureus 紫色
F:CHROMID MRSA(ビオメリュー) MRSA 緑色
G:X-MRSA(日水) MRSA 緑色
H:CHROMagar MRSA II(BD) MRSA 紫色

A,B,C,E:ブドウ球菌選択培地とMRSAスクリーニング培地の両方を搭載した分画培地

D:ブドウ球菌選択培地

F,G,H:MRSAスクリーニング培地

3. 使用機器,試薬

同定検査に,MALDIバイオタイパー(ブルカー・ジャパン),薬剤感受性試験に,微生物同定感受性分析装置VITEK2,薬剤感受性カードAST-P625(ビオメリュー・ジャパン),栄研プレートDP32,ストレプト・ヘモ サプリメント‘栄研’,ミュラーヒントンブイヨン‘栄研’(栄研化学)を使用した。

4. 方法

1) 発育支持能試験

対象菌株をトリプチケース・ソイ・アガー(TSA)で35℃ 24時間好気培養し,発育したコロニーでMcFarland No. 0.5菌液を作成した。その菌液を段階希釈し,10−2,10−4,10−5の各希釈液を評価培地に10 μLずつ滴下し,35℃ 24時間好気培養後コロニー発育の有無を観察した。

2) コロニー性状によるS. aureusおよびMRSA検出能の評価

菌株をTSAで35℃ 24時間好気培養したコロニーを,評価培地に画線塗布し,35℃ 24時間好気培養後に判定した。

ブドウ球菌選択培地においては,培地A–Dで,S. aureusとnon-S. aureusについて卵黄反応の有無を観察し,S. aureusの卵黄反応の直径を比較した。培地Eは,S. aureusが紫色のコロニーを形成する発色基質培地であるため,コロニー色調を観察した。

MRSAスクリーニング培地においては,コロニー性状,発育の有無を観察し,培地によるMRSAの判定と,VITEK2の薬剤感受性試験によるMRSAの判定を比較した。発育不良のためVITEK2で薬剤感受性試験が不可能な株は,栄研プレートによる薬剤感受性試験と比較した。

なお,本研究は本大学倫理委員会において,倫理審査に該当しないとされた。

III  結果

1. 発育支持能試験

ブドウ球菌選択培地では,すべての評価培地で標準菌株10−5希釈液までコロニー発育が認められた。

MRSAスクリーニング培地では,3株中2株はすべての評価培地で10−5希釈液までコロニー発育が認められた。3株中残り1株はmecC遺伝子保有株であり,培地B,F,Hは10−5希釈液まで発育したが,培地A,C,E,Gでは10−4希釈液まで発育し,10−5希釈液は発育しなかった。

2. コロニー性状によるS. aureusおよびMRSA検出能の評価

ブドウ球菌選択培地A–Dにおいて,S. aureus 45株の卵黄反応の直径(平均値)は,培地Aで2.84 mm,培地Bで2.64 mm,培地Cで2.33 mm,培地Dで1.37 mmであった。Figure 1に示すように,S. aureus標準菌株のコロニーは,培地A,Bで卵黄反応が強いことがわかる。ブドウ球菌選択培地におけるS. aureusの検出性能評価は,Table 2に示すように感度91%~100%,特異度87%~100%であった。

Figure 1 ブドウ球菌選択培地におけるS. aureus ATCC 29213のコロニー性状比較

培地A,Bの卵黄反応が強い。

培地Eは紫色に正しく発色。

Table 2  ブドウ球菌選択培地におけるS. aureusの検出性能の評価
TP FN FP TN 感度 特異度
% 株数(n)
A:M卵黄加マンニット食塩-A 45 0 2 13 100(45/45) 87(13/15)
B:変法卵黄加マンニット食塩EX 44 1* 2 13 98(44/45) 87(13/15)
C:Mannitol Salt w/Egg Yolk, Modified 45 0 0 15 100(45/45) 100(15/15)
D:マンニット加食塩卵黄 41 4* 0 15 91(41/45) 100(15/15)
E:スタッフアウレウス 44 1* 2 13 98(44/45) 87(13/15)

TP:真陽性 FN:偽陰性 FP:偽陽性 TN:真陰性

*発育陰性1株を含む

不一致の内容は,培地A,Bでnon-S. aureusの卵黄反応陽性が各2件,培地DでS. aureusの卵黄反応陰性が3件,培地B,D,EでS. aureusの発育陰性が各1件,培地E(発色基質培地)でnon-S. aureusS. aureusと同色(紫色)コロニーを形成したものが2件であった。培地A,Bで卵黄反応偽陽性を呈したnon-S. aureusのMALDIバイオタイパーによる同定結果は,2件ともStaphylococcus capraeであった。また,培地B,D,Eで発育陰性のS. aureusはsmall-colony variants(SCVs)であった。培地Eで,S. aureusと同色コロニー形成のnon-S. aureus 2件は,Staphylococcus pseudointermediusS. capraeであった。

MRSAスクリーニング培地におけるMRSAの判定と薬剤感受性試験との比較結果は,Table 3に示す。MRSAの陽性的中率は90%~100%,陰性的中率は94%~100%であった。

Table 3  培地によるMRSA判定と薬剤感受性試験によるMRSA判定の比較
TP FN FP TN 陽性的中率 陰性的中率
% 株数(n)
A:MRSA I-A 27 1 3 29 90(27/30) 97(29/30)
B:BCP不含MS-CFX 27 1 0 32 100(27/27) 97(32/33)
C:MRSA Selective 27 1 1 31 96(27/28) 97(31/32)
E:クロモアガーMRSA 28 0 2 30 93(28/30) 100(30/30)
F:CHROMID MRSA 26 2 3 29 90(26/29) 94(29/31)
G:X-MRSA 28 0 1 31 97(28/29) 100(31/31)
H:CHROMagar MRSA II 26 2 0 32 100(26/26) 94(32/34)

TP:真陽性 FN:偽陰性 FP:偽陽性 TN:真陰性

偽陰性は,MRSA3株で見られた。3株中1株はSCVsであり,MRSAスクリーニング培地A,B,F,Hで発育陰性であった。もう1株は,VITEK2によるMPIPCのMICが2~4 μg/mL,と低値のMRSAであり,培地C,Hで発育陰性であった。この株のMICを,栄研プレートで確認したところ,MPIPC 4 μg/mL,CFX 8 μg/mLであった。残り1株は,培地Fで見られたものであり,発育したコロニーが発色陰性(白色)のため,MRSAと判定できなかった。

偽陽性はMSSA 3株とnon-S. aureus 1株で見られた。MSSAによる偽陽性は,培地A,C,E–Gで見られ,その1例をFigure 2に示す。菌株22:MSSAが培地A,E–Gで発育陽性であり,発育したコロニーは,真陽性と比べ小さい傾向が見られる。偽陽性を示した他の2株のMSSAも,これらと同様に,コロニー形成が小さい傾向であった。また,non-S. aureusによる偽陽性は,培地Fで見られた。このnon-S. aureusの同定結果はStaphylococcus sciuriであり,MRSAと区別できない同色(緑色)コロニーを形成した。

Figure 2 MSSA がMRSAスクリーニング培地に発育した例

菌株No. 22:MSSAが培地A,E–Gで発育した。

A:MRSA I-A B:BCP不含MS-CFX C:MRSA Selective

E:クロモアガーMRSA F:CHROMID MRSA G:X-MRSA

H:CHROMagar MRSA II

IV  考察

ブドウ球菌選択培地では,卵黄反応を見る培地A–Dで,培地の種類により卵黄反応の強さに違いが見られた。卵黄反応が強い培地では,non-S. aureusであるStaphylococcus capraeの卵黄反応偽陽性が見られ,卵黄反応が弱い培地ではS. aureusの卵黄反応偽陰性見られた。大久保ら3)によると,卵黄反応の違いは培地のpHや食塩濃度などが関係するとされており,各培地の微妙な組成の違いが影響したものと考える。

発色基質培地のブドウ球菌選択培地Eでは,Staphylococcus pseudointermediusS. capraeのように,S. aureusと同色コロニーを形成し,S. aureusと区別できないものが見られた。MRSAスクリーニング培地F でも同様の偽陽性が見られ,Staphylococcus sciuriがMRSAと同色のコロニーを形成した。また,培地FではMRSAがnon-S. aureusと同じ白色コロニーを形成し,MRSAの色(緑色)に発色しない偽陰性も見られた。発色基質培地は,ブドウ球菌選択培地においてもMRSAスクリーニング培地においてもコロニーの色で容易に識別できる反面,正しい発色をしない株が存在することを認識しておく必要がある。

MRSAスクリーニング培地において,発育陰性による偽陰性が認められたのは2例であり,その1例はSCVsの1株であった。このSCVsはブドウ球菌選択培地でも発育陰性が見られた。今回検証に使用した菌株の中で,SCVsは2株あり,別の1株のSCVsは,培地によりコロニー形成が小さい例も見られたが,判定には問題なかった。SCVsには,チミジン依存性,ヘミン依存性,メナジオン依存性,CO2依存性などが存在する4),5)。各種メーカーのMRSAスクリーニング培地はチミジン依存性MRSA SCVsが検出できるよう改良されてきているため5),培地組成の違いで発育に差が出たと考えられる。

もう1例の発育陰性は,MPIPCのMICが低いMRSAであった。MPIPCのMICが低いMRSAとして,mecC遺伝子保有株が報告されている2)。本菌株もmecCを疑い,GeneXpert(セフィエド)で確認したところ,結果はmecA陽性であった。今回使用したmecC遺伝子保有MRSA株については,MPIPCのMICが低値であったが,コロニーを直接塗布する方法で,すべてのMRSAスクリーニング培地に発育した。しかし,発育支持能試験では,培地の種類により発育能の違いが認められた。MPIPCのMICが低値のMRSAの検出には,CFX含有のスクリーニング培地が有用とされている6)。しかしながら,発育不良の培地が認められるため,適切な培地を選択する必要がある。

MRSAスクリーニング培地において,偽陽性を示したMSSAについては,そのコロニーが真陽性と比べ小さい傾向が見られた。発育したコロニーが小さい場合は,薬剤感受性試験で確認を行う必要があることが示唆された。

今回報告した検証は24時間判定であるが,48時間判定に延長するとMRSAとMSSAのいずれも発育数が増加した。木村,Mukovnikova,Denysら7)~9)は,48時間で判定すると感度は上がるが特異度が下がることを報告している。したがって,24時間判定と48時間判定が異なる場合も薬剤感受性試験による確認が必要である。

ブドウ球菌選択培地によるS. aureusの同定やMRSAスクリーニング培地によるMRSAの判定は,培地により感度や陽性的中率に違いが見られた。このような培地の特性を理解して培地を選び,適切に使用することで,培地による判定は可能であることを確認した。自施設では,感染対策チームと協議の上,選択培地のみによるMRSA判定に「選択培地による判定」とコメントを付け,薬剤感受性試験を行ったものと区別して報告することとした。

V  結語

今回,5種類のブドウ球菌選択培地,および7種類のMRSAスクリーニング培地の性能の違いを確認した。培地の特性を理解して使用することが,検査を適切に行うために重要である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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