医学検査
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技術論文
Aeromonas属が産生するメタロ-β-ラクタマーゼ検出方法の検討
佐原 菜桜佐々木 一雅中里 恵梨香木村 由美子日高 裕介橋本 好一酒井 利育萩原 繁広
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2021 年 70 巻 4 号 p. 705-712

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Abstract

Aeromonas属の中には,染色体上にAmbler分類クラスB2に属するカルバペネマーゼ産生をコードする遺伝子を保有する株が存在する。今回,我々はカルバペネム耐性のAeromonas属の薬剤感受性検査において,自動分析装置であるVITEK2とディスク拡散法(Eテスト)の結果に乖離が生じた例を経験した。そこでAeromonas属のカルバペネム耐性株について自動分析装置の機種間差,および各種カルバペネマーゼ確認試験の検討を行った。当院において検出されたカルバペネム耐性のAeromonas hydrophilaおよびAeromonas veroniiについて,VITEK2,MicroScan WalkAway,RAISUS ANYの3機種を用いて,薬剤感受性検査を実施したところ結果に乖離を認めた。使用した装置の中でVITEK2が最もよくカルバペネム耐性を検出できた。カルバペネマーゼ確認試験を併用することで,薬剤感受性試験でカルバペネム系薬が偽感性になってしまうAeromonas属の見逃しをなくすことが可能となり,治療および院内感染対策に繋がることが考えられた。

Translated Abstract

Some species of the genus Aeromonas carry genes that encode carbapenemase in their chromosomes; these species are classified under Ambler classification class B2. We experienced treating a patient from whom a carbapenem-resistant Aeromonas isolate showed a discrepancy between the results of VITEK2, an automatic analyzer for drug susceptibility testing, and the disc diffusion method (E test). Therefore, using carbapenem-resistant strains of the genus Aeromonas, we examined the difference in drug susceptibility results among different models of an automatic analyzer and examined the carbapenemase confirmation test results. Carbapenem-resistant Aeromonas hydrophila and Aeromonas veronii detected at our hospital were tested for drug susceptibility using three models of the automatic analyzer, namely, VITEK2, MicroScan WalkAway, and RAISUS ANY, and the results showed discrepancies. Among the automatic analyzers used, VITEK2 could detect carbapenem resistance best. By conducting a carbapenemase confirmation test, we found that carbapenem drugs may show false results in Aeromonas susceptibility tests. We speculate that it will lead to treatment and nosocomial infection control.

I  はじめに

本菌は湖沼・河川及びその周辺の汚水の淡水域や汽水域に広く分布しており,胃腸炎,敗血症,創傷感染症,髄膜炎,肺炎などの感染症の原因菌としてしばしば分離されている。当初,本菌はimmunocompromised hostにおいて起こる日和見感染菌と主に考えられていた。しかし,近年健康人においても様々な感染症を起こす病原菌として認識されるようになっている。その主なものは胃腸炎であり,世界各地の下痢患者からの分離が報告されている。日本においてもAeromonas属が散発下痢症や旅行者下痢患者からしばしば分離され,発展途上国からの旅行者下痢の原因菌として毒素原生大腸菌,サルモネラ属,プレジオモナス属などとともに高い割合を占めている1)

Aeromonas属の中でA. hydrophilaA. veroniiA. jandaiの3菌種は染色体上に,カルバペネマーゼ産生に関与するcphA遺伝子を保有する株が存在することが知られている1),2)。産生されるカルバペネマーゼは,Ambler分類でクラスB2に分類されるメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)であり,カルバペネム系抗菌薬を優先的に分解する。また,セフタジジムなどのセファロスポリン系抗菌薬を分解せず,さらにセファマイシン系薬により阻害を受けることが知られている3)

今回我々はA. hydrophilaにおいて,カルバペネム系抗菌薬の薬剤感受性結果に自動分析装置とディスク拡散法で乖離が生じた例を経験した。そこで他の施設に協力を依頼し,測定原理の異なる自動分析装置を用いて薬剤感受性試験を実施したところ,装置の種類によって結果に乖離が見られた。今回,検討結果により耐性株を検出するための若干の知見が得られたので報告する。

II  方法

1. 自動分析装置とディスク拡散法における薬剤感受性結果の比較

2017年1月~2020年12月の間に当院で分離されたAeromonas属(A. hydrophila, A. veronii)についてデータを抽出し,後方視的に解析を行った。

当院では,Aeromonas属の同定はVITEK2(ビオメリュー)及びMALDI Biotyper(ブルカーダルトニクス)を用い,VP試薬を補助的に使用している。上記の期間に分離されたAeromonas属は合計で75株であった。薬剤感受性検査はVITEK2を用いており,ブレイクポイントはClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M45-ED3の基準に従い,イミペネム(IPM),メロペネム(MEPM)ともに,≤ 1(S),= 2(I),≥ 4(R)で判定を行った。その中でIPMまたはMEPMのどちらか一方でも耐性となった場合,Eテスト(ビオメリュー)を用いてカルバペネム系薬剤の追加試験を行った。また,Eテストの培養延長による効果を同時に確認した。

2. 各種自動分析装置を用いた薬剤感受性試験

保存されていたカルバペネム耐性株のA. hydrophila(3株),A. veronii(1株)の合計4株について血液寒天培地(日水)に純培養し,そのコロニーを用いて3機種の自動分析装置VITEK2,MicroScan WalkAway(ベックマンコールター),RAISUS ANY(日水)を用いて薬剤感受性検査を実施した。

3. 各種カルバペネマーゼ確認試験

方法2.で検討した4株に,新たに検出されたカルバペネム耐性のA. veronii(1株)を加えた合計5株(No. 1~No. 5)及び,陰性対照としてカルバペネム感受性のA. hydrophila 1株(No. 6)について,当院で実施しているカルバペネマーゼ産生能のスクリーニング試験及び確認試験を行った。

検査方法はCLSI M100-S29に掲載されているmodified carbapenem inactivationmethod(mCIM法),SMA法(栄研化学),カルバペネマーゼ鑑別ディスクPlus(関東化学)を実施し,クロモアガーmSuper CARBA生培地(関東化学)への接種も同時に行った。なお,クロモアガーmSuper CARBA生培地には各菌液をMcfarland 1.0に調節したものを10 μL接種し,24時間培養を行った。それぞれの結果は添付文書通りに判定を行った。

III  結果

1. 自動分析装置とディスク拡散法におけるMICの比較

VITEK2及びEテストの結果を示す(Table 1)。VITEK2はNo. 16のMEPMを除きIPM,MEPMともに耐性傾向を示しており,MEPMの方がIPMより高いMICを示したものが多かった。それに対して,Eテストでは17株中15株が感受性であり,VITEK2のMICよりはるかに低い値を示した。しかし,No. 1とNo. 8はIPMのみ耐性傾向を示していた。さらに,48時間まで培養を延長すると,阻止帯の内側にコロニーの発育が点在して見られたものもあった(Figure 1)。

Table 1  VITEK2及びEテストを用いたカルバペネム系薬剤の感受性結果
Sample MIC(μg/mL)
No. 材料名 菌種名 VITEK2 E test
IPM MEPM IPM MEPM
1 胆汁 A. hydrophila ≥ 16 ≥ 16 4 0.25
2 ドレーン先端(膵空腸吻合部) A. hydrophila 8 ≥ 16 0.25 ≤ 0.03
3 血液 A. hydrophila ≥ 16 ≥ 16 0.5 ≤ 0.03
4 血液 A. veroii 8 ≥ 16 ≤ 0.25 ≤ 0.25
5 血液 A. hydrophila ≥ 16 ≥ 16 0.25 0.03
6 血液 A. hydrophila 8 ≥ 16 0.5 0.06
7 血液 A. hydrophila ≥ 16 ≥ 16 1 0.06
8 ドレーン排液(肝膿瘍) A. hydrophila 8 ≥ 16 2 0.12
9 腹水 A. hydrophila 8 ≥ 16 0.5 0.06
10 血液 A. hydrophila ≥ 16 ≥ 16 0.25 0.12
11 経気管吸引物 A. veronii 8 ≥ 16 0.25 0.03
12 経気管吸引物 A. hydrophila ≥ 16 ≥ 16 0.25 0.03
13 回腸導管ストマパウチ A. hydrophila 8 ≥ 16 0.5 0.06
14 血液 A. hydrophila 8 ≥ 16 0.5 0.03
15 血液 A. hydrophila 8 ≥ 16 0.5 0.03
16 A. hydrophila 8 ≤ 0.25 0.5 0.03
17 血液 A. veronii ≥ 16 4 1 0.03
Figure 1 Eテストのスリップ周囲に発育の増強が見られた一例(矢印で示す)

今回,VITEK2によってカルバペネム耐性が確認できた菌株数は全体のおよそ23%に及ぶことが明らかとなった。

2. 各種自動分析装置の結果

自動分析装置による薬剤感受性結果を表に示した(Table 2)。それぞれの結果を比較してみるとカルバペネム系薬剤のMIC値に明らかな差を認めた。VITEK2は,No. 3のMEPMを除き全ての株で耐性傾向を示した。RAISUSはNo. 1,No. 3,No. 4の株でIPMのみ耐性傾向を示した。WalkAwayはNo. 2のIPMのみ耐性を示したが,他の3株は感受性という結果を示した。また,各種装置のMICについて薬剤ごとに比較してみるとVITEK2は前述の通りMEPMの方がIPMよりも高いMICを示したのに対して,RAISUSとWalkAwayはIPMの方がMEPMより高いMICを示した。

Table 2  各自動分析装置の薬剤感受性結果一覧
sample MIC(μg/mL)
VITEK2 RAISUS WalkAway
No. 菌種名 IPM MEPM IPM MEPM IPM MEPM
1 A. hydrophila 8 ≥ 16 2 ≤ 1 ≤ 1 ≤ 1
2 A. veronii 8 ≥ 16 ≤ 1 ≤ 1 4 ≤ 1
3 A. hydrophila 8 ≤ 0.25 2 ≤ 1 ≤ 1 ≤ 1
4 A. hydrophila ≥ 16 ≥ 16 2 ≤ 1 ≤ 1 ≤ 1

3. カルバペネマーゼ確認試験

mCIM法(Figure 2),カルバペネマーゼ鑑別ディスクplus(Figure 3)ではNo. 1~No. 5のMBL陽性株5株においてカルバペネマーゼ陽性の結果を示した。また,mSuper CARBA培地(Figure 4)でもコロニー数に差はあるもののMBL陽性株のみ発育が見られた。SMA法(Figure 5)ではNo. 1~No. 6の全てにおいて,阻止円の拡張がディスクをつないだ線の垂直方向に5 mm以上の拡張を認めなかったため,陰性と判定した。Aeromonas属の産生するMBLはセフタジジム(CAZ)を分解しないため,IPMとの比較対照として使用した。

Figure 2 mCIM法

ディスク 左:陰性コントロール(MEPM)

     右:各菌液中でインキュベートしたもの(MEPM)

1:A. hydrophila 2:A. hydrophila 3:A. hydrophila 4:A. veronii 5:A. veronii 6:A. hydrophila(陰性対照)

Figure 3 カルバペネマーゼ鑑別ディスクPlus

1:A. hydrophila 2:A. hydrophila 3:A. hydrophila 4:A. veronii 5:A. veronii 6:A. hydrophila(陰性対照)

Figure 4 mSuper CARBA培地

1:A. hydrophila 2:A. hydrophila 3:A. hydrophila 4:A. veronii 5:A. veronii 6:A. hydrophila(陰性対照)

Figure 5 SMA法

1:A. hydrophila 2:A. hydrophila 3:A. hydrophila 4:A. veronii 5:A. veronii 6:A. hydrophila(陰性対照)

IV  考察

今回の検討から,MBL産生のAeromonas属について測定方法によりカルバペネム系薬剤の感受性結果に乖離が生じることが確認された。その原因について以下のことが推測される。

VITEK2とEテストの結果を比較したところカルバペネム耐性にもかかわらず,Eテストではほとんどの株がカルバペネム系薬剤に感受性の結果を示した。これは,腸内細菌目細菌におけるIMP-6などのステルス型にみられる現象に類似している。カルバペネムの分解活性が低く,MBLの産生量が少ないためにMIC値が低値を示したと考えられる4)~6)。また,カルバペネム系抗菌薬は菌体内での透過速度が速いため,透過障害がない場合MBL産生菌であってもカルバペネム系薬のMICが上昇しない場合がある7),8)。さらに,A. hydrohilaのカルバペネム系薬剤耐性にはβラクタム剤による誘導耐性が関係していることも要因の一つとして考えられる9)。VITEK2が高いMICを示したのは測定原理にレートアッセイを使用していることに起因すると考えられる。また,Eテストで培養時間を72時間まで継続したところ発育増強が見られたことから,培養の延長が耐性菌検出の1つの指標となることが推測された。

各種自動分析装置を用いた薬剤感受性試験についてAeromonas属のカルバペネム耐性の検出に差異が認められたことは自動分析装置の測定原理に起因すると考えられる。WalkAwayは微量液体希釈法を測定の原理とし,一定培養時間における終末点の濁度を読み取りMIC値を決定するのに対し,耐性を示したVITEK2とRAISUSの2機種はどちらも経時的に濁度を測定し,その増殖曲線からMIC値を推測するレートアッセイを測定の原理としている。それに加えて,VITEK2は耐性遺伝子保有の分かっている株を元に測定した既知のデータベースを測定のアルゴリズムとして収載し結果判定に活用していることから,臨床的に偽感性となる株の検出において,より優れていたと推察される。また,VITEK2においてIPMよりMEPMのMICが高値を示したことも,既知のデータベースをもとにMIC値を算出するVITEK2独自の測定原理に関係していると考えられた。使用する自動分析装置により,耐性菌の検出に差が生じる現象は,IMP型MBL産生株などの腸内細菌目細菌のカルバペネマーゼ産生菌でも報告されている。そして,治療及び院内感染対策上このような臨床的偽感性株は問題になると長野ら10)は述べている。また,本来cphA遺伝子を保有しないA. caviaeにプラスミドを介して伝播する可能性が示唆されており,院内感染対策上カルバペネム耐性株の検出が重要である2)。さらに,当院におけるカルバペネム耐性Aeromonas属が分離された検体は主に,血液,消化器系検体(胆汁その他),呼吸器検体(経気管吸引物)等であり,主に血液検体が多いことから,重症感染症との関連性があることが示唆された。

カルバペネマーゼの各種確認試験において,mCIM法及びカルバペネマーゼ鑑別ディスクPlus,mSuper CARBA培地ではそれぞれMBL陽性の結果となりAeromonas属のMBL産生株の検出に有用であることが確認できた。今回,当院で検出されたAeromonas属のカルバペネム耐性株全てに対してカルバペネマーゼ確認試験を実施することはできなかった。しかし,被検菌とした5株でSMA法以外のカルバペネマーゼ確認試験においてカルバペネマーゼ陽性の結果を示したことからAeromonas属への応用が可能であると推察された。SMA法において陰性の結果となってしまったことについては以下の原因が考えられる。Aeromonas属のMBLはCAZを分解せず,ディスク法でIPMは実際の測定値よりも感受性になってしまうことから各薬剤の単剤での阻止円径が大きくSMAによるMBL阻害の判断が困難であった。その為,添付文書通りに判定を行うと陰性となるが,上記のことを考慮すると判定不能と捉えることもでき,結果の判断には若干の疑問が残る。また,SMA法は阻害剤としてメルカプト酢酸含有ディスクを使用するダブルディスクシナジーテストであり,カルバペネマーゼ鑑別ディスクPlusでは阻害剤にジピコリン酸を使用しており,阻害剤の相違も判定を困難にする要因の1つであると推測される。SMA法は日本において主要なMBLであるIMP型の酵素産生菌検出には適しているが,VIM型やNDM型のカルバペネム低感受性株においてクラスBに属するMBLの検出が困難な例も報告されている7),11),12)

現在,薬剤感受性試験の自動分析装置において国内シェアの多くを占めているのはWalkAwayである。Aeromonas属のMBL産生株を見逃さないためにもカルバペネマーゼのスクリーニング検査を併用することを推奨する。今回,mCIM法,カルバペネマーゼ鑑別ディスク及びmSuper CARBA培地を用いた検討では検証した全ての株でAeromonas属の産生するMBLによるカルバペネム耐性を検出できた。mCIM法は腸内細菌目細菌のMBL産生菌検出法としてCLSIでも推奨しており,実施施設は以前より増加してきている。カルバペネマーゼ検出目的の市販キットは多くのメーカーから様々なものが発売されているが,キットごとに特性が異なるため使用する際は注意が必要である。今回検出されたAeromonas属と同様に薬剤感受性検査のみではカルバペネム耐性を見逃す可能性があることを再認識することができた。

Aeromonas属はエンピリック治療において下痢症の原因菌として分離された場合は,キノロン系またはホスミシンが使用されるケースが多い。しかし,敗血症のような重症患者からこの菌が分離された場合などカルバペネム系抗菌薬を治療に使用することが考えられるケースでは13),14),カルバペネム系抗菌薬の感受性結果について自動分析装置または用手法で感性という結果が出た場合でも,偽感性の可能性があることを考慮し,MBLの確認試験を併用することで適切な治療に繋がるのではないかと考えられた。

V  おわりに

Aeromonas属におけるカルバペネム耐性の動向には今後も注意が必要と思われる。Aeromonas属のMBL産生の有無が抗菌薬曝露による誘導耐性も関係していることから,ディスク法を用いて阻止円内に発育した株を継代培養し耐性化するか否かの検討や,MBL産生株と使用抗菌薬との関連性について今後詳細な検討を行う予定である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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